シャドウガールズ-主と共に陰に潜み、陰を狩る- 作:越路遼介
ここハーメルンで『陰の実力者になりたくて!』の他の二次創作小説を読ませていただきましたが、やはりあの娘を何らかの形で助けている作者さんは多かったですね。私もその一人です。原作に忠実に書いている作品ですが、ここだけは変えさせていただきました。
シャドウガーデンが古都アレクサンドリアを拠点にして、しばらく時が過ぎた。
シドも魔剣士学園に入学、彼なりにモブ学生生活を送っている。
そしてアレクシア第二王女誘拐事件が発生する。
「動員数は114名」
と、ベータが報告したらシャドウは思わず『114人!?』と驚いていた。
少ないと思われたかベータは『申し訳ございません』と言っているがシャドウは『エキストラでも雇ったのか』と本気で思い、つい小声で言ってしまったが幸いにベータには届いていなかった。
いつの間にそんなに増えたのかと思う。七陰と別れたあと、時々彼女たちは悪魔憑きの少女たちをシドのもとに連れてきた。シャドウガーデンで悪魔憑きの解呪が出来るのはシャドウ、アルファ、イプシロンのみだが、悪魔憑き一人一人解呪の方法が異なるため、時にアルファとイプシロンでは手に負えないこともある。その場合はシャドウが対応する。
戦闘面で七陰がシャドウに頼ったのは霧の龍のみだが、悪魔憑きの解呪については、いつでも自分の元に連れて来ていいと伝えてあった。いまだ陰の実力者ごっこに付き合ってくれるアルファたちの願いなら聴いてあげたい。
シドによって悪魔憑きから解呪された少女は多いのだが、彼は『無事に呪いは解けたのだから、あとは自由に、君の未来に幸あらんことを』で済ませてしまう。自分が解呪した少女たちがまさか全員シャドウガーデン入りしているとは考えていなかった。シドに悪魔憑きを解呪してもらった少女たちの多くがこの114人の中にいる。彼女らはシャドウのためなら命もいらぬという気持ちを抱いている。まさか当のシャドウにエキストラ扱いにされているとは思うまい。
「今宵、世界は我らを知る…!」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「アイ…アム……アトミック」
アレクシア王女誘拐の首謀者ゼノン・グリフィはシャドウの一撃により蒸気と化した。
その後シャドウは地下水道を抜け出して地上に。王都は大混乱の様相、所々火災が起きていて煙の臭いが漂う。ひときわ破壊状況がひどい場所を通りかかった時だ。シャドウは一人の少女の死体を見つけた。
「……ん?」
どこかで見た覚えがある顔だった。傍らに置いてあった短剣を見ると『最愛の娘ミリアへ』と鞘に彫られている。
「そういえば、あの盗賊のボスが最後に言ったのは『ミリア』だったな…」
盗賊のボスとはクレア・カゲノー誘拐事件の首謀者オルバ子爵のことだ。彼との戦いのあとポケットに入れたロケットペンダントを取り出して開けて写真を見る。
いま横たわっている少女の顔と一致していることが分かった。蓋の裏には同じく『最愛の娘ミリア』と記されていた。
ベータが事件後にオルバ子爵の日記を読んで、彼の娘が悪魔憑きであることをシャドウに報告した。二年前のことだが覚えていた。
「王都にいたのか…。悪魔憑きそのものは解呪されている。魔力の残滓からアルファが解呪したのだろうけど」
『世界の闇は…貴様が考えるより、はるかに深い!』
『ならば潜ろう、どこまでも』
オルバ子爵との戦いを思い出すシャドウ、フッと笑い
「…あの盗賊のおっさん…確かオルバ子爵だったか。いや実に名演だった。アカデミー級だったよ『ならば潜ろう、どこまでも』と言ってみたかった台詞を僕から引っ張り出してくれて本当に感謝しているんだ」
勘違いも甚だしいのだが、そういう面でシャドウは盗賊のボス扱いにしているオルバ子爵を認めていたのだ。その娘が倒れている。助けるのが人の道だと思った。
「あの名演に応えなければなるまい…。それが共演者として礼儀というもの」
シャドウは魔力を両手に集中、電気を生じさせた。
「これも陰の叡智に入るかな、アイ…アム…A・E・D」
AEDパッドの代わりに自分の手を使ったシャドウ、当てる場所は寸分なく正しい位置、前世で救急講習でも受けたのだろうか。間に合うか、電気ショックをミリアの胸部に放った。
「どうだ…?」
心臓が動き出した。あとはシャドウの魔力で治療が可能なので施した。当分リハビリは必要だろうが。
「よし、君も僕の陰の実力者ムーブの仲間入りだ。僕を仇と知り、そして…」
ぜひ復讐してくれと思うシャドウ、命の恩人が実は父親の仇、こんな燃えるシチュエーションはない。その時にどう立ち回ればいい、どんな言葉を出せばいい、考えるだけでワクワクしてくる。
そういう願いを込めてシャドウは少女ミリアを両腕に抱いて、アルファたちとの合流地点へと向かった。
「シャドウ、いつ見てもすごいわね、貴方のアトミッ…」
「主様、その少女は…」
アルファは気づいたようだが、イプシロンと他の七陰は気づかない。
「オルバ子爵の娘ミリアだ」
「「なんだって!?」」
「シャドウ、あなた…せめて弔ってあげようと…」
巨体となり暴れていたミリアを討ったのはアルファだ。暴走してしまった悪魔憑きを治す術は無い、はずだったが…
「いや、電気を帯びた手で心臓を押したら蘇生したぞ」
「えっ!?」
静かに呼吸しているミリアに気づいたアルファ
「う、嘘…!い、生き返ったの…!蘇生したの…!?」
「アルファ、第一席たる者が配下たちの前で簡単に涙を見せるようでは困る」
「そんなこと言ったって…。うっ、ううう…よかった!よかった!」
「主様、アルファ様を叱らないで下さい。私だって嬉しい…!」
イプシロンも暴れるミリアを討ったアルファの気持ちが分かった。
悪魔憑きとなっていると分かっていながらも居場所が掴めずにいたミリアを助けられたとなれば嬉しくて涙も出てくる。他の七陰たちも同じ気持ちのようだ。
オルバは道を外しながらも娘を見捨てず治そうと思った。事件後にそれを知った七陰たちは何とかオルバの娘を助けられないかと思った。
七陰はゼータ以外、悪魔憑きになるや両親に裏切られた。敵味方となりオルバを殺すことになってしまったが彼の父親としての姿勢には敬意を持っていた七陰たち。
しかし、やっと見つけたと思えば最悪の状態、暴走していた。殺すしか救済が無いと思っていたが、陰の叡智【AED】によって奇跡が起きた。
「ボス、デルタが背負ってアレクサンドリアに連れていくのです」
「頼むぞ」
デルタがミリアを背負った。
「よく眠っているのです。群れに帰ったら腹いっぱい食べるのです」
「シャドウ、私たちが彼女の治療を引き継ぐわ。だけど…」
「もちろん包み隠さず話すつもりだ。我こそ君の父の仇だと」
「…どうしても?」
「どうしても、だ…。オルバ子爵を討つ時、当然我はその家族に殺される覚悟を持って討った。彼女には知る権利がある。それに…」
「それに?」
「姉さんを誘拐して拘束したうえ暴力を振るったことは許しがたい。しかし結果はどうあれ…悪魔憑きの娘を治したい一心でディアボロス教団に入った彼のことを憎み切れなくてな。我ながら甘い男だ」
「ううん、それでいいの、それでいいのよ、シャドウ…」
(うんうん、いいな。今のやり取り、自分を『甘い男だ…』と言うのも言ってみたかったんだよ!)
「マスター…。電気を帯びた手で心臓を押したら蘇生したという話…気になる」
イータが教えてくれと願い出た。
「うむ、教えよう。だが今は王都から撤退だ。ミッションコンプリート、引き上げだ」
「「ははっ!」」
シャドウとシャドウガーデンは今だ火災鎮火に至らない王都から姿を消した。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「まさか貴様と同朋になるとはな…」
「ふふっ、だから貴女とは再び巡り会うと言ったではありませんか。私の大切なお友達ですもの」
「冗談じゃない」
ゼータは吐き捨てるように言った。シャドウガーデンの拠点アレクサンドリア、野菜畑のエリアを歩く二人。
最近シャドウガーデンに加入したエルフの少女、ナンバー559番、かつての名前はウィクトーリア、彼女はシャドウガーデンに入る前、聖教の暗殺組織テンプラーに君臨する聖女だった。きわめてシャドウガーデンのメンバーの中でも異質の経歴、シャドウガーデンの敵対組織のトップだったのだから。
その中でもウィクトーリアと確執があったのがゼータ、アルファの指示で聖教大聖堂の調査のため宗教国家オルムに到着した時に出会う。聖女として女神ベアートリクスの教えを民衆に説法していた。
美辞麗句ばかり並べて吐き気がするような説法だった。愛する父母と弟を理不尽に殺されたゼータにとって女神など塵芥以下の存在だ。自分にあるのは主のみ。
馬鹿馬鹿しい、そう思って諜報活動に戻っていった。何となく聖女が自分を見ていると感じながら。
大聖堂に侵入したゼータは地下神殿への隠し通路を見つけて、さらに侵入、ディアボロス教団やテンプラーについて重要な情報を得るが聖騎士に発見されて逃走。何とか追手を振り切ったと思っていたら
「貴様がいたんだ…」
当時のことは、よく覚えているゼータ。スライムスーツと仮面を取った直後、急に現れた聖女に驚いた。素顔を聖女に見られたうえ、気配を消して近寄られた。追手を振り切ったと油断したところを衝かれた形だ。ゼータが大聖堂に侵入したことも知っているはず。
さらに戦慄したのは聖女が並外れた強さと言うのが伝わってきたこと。
「そんなこともございましたね。あの時私は貴女にこう言いました。『貴女との出会いは女神の思し召しなのです』と。違いましたね」
「…………」
「あの方の思し召しでした。ふふ」
ウィクトーリアもかつてシャドウガーデンと、ある廃村で戦った時を思い出す。
「ゼータ様は言いましたね。自分も悪魔憑きになれば分かると」
悪魔憑きを処刑していた組織のリーダーだったウィクトーリア、彼女は悪魔憑きを本当に罪にまみれた存在と信じていた。すべて女神ベアートリクス様の思し召しだと。
「だけどシャドウガーデンが悪魔憑きを治せると知り、迷いが出ました。それが戦いに出てゼータ様に見逃してもらう体たらく…。まあ、貴女には別の意図があったのでしょうが…」
「ああ、上手く行ったのかい?」
「はい、私は無傷、連れていたテンプラーは全滅、聖教の豚どもは私に疑惑の目を向けました。大したお知恵ですね」
「これでも諜報担当なんでね」
「そして聖女としての立場が危うくなってきた時に悪魔憑きを発症しました。自分も悪魔憑きになれば分かる…。ゼータ様の言葉、骨の髄まで分かりました。自分が悪魔憑きになってやっと…」
「自分自身が経験しないと分からない、とんだ不勉強な聖女がいたものだ」
「耳が痛いですね…。それまで私に仕えていた聖騎士たちに殺されかけました。悔しかったです。万全の状態なら鎧袖一触の雑魚どもなのに」
虚勢ではない。ウィクトーリアの強さは実際に戦ったゼータとアルファがよく知っている。悪魔憑きの体でなければ聖騎士など敵ではない。
しかし悪魔憑きになってしまうと、そうはいかない。逃げるしかすべはなく、何とか聖騎士と聖教信者の追手を振り切ったあと精根尽き果てたウィクトーリアは路傍に倒れてしまった。希望はあった。それは現在交戦中のシャドウガーデン、この謎の組織には悪魔憑きを治す術があるのだ。
だが、なんて虫のいい話か。今まで悪魔憑きを殺しておいて、いざ自分が罹ったら助けてほしいなんて道理が通らない。
路傍に倒れ、動けなくなったウィクトーリア、聖騎士と信者に発見された。
「俺、聖女様、好きだったんだよな。殺す前に楽しんでいいか?」
「阿呆、悪魔憑きの女をヤッて感染したらどうする。男が発症しない保証はねえんだぞ。ほれ、とっとと首を取って帰るぞ」
聖騎士たちの下等極まりない言葉、聴くに堪えないが身動きが取れない。観念したウィクトーリアだったが、いつまでも首に衝撃が来ないので、うっすら目を開けてみると漆黒のローブを纏う者がウィクトーリアを守るように立っていた。聖騎士と信者すべてを一瞬で討ったようだ。
「全く、こっちはいい気分で散歩中だというのに」
ウィクトーリアに向き
「ずいぶんと高そうな法衣と装飾品だな…。貴様は聖教のそこそこ位の高い修道女か?」
当たらずも遠からずだが声を発することは出来ないウィクトーリア。
「まあ、悪魔憑きを解呪してしまおうか」
「……!」
腐った肉、夥しい痣、異様に膨らんだ四肢、すべてが消滅、元のウィクトーリアの姿となった。
「あ、ああああ!なっ、なんてお礼を言えばいいのか!」
しかし新たな追手が来た。今度は聖騎士と信者ではなくディアボロス教団の戦闘員だった。
「…腰の物を貸してくれませんか」
ウィクトーリアがシャドウに願い出た。スライムソードだけではなく常に腰に差している剣もある。
「よかろう」
剣をウィクトーリアに投げたシャドウ、そして
「ついでだ」
何と力も与えた。
「これは…!体中から力が湧いてきます!」
一斉にウィクトーリアに襲い掛かるディアボロス教団戦闘員、一瞬でウィクトーリアに斬られて死んだ。
「見事だ。誉めてやろう」
「…もしや、貴方がシャドウ様ですか?お噂はかねがね伺っております」
「ほう聖教の修道女にも名が伝わっているとは光栄だな」
「私はウィクトーリア、お願いです。私をシャドウガーデンに入れて下さい」
「ウィクトーリア…。確か報告で聞いた名前だ」
「私は聖教の聖女でした。その時シャドウガーデンと戦ったことがありますので、それがシャドウ様のお耳に入ったのでは」
ともあれ、陰の実力者ごっこに付き合ってくれる子ならば前身は何であれ関係ないシド、何よりつい昨日まで敵だった者が加入するというのはシドの中二心を刺激した。
「昨日の敵は今日の友という言葉もある。おかしな話ではない。我と共にこい」
「よきお言葉です。ふふっ」
王都の拠点であるミツゴシ商会にウィクトーリアを連れて行くとアルファとゼータは仰天した。つい昨日まで命のやり取りをしていた聖女ウィクトーリアをシドが連れて来て
「というわけで散歩中に悪魔憑きとなっていた彼女の解呪をしてね。虫も殺さないような顔をしているのに結構強かったから連れてきちゃった」
「連れてきたって…」
アルファは何てシドに返していいか分からなかった。しかし彼女の中で『シャドウは悪魔憑きの子を絶対に見捨てない』という思いがあり、それがシャドウガーデンの絶対的な信念である。だが虫も殺さないような顔とは…。アルファは主人の女を見る目は大丈夫かと思った。
「シャドウ様より『昨日の敵は今日の友』という言葉を賜りました。これからはシャドウガーデンの一員として、よろしくお願いいたします」
よくもぬけぬけと言う。そう思ったゼータだが
「初めて自分の言葉でしゃべったな」
これまでのウィクトーリアは女神ベアートリクスのお告げに酔いしれているような言葉しか発しなかった。それがゼータにはたまらなく腹立たしかった。『自分の言葉でしゃべれ!』と戦闘中にあってはならない我を忘れるほど激昂した。今も彼女の反省点として残る。
「ええ、もう聖教は必要ありませんので」
野菜畑の二人に戻る。
「…559番、主のために働くというのなら何も言うことは無い」
足早に野菜畑から立ち去るゼータ、その後ろ姿を見てウィクトーリアは
「もちろん、この身も心もシャドウ様に捧げます。そして貴女との友情も…。ふふっ」
聖女ウィクトーリア、彼女もまた聖教の犠牲者と言える。
彼女が理想の聖女として在るよう女神のお告げしか聞こえず、それを民衆に説く人形に仕立てられた。司教であるドレイクが、そういう薬物を使い洗脳していた。精神を蝕まれたオリアナ国王が飲まされていた薬に近いものであるかもしれない。
当のウィクトーリアもその薬物の存在は理解していたかもしれないが、気が付いた時には、もうその薬なしではいられない体となっていた。
しかし悪魔憑きとなったら聖女としての利用価値など無く、殺されそうになる。
逃走先で出会ったシャドウにより解呪されて、悪魔憑きによる心の傷も消えたものの薬物依存までは消えなかった。解呪後、強烈に薬を欲する体。まるで砂漠で遭難した者が水を欲するかのような凄まじい渇き。ディアボロス教団の兵が襲ってきた時に自ら剣で戦おうとしたのも、この渇きを戦うことで少しでも潤したかったからだ。
しかし、シャドウが彼女に力を与えた時、その渇きが一瞬で消えた。薬が必要でなくなった。それどころか体中から力が湧いた。
ウィクトーリアは聖教の追手、悪魔憑き、心の傷、薬物依存に至るまでシャドウに救われたうえ、力も与えられた。彼女が狂信的にシャドウを崇拝するのも、これが理由かもしれない。
奇縁にも、かつて敵として対峙したゼータとシャドウガーデンで共に巨悪に挑むことになる。ゼータの心中はともかく、ウィクトーリアは素直に嬉しく思った。
そしてゼータとウィクトーリアの奇妙な縁が後に…。
ああ、早く原作小説第6巻出ないかなぁ…。続きが気になるのですよ。