シャドウガールズ-主と共に陰に潜み、陰を狩る-   作:越路遼介

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短い二次創作小説でしたが、今回のお話で終わりです。
楽しく書かせてもらいました!


最終回 陰に潜み、陰を狩る者

シャドウガーデンもまたゼータのもたらした情報により悪魔憑きとなったニコレッタの存在を確認、聖教の拠点を強襲して奪取に成功する。

その後イプシロンの解呪で悪魔憑きから解放され、イータが看護に当たり、数日後に意識を取り戻した。

 

「ここは…」

「ここは私たちの拠点アレクサンドリア、侯爵令嬢ニコレッタ・マルケスね」

「は、はい」

ベッドの横に立つアルファを見てニコレッタは何と美しい人だろうと思った。

「はっ…!?か、体が元に戻っている!?」

元の美しい手に戻っていた。それを見つめてニコレッタは涙をポロポロと落とした。

 

うっすら記憶にある。何者かに捕らえられ冷たい牢のなか、鎖で繋がれているところを救出してくれた女性たち。『もう大丈夫よ』と抱きしめてくれた人だった。

「あ、ありがとう…!ありがとうございますっ!ううう…!」

「私はこの拠点のリーダーのアルファよ」

「ぐすっ、改めて…。私はニコレッタ・マルケスです」

アルファに深々と頭を下げるニコレッタ、ベッド横に腰かけたアルファは

「さて、貴女はどこまで覚えているのかしら?」

「はい、私はミドガル王国魔剣士学園の卒業式前夜祭の日、突然体に夥しい痣と手が別の生き物のような球体になっていて…ん?」

「どうしたの?」

「なんていうか…。普通に話せるのが自分でも妙に感じて…。あんなおぞましいもの思い出したくもないのに、何か客観的にその光景を見ているようで…」

「話が前後してしまったわね。もう分かるだろうけど、私たちは聖教のアジトから貴女を奪取して悪魔憑きを解呪したわ。これは病じゃなくて呪いなの。で…その解呪のさい、悪魔憑きによって負った心の傷まで消し去ってしまうのよ」

「あ、悪魔憑き…!あれが!」

「そうよ」

「だからあいつら…。私を捨てたんだ…」

「マルケス家がすでに貴女の葬儀を済ませていること情報が入ったわ」

「…本当に心の傷まで治してしまうのですね。以前の私なら、そんなことを聞いたら発狂していたかもしれません。何とも思わない自分に少し驚いています」

 

「貴女が森に捨てられてからの話をしましょう」

森で意識を失ったニコレッタは聖教の聖騎士に捕らわれて、そのまま拠点で監禁。

それを我らが急襲してニコレッタを救出したところまで話すと

「どうして助けてくれたのですか?」

「それは私たち全員が元は悪魔憑きだったからよ」

「全員…悪魔憑きだった…」

「そう、そして私が最初に彼に救われた」

「彼…」

「私たちの大切な主人、シャドウに」

「シャドウ…様…」

「彼は悪魔憑きを絶対に見捨てない…。私たちはそんな彼に仕える組織シャドウガーデン」

 

続けてアルファは語る。魔人ディアボロス、悪魔憑き、英雄の子孫、そして聖教の闇とディアボロス教団について。

ニコレッタは言葉が出なかった。今まで何て甘ったれた人生を送ってきたのか。何一つ知らなかった世界の闇の深さに唖然とするしかなかった。

ディアボロス教団と今まで信じてきた聖教に裏切られ、煮えたぎるような怒りが湧いて止まらない。

「そして私たちシャドウガーデンは貴女を迎え入れたいと思っているわ」

「はい、お願いいたします。私をシャドウガーデンに入れて下さい」

「嬉しいわ。貴女はナンバー93を名乗り、第三席のガンマに仕えなさい」

「はっ」

甘ったれた侯爵令嬢の顔はもうそこになかった。

 

 

一度シドがラムダは新人にどんな訓練を課しているのかとアルファに訊ねたことがある。その指導内容を記された報告書を見てシドは大変驚き

『こんな超ハードなのやっているのか…。ついて来られず挫折した女の子も多かったのじゃないか?』

そんな言葉にアルファは苦笑して、こう返した。

『解呪後、教団に対して剣で戦うことを選ばなかった子たちもいるけど、戦うことを選んだ子たちの中では一人もいない。ラムダの指導力もあるけれど、全員、覚悟が違うもの』

シドは内心(マジかよ…。自衛隊だってこんなハードな訓練はしていないだろうに)と思うのだった。

 

シャドウガーデンに属する女たち一人一人が一騎当千なのは、その覚悟によるものだろう。悪魔憑きによって一度死んだ自分たち、何もかも失った。それをもたらした者は誰か。

解呪後に彼女たちは知る。歴史の闇にうごめく巨悪の存在。それを打倒するには強くなるしかない。93番も同じだ。

 

必死に訓練についていった。一歩間違えれば命を落としかねない実戦訓練の日々。

悪魔憑きの奪取、教団アジト急襲など、いくつかの作戦にも従事。

とうに人を殺すという処女は捨てた。

婚約者と踊り、無邪気な微笑みを浮かべていた令嬢の姿は、もうどこにもなかった。

 

 

ガンマに呼ばれた93番、室内に入ってきた93番を見てガンマは

「いい面構えになったわね。初めてアレクサンドリアに来た時とは別人のようよ」

「はっ」

「報告は聴いているわ。いくつかの作戦に参加して手柄も立てているようね」

「はい、みなのフォローもありましたので」

「93番、今日から『ニュー』と名乗り、そして私が経営を始めるミツゴシ商会で働くよう。王都へ向かう支度を整えておきなさい」

「承知いたしました」

 

初めてミツゴシ商会の店内に入った時は、ニューも驚いたものだった。

元侯爵令嬢の自分でも身に着けたことがない優美なドレス、思わず顔が赤くなりそうな扇情的な下着が陳列されていた。

男性用のスーツやネクタイ、ワイシャツ、見たことのない新製品ばかり。

チョコレートを始め、大学芋とスイートポテトというお菓子、店内には『まぐろなるど』という美味しい料理の店も。

 

改めてニューはシャドウガーデンがただの戦闘集団でないことを知った思いだった。

そしてこの商会は悪魔憑き解呪後に剣で戦うことを選ばなかった女たちが務める場所。

しかし剣は握らずとも、彼女たちはガンマのもと『経済』という手段で教団に立ち向かう者たちだ。

 

今日は店開き、ガンマは朝礼を行った。

「みんな、いよいよ開店です!表の顔はいつもスマイルを忘れないよう!」

「「はっ!」」

「では始めます。いらっしゃいませ!」

「「いらっしゃいませ!」」

「ありがとうございました!」

「「ありがとうございました!」」

「またのお越しをお待ちしております!」

「「またのお越しをお待ちしております!」」

この朝礼による挨拶の復唱もシドから教わった【陰の叡智】だ。ニューのお辞儀はとても美しいものだった。

「ミツゴシ商会開店です!」

「「はいっ!」」

 

ミドガル王国王都に開店されたミツゴシ商会、大繁盛だった。

あまりの来客に、とうとう入場規制が敷かれることに。

開店から数日経ったある日、気が付いたら入場待ちの行列の整理を任されるようになったニューは、ついにシャドウガーデンの頂点に君臨する男と出会った。

「お客様、当店のアンケートにご協力頂きたいのですが」

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

ミドガル王国王都郊外にある霊園、ここにシグマは訪れていた。

残念ながら彼女の父オルバ子爵の墓は存在しないが、彼女が巨体となって王都で暴れてしまった時に殺めてしまった魔剣士八名の墓がここにある。

一人一人の墓前に行き手を合わせて詫びるシグマ、かつてミリアと云う名前の少女だった。

 

回復した彼女はシャドウガーデンに加入後、あのアレクシア王女誘拐から端を発する、ディアボロス教団フェンリル派の拠点殲滅作戦の日に命を落とした彼ら八人の墓に毎月同日に訪れていた。

「ごめんなさい…」

 

花を手向けて祈るシグマ、最後の八人目のお墓に行くと亡き魔剣士の母親らしき女性が手を合わせていた。

「ああ、貴女だったのですか…。毎月息子の墓に花を供えてくれた人は…」

「は、はい…」

「失礼ですが…息子とは生前どのような間柄だったか、お伺いしても?貴女のような綺麗な女性とお知り合いだなんて聞いたこともなかったので…」

 

顔は覚えている。逃げ遅れた子供を庇って必死になって剣を振るい、立ち向かってきた若き魔剣士。凛々しい人だったと。彼の名は後に閲覧した、あの事件の戦死者名簿で知ったもの。巨人に挑み戦死と。名はライドという。

 

「ライド様は私の名前と顔も存じません。私が一方的に恋慕の情を抱き、遠くから見て憧れていたのです」

「まあ、そうでしたか…」

「私は平民なので叶わぬ恋…。ご尊顔を見ているだけで私は幸せでした」

「ありがとう…。貴女のような素敵な女性が、この子を好きになってくれたこと…。今もこうして御霊を慰めて下さること。母親としてこれほど嬉しいことはありません」

 

墓前から立ち去る母親、シグマは立ち去る彼女の背に深々と頭を下げる。あの人から愛する息子を奪ってしまったのは自分だ。

「…ライド様、貴方は今ごろあの世で私を『嘘つき女』と罵っているでしょうね…」

改めてライドの墓前に花を供えて手を合わせる。

「ごめんなさい…」

悪魔憑きそのものはアルファの一閃により解呪されて心の傷も同時に消えたが、八人もの魔剣士を殺めた罪の意識は消えない。一生償っていくと墓前で誓うシグマだった。

 

 

霊園から出ると

「シグマ様」

シャドウガーデンの部下が現れた。

「どうしました?」

「魔剣士学園が例の我らの名を語る黒づくめの賊徒たちに占拠されました。すぐに現場にお越しください」

「分かりました。すぐに参ります」

スライムスーツを纏い、部下と共に魔剣士学園に駆けるシグマだった。

 

ミドガル王国王都の魔剣士学園がシャドウガーデンに占拠された。いや正確にはシャドウガーデンの名を語る一団だ。しかし、それを内外に証明する術は無い。

 

偽シャドウガーデンにより占拠された魔剣士学園、すでに生徒たちは講堂に集められている。アーティファクト『強欲の瞳』の効果により、現在魔剣士学園の教師と生徒たちとも魔力を使うことが出来ない。魔力なしでは魔剣士には絶対に敵わない。言う通りにするしかなかった。

 

その講堂で生徒と一緒に人質として振舞っているのがニューだ。彼女は鏡の反射を用いて講堂天窓の向こうにいる仲間たちに信号を送る。シグマがその信号を解読し

「ニューの報告によると現在シャドウ様が、この魔力阻害を無効化させるアーティファクトの調整を行っているそうです。日が落ちるまで完成の見込みとのこと」

「さすがね…」

微笑むアルファ、シグマは正直ニューの信号を解読した時、その内容が違っているのではないかと心配した。これほど広いエリアに魔力阻害を発生させるほどのアーティファクトの存在そのものも驚くばかりだが、さらにそれを無効化させるアーティファクトの調整など、それこそ国家機密でもおかしくはない知識だ。それをシャドウ様は有しているのかと。

しかし、アルファはそれを聞くや驚くこともなく『さすがね』で終わらせてしまった。やはり、父オルバを倒した男はすごい人だった。そう思わずにはいられないシグマだった。続けて指示を出すアルファ

「魔力阻害が無効化されたらシャドウに動きがあるでしょう。その時に全員突撃、全体指揮官のガンマに伝令を走らせて」

「はっ!」

 

 

「664番、665番、緊張しているのか?」

「「そ、そんなことは…」」

「まあ…悪魔憑きを運ぶ奴隷商人くらいは殺したことあるだろうけど、ここまで大規模な戦闘は初めてか」

「559番…」

ウィクトーリアのことだ。

「足を引っ張ったら許さないわよ」

「心配無用です」

「たぶん大丈夫です~」

のんびりとした口調の665番だった。

 

二人とも伊達にラムダより苛烈極まる戦闘訓練は受けていない。悪魔憑きも地獄だったが解呪後もまた地獄だった。しかし、家族に捨てられた自分の居場所はここしかないと耐え抜き、今ではいくつかの作戦も任せてもらえるようになれた。

559番の言う通り、ここまでの大規模な戦闘は初めてだが、シャドウガーデンの名を語る黒づくめの賊徒たちは魔剣士学園の生徒たちを銃で撃って笑っている。その光景を見て、あんな醜悪な者たちを許すわけにはいかないと腹も括れてきた。664番が焦れて来て

「まだかな合図…」

「これだからトウシロは…。戦いには待つという心得も必要だ」

呆れるように言う559番

「も、申し訳ございません」(何よ、知った風なことを言って!嫌な女ね!)

 

 

その時、漆黒の陰が講堂の天井に降りてきた。

「「シャドウ様」」

「待たせたな、みな、いよいよ戦いの時だ」

「「はっ」」

「シャドウ、講堂内に白い光が…魔力が使えるようになった!」

魔力が練れる状態になったことに気づいたアルファ。

「ふむ、上手く行ったようだ…」

「シャドウ様、生徒会長のローズ・オリアナが学生たちを率いて抵抗を開始しました」

シグマが報告した。

「では我らも参ろう。学生たちに獲物を取られたらシャドウガーデンの名折れ」

「「ははっ」」

「あいつらに思い知らせてくれよう。怒らせてはいけない者を怒らせたと。我らの名を語る黒づくめの賊徒どもを殲滅する。我に続け」

「「ははっ!」」

 

天窓を砕き、ローズ・オリアナ、あわやと言う時に漆黒の男は姿を現し、瞬く間に敵を切り捨てた。

「見事だ。美しき剣を振るう者よ」

そして、シャドウの後ろでは黒装束のシャドウガーデンが整然と並び立っていた。

シャドウが名乗る。

「我らはシャドウガーデン」

シャドウガーデンは敵の賊徒と、その場にいた学園生徒にも向けて一糸も乱れずに告げた。

「「陰に潜み、陰を狩る者」」




ご愛読、ありがとうございました!

本当に最近は『陰の実力者になりたくて!』にハマッているので、また何かお話を浮かんだら書いてみたいです。

では皆さん、暑くなってきたのでお体大切に!
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