いつの間にか悪の組織の幹部になっていた件   作:アジぺんぎん

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8 目指すはクール系謎多めヒロインポジかな? いや、ヒロインじゃないけど

 

『調子はどうですか、アイン』

 

 

 不意に聞こえた男の声。

 何百年と聞き慣れた、仲間の意思。

 思念を飛ばして意思疎通するこの魔法は、オーソドックスなありふれたものだけど、コイツの場合はその距離が規格外。

 ボクが感知できる距離に居ないのだから、周囲百キロ以内には居ない。

 有効射程は世界全部なんじゃないか?

 正確には知らないんだけど、それくらい凄い。毎度毎度、こんな超絶技巧を良くするもんだと思う。

 

 

「制服が気に食わない」

 

『そうですか。で、調子はどうですか?』

 

 

 この魔法は、使用者の感情まで伝わる。

 だから、無駄に感情が届いて鬱陶しい

 使用者の腕がいいから、精度も比例する。伝わる想いも、いつもと変わらない。

 呆れと苛立ち、そして、それらが霞むほどに強い、焦りと親愛、執着。

 滅入るくらいに、強い強い感情。

 これを無視するのは、いつも少し骨が折れる。

 

 

「お前の言う通りにしてるよ。取り敢えず学園に入った。最優秀クラス。そんで、彼、クロノくんの動向に注意しつつ、接触は最低限にしてる」

 

『それは重畳です』

 

 

 安堵、信頼、迷い。

 ボクの言うことを完全に信じつつ、計画を次のフェーズに進めるか思考中、かな?

 計画の内容なんてほとんど教えてもらってないけど、これでいいんだ。

 ボク、まだ全然動いてないんだけど。

 

 

『……計画通りにしましょう』

 

「はいはい、計画通りね。何すればいいの?」

 

『クロノ・ディザウスを追い詰めなさい。この展開、貴女もおおよそは予想していたのでは?』

 

 

 潜入って時点で殺しや誘拐ではない。そんなことしなくても、真正面から達成出来るし。

 ターゲットが人、さらに彼は何かしらの力を秘めてる。

 だから、まあこうなるかな、と。

 土壌は整えてたよ。あとは、テリトリーも決めた。

 準備はちょっとだけどしてた。

 

 偉いでしょ、ボク?

 

 

「カンは昔から良いからさ」

 

『それは何より。てっきり、見せたターゲットの顔を忘れているのではないかと心配していましたよ』

 

 

 あ、あはは。まあ、ギリギリまで忘れてたわ。

 でも、思い出したからセーフだよね?

 初めて彼が力を振るう所を見た途端、なんかビビッときたからさ。

 あ、コイツじゃんってなったんだよね。

 ボクって感知能力に関しては、多分世界一だし。

 とんでもなく上手く隠されてるけど、ボクには通用しないねえ。

 だから、彼を使って何かするのは分かってた。

 うん、分かってたってことにして欲しい。

 

 

「うん。なんか、彼って気持ち悪いんだよね」

 

『気持ち悪い、ですか……』

 

「めちゃくちゃ気持ち悪い。なんなんアレ?」

 

『とても、とても素晴らしいモノですよ、アレは』

 

 

 安堵? 興奮?

 この通信の魔法を介して、かつて無い高ぶりを感じだ。

 なんだ、いったい? 何を狙ってる?

 あ、いや、()()()()()()か?

 ボクが気持ち悪いと感じることが、重要なのか?

 なら、それはとんでもない事じゃないか?

 

 

「まさか……」

 

『貴女は今は、彼を追い詰める手段だけを考えてください。答え合わせは後です』

 

 

 そういうことなら、考えるのは止めとこう。

 コイツがそう言うなら、そうするのが正しい。

 あー、安堵と興奮は変わらず、あとは、罪悪感か。いい加減、慣れたら良いのに。

 ボクのことをちゃんと道具として扱えば、それ以外は何も必要ないだろ。

 馬鹿らしいよなあ、可哀想に。

 

 

『貴女、答えを聞いたらきっと任務どころではありませんから』

 

「あ、そう」

 

 

 それはもういいや。

 必要なのは、語るべきなのは明日だよ。

 この罪悪感に付き合う気はない。

 

 

「じゃあ、用意して欲しいものがあるんだけど」

 

『……なんでしょう?』

 

「魔獣を一匹。確か、あの幽霊女の実験の失敗作が溜まってただろ?」

 

 

 困惑、懸念。

 まあ気持ちは分からんでもない。

 あの幽霊女、マジモンのクソだからなあ。

 失敗作とはいえ、クロノくんのために使うには、ちょっと凶暴すぎる。

 勢い余って殺しかねないのは確かだけど、

 

 

「必要だから用意しろ」

 

『……くれぐれも、取り扱いには注意するように』

 

「分かってるよ。ヘマはしないさ」

 

 

 ボクを誰だと思ってんのさ。

 世界で唯一の、お前の仲間だぞ?

 

 

 ※※※※※※

 

 

「アインは、どんな魔法を使うんだ?」

 

 

 クロノくん、めっちゃ絡んでくるやん。

 普通に懐かれてて不思議。

 そんなに魅力的なやり取りしたか?

 馴れ合う気はないって感じの空気出してたと思うんだけど?

 ていうか、昨日は『貴女』呼びだったよね?

 距離感の詰め方ヤバない?

 

 

「得意な魔法って、皆あるだろう? ちょっと気になってさ」

 

「…………」

 

 

 まあ、魔法にも種類がある。

 炎や水や風や土、氷や雷や植物、光や闇。そういう属性ってもんがあるんよね。

 当たり前だけども、人によってそれの適性は違うもの。

 炎しか使えなかったり、風と土を使えたり、水をちょっととしか使えないけど雷は抜群だったり。鍛錬次第で色々使えるようにはなるけれど、基本は才能。

 得意な分野は人それぞれで、雑談の内容としては、おかしなものじゃあない。

 

 けどもだね、

 

 

「何故、それを君に教えにゃならんのか……」

 

「え、嫌だった?」

 

「いや、別に嫌じゃないけど……」

 

 

 本当に嫌じゃないんだよ?

 教えてやっても、別に構わないとは思う。

 でも、さ、ほらね?

 なんていうか、この距離感でお話をし続けることに疑問を抱いてるっていうか。

 先にそこを解決して欲しいなあっていうか。

 

 

「疑問なのは、こんな気軽に話しかけるような関係性なのかってことだよ」

 

「え、一回話し合っただろ?」

 

「距離の詰め方やば。一回話したら友達かよ」

 

「違うのか?」

 

 

 陽キャの極みか?

 ここまで人とすぐに仲良くなれると思ってる、その底抜けの明るさに驚愕である。

 四百年以上かけて、友達なんて二人しか出来なかったボクからすれば考えられないね。

 何を『違うのかぁ……』みたいな顔してんのさ。

 どんなカルチャーショックだよ。

 

 

「違うさ。だから、ボクは君に気安く話しかけられる理由がない」

 

「そうか……」

 

 

 ……もうちょっと傷付いた顔して欲しい。

 滅気ないサマが、なんか釈然としないから。

 

 

「ていうか、いつも一緒にいる幸薄女はどうした?」

 

「アリシアのことか? 流石に酷くないか?」

 

「名前覚えるの苦手なんだ」

 

 

 特に弱い奴は。

 印象残らないっていうか、もう脳が覚えることを拒絶するんだよねえ。

 

 

「アリシアは、ラッシュと一緒だ。お互いとずっと居たら、他のクラスメイトと仲良くなれないだろう?」

 

「ああ、なるほど……」

 

 

 顔を覚えてもらいに行ったのね。

 あの手の相手は、周りとコネを作るのに必死だろうし。

 受けてきた教育というか、根っからの貴族的な立ち回りは明確だし。

 それにも気付いてないのかね、彼。

 まぁまぁ分かりやすいと思うんだけども。

 

 

「気安く話しかけて悪かった。確かに俺と君とでは、まだ同じ視点を共有できる所にはないものな」

 

「あ、うん。そうだね、そうだよ」

 

「だから、今度は気安く話しかけない。これから仲良くなるため、お互いを知るため、真剣に聞こうと思う。君の得意な魔法の属性は何だろうか?」

 

 

 ま、真面目というか天然というか。

 普通、話しかけるの止めるだろ。

 なんだよ、その不屈のメンタリティはどこから湧いて出てるんだ?

 ふざけてる感じはしないし、素で言ってるやん。

 

 え、えー、答えなきゃダメ?

 でも、今ん所答えない理由なんて『面倒くさい』以外に無いんだよねえ。

 こんな真剣な子供相手に、まだふざけるのは流石に大人気なかったりする?

 どうでもいいけど、まあ、別に言ってもいいかな?

 

 

「……ボクに得意な属性の魔法なんて無いよ」

 

「答えてくれるんだ」

 

「問い詰められたら余計面倒くさいし」

 

 

 そんなことはしない、と不満げな顔をされてるけども。

 いや、君、そのうち思い出したかのように話を掘り返すと思うよ。

 はぐらかしても、断っても、なんか天然で隙を見て言ってくる気がする。

 ボクのカンはよく当たるんだ。

 もう、色々考えるより話せる分だけ話したほうが早い気がしたの巻ってこと。

 

 

「ボクは、基本的に『身体強化』以外の魔法は使わんからね」

 

「ここ、魔法を学ぶ所なんだけど……? ていうかじゃあ、入学試験をどうやって突破したんだ? 的を魔力を使って攻撃しなくちゃ……」

 

「魔力をそのまま纏めてぶつけた」

 

 

 なんかクロノくん、ボクの話に対して怪訝そうだ。

 普通、有り得んからね。

 魔力を効率良く、そのまま使うより遥かに高い効果を見込めるようにした技術が魔法なんだし。

 コレは、もう魔法なんざ必要ないって言ってるようなもんだよ。

 疑う、もしくは呆れに対して腹立たしさはない。

 でもまあ、しゃーないんだよねえ。

 ボクの数少ない遠距離攻撃の手段の中で、実力の異常さを疑われずに、かつ試験に受かるようにするのはコレしかなかった。

 嘘八百をベラベラ言っても良かったけど、嘘なんてどうせそのうちバレるからなあ。

 

 ボクの能力が一点特化し過ぎてるのが悪い。

 どうやっても、ボクは分かりやすい事が出来ないし。

 

 

「……魔力を直接そのままぶつけるって、戦う時に剣を使うより殴った方が早いって言ってるようなもんだぞ」

 

 

 剣を使った方が、アドバンテージは間違いなく大きいのは分かるよね?

 多少重さで動きが鈍るかもだけど、リーチや殺傷能力の高さは丸腰とは比べ物にならない。素手なら剣を振るわなくて良い分、紙一枚分くらい動きが速くなるかもだけど、だから何って感じやん?

 まあ、何でそれで試験に受かるんやって話になってくると思うんだけどね。

 

 

「魔法学校より、騎士学校の方が良かったんじゃ……?」

 

「魔法未満の手段で受かったけど、別に魔法使えない訳じゃないよ。『身体強化』は得意」

 

「余計に向いてないんじゃ……」

 

 

 うるせーよ。

 別に魔法を学びに来たんじゃねーんだからな。

 

 ちな、ボクは魔法をほとんど使えない。

 使えるのはさっき言った『身体強化』くらいだ。

 魔法を使うための才能は、主に三つ。

 一つ、魔力量の多さ。二つ、魔力を扱うセンス。三つ、魔力に属性を付与する適性の強さ。

 ボクは前の二つはあるんだけど、三つ目の才能は絶望的にない。

 無色透明の魔力というエネルギーに、属性という色をどれだけ多く、強く与えるのが使える魔法の幅に直結するんだけど、ボクは無色透明の状態からしかエネルギーを扱えないんだよねえ。

 絵を描くには、絵の具が必要なのに、白色の絵の具しかないみたいな。

 

 使える絵の具の種類によって、様々な絵を描けるのは明らかだよね?

 色々使えるのは、喜ばれるべきことだ。

 でも絵の具と違うのは、中には使えること自体おかしいって思われるような、そんな地雷も潜んでるってことかな。

 

 

「はあ……じゃあ、君の番だ。君の得意な魔法は?」

 

「……基本的になんでも出来るけど、炎が一番、」

 

「試験の時に見せたのは炎だったね。でも、違うんじゃない?」

 

 

 まだまだ子供だね。

 腹芸はあんまり得意じゃないみたいだ。

 まあ、同じ子供でも、幸薄ちゃんならノータイムで否定も肯定もしないで優しく微笑むだろうけど。

 でも、流石に同じことを要求するのは違うか。

 明らかに、この子は強さに磨きをかけることしか考えられてないし。

 

 

「…………」

 

「何かは分からないけど、まあ聞かないでおいてあげよう」

 

 

 彼から感じる『気持ち悪さ』こそ、彼の隠している得意魔法に由来するのかもね。

 別に追求したくはないし、良いけど。

 アイツからも、考えないようにしろって言われたし。

 

 

「君、本当にボクの事に興味津々だよね」

 

「……そりゃあな。アインは、強いから」

 

「それだけを見てる君は、なんとも子供らしくて良いと思うよ」

 

 

 不満そうな顔をしている。

 ボクの言葉を侮蔑と受け取ったらしい。

 

 

「どういう意味だ……?」

 

「君、皆と仲良くなりたかったんじゃ無かったの?」

 

 

 クロノくんには、脇の甘さがある。

 お人好しが過ぎるとも言う。

 多分、親代わりの師匠とやらからは、彼に強さしか教えてこなかったんだろう。

 何かしらの目的があって、そう育てた。もしかしたら、全てを独力で生きていけるように、優しさの欠片すら持たない人間として育てたかったのかもしれない。

 でも、この子は根がどうしょうもなく優しい。

 

 だから、こうも歪になってしまった。

 絆を求めているくせに、その実、一番は相手の強さに惹かれてる。

 倒した相手に目もくれず、さらには他の面子より、ボクを優先してるのが証拠だね。

 それが、視野の狭さを生んでいる。

 

 

「君は、思うような絆を紡いでいる気かな?」

 

「?」

 

「君のクラスメイトの中で、君が求める関係性を実現出来てる人は居ないんじゃない?」

 

 

 まったく分からないだろうね。

 幸薄ちゃんなんて、既に親友とか思ってるんじゃない?

 でも、打算抜きの清い関係なんてどこにもないよ。君の期待するようなモノは、存在しない。

 クラスメイトの五分の三がろくでなしな上に、一人は骨の髄まで貴族で、もうひとりは、本当に残念なことになってる。

 

 後ろに居るよ、未だに彼が。

 

 

「――――――――――」

 

 

 おお、こわ。

 

 もう、なんて言ってるかも分からん。

 こんだけ悪意に晒されてて、無視できる神経の太さに慄いちゃう。

 まだ気付けないのか、彼は。

 一度剣を交えた彼は、親友に違いないとでも思ってんじゃなかろうか?

 

 

「君、師匠は好きかな?」

 

「……育ててくれたことに感謝してる。でも、まあ、散々痛めつけられた上に、ろくでなしだからなあ。感謝しようにも、し難いというか」

 

「じゃあ、憎いかい?」

 

「…………」

 

 

 才能抜きにしても、歳の割に相当仕込まれてるのは分かってた。

 なら、その分だけ苦しみを与えられてきたろう。

 摩擦無しで感謝は出来ない。

 どうしても、憎いと感じてしまうのは当然だ。

 話を少し聞いただけでも、ボクの同類ってなんとなく分かるからね。

 暴力こそ最高の解決法って信じて疑わない、ろくでなしの匂いがする。

 彼とはさぞ気が合わなかったに違いない。

 

 

「憎い相手に毒されてどうする? 君は、目を向けなくてはいけないところから目を逸らしてるぞ」

 

「……アインの言うことは、難しすぎてよく分からない」

 

「その内、理解できるようになるよ」

 

 

 理解させてあげる、の方が正しいかもしれん。

 まあ、それは言わんけども。

 

 

「周りに目を向けなさい。君の見ている所は、世界の一部でしかないからね」

 

「…………」

 

「説教臭くてゴメンね。でも、必要なことだから」

 

 

 

 まあ、ボクにとってだけど。

 

 

 さて、明日は楽しいレクリエーション。

 なかなか面白いイベントになると思うから、乞うご期待ね。

 

 

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