シャドウガールズ-主と共に陰に潜み、陰を狩る-   作:越路遼介

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ようやくクレア誘拐事件が発生いたします。


第7話 七陰出陣!

「「完成!」」

「「私たちのお城―!」」

 

イータ加入するや八面六臂の大活躍、シドからツーバイフォー工法を聴くや、瞬く間に設計図を描き上げて、令和日本で普通に建っていそうな二階建ての住居を完成させた。

アルファたちも手伝ったが、イータがスライムを用い、廃村内の廃材も再利用して、あれよあれよと形となっていった。さしものシドもそれに唖然とした。

(えらいの拾ってきちゃったな…)

 

今日は新築に住むお祝いだ。ゼータも帰ってきて、いくつか教団の拠点らしき場所を見つけたという。そのゼータも加わって一階リビングでご馳走を料理している光景を窓から見つめるアルファとシド。

「家族のよう、いや家族なんだな」

「そうよ、私たちは家族よ。今後もよろしくね」

「七人か…。数的にいいし…」

 

改めてみなで夕食、乾杯となった。最近シドが十三歳になったので、そのお祝いも兼ねて。

「みな、今までつらい戦闘訓練を経て頼もしい仲間になってくれた。今日から君たち七人は『七陰』を名乗れ」

「「『七陰』」」

「我らシャドウガーデンは陰に潜み、陰を狩るもの。巨悪であるディアボロス教団を打倒するため組織は拡張していかなければならない。君たちはその組織の上に立つ七人、その名も『七陰』と称し、アルファを筆頭に組織をまとめていくのだ!」

我ながら、いい演説じゃね、そう思った。

『七陰』の称号を聴くや、七人は大喜びだ。いかにも中二病ぽい称号『七陰』だが、彼女たちにとっては二つとない名誉と誇りが得られた思いだったのだ。アルファが

「我ら七陰!シャドウに生涯の忠誠を誓い、共に」

「「「陰に潜み、陰を狩る!!」」」

まるで申し合わせたようにシドに宣言した。

 

思わず気圧されてしまったシドだが何とか平静を装い

「う、うむ、嬉しく思う。料理が冷める。みんな食べよう」

「「はいっ!」」

ベータとイプシロンは「七陰」「七陰」とつぶやき続けている。興奮が冷めないようだ。

陰の実力者シャドウの元に七陰が揃った。この時、シド十三歳、七陰は十三から十五の少女たちだった。

 

 

 

そして…シドの姉、クレアの誘拐事件が発生した。

 

「報告」

「お願い」

「カゲノー男爵家から外れた未開地、ここに大昔の軍事施設がある。主の読み通りだった」

「さすがシャドウね」

ゼータが卓上の地図を指しつつアルファに報告。

「敵さんのフェイク拠点は放棄し、現在イプシロンとデルタが張っている状態だ」

 

「そもそも、どうしてクレアさんを攫ったの?」

推測の領域を出ないが、そう前置きしてゼータは続ける。

「おそらく前の剣術大会でクレアさんが優勝した時を見ていたんだと思う。主の話では、その当時すでに彼女は悪魔憑きになっていたと。悪魔憑きになると魔力の量と質が変化する。それを見破った」

その剣術大会後にシドはストレッチと称して姉クレアの悪魔憑きを治した。

 

「首魁の名はオルバ子爵、ブシン祭の決勝にも出たと聞く。それなりの大物だ。そんな男が今回の事件の指揮を取っているのなら…」

「おそらく教団の幹部クラスね」

「だぶんね。やつら男爵家に身代金も要求していない。これで教団繋がりという裏取りが出来た。クレアさんの血が欲しいんだ」

「ここで完全に潰しておく必要があるわね。決行は今夜、ベータ、ガンマ、ゼータ、イータ、人質のクレアさんに万一あったら我らの負けであり、シャドウに合わす顔がない。七陰、出陣よ!」

「「ははっ!」」

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「ミリ…ア……」

クレア誘拐の首謀者、オルバ子爵はシャドウに討たれた。最期に脳裏に浮かんだのは愛娘ミリアの笑顔だった。

「…ただの盗賊にしては強かったな」

シャドウはオルバが着けていたロケットペンダントを拾い、開けてみると、そこには穏やかな紳士と美しい少女の写真があった。蓋の裏には『最愛の娘ミリア』と記されている。

「…馬鹿な男だ。こんな美しい娘がいながら盗賊になるなど」

おお、なにか陰の実力者に相応しい台詞が自然に出たことに酔っているシャドウだった。誰も聴いていないことが残念だ。

 

オルバのアジトから立ち去ろうと歩んでいるとベータとイータが施設内の書庫をあさっていた。

「何かいい情報は得られたか」

シャドウが訊ねた。

「いえ残念ながら…。教団からの指示書などは焼却済みかと。あったのはオルバ子爵の日記と…あとこれは遺書のようで」

ベータがシャドウに手渡した。封は切られていなかった。娘のミリアあてだ。

「遺書か…。いつか討たれることが分かっていたのだろう。むしろ望んでいたのかもしれん」

「日記はいま読みましたが…オルバ子爵の娘さんは悪魔憑きになったようで…」

「そうか…」

「悪魔憑きになるや両親に裏切られた私には…複雑な思いです。子爵はたとえ道を外しても娘を助けようとしたのですから…」

「教団より早く我と出会っていたのなら…残念だ」

「…はい」

完全に自己陶酔しているシャドウ、しんみりとした空気だがベータは目をきらきらさせて、しっかりメモを取っている。

「収穫無し…。撤収…」

イータは立ち去った。

「引き上げだ。姉さんの方は束縛を解くだけでいい。あとは自力で帰ってくる」

「承知しました」

 

 

それから数日後、カゲノー男爵家の邸宅、そのバルコニーにシドは立っていた。夕日が綺麗だ。その後ろにはアルファを始め、七陰が揃っている。夕日を見つめているシドにアルファは言った。

「シャドウ」

「ん?」

「お別れよ」

「…………え?」

 

何をどう言っていいか分からなくなっているシド、七陰は夕日に溶け込むように去っていく。アルファが一度だけ振り向いて微笑んだ。シドは

(ああ、彼女たちは大人になったんだ…。僕の陰の実力者ごっこに、もう付き合いきれないってことだね…。あのアルファの困ったような笑顔は僕に『早く大人になれ』って言う意味かも…)

シドはそのまま夕日を見つつ切なくなっていた。

 

それから数日後、何故かシドの元にベータがやってきた。七陰のうち一人がローテーションで補佐に就くと言ったのを忘れて、いや聴いていなかったらしい。

「という次第で、あの廃村では手狭となり拠点を移すことを検討していますが…」

何と、彼女たちはまだシドの陰の実力者ごっこに付き合ってくれているのだと分かり、心の中で喜んだ。彼はあのお別れのあと、七陰がまだあの廃村の拠点を使い互いに情報共有をしているとベータの報告で初めて知ったくらいだ。七陰との思い出があるあの廃村にはお別れ以降行っていなかったシド、案外繊細な男らしい。

 

アルファによって悪魔憑きが解呪された者の多くがシャドウガーデン入りを果たしていた。やがてイプシロンも解呪に成功、そのイプシロンがシドに報告に来た。一人の女を連れて

「ラムダと申します」

「ふむ…」

シド、そろそろ十五歳になろうかというころ、威厳あるダークエルフの戦士を見つめ、ふいにスライムソードを出してラムダに繰り出した。ラムダがそれをスライムの鞭で受け流した。

「お戯れを」

「ふむ、アルファもよき人材を見出したものだ」

「アルファ様は彼女に新人の教育を任せておいでです」

「適任だ。ラムダ」

「はっ」

「任せたぞ」

「ははっ」

シドの母が部屋の近くまで訪れたため、イプシロンとラムダは姿を消した。

(すごいな、忍者みたいだ)

オカン・カゲノーがノックのあとに部屋に入り

「シド、魔剣士学園入学手続きの書類が届いたわよ」

「分かったよ、母さん」

ついに来たか、この国に住む貴族男子なら仕方がないとはいえ正直面倒に思うシドだった。

 

一方、カゲノー男爵邸を出たイプシロンとラムダ

「どんな方かと思っていました。七陰の皆さまが束になっても敵わないと聞いていましたゆえ、どれほど恐ろしい男かと」

「見かけは、どこにでもいる普通の男の子でしょう?まあ、主様がそう演じているのだけどね」

ラムダの言葉を返すイプシロン、続けてラムダが

「だが、シャドウ様が戯れに私に振った一撃で分かりました。本気だったなら…私は胴体が上下に真っ二つだったでしょう。剣が抜かれたことにも気づかずに」

うんうん、何故かイプシロンが得意げだった。

「あ、イプシロン様、私たち用件を言い忘れて…」

「ん、用件って…」

それはラムダとシャドウを合わせるためではなくて

「ああっ、私の馬鹿!」

「しっ、仕方ありません。お母上に見つかるわけにいかないですし」

「とにかく戻るわよ!」

 

 

用件とは、あのお別れ以来、初めて七陰がシャドウに前線への出陣を要請すること。

シャドウガーデンは教団の大小の拠点は潰してきたが、今回は状況が異なり教団拠点への襲撃ではなく

「霧の龍?」

「「ははっ」」

オカン・カゲノーが立ち去ると同時に再びシドの部屋に訪れたイプシロンとラムダ、改めて用件を聞くと、ゼータの調査活動によりシャドウガーデンにうってつけの拠点が見つかった。古都アレクサンドリア、しかし、その場所に至るまで毒の霧を発する龍を倒さなければならないことだと。

 

一度七陰で対したが、とても敵わず、這う這うの体で撤退したそうだ。デルタは地団太踏んで悔しがり、再戦をアルファに請うが、何度やっても結果は同じになるとデルタの願いを退ける。シャドウに出てもらうしかないと考えて、イプシロンが訪れたわけだ。

「我ら七陰では太刀打ちできず、面目次第もございません。しかし、その毒霧漂う深淵の森向こうにある古都アレクサンドリアを我らのものに出来れば、深淵の森そのものが二つとない防御壁となります」

「分かった。出よう」

龍と対決なんて、まさに異世界転生ムーブ!シドは遠足前日の小学生のように胸が高鳴るのであった。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

結論から言うと、龍は倒すことが出来ない存在だった。ベータが通常の攻撃では命は奪えないという伝承を知っていたが、まさにその通りだった。シャドウが後れを取ったわけではない。七陰が手も足も出なかった霧の龍をそれこそ圧倒した。多量の出血をしているのに倒れない龍が言った。

『龍にありきたりの死は許されない。世界にそのように呪われている。龍に対する真の勝利は命を奪える力を持つことで初めて得られる。その力を通じる者へ、いつか賜れる死を条件に従うこと。これが古の契約』だと。

 

そして霧の龍はその力を持つシャドウに言った。

『我が力は常にそなたと共にある。いつか我が命を絶てるものよ。そなたは何を望む』

シャドウはふう、とため息をつき

「倒しきれなかったということは修行が足らないということか」

体格がまだ少年の域を出ない彼はそう納得した。霧の龍はそんな単純な話ではないと言いつつ、望みを聴く。この森を抜けた古都アレクサンドリアで何をする気かと。

 

「アルファよ」

「はっ!」

霧の龍の前に出てアルファは願った。

「私はアルファ、シャドウに仕えし者、霧の龍よ。私たちはシャドウと彼の率いるシャドウガーデンに相応しき新天地を探している。シャドウと私たちはやらなければならないことがある。そのために身を潜め、力を蓄えられる場所を必要としているの」

霧の龍は、その話を受けて

『これより古都は、そなたらの拠点となり、我が霧はそなたらを世界から隠すベールとなるであろう』

そうアルファに言い残して、霧の龍が消えた。そして

 

「嘘だろ…」

思わずシャドウは目の前の光景を見てつぶやいてしまった。目の前には再利用できる城のような建築物もあれば遠大な田園が広がっていたのだ。アルファが

「ここが古都アレクサンドリア…!」

他の七陰も、その美しい風景に息を飲んだ。ベータは歩き出し

「すごい、ここが私たちの拠点に…」

「あっ、おーい、ガンマ!」

「はっ、はい、主様!」

「これだよ、この豆だ。以前に言っただろう。苦い豆に砂糖をブッ込んで固めたら旨いのが出来るというの。このカカオっぽい豆でやるんだ。チョコレートと言ってな」

「はいっ、さっそくの【陰の叡智】ありがとうございます!」

その様子を見てアルファは苦笑し

「気が早いわね。さて、さっそく拠点の移動よ!」

「「おおーッ!」」




最初はクレア誘拐事件については詳細に書いたのですが、ほぼ原作小説をなぞる形となってしまい、そこで小説『功名が辻』では織田信長の最期を

『本能寺の変が起きた。信長は死んだ』

と、たった一行しか記されていないのを思い出して、ああ、詳細に書くことはないんだと思い、オルバ子爵の最期に至るまで一行で済ませました。

『陰の実力者になりたくて!』の人気の要因と思われる、必要のないシーンの全面カットという書き方、私も今後のオリジナル作品で使っていきたいと思います。
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