シャドウガールズ-主と共に陰に潜み、陰を狩る- 作:越路遼介
「殺してやる…。全員必ず…!」
金豹族の少女リリム、悪魔憑きになった彼女は両手足を鉄鎖で束縛されて動けない状態だった。父母と弟を殺された。
アルファを始め、シドに助けられた少女たちは悪魔憑きを発症するや家族と故郷に裏切られて捨てられた。しかしリリムは違う。彼女の父と母は全力で娘を守ろうとした。そして父親は苦難の結果、金豹族の里から東、ミドガル王国に悪魔憑きを治せる者がいるという情報を掴んだ。
家族は裏切らなかった。しかし金豹族は裏切った。聖教と共にリリムの父親を捕らえて悪魔憑きの引き渡しを強要する。彼女の父は最後まで娘を守るため戦い死んでいった。逃走の果て、彼女が今まで見たことがなかった海に到着、これ以上の東へ進むには海路しか無く、船を何とか見つけようとした時に捕捉されてしまう。
逃走中に二手に分かれた母も討たれ、最愛の弟は目の前で首を落とされた。リリムは絶叫、父母の首も目の前に放られた。リリムにあるのは憎悪、絶対に殺してやると誓った。檻に入れられ馬車に積まれた。どこに連れていかれるかも分からない状況、リリムは何も抗うことが出来ない自分の無力さに涙が出てきた。その時だった。
『力が欲しいか…?』
「……ぁ?」
『力が欲しいか…?』
馬車の馭者や見張りには聞こえていないようだがリリムには、はっきりと聞こえた。
力をくれるなら、それが悪魔だろうと誰でもいい。
「欲しい…!力があれば!力さえあれば!」
見張りの男はとうとう気が狂ったと笑いだすが
『力が欲しいなら…くれてやる!』
馬車の中に突然青紫の魔力の光が。
「アイ…アム…」
光の中から突如出現した漆黒のローブを纏う少年、リリムを拘束する鉄鎖を斬り砕き、
「アトミック…もどき」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「父様、母様、レン、見て…悪魔憑き…治ったよ」
リリムは聖教の追手に捕らわれた浜辺に戻ってきた。
まだ父母の首と弟レンの亡骸が無残にも放置されている。弔いたいとリリムは言った。
「父様は正しかった…。東に向かったら悪魔憑きを治せる人に出会えたんだ…」
「むごいことを…」
シャドウはリリムの家族の御霊に手を合わせた。
「ここに弔いたい。私と家族を裏切った金豹族の里には戻りたくないから」
「ふむ…」
「もっとも金豹族は…もう全滅しているんだけどね…。はは…」
「……」
「私、東に逃げて初めて海を見た。こんなに美しいものだと知らなかった」
「そうか…」
「父様と母様も海を見たことが無いかもしれない。ここで弔う。弟のレンと共に、ここに埋めてあげたいと思う…。うう、うわあああん!」
リリムが涙するのを後ろから見つめていたアルファ。絶対に口に出せないことだが彼女は幸せ者だと思った。殺された家族の死に泣くことが出来る。最後まで家族に愛されたからこそ、つらくて苦しいのは理解できる。
それに反して自分を含め、ベータ、ガンマ、デルタ、イプシロンは家族が殺されても泣くどころか、ざまあみろと思うのではなかろうか。それがどんなに悲しいことか。
この、悪魔憑きになっても七陰の中で唯一最後まで家族に愛されたリリム、これが後にアルファとシャドウガーデンの在り方とシャドウへの忠誠について齟齬が生じる要因となるのかもしれない。
浜近くの森へと歩くシャドウ、スライムスコップで穴を掘り始めた。
森のなか、ひときわ目立つ巨木の根本だった。
「周囲に墓石となりそうな石はない。この巨木を墓標とするがいい。海もよく見える」
リリムは頷き、父母の首、弟レンの首と胴体をその場に持ってきた。
「ありがとう…」
(よかった、有りだった。確か、伊達政宗に仕えた片倉景綱の墓標も巨木と聞いたことがあるから、これでいけるかと思ったら大丈夫だったよ。そろそろ帰らないと姉さんがうるさいから、さっさと用事を済ませて帰りたいんだよ)
さすがはシャドウの地力、すぐに墓に適するほどの深さに掘った。
丁寧に穴底へ父母と弟の亡骸を置くリリム。
「私に埋めさせてほしい」
シャドウがやると一瞬で埋まってしまう。リリムは土を両手に乗せて埋めていった。
「…父様、母様、レン…必ず仇を取るからね…!」
リリムの震える背中を見つめるアルファにシャドウは歩み
「一人にしてやるといい」
「そうね」
埋葬を終えたリリム、浜で待っていてくれたシャドウとアルファに跪いた。シャドウガーデン、ディアボロス教団について何一つ説明はしていない状態だが、聡いリリムは察したようだ。最期に父は言った。魔人ディアボロスを倒した三英雄の一人、金豹族のリリは先祖であり、我らには使命があると。その使命とは歴史を捻じ曲げて、悪魔憑きが呪いではなく祝福と称して処刑している巨悪を討つこと。
そして自分をその悪魔憑きから助けてくれた彼らは父母と弟を殺した巨悪と戦っている。家族の御霊に手を合わせ、墓まで作ってくれた恩義、リリムは迷わなかった。
「貴方たちの仲間に入れて下さい」
「よかろう、今日から君はゼータと名乗れ」
「はっ!」
ゼータは家族の墓に一度だけ振り向き
「行ってきます」
そう、つぶやいた。家族の『行ってらっしゃい』という声が聞こえた気がした。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「まだだっ!もう一本!」
ゼータは強くなることにどん欲だった。戦闘訓練で何度シャドウの木刀に弾き飛ばされても向かっていく。飽きっぽい性格と言われる彼女だが、これだけは別だ。
「よく言った。かかってこい」
「はあああ!」
やがて、スライムソードから金豹族の伝統武器チャクラムへ変化させることに成功。
斬撃、そして投擲、亡き父に厳しく叩き込まれたものだ。
しかし、シャドウには全く通じない。ゼータはそれが悔しくもあり嬉しい。
今も気が付いたら背後に回られて剣を突き付けられた。
「続けるか?」
「当たり前だ!」
その訓練を見つめるアルファにガンマが歩み
「彼女は逸材ですが、何とも飽きっぽい性格をしていますね。料理や建物の修築も一度見ただけで出来てしまうのに」
「シャドウとも話したのだけれど、あれほど器用ならば諜報をやらせてみようかと思うのよ」
「諜報ですか」
「ええ、金豹族で俊敏、かつ頭もいい。これから私たちはあらゆる情報を得て教団のことを調べて行かなければならない。敵を知り己を知れば百戦危うからず。シャドウの【陰の叡智】にある通りよ」
「ゼータにそのことは?」
「まだ伝えていないわ。もう少し様子を見るつもり」
「では…私はゼータの諜報活動に捻出できる費用を用意しておきます」
「ありがとう、ガンマ。話が早くて助かるわ」
「「いただきまーす!」」
拠点の小屋、ベータが栽培したカンショの試食会が行われた。
「ん~!甘くてホクホク!」
自分が育てた作物のあまりの美味に喜色満面のベータ。
「途中からゼータも手伝ったんだって?」
シドが同じく喜色満面なゼータに訊ねた。
「うん、面白そうだったから。こうして形になるものと言うのは嬉しいよね」
カンショ栽培の指南書はベータに渡したものの、実際にやってみると難しいことも多く、種芋を腐らせてしまったことも。でもベータとゼータが手を携え成功、今日の収穫となった。
「ベータ、とても美味しいよ。これからカンショを材料としたお菓子の作り方を教えるから」
「「お菓子!!」」
やはり女の子は甘い物に目がない。シドは実家から調味料と他の食材を拝借して『大学芋』と『スイートポテト』を教えた。彼の前世影野実、陰の実力者になるための体作りのため食事にもこだわった。サツマイモを食材とした簡単レシピくらいは作れるのだ。
大学芋を一口食べるや
「「美味しい!」」
「「甘~い!!」」
「もっと食べるのです!」
と、大絶賛だった。シドは得意げに胸を張りベータにレシピを教える。ベータは目をキラキラさせながらメモを取る。
とはいえ後年、実際に形としたのはガンマとイプシロンである。スイートポテトを頬張りながら、しっかりとベータの横でレシピを聴いていたのだ。料理を得手とするイプシロンが再現をして、それをガンマが売り出す。『大学芋』と『スイートポテト』ミツゴシ商会のスイーツとして世に知られることになる。これもまた【陰の叡智】であった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「お腹…空いた……」
もう何日、食事をしていないのか、やせ細ったエルフの少女が路地裏に倒れていた。
悪魔憑き、全身が腐りはじめ、彼女の両下肢はもはや原型を留めずいびつに膨らみ、ひどい腐臭を放つ。
かつては神童と呼ばれた天才少女ソフィア、裕福な商家に生まれた彼女、優しい両親は娘の才能を伸ばそうと教育熱心で、何より美しい娘を愛した。
しかし、悪魔憑きを発症すると優しい両親は変わってしまった。
すぐに聖教に連絡を取って売り飛ばそうとしたのだ。身の危険を感じたソフィアは逃走したが、両下肢が腐り、もう立ち上がることも出来ず路地裏で倒れて死を待つだけだった。
『あきらめるのか?』
「……ぇ」
『何もせず、何もなさず、あきらめるのか?』
「…………」
ソフィア、後のイータ、感情を表に出さない鉄面皮、口数も少ない、ただ求道のように科学の研究に臨む彼女がこの時、感情を爆発させて叫んだ。
「いやだ!あきらめたくない!死にたくない!うっ、うう…!うあああああ!」
泣き叫んだソフィア、聖教の追手に見つかろうが、もう感情が抑えきれなかった。
「よく言った。抗うのなら手を貸そう」
声の主が目の前に現れた。そしてソフィアを抱き上げた。久しぶりの人の温もりが嬉しかった。近くの廃屋に場所を移した。
「周囲に気配はありません」
イプシロンが報告、頷くシャドウの横には緊張した面持ちのアルファがいる。
「出来る、出来るはずよ…」
そう自分に言い聞かせているようだ。
「緊張するな。アルファが主となって解呪をするが我がちゃんとサポートをする。イプシロン、君もよく我とアルファの魔力操作の流れをよく見ておくんだ。我の見立てでは君もいずれ出来るようになる」
「はっ」
「では始めよう、アルファ」
「はっ」
ソフィアに触れてアルファは魔力を発した。彼女自身、解呪されたあとシャドウに徹底した剣技の指導を受けて、スライムボディスーツを経て魔力操作のやりようを叩きこまれた。
いつまでも解呪をシャドウ一人にお願いするようではだめだ。英雄の子孫である同朋たちの悪魔憑きを治して仲間にして組織の拡張をする。そのためにも自分一人で解呪が出来るようにならなければならない。
そして
「これが彼女の心の傷ね…。私たちと同様にご両親に裏切られた…。可哀そうに…」
「さすがだ。それが解呪の最後の関門だ」
「ええ、突破してみせるわ」
だが予想以上に魔力が持っていかれる。シャドウはあんな平然とやっていたのに。
主人との力の差を思い知る。
「焦るな。魔力は量じゃない、使い方と教えたはずだ」
魔力操作、現状アルファが八、シャドウが二というところでソフィアの解呪を行っている。見取りをしていたイプシロン、アルファには悪いが、やはり主人シャドウの魔力操作が繊細かつ自然に感じた。解呪初体験のアルファは無用に魔力を使っているように思える。試行錯誤しつつ実戦に挑んでいるのだから当然だろう。イプシロンは自分が解呪を行っているイメージを持ち、二人の解呪を見つめていた。そして
「嘘……」
ソフィアの解呪に成功した。両下肢は美しい脚に戻っている。裸だったので毛布をかぶせたイプシロン、女の裸身をシャドウに見せたくなかったか。その気遣いが素直に嬉しいソフィアだった。
「ありがとう…」
そしてアルファとシャドウに頭を下げた。
「貴方たち二人が私の病を治してくれたことは分かった…。すごく感謝している…」
「病じゃないわ、あれは呪いよ」
「……呪い?」
「イプシロン」
「はい」
アルファに替わり、イプシロンが悪魔憑きのことを改めて説明した。
本来ならゼータがソフィアの勧誘を担当するはずだが、この時点ですでに彼女は諜報活動に天賦の才を示し、アルファの指示で情報収集のため拠点を出ていた。そしてゼータの勧誘は状況的に必要がなかったためイプシロンに出番が回ってきたわけだ。
才媛の誉れ高かったソフィアでも悪魔憑きが病ではなく、魔人ディアボロスが三人の英雄にかけた呪いに端を発していることを初めて知り驚く。そしてその魔人ディアボロスを復活させようという邪教徒たち『ディアボロス教団』の存在を聴き
「許せない…」
怒りに全身を震わせた。
シャドウは
(いや、本当にエルフちょろいわ)
と、内心思ったが
(いやいや、そんなことを思ってはダメだ。見た感じ、とても賢そうな女の子だ。こんなヨタ話は信じてはいないだろう。だけど、あえてノッてくれているんだ。僕の陰の実力者ムーブに。感謝しなくては!)
「私も…シャドウガーデンに入れてほしい」
「よかろう、今日から君はイータと名乗れ」
カゲマス、現在楽しくプレイ中で『七陰列伝』が実に面白いです。無課金でも時間をかければ何とか先に進めます。でも、ウィクトーリアが滅茶苦茶強いという話を聞きます。私のパーティーで太刀打ちできるかどうか。