シャドウガールズ-主と共に陰に潜み、陰を狩る-   作:越路遼介

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現在、私がコミックスの単行本を全巻揃えているのは『名探偵コナン』と『陰の実力者になりたくて!』だけです。


第4話 エルフのお嬢様

「んん…」

獣人娘はシャドウガーデンの拠点の小屋で目が覚めた。

このころになると、廃村の建物を三軒ほど修築して住んでいた。この廃村はカゲノー男爵家の領となるので一応公的にも同男爵家の嫡男が住んでいるのだから問題は無いだろう。またシドの家族には気取られていないが、アルファとベータ、ガンマはすでにカゲノー男爵家の邸宅に何度か非公式に訪れている。

 

「目が覚めた?」

「……ここ、どこですか?」

「私たちの拠点よ。私はガンマ」

「……サラ」

「いま仲間と主様に貴女が起きたことを…」

「あるじさま……。それはサラを治してくれたオスですか?」

「ええ、そうよ」

意識は失っていたものの、サラにはしっかりと伝わっていた。悪魔憑きが治っていき、そして欠落した指が戻り、重度の凍傷さえ治してもらったことを。

 

そのころ、小屋の外では

「ねえ、シド、さっき貴方が言ったツーバイフォーってなに?」

「ああ、アルファ、耳ざといな、聴こえていた?」

ここカゲノー男爵家領に限らず、庶民の家は建築様式が統一されていない。現在シドたちが拠点としている小屋一連も同じだ。

そこで、ついシドが口走ってしまったのがツーバイフォーという言葉。前世の影野実が核で蒸発しないために必死に模索して、あらゆる情報を書物やネットで調べていく過程で知り得た建築知識だ。

 

「ツーバイフォー工法とは、木造枠組壁工法の一つかな」

「木造…あとはよくわからない」

「ええと…」

シドはツーバイフォー工法について説明したが

「ベータ、今の説明で分かる?」

アルファの問いにベータは首を振る。結局、これは後に七陰と呼ばれる七人が揃って実現することになる。彼女たちとシドが建てた初めての城だ。

とにかく今は廃屋を彼らなりに修築した三軒の家が彼らの城だ。雨露はしのげて寝床もシドが用意したものがある。十分だろう。贅沢は出来ないが、アルファを始め新しい家族の暮らしにみな満足している。

 

「主様、獣人の子が目を覚ましました」

「分かった。すぐに行くよ」

シドがサラの臥所へと。ベッド脇に腰かけた。

「君の体を治したが、調子はどうか」

「何とも無いです。ありがとうなんです」

「ふっ、礼には及ばぬ」

「サラの名前はサラです」

「シドだ。で、これからどうする。君はもう自由だ。群れに帰るか?」

「…帰る群れはないです。母さんは死んじゃったし病気になったら親父に殺されそうになるし…」

群れを出た当時は狩りで食いつなぎ、一人でも何とかなったサラだが悪魔憑きが進行してしまうと、それもままならなくなっていく。もう少し遅かったらサラは雪の中で命を落としたかもしれない。

 

順番通りなら勧誘をガンマに任せたのだが、シドは直感的に

(こういうヤツは絶対に自分より弱い者の言うことを聞かない)

そう悟った。

「ガンマは次の悪魔憑きの子を任せよう。アルファ」

「分かったわ」

 

シドが臥所を出ていく。ガンマは追いかけ

「主様、私に彼女の勧誘は無理だと?」

この子には出来ないと敬愛する主人に思われることは耐え難いことだった。

シドがアルファを、アルファがベータを、ベータがガンマを勧誘した。次は自分であることは分かっていたのにアルファが担うことになって悔しい。

「ガンマ、君はとても賢い女性だ。もし君より著しく賢くない者から物事を説かれたらどう思う?」

「それは…内容にもよりますが、的外れなことを説かれれば不快になるかと…。はっ」

「そう、あの獣人娘は自分よりケンカが強い者でなければ絶対に言うことは聞かない、そういうタイプだ。悪いがガンマ、君は彼女より圧倒的に頭が良いが戦闘力では劣る。ここはリーダーであるアルファに任せるがいい」

「主様…」

「なに、乱暴者ほど知恵者を恐れるという言葉もある。ガンマが知将として開花したなら乱暴者の獣人娘も何も言えないだろう。いずれデルタはガンマの采配で切り込み隊長をする人材となろう。仲良くな」

「はい、主様」

(うんうん、こういうフォローも大事だよね!せっかく僕の陰の実力者ムーブに付き合ってくれるのだから!)

前世と現世共に強さを求めて周りを全く見ていなかったせいか、いまいち他者への思いやりに欠けるシドだが、さすがにここまで律儀に陰の実力者ごっこに付き合ってくれる彼女たちは大事にしたいらしい。

長じて性的欲求もあるのかどうかも分からない彼だが、女の子には優しくしておいて損はないと前世との年齢を合わせれば二十代後半ともなるのだから分かるだろう。

 

しばらくしてサラの臥所に戻ったシドだが、サラはアルファに怯え切っていた。布団にもぐって出てこようとしない。震えていることが掛け布団越しにも分かる。

「何をしたんだ?」

「ちょっと、おイタが過ぎたので」

「ふっ、そうか。で、彼女の返事は?」

「デルタ」

「はっ、ひゃ、ひゃい!」

「シド、いえ我らのシャドウ様に返事を」

「シュドウガーデンと言うのは、あまりよく分からなかったのです。だけど、ボスとアルファ様にはついていくのです」

「ボスか…。ふっ、いい響きだ。まあ、それでいいだろう」

 

この翌日からデルタも加わって戦闘訓練、やはりガンマはデルタに敵わなかった。

シドとアルファから、知将を目指すのだから戦闘訓練より学問を優先した方がいいのではと勧められたが、やはりガンマにも意地があるのか戦闘訓練は必ず参加する。そして負ける。

「弱いのです!弱っちぃのは死ぬだけです!」

「ふっ、ふん!私は知恵で勝負するのよ!知将の智謀は万の敵勢を滅ぼすと主様も言っているの!」

いい具合の意地の張り合いとシドは思う。仲良しこよしよりいい。

 

シャドウより力を与えられたデルタ、頭は弱いが戦闘のセンスは十分、魔力操作も時間はかかったがスライムスーツを着こなすに至れた。アルファとベータが魔力操作を何度も教えた。なにせ魔力操作を失敗して半裸以上の状態になっても平気でシドの前で戦闘訓練を続けているのだから。

ある程度デルタが仕上がってきたら、シド対アルファ、ベータ、ガンマ、デルタで実戦訓練。アルファたちは全くシドに敵わない。アルファたちはスライムソードを使っているが、シドはただの木刀、それでも四人がかりの攻撃をいなしてしまう。しかも所々戦い方を指導しつつだ。

「やはりボスは強いのです!」

獣人のメスは強いオスに本能的に服従するもの。男女のそれとは異なるがデルタは

「ボスとの間にいっぱい子供を生んで、この群れを世界一にするのです!」

アルファさえ言ったことのないシドの子供を生む宣言、あとでアルファに締め上げられた。

 

 

居住する家と倉庫、合わせて三軒の家を廃村に構えたシャドウガーデン。住んでいるのは美少女エルフ三人に犬獣人の女の子。そこに彼女らと同い年くらいの男の子が通うという状況。

「ベータ、頼まれていたカンショの種芋を手に入れることが出来たよ」

サツマイモのことだ。

「わあ、ありがとうございます」

「一応、実家の書庫から栽培方法が記された本を持って来たから」

「はい、絶対にこの拠点で自力栽培を成功させてみせます」

 

外からシドの声が聴こえてきたか、アルファが小屋から出てきた。

「シド、悪魔憑きの子を見つけたわ」

「ん、どのあたり?」

アルファの魔力探知もかなり上達したようだ。

「以前、デルタに会うため雪原に向かった時、通りかかった湖があったでしょ。その湖畔の町に住む子ね」

「そんなに遠くないな」

「ええ、すぐに向かいましょう」

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「はぁ、はぁ…痛っ!」

水色の髪、エルフの少女は湖畔の町からすでに出ていた。いや聖教に売り飛ばされそうになり逃げてきた。

 

いつからだったか左腕に違和感を覚え、痣みたいなものが出来た。その翌日にはすでに左手の原型は無く、いびつな状態で腫れあがっていた。しかも別の生き物のように、その大きな腫れ物は泡立つようにうごめく。そのあまりの恐怖に父母にそれを見せたところ仰天、すぐに閉じ込められた。まるで害虫でも見るかのような父母、少女には衝撃だったろう。

 

湖畔の町で一等地を構える裕福なエルフ一家のご令嬢だった彼女。

町には聖教の教会もある。もう優しい父でなくなった男は『聖教の教会に使いを出せ。悪魔憑きになったアンナを引き取ってもらう』と言ったのを聞き逃さなかった。

これが悪魔憑き…!少女アンナは全身が震えた。聖教が悪魔憑きを引き取って、救済やら浄罪と称して殺していることは知っている。

(いやだ、殺されるなんていやだ!私は何も悪いことはしていないのに!)

 

隙を見て閉じ込められた部屋から抜け出した。逃げたことを知った父親はすぐに使用人たちに探させた。アンナは物陰から、かつて親しくしていたメイドを見つけた。助けを求めようとしたが、あわやで踏みとどまる。そのメイドは笑っていた。同僚のメイドと共に『いい気味だ』『見つけたら抵抗されたと言って袋叩きにしよう』と。

主従を越えた友達と思っていた。容貌が崩れただけで、こんなにも人の心は醜くなるものなのか。捕まったら何をされるか分からない。何とか腫れあがった左手を隠しつつ懸命に逃げて山に潜む。

 

「うううっ、痛い…!痛い!」

もはや腫れ物は成人男性の頭部くらいの大きさになっていた。皮肉にも自慢の美しい水色の髪と同じ水色の腫れ物。とても重い。肩が外れそうだ。

町から抜け出したのはいいものの、彼女には頼る者などいない。金もない。空腹で腹が鳴る。みじめだった。悔しかった。

 

「どうして…」

涙が止まらない。唇を噛み血が出た。鉄の味がにがい。あんなに優しかった父母が何の躊躇もなく聖教に売り飛ばすと言った。その先は死しかないというのに。

「こんなもの!」

樹木に勢い任せで腫れ物を叩きつけたが

「うあああああっ!ぐぐっ、んあああ!」

すさまじい激痛にのたうち回った。収まる様子は一向にない。

激痛の最中、何とか立ち上がり

「耐えられない…。死のう…。ううっ、うううう…」

 

皮肉なまでに夕暮れ時に見る湖は美しかった。樹々の間からその美しい湖を見つめ、そして死に場所を求めるように歩き出した、その時だった。漆黒のローブを纏う少年が後ろから歩いてくることに気づいた。

追手か、最初はそう思った。しかし少女アンナにはもう逃げる気力がない。怯えるアンナ、徐々に近づいてくる少年は言った。

「力が欲しいか…?」

「力…」

そうだ。力さえあれば…。自分を裏切った父母やメイドたちに復讐できる。

「力が…欲しい!」

 

少年の後ろには二人の美少女が付いてきていた。思わず息を飲むアンナ、なんて美しい女の子だろう。黄金の長い髪を風になびかせ、夕日を背にした同じエルフの美少女は同性のアンナさえ魅了してしまうほどの美しさだった。その美少女が駆けてきた。

「可哀そうに…。痛かったでしょう?」

そう言って抱きしめてくれた。悪魔憑きになって初めて人の優しさに触れたアンナは感極まって泣き出してしまった。そして

「シャドウ」

「力が欲しければ…くれてやる」

抱擁を解いたアルファ、山道に座り込んだアンナの前にシャドウは歩んでいき青紫色の魔力をアンナに浴びせていく。すると

「あ、あああ……」

激痛はみるみるうちに収まっていき左腕の巨大な腫れ物は縮まっていき、やがて煙のように消えてアンナの美しい左手がそこにあった。

「あああっ、ああああ!うわあああああん!」

少女は泣いた。鼻水とよだれも垂れ流して歓喜の涙を流したのだった。

 

今までの自分の中にはなかった力が湧いてくるのが分かる。

これなら、ついさっき望んだ通り、父母とメイドたちへすぐにでも復讐に行けそうだが不思議と、もうどうでもよくなった。解呪と同時に心の傷が治ったからだ。

「真実が知りたいというのなら…ついてこい」

シャドウが差し伸べた手を握ることをアンナはためらわなかった。




イプシロンさん、私はむしろ、その平たいボディがいいと思うのですけどね…。
某傾奇者のように『だが、それがいい』と言いたいです。
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