シャドウガールズ-主と共に陰に潜み、陰を狩る-   作:越路遼介

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久しぶりに二次創作小説に挑戦です。ここのところずっとオリジナルでしたから、とても楽しく書かせてもらいました。



第1話 2人目の仲間

もう何も信じない…。

 

一人の少女はそう思い、森の中を彷徨い、やがて小さな町に。

目的があってこの町に来たわけじゃない。裏路地のごみをあされば食糧があるのではないかと思ったからだった。

腐った食糧が入ったごみバケツを野良犬と取り合い、そして負けた。

野良犬に噛まれた足と腕には、すでに痛みも感じなかった。腐っているのである。野良犬さえ噛んだ瞬間にすぐ離れたほどだ。腐肉は不味かったか。

少女は辛うじて手に付着した腐った何かを口に含む。しばらくして腹痛が起きたが腐った四肢と体の内部から間断なく続く痛みに比べれば些細なこと。

やがて力尽きた彼女は裏路地に倒れた。雨が降ってきた。

 

ああ、やっと死ねる…。この苦しみから解放される…。

そう思ったが…彼女にかけられた呪いはそう簡単に安らかな眠りにつかせてはくれないようだ。

気が狂いそうな全身の痛み。自分の腐臭で吐き気すらしてくる。

もう殺して…。殺してよ…。無慈悲に彼女に降り注ぐ雨。もはや涙も枯れたか残された左目で空を見つめる。右目はとうに失明した。

 

悪魔憑き、それが彼女の罹った病。いや呪いだ。一度発症すると治る術は無く死に至る。

全身が腐り、迫害の対象となる。聖教に引き渡され浄化という名目で処分されるのだ。

彼女にとって幸いなのか不幸なのか、聖教の追手はおらず、その聖教に悪魔憑きを売りつける奴隷商人にも気づかれることなくこの場に。死に場所を求めるかのように彷徨い続けた。裏路地に横たわる。それはエルフの少女だった。

 

悪魔憑きを発症すると、今まで優しかった家族と里の皆は態度を一変させ、体の自由が利かなくなった少女を森に放りだした。エルフの森とはいえ当然恐ろしい獣もいれば魔物もいる。死ねということなのだ。

しかし幸いに少女は今も生きている。いや死を望む少女にとっては森で獣に食われた方が幸いであったのかもしれない。

…絶対に許さない、父と母…里の人も…。だが彼女はもう何もできない。

夜になった。雨はやまない。少女はうつろな左目を空に向けていた。その時だった。

 

「アルファ、その路地を入ってすぐだ」

「分かったわ」

 

十歳くらいの男の子と女の子だった。男の子は漆黒のローブを纏い、女の子は体の線が露わになる黒い光沢が美しい謎のボディースーツを纏っていた。女の子の名前はアルファというらしい。

「シャドウ」

「任せよ」

少女は薄れる意識のなか、シャドウと呼ばれた男の子の顔を見た。そして彼の両手にある魔力の光、ああ何て温かいのだろうと。

 

少女の全身が青紫の魔力に包まれた。そして

「お見事、私の時はひと月近くかかった解呪が今ではほんの一瞬とはね」

「フッ、一度体得した魔力操作、造作も無きこと。いずれ君にも覚えてもらう」

「ええ」

シャドウは少女の体のスライムスーツで包み、そして裏路地から消えた。

 

シャドウとアルファが旗揚げした組織、シャドウガーデン。構成員はまだ二人だけ。

本拠地はかつてアルファがシャドウより悪魔憑きを解呪してもらった廃村だ。

かつて散乱していた盗賊と、その盗賊に討たれた商人たちの亡骸は近隣の森に棲む獣が始末してくれたのか一体も残っておらず綺麗なものだ。

 

そして翌朝、少女はようやく目を覚ました。自分がベッドで寝ていることに驚く。

彼女が寝ていた隣の部屋から、自分と同じ年頃の少年と少女の会話が聞こえてくる。

悪いと思ったが聞き耳を立てた。

「そういえばアルファって前はエルフの森に住んでいたの?」

「ええ、そうよ。エルフは自然が好きだから」

「こういう食べられる茸や山菜を見つけるのも、お手の物ってわけか」

「ふふ、そうね。おのずと身に付くわ」

朝食を二人で作っているようだ。

「昨日の少女もエルフだったけれど知り合いじゃないの?」

「知っているわ。でも話したことはない。そんな程度よ」

「そっか。しかし、彼女がいたのはエルフの森から北西にあった町。ここから僕の魔力探知で見つけられた悪魔憑きの子は彼女だけ。悪魔憑きとなった英雄の子孫を保護する、ということを決めたのはいいものの効率が悪い」

「ねえシド…。次はエルフの森近くで魔力探知をしてみてはどうかしら?」

「それはどういう…」

「私もエルフ、そして昨日助けた子もエルフ…。これ偶然?」

野菜を切っていたシドの手が止まった。彼は少し思案してアルファに切り出す。

 

「君の言葉を聞いて、仮説が浮かんだ」

「うん、それでもいい。聴かせて」

「魔人ディアボロスと直接戦ったのはお伽話通り、エルフと獣人、人間の英雄三人」

「ええ」

「そして魔人ディアボロスは英雄三人に討たれたけれど最期の力を振り絞り、その三人に呪いをかけた。それが悪魔憑きと話したよね」

「ええ、元は英雄の子孫と称賛されたのにディアボロス教団が歴史を捻じ曲げ迫害の対象としたとシドから聞いたわ」

「英雄三人、エルフ、獣人、人間、当然ながら寿命が違う」

「……!エルフは血が薄れることが獣人と人間より、はるかに遅い…!」

「その通り、あくまで仮説だけどね」

再び野菜を切り出したシド、代わりに調理の手が止まったアルファ、その仮説は的を射ていると思った。

むしろ、そうでなければ説明がつかないとさえ思うアルファだった。

一方仮説をまくしたてたシドは

(本当にアルファはチョロいな。元々ディアボロス教団なんて存在しないのに。まあ、もしかして分かっていながら付き合ってくれているのかもしんないけど)

だとしたら、後々女優になることを勧めてみるのも悪くないと思うシドだった。この演技力を埋もれさせるのはもったいない。

 

そして

「そのお話…詳しく聴かせてもらえますか」

昨夜助けた少女がシドとアルファがいる部屋へと。

「いいよ、だけどその前に」

少女のお腹がグウと鳴いた。

「お腹減ったでしょ」

「は、はい…」

少女は赤面した。

 

テーブルを囲む三人、まずは自己紹介、シャドウガーデンのことは伏せたまま。

「初めまして、僕はシド、この一帯を治めているカゲノー男爵家の長男だよ」

「ええっ!それでは貴族の…!」

「いやいや、貧乏男爵家だよ。冷めないうちに食べな、アルファの料理したシチューは最高に美味しいから」

「私はアルファ」

少女はその名前が違うと気づいている。アルファが少女を知っていたように彼女もアルファのことを知っていた。ただ顔をエルフの森で見たことがあると。

「私はエレン、よろしく」

「よろしくな、エレン」

「はい…」

「どうした。喉にでも詰まった?」

気が付けばエレンは泣いていた。こんな温かくて美味しい食事なんて、もう忘れていた。

「美味しくて…」

「そう、口に合ってよかったわ」

ニコリと微笑むアルファに微笑み返すエレンだった。

 

朝食を終えて

「あの…」

さきほど二人で話していたことを私にも詳しく教えてほしい、そう視線で伝えた。アルファは何も発しない。そしてシドが

「聞けばもう戻れなくなるぞ」

「戻れない…?」

「君には二つの選択肢がある。ここで何も聞かず、黙ってエルフの森に帰ること。確かに僕たちは君を悪魔憑きから助けた。しかし見返りは求めない。自由にしていい」

「もう一つの選択は…」

 

「シド、貴方も意地が悪いわね。あえて彼女に聴かせていたくせに」

「バレたか…」

「私が引き継ぐわ。そろそろ貴方は家に戻らなくちゃ」

 

シドは席を立ち

「話は彼女がしてくれる。ごめんね、僕は僕で色々と用事があるから」

拠点の小屋から立ち去ったシド、その様を見ていたエレンは

「私とそう歳も変わらないだろうに…大人びた男の子ですね」

「無理もないわ。子供でいられるほど私たちの進む道は甘くない。それでも聴きたい?」

「聴きたい…。ええとシルヴィ…」

エレンの首にアルファが繰り出したスライムソードが伸びた。見えなかった。一瞬だった。

元々エルフは狩猟民族、エレンとて弓を始め武芸の心得はあるが、そんな自負は一瞬で消し飛ぶほどの一閃だった。スライムソードの切っ先を首に突きつけられたエレンは動けなかった。視線で人を殺せるかと言えば同意せざるを得ないほどの眼光でエレンを睨むアルファ。

「その名は捨てたわ。二度と呼ばないで」

エレンは『貴女は同じエルフの森にいたシルヴィアよね』そう確認をしたかっただけだが、今の彼女には何の意味もなさない名前のようだ。

「わ、分かりました…」

スライムソードを収めたアルファ

「で、どこまで聴いたのかしら」

「…最初は包丁の音で気づいた。まだ優しかった母の音、懐かしく思い心地よく聞いていたら『アルファはエルフの森に住んでいたの』というシド君の声が」

 

「…ほぼ全部ね」

「ごめんなさい」

「私も元は悪魔憑きだったわ。そして彼に拾われたのはこの廃村、私を聖教に売ろうとしていた盗賊たちが商隊を襲い、宴に興じていた。そこに彼は襲撃をしたの」

「えっ、あんな子供なのに?」

「私の強さが一とするならシドは十、盗賊たちはシドに皆殺しにされたわ。そして戦利品を回収している時に彼は私を見つけたの」

ふう、と一つため息をついたアルファ、朝食後のお茶をすする。

「ひどい有様だった。全身が腐敗し、とうに失明していたから何も見えない。分からない。体中を襲う激痛、何も考えられない。私にはもう訪れる死を待つしかなかった。昨日会った貴女よりひどい状態だったと思う」

確かにエレンは片目がまだ見えていた。

「その私をシドは優しく撫でてくれた。悪臭この上ない腐乱した肉体を…。それだけは感じ取れたの。彼の優しさを」

うっとりと語るアルファ、視線の先は宙を泳いでいる。

「おおよそ、私の解呪にはひと月かかった。彼は懸命に私を呪いから解こうとしてくれた。そして意識が戻ったら…私の悪魔憑きは完全にこの身から消滅していた」

 

「の、呪い?悪魔憑きは病じゃない?」

「ええ、病なんかじゃなかった。呪いなのよ」

そして、ここからが本題だとアルファは前置きをして語りだす。

「繰り返すけど悪魔憑きは病じゃない。呪いなのよ。貴女、魔人ディアボロスがエルフ、人間、獣人の英雄に倒されたことは知っているわよね?」

「知っているも何も、あれはお伽話…」

「違う、実際にあった話よ」

「まさか…」

「朝食を作っている時の会話にもあったでしょう。魔人ディアボロスは三英雄に討たれたけれど絶命直前に最期の力を振り絞って彼らに呪いをかけたわ。それが悪魔憑き、シドによると英雄の子孫は体内に魔力を豊富に有し、それが制御できずに暴走すると発生する呪いなのだと。私を解呪する時にそれを理解したようね。だから外部から魔力暴走を止めて正しい流れにすれば解呪は出来ると。現に私の解呪にはひと月を要したというのに貴女の解呪はほんの一瞬だった。彼が確立した魔力操作が正解だった証。だから…」

「…悪魔憑きを治した者が二人続けてエルフだったのは偶然ではなく、そもそも長命なエルフは血の薄れが人間や獣人より遅いため悪魔憑きはエルフが多いのではという…」

「そう、これも正解だと私は思う。根拠はないけれど」

「…同感です。では私たちは英雄の子孫ということに?」

「その通りよ。そもそも悪魔憑きは英雄の子孫の証明だった。世界を救った英雄の子孫として保護された。解呪された後も大切にされたと。おかしな話よね、大昔には解呪の方法があったというのに」

「そんなの…。今は迫害されるだけじゃないですか!あんなに優しかったお父さんお母さんが簡単に私を捨てた!」

「何者かが歴史をねじ曲げたのよ。英雄の子孫の証明であること、かつ解呪の方法も葬り去り、悪魔憑きなどと蔑まれる存在に仕立て上げた」

「そいつは何者…。許せない!」

「シャドウは教えてくれた。歴史を捻じ曲げ悪魔憑きを迫害の対象としたのが魔人ディアボロスを復活させようと目論む邪宗のディアボロス教団…。私もこの世界に、そんな巨悪がいるのかと改めて調べてみた…。彼のその場の出まかせだったらどんなに良かったことか…。だけど残念ながら実在していた…。知れば知るほど許せないと思う邪教の者たち」

「くっ…」

あの時の自分とエレンが同じ顔をしている、そう思った。

何もかも失った。そして捨てられた。腐って死んでいくしかなかった。それをもたらしたのはディアボロス教団、初めてシドからその歴史の真実を教えてもらった時、煮えたぎるような怒りに全身が包まれた。眉は吊り上がり、歯ぎしりをした。憎くてたまらない。

「シドはディアボロス教団を滅ぼすと言った。私は彼に命と心を救われた。彼がそれを望むなら、この命を盾にも剣にも代えて共に進むのみ」

「…………」

「私たちの組織の名前はシャドウガーデン、まだ二人しかいない組織、だけど必ず成し遂げなければならないこと」

「シャドウガーデン…」

「それで、どうする?」

「さきほどの二択ですか?」

思ったより察しがいい。そして訊ねはしたものの答えは目を見れば分かった。

シドが差し伸べた手を握った時の自分の目だ。

一択は何もせず故郷に帰ること。だが帰る故郷などあるものか。二択目はシドから直接言われていないが、それは聞かずとも分かる。シャドウガーデンに加入して、共にこの困難な道を進んでいくか。エレンは立ち上がり、アルファに頭を下げて言った。

「私をシャドウガーデンに入れて下さい」

「歓迎するわ、今日からあなたの名前はベータよ」




『陰の実力者になりたくて!』が人気作品になった要因について、ある方が『必要のないシーンの全面カット』と言っていたのを聴いて、なるほどなぁと思いました。
出会いと信頼関係の構築、技術や発明能力の取得などのシーンが無い。気が付いたら主人公は無敵状態でヒロインが七人もいる。この過程を詳しく書く必要がないのだと。

これは本当に目から鱗で、私が『陰の実力者になりたくて!』の物語を思いつき書いたのなら七陰勢揃いまで、どれほど話数がかかるか分かりません。

だけど、あえて七陰が揃うまで、そしてウィクトーリアとニューのシャドウガーデン加入まで、ちょっと細かく書いてみようかと思いました。
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