シャドウガールズ-主と共に陰に潜み、陰を狩る-   作:越路遼介

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デルタ登場です。七陰の中では好きなヒロインです。
それはそうとカゲマス、最近詰まっております。なにぶん無課金なもので。


第3話 ボスとデルタの出会いなのですっ!

「いや、心の傷も綺麗さっぱり治しちゃうのが解呪だから」

「「「えっ」」」

治せてしまうものなのか、それ。アルファたちは驚いた。シャドウは自身と他者、たいていの怪我や病は治せてしまう卓越した魔力の使い手と云うのはアルファとベータも知っているが、まさか壊れた心まで治せてしまうなんて。

「アルファの悪魔憑きを解呪するのにひと月も要したけれど、その過程でアルファが負った心の傷も僕に伝わってきた。家族に裏切られて捨てられて、体は腐っていき、激痛に苛まれる毎日、心が壊れても不思議ではないよね」

「「…………」」

「魔力暴走をした体を外部から調整を行い、適切な魔力の流れにすることが悪魔憑きを解呪することだけど、その過程において悪魔憑きによって負った心の傷を治すことで解呪が出来るようになるとアルファを治している時に分かった。たまたま偶然の話だけどね」

 

「そうだったのね…。貴方の大望を聞いて、私がすぐに腹を括れたのもそれがあったから…。貴方が心を救ってくれなければ絶対に無理だった」

「私も同じです。アルファ様からシャドウ様の大望を聞いて巨悪に挑む覚悟が出来ました。思い返してみれば不思議な話でした。あんな惨い仕打ちを受けた自分が、どうしてこんなにすぐ切り替えが出来たのか…」

「まあ、本来なら心の傷は当人が克服して治すのが一番いいのだろうと思う。しかし…時間は有限だ。そして敵は待ってはくれない」

アルファとベータは頷く。確かに自力で心の傷を克服する方が良いのだろう。だがシドが言う通り、敵は待ってくれないし、そもそも自力で克服出来たかと言えばアルファたちは『出来た』と即答できかねるだろう。

 

「ベータ、話を遮ってしまってごめんなさい」

「いえ、ではセイラ、私の話を聞いてくれるかな」

「はい」

話を遮ったと言っても、セイラを勧誘するための呼び水となったのは間違いないだろう。

ベータはセイラに悪魔憑きのこと、英雄の子孫、魔人ディアボロス、そしてディアボロス教団について語り

「そして我らシャドウガーデンはディアボロス教団を殲滅するのが目的よ」

 

ゴクリ…

セイラは唾を飲んだ。解呪のさいに心の傷まで治してしまうというのは本当らしいとセイラはいま実体験している。父母の仕打ちなど今さらどうでもよくなっており、それよりも歴史を捻じ曲げて悪魔憑きを迫害の対象にしたディアボロス教団に対して激しい怒りを感じた。ましていま自分と同じような状況で苦しんでいる者がいると思えばなおさら。

「歴史の真相を知ってしまった以上、何もしないわけにはいきません。許せない、ディアボロス教団…!私もシャドウガーデンに入れて下さい!」

セイラに手を差し伸べるシド。それを握るセイラ。

「今日から君はガンマと名乗れ」

「ガンマ…。分かりました。主様」

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「とにかく魔力を武器にたくさんこめて叩き切れ」

今日、シャドウがガンマにそう言った。ガンマは『はい』と答えるも彼女は元々賢い少女なので戦闘において主人シャドウに見限られたことを察したのだった。

魔力量はさすが英雄の子孫だけあり豊富に有し、その扱い方も上手になった。スライムスーツもすぐ身に着けられたほどに。

ただ武芸は壊滅的にだめだった。シャドウから稽古をつけられたあとも練習を積み重ねたものの、どうにも上手くならない。それどころか、バランス感覚も悪いのか、よく転倒する。

 

私はシャドウガーデンにいていいの?

埋まるどころか離されていく一方のアルファとベータとの戦闘力の格差。悪魔憑きを解呪してくれたお礼を改めて主様に言ってシャドウガーデンから立ち去ろう、そう思うほど追い詰められていた。それにシャドウが今日告げた『とにかく魔力を武器にたくさんこめて叩き切れ』だ。事実上の戦力外通告に落ち込んだが、シャドウは

「ちょっと話そうか」

態度がシドに戻った。ガンマはシドの後ろについて行き、拠点の小屋で向き合った。

 

「残酷なことを言う。ガンマには戦闘で期待しない」

「……!」

「それ以外で僕の役に立て」

「…あ、主様…戦い以外に何が…」

「ガンマはとても賢い。僕はそれを買っている」

「主様…」

「『自らが最弱であることを知る者は、最強へと通じる自らの道を知る、知力ある者である』という言葉もある」

後々までガンマの人生訓になる言葉だった。

「ガンマ、君には知将になってもらいたい」

「知将!」

「そう、知将の策謀は時に万の軍勢さえ滅ぼすものだ。シャドウガーデンの頭脳になるのだ」

「なっ、なりたいです!私は知将になりたいです!」

「うん、ガンマには様々な知恵を授けよう。アルファも言っていたけれど、ゆくゆくはこのシャドウガーデンでお金を稼げる仕組みを築いてもらいたい。いつまでも盗賊狩りでは君たちを養えないからさ」

「お金を…。そうですね。何とか考えます!」

「では早速ガンマに講義をしようか。孫子の兵法」

 

シドの前世、影野実は愚直なまでに陰の実力者になることを目指した。

あらゆる武道、スポーツを会得し、ピアノといった文化面に至るまで。

しかし軍隊や武装集団には敵わないし頭上に核が落ちてきたら蒸発する。それが生物の限界だと思い知る。だから彼は調べた。核で蒸発しないためには何が必要か。

 

それで必要なのが魔力と彼は閃く。この思考に至る経緯はどうあれ、彼があらゆる書物を読破して、その知識を己が血肉にしたこと確かな話だ。現在のシドとなってもその知識は生きている。影野実の学業の成績こそ中の下だったが、陰の実力者になるため知識の吸収もどん欲だったわけだ。

 

大昔の中国にいた仙人や伝承に残る道術士、これに秘密が…と思っているうちに彼は孫子の兵法をはじめ中国古典全て読みつくした。陰の実力者ムーブにおいて、それらしく『敵を知り己を知れば…』や『士は己を知る者のために…』と言うのも悪くないと思ったかもしれない。

その前世で学んだ兵法を惜しみなくガンマに授けた。

 

ガンマは後にシャドウガーデンにおいて【陰の叡智】と呼ばれるシドの知識に夢中になった。真綿が水を吸収する如く知識を身に着けていく。知将になるのは夢ではなく、アルファたちから見れば人事の妙と思うかもしれない。

後のミドガル王国王都の教団アジト強襲、魔剣士学園占拠事件において現場指揮官はアルファが取り、全体指揮官をガンマが担うのは彼女がシドから少女期に兵法を授かり、軍略の才を開花させたゆえだろう。

 

 

さて、兵法の講義を終えると

「主様、お金を稼ぐには何か売れるものを作らなければなりません。いいお知恵はありませんか?」

「ううーん、そうだな。苦い豆に砂糖をブっ込んで固めたら旨いもんが出来るぞ」

我ながら何ていい加減なことを、と思っていたが

「なるほどっ!試してみますね!」

どうやら、それでいいらしい。やはりガンマは賢いなあ、と思うシド。その下地と指針を見出したのは彼だが、後年に再会した時に『これが頭脳の差なのか…』と心中で言わしめるほどの人物となっているのだ。

(それにしても、ガンマも付き合いがいいな。僕の陰の実力者ムーブにこうして付き合ってくれるのだから。いずれ大人になって僕から巣立つ時までは、ためになることを教えて行こう)

 

一方、アルファとベータは小屋から出て戦闘訓練をし終えたあと、シャドウより盗んだ魔力操作である探知を二人で行っていた。もう何日目になるだろうか。ちなみに盗賊などもこれで探している。そして

「…!アルファ様、見つけました。北の…地名は分かりませんが雪原に」

ベータが見つけたようだ。アルファも続いて魔力探知で確認する。ガンマのように捕らわれて馬車で運ばれている様子は無く、一人で彷徨っていると分かった。

「すぐに向かいましょう」

「シャドウ様を呼んできます」

「ガンマも連れていくわよ」

 

ベータから知らせを受けたシャドウは

「雪原か、ずいぶんと北だな。地名は僕も分からないよ」

「はい、私たちの脚で半日ほどかと。悪魔憑きなので当然ですが、ずいぶんと弱っておりました。それに加えて雪原の極寒を考慮すると、すぐに向かいませんと」

「分かった。ガンマ、準備して」

「はい」

実を言うとガンマ、スライムボディスーツを装備している時だけは歩行や走行をしていても転ばないのだ。

シャドウより力を与えられ、元々豊富に有していた魔力により脚力と持久力も上げられるのでシャドウに及ばずともアルファとベータと同じレベルの疾駆は可能だ。

ただ、相変わらず戦闘には圧倒的に不向きなのだが。

 

小屋を出た。シャドウが漆黒のローブを纏い、アルファたちはスライムボディスーツ、四人の人影が一瞬で消えた。北へ向かう。四つの影、シャドウは三人がギリギリ付いてこられる速度で走る。そして徐々に速度も上げて負荷も上げる。

休むことなく走ること、目的地近くに到着、空気が冷えてきた。雪原に入るが四人には問題ない。やわらかい雪面に少しの足跡が出来るくらいで走ってきた速度は落ちない。まるで雪面を滑るかのような疾駆だ。ベータが

「シャドウ様、そろそろです」

「ん」

 

 

「まだ…狩れるのです…」

犬系の獣人娘が意識もうろうの状態で歩いていた。この吹雪のなか何とか歩いている。さすがは獣人の地力だろうか。顔面から足に至るまで所々黒い痣がある。胸部と腹部のそれはすでに壊死を始めていた。そうとうな痛みだろう。

 

「親父も…兄貴たちもブッ殺してやるです…」

事情はベータとガンマとそう変わらないようだ。悪魔憑きを発症して群れを追放されたと。

「母さん…。サラはもうダメみたいです…。……っ!」

自分に近づく人影を察したらしい。

「ガアアア!」

威嚇のために吠えたが壊死した腹部から強烈な痛みが。サラは倒れた。

「ううう…」

雪の踏む音が近づいてくる。立ち上がろうとしたが踏ん張れない。なんてことだ。気が付けば両手両足の指が凍傷でサラが気づかないうちに欠落してしまっている。

(痛い…。痛い…!立てないのです…!)

黒い光沢を放つボディスーツ、指先までコーティングされている黒で統一された優美な装備。それを纏う三人の少女がサラの前に立った。アルファが歩み

「居たわ、ずいぶんと症状が進行しているみたいね」

「ガルルルル…」

「大丈夫。安心しなさい、私たちは貴女を助けに来たの」

「ガアアアア!」

「「アルファ様!」」

「あら」

サラの咢は虚しくガチンと音を立ててだけ。腕を引いたアルファ、サラはアルファの腕に嚙みつくことは出来なかった。彼女にとっては最後の力を振り絞った攻撃かもしれない。

「グウウウ…」

無理に動いたことで気が狂いそうな激痛が襲う、だがサラは倒れなかった。

「話しても無駄みたいね。私じゃ怪我をさせてしまうし…。ここはお願いできるかしら」

「うむ」

サラは女たちの後ろから歩いてくる男に気づいた。

 

「…………!」

初めて味わう強烈な恐怖だった。群れの長である父も比較にならないほどの強大な存在感、体が震えた。吹雪の冷気とは違う寒気が止まらない。この男には絶対に勝てない。戦えば間違いなく殺されると分かった。

「我が名はシャドウ、力が欲しくば共に来い。デルタ、それが今日からお前の名だ」

そして

「ううぅ~」

仰向けになって四肢を折り曲げた。獣の服従のポーズだ。そしてそのまま意識を失った。

「あれは服従のポーズか?」

「私の時とはえらい違いね」

「ひどい凍傷です…。シャドウ様、これは…」

ベータが患部に触れて言った。両足の指は欠落し、膝から下は切断しなければならないほどの重傷だった。治せるかというベータの問いかけに

「愚問だな…。我にとっては造作も無きこと」

「さすが主様です!」

「ふむ、ガンマも遅れずによく付いてきた。途中で転ばないか心配だったが…」

「はいぃ!このスライムボディスーツは本当に素晴らしいです!これが私の走りをフォローしてくれるのが分かるのです!そのうえ、こんな極寒の地でも寒さを感じませんもの!」

 

「うむ、とはいえ、この吹雪では落ち着かない。雪原から撤収する。彼女の解呪は途中通りかかった湖の湖畔で行う」

「「はっ」」

そう言ってシャドウはスライムスーツを伸ばしてサラを背負い、雪原をあとにした。

(それにしても、こうポンポンと捨て猫を拾うみたいにガーデンのメンバーを増やしていっていいものかな。まあ、アルファにはアルファの考えもあるんだろうけど)

 

…ああ、誰かサラをおぶって走っているです…。オスのにおい…。

…なに、このオスは走るのサラより早いです…。

…あったかいです…。雪で遭難の時、寝たらダメだった気が…。

…でも眠いので寝るであります。




アルファにはわずかでも勝てるかもと思い挑んだデルタもシャドウには、あっさりと服従のポーズを取ったという話は好きです。
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