シャドウガールズ-主と共に陰に潜み、陰を狩る-   作:越路遼介

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アニメ版でローズの前でシャドウが『月光』を弾く話は大好きです。男なら、あんな登場の仕方をしてみたいものですね。


第5話 月光

悪魔憑きが解呪されたアンナ、改めて故郷である湖畔の町を山から見つめた。

 

ガンマが彼女に歩み寄り

「もう貴女は自由ですよ。我らは悪魔憑きの子らを解放することが目的ですから対価は求めません」

「戻るつもりはないわ」

即答したアンナ、高台にいる彼女の目には、かつて暮らした屋敷が見える。

父は湖支流の大河に面した村や町と交易をすることで財を成した優れた人物、娘のアンナを溺愛していたが悪魔憑きになった途端に非道で醜悪な父となった。

力が欲しいか、そうシャドウから問われた時に彼女に思い浮かんだのは自分を裏切った者たちへの復讐だったが今は何とも思わない。もう、あんな連中どうでもよいと。

大好きだった屋敷が魔物の巣窟に見えるほど汚らわしく思う。

 

アルファとガンマに向き

「貴女たち二人が纏う、光沢の黒衣、いいわね」

ガンマは少し驚いた。悪魔憑きになり、愛する家族たちに裏切られたことで負う心の傷、解呪のさい、それも綺麗さっぱり消えているとシャドウから教えられた。ガンマ自身、解呪後に聖教へ売り飛ばした家族ことなど何とも思わなかったうえ翌日から何事もなかったように戦闘訓練に入れた。自分自身のことのせいか心の傷も同時に癒えたということは、あまり実感できなかった。

しかし、目の前のアンナを見ると本当にそうなのだと思った。いきなり自分とアルファが着ているスライムボディスーツに興味を持つなんて。

 

アルファが苦笑しつつ答えた。

「でしょう?我が主シャドウから賜った魔力操作によるものよ」

「…私も欲しい」

「いいわよ、ガンマ」

「はっ」

ガンマが自分のボディスーツから一部スライムを切り取ってアンナに渡した。

素材がスライムということに驚いたが好奇心の方が勝り、ガンマに簡単な説明をされたあとに試してみたが、その場では魔力を上手に扱えずに失敗に終わる。

「中々難しいわね…」

「じき、慣れるわ。こんな素晴らしいボディスーツは無いのだから」

「貴女たちの主君があのシャドウという人?」

「様をつけなさい」

アルファの鋭い眼光にアンナは思わず気圧された。

「ご、ごめんなさい、で、シャドウ様が主君なの?」

「そうよ」

「…だけど貴族の坊ちゃんに仕えている…という印象は受けない。貴女たちは彼の元で何をしようとしているの?彼女は悪魔憑きの子を解放するのが目的と言っていたけれど…それだけとは思えない」

「どうしてそう思う…ああ、貴女もシャドウから力を与えられたものね」

「ええ、我ながら不思議な感覚、人の強さが何となく分かるなんて…。何より強くなったのが実感できる。ええと」

「アルファよ」

「アルファ様もかなり強いでしょう。そっちの彼女はちょっと違うようだけど」

「ふふっ、私はこっち担当ですから」

頭をトントンと指で突くガンマ、なるほど参謀と言うことか。

 

「ガンマ」

「はっ」

アンナの前に出るガンマ

「貴女には二つの選択肢があります。一つは先の通り自由、何も知らず、このままどこかの町に移り住んで平穏に暮らしていくこと。二つ目は…」

「二つ目を選ぶわ。というより意地悪な言いようね。私も貴女たちとシャドウ様と同い年くらいの子供なのよ。どこかの町とやらで一人で生きていけるわけないじゃない」

「でも、あとで一つ目を選んでおけばよかったと思うかもしれませんよ?」

「それはない。一応二つ目を聴かせてほしいわ」

覚悟を決めた瞳だった。アルファがそれを見定め、ガンマに頷く。

「二つ目は我らシャドウガーデンに入り、ディアボロス教団を打倒すること」

「え?」

予想もしなかった答えに戸惑うアンナだった。

「ディ、ディアボロス…って、あのお伽話に出てくる魔人のこと?」

「いいえ、あれは本当にあった話で、続きもあります」

ガンマが語るシャドウガーデン結成までの行程を聴いているうちにアンナの顔は段々険しくなって紅潮していく。教団の悪行、そして悪魔憑きへの仕打ちに怒りに震えた。すべての元凶はそいつらではないか。

「そんなの…絶対に許せない!」

「そう、主様と私たちは絶対に許さない。ディアボロス教団を」

「私も戦う!シャドウガーデンに入れて!」

「すでに貴方には主様から名が贈られています。今日から貴女はイプシロンと名乗るようにと」

「イプシロン…。いい名前だわ。何も知らない甘ったれたお嬢様アンナはここで死んだ…。私はシャドウガーデンのイプシロン!」

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

イプシロンがシャドウガーデンに加入して数日後、シャドウ対シャドウガーデンの戦闘訓練を行っていたがアルファたちは健闘虚しくシャドウから一本も取れない。しかし

「うむ、よき連携に仕上がっている。よく考えた。あえてガンマを後方に下げて攻撃に加えず戦闘指揮を取らせるとは」

「ええ、逆に今までガンマの出鱈目な太刀筋に悩まされていたから、それならいっそと思って」

「アルファ様、ひどいです」

「ガンマ、これはアルファの適材適所だ。君の作戦指揮も理に叶っており見事だった。一人一人の特性をよく生かしている。相手が我でさえなければ君たちが勝っていただろう」

「お褒めのお言葉、ありがとうございます、主様!」

(ふむ、褒めて部下を伸ばす僕、なかなか堂に入っているんじゃない?)

 

「ふう、やはり主様はすごい…。シャドウガーデンに加入したのは間違いじゃなかったわ」

シャドウの強さに傾倒する一方で、イプシロンがさらにシャドウガーデンに入ってよかったと思ったのはスライムボディスーツの存在が大きかった。

(これは盛れる…!)

まだ少女と言える年頃なのだから、そんなことを気にする必要はないと思うのだが彼女の実家の女性たちは一人も漏れることもなく体型が平たい。自分もそうなると少女心ながら予感していたのかもしれない。

しかし、このスライムボディスーツはそんな不安を消し飛ばしてしまった。

成長するにつれ、みなに分からないように盛っていく!そして、その色香でシャドウ様を悩殺するのよ、そんなことを考えていた。

 

 

「そういえばアルファ、先日みんなが退治した盗賊たちが面白いものを持っていたんだって?」

すでに実戦訓練も兼ねて、悪魔憑きは関係していなくても盗賊を退治していたアルファ率いるシャドウガーデンだった。いつまでもシャドウに甘えていられないという気持ちの表れだろう。このころにはベータも盗賊を殺めたあとに嘔吐することは無くなっていた。

面白いもの、アルファたち五人の中で、それを知っていたのはイプシロンだけだった。

アルファたちは最初それが何か分からず、放置して帰ろうとしたところイプシロンが止めてアジトに持っていきたいと主張したのだが、それは

「主様、ピアノです」

「ピアノ…?(この世界にもあったのか)」

「はい、おそらくはどこか裕福な家に押し入って手に入れたのでしょう。売れば、かなりの高値になる高級なピアノでしたから」

「へえ、みんな弾けるの?」

アルファたちは首を振る。ピアノの存在自体、その盗賊退治の時に知ったのだから弾けるわけがない。ピアノを持って帰ることを主張した当のイプシロンでさえ

「ははは…。ちょっと弾ける程度で」

「嘘つくなです。聴けたものではなかったです」

「そうね、聴くに堪えなかったわ。ただの騒音」

デルタとベータに強烈に言われた。そこまで言わなくても…イプシロンは思った。

 

「へえ、ピアノ見たいな。倉庫に置いたの?」

カゲノー家にはピアノはない。シドの姉クレアが好んで弾くようなものではない。

シドがこの世界に来て初めて見るピアノだった。後にこのピアノはシャドウガーデン本拠地古都アレクサンドリアの講堂に置かれることになる。

 

戦利品のピアノを見るシド、内部まで観察している。

(構造は地球のものと変わらない。やはり世界は異なっても文明の進歩は同様に辿るのかな、分からんけど)

椅子をいそいそと持って来たシドはピアノに着き

「ならば皆に聴かせよう、我がシャドウガーデン、陰に潜み陰を狩る、その信念に相応しき旋律を」

ピアノを弾きだしたシド、前世影野実はピアノを学び、ピアニストを生業にしようと考えず、コンクール等には一切参加しなかったため無名ではあったが、それこそ腕前はプロ級だった。いや、プロの中でも彼の腕前に敵うピアニストは、そういなかったのではなかろうか。彼が奏でた旋律、それは

「月光」

シドがピアノを弾きだすとアルファたちは、言いようのない感動に包まれた。

音楽ほど人を魅了するものは無い。芸術のげの字もないデルタでさえ涙を流すほど感動して聴き入っていた。

 

弾き終えるとアルファたち五人は号泣して拍手した。ベータに至っては鼻水も垂らすほど泣いていた。そしてイプシロンが予想外なことを言いだす。

「い、今の覚えました」

眠っていた音楽の才能がシドにより引き出されたイプシロン、一度聴いただけでコピー出来てしまう。しかし

「主様の『月光』には遠く及びません」

弾き終えたあと肩を落とすイプシロンだった。シドはニコリと微笑み

「練習すればいい。一度聴いただけで弾けるようになるなんてイプシロンはすごいな」

「ありがとうございます、主様!あの…他に弾いてもらえますか?」

「イプシロン!」

「いいよアルファ、今度はみな歌ってみようか」

「「歌?」」

この世界、当然歌唱の文化は存在するが隣国オリアナ王国ほど、ここミドガル王国では盛んではない。エルフの世界でも昔から伝えられてきた民謡を歌う程度だ。

「僕が先に歌詞を言うから、それに続いて歌ってみなよ」

アルファたちはピアノの前に並び興味津々。顔が紅潮している。絶対楽しいものだと確信しているようだ。シドが弾いたのは

「きらきら光る、夜空の星よ~♪」

童謡の『きらきら星』だった。シドがピアノを弾きながらアルファたちより先に歌い、彼女たちが続くというもの。きらきら星の演奏そのものも聴く者を魅了する。

「「きらきら光る、夜空の星よ~♪」」

アルファたちは気持ちよさそうに歌う。デルタは壊滅的に音痴だったが。

 

もっと歌いたい、今度はアルファがシドにお願いしてきた。歌うことの楽しさに目覚めてしまったようだ。シドは要望に応え前世で会得していた童謡を始め、昭和ポップスやアニメソングをこちらの世界でも違和感のない歌詞に替えて共に歌った。

シドの前世、影野実は彼自身が生きた平成と令和の歌には疎かったが、彼の父親がアニメと昭和のアイドルソングが好きだったため、それを聴いているうちに覚えてしまった。こうして改めてピアノを弾いていると自分で驚くほどにレパートリーがあった。彼もまた一度聴くだけで、それをピアノで弾けてしまうほど音楽の才を有していた。

 

気持ちよさそうに歌いつつ、リズムに乗って自然と体が動いて踊りだすアルファたち。

「おお、みんなすごいな。アイドルみたいだよ」

歌い終えるとガンマが

「主様、アイドルとは?」

「ああ、アイドルと言うのは綺麗な女の子たちが可愛い衣装を着て舞台に立って歌って踊ることだ。見る者、聴く者を魅了する存在だ」

 

後年、音楽家シロンと名乗りピアニストとして大成するイプシロンだが、その一方ミツゴシ商会プロデュースで『桜色ダイヤX』という五人組のアイドルユニットが爆誕する。

もちろん全員シャドウガーデンに属している少女たち、古都アレクサンドリアの講堂でオーディションを開催し、上位五人組で結成された。その美貌と美しい歌声で瞬く間に人々の心を掴み、コンサートを開けばチケットは即日完売、ミツゴシ商会に大きな利益をもたらすことになる。

ガンマは後に『倉庫で主様が聴かせてくれたアイドル、これは絶対に流行ると、あの時点で確信していた』と語っている。まさに【陰の叡智】だったのだ。

 

(…デルタ…。君はどこのガキ大将かと思うほど音痴だな…)

「ホゲ~♪」




デルタは本当に歌が下手そうですよね。中の人は上手と思いますけど。
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