人間に成った渾沌ゴアと、ミラルーツに成った少女のお話 作:サクラン
結局争いの方の爆発的な伸びの理由はよく分からなかった。
まあ、ああゆうこともあることは分かったし、こっちもワンチャン狙ってコツコツ進めて行きます。
それではお楽しみください。
えーと…わりと今ピンチかもしれない。
ラージャンモドキに殺されそうだった所を謎の男に助けて貰ったのは良いものの…この男の得体が知れなさ過ぎて信頼して良いとは思えない。
ってか何も喋んないんだけど…こっちから話し掛けてみようか。
「助けてくれた…って捉えて良いんですか?」
「………ただの気まぐれだ。やけに騒がしかったものでな」
「…それはすみませんでした」
あまり刺激しないよう敬語を使って話す。
大丈夫かな…鬱陶しいとか言われてぶった斬られたらどうしよう。
「………それにまさか同類がいるとはな。この世界は分からんものだ」
同類…?え、まさか同じ転生者か?
いや、落ち着け。先走っちゃいけない。ここは慎重に情報を集めるべきだ。
「同類って…どういうことですか?」
「………お前のその人とも獣とも似つかぬその姿…知り合いに似た奴がいる」
あ、そっちか。じゃあそいつが同じ転生者か、この身体になった理由を知ってるかもしれないって訳だな。
けど…ついて行って良いのか?いやでも気まぐれって言ったって助けたのは事実だし…
そうやって俺がうんうん心の中で唸って悩んでいると―
「おーい…!!」
「ん?」
「………来たか」
―何かの呼び声が聞こえた。多分声色的に女性かな?
この人の反応からして知り合い?話の通じる人だと良いんだが…
そう思っていると、樹上から声がした。
「ゼェ…おい!勝手に置いてくんじゃないよ!私のことをもっと労れ!」
「騒々しい…肉体の格としてはお前の方が上だろう。この程度で音を上げるな」
「アンタは人類としてカウントしちゃいけないでしょうが!!」
樹上から声の主は男の身勝手な行動にブチギレているみたいだ。でも何と言うか…悪い奴じゃない気がする。話の節々から常識人な感じが伝わるというか…
にしても男の言った肉体の格ってどういうことだ?
「それよりもとっとと降りろ。時間の無駄だ」
「ちぇー面倒くさいなぁ…というか、何が暴れてたのさ」
「獣が一匹と…お前の同類らしき存在が一匹」
「! ………へぇ?」
どうやら樹上にいる奴も俺に興味があるらしい。
今までやんちゃさや年頃の女性らしさを感じさせていた声色が一気に真剣味の増したピリついたものに変わった。
いや怖い…大丈夫よね?仇とか言われたらどうしよう…
「そりゃ興味深いねっ…と」
「!」
その声の主は樹上から降りてきた。
着ている服は随分野生味が強く、印象としては蛮族みたいだ。棘の装飾が多い…スカート?に上半身は棘のビキニアーマーでほぼ裸みたいなもんだ。それなのに何故か棘のコートは羽織ってる。頭にはバサバサの黒髪に被せるように棘と角のついた被り物を被り、男の整った服装とは正反対に近い印象だ。
正直エロ…いやいや今はそんなこと気にしてる場合じゃない。
にしても俺の同類ってことは、この格好がヒントなんたろうな。
…まあ、この刺々しさならアイツしかいない。
「へぇ…アタシより怪物じみてるね。嫌いじゃないよ」
そう言って彼女は顔を上げると同時に、背中のコート―否、
顔は頬にはそばかすが目立ち、橙色の瞳も含めて豪胆さが伝わる。口元の辺りには小さな棘が僅かに生えている。
でもやっぱりエロ…いやそれよりも―
「成る程、お仲間って訳ですね」
「まあね。にしても見れば見る程異形だね。アタシと同類って言っても本当に状況が一緒ってだけで、多分生物的には全くの別種だよ」
「まあ、その辺りは生娘に聞けば問題あるまい」
聞いた感じだとそういった方面に詳しい知り合いがいるらしい。何か分かると良いんだが…
「ほら、とっとと運んで治療するよ。いつまでもこのままじゃ可哀想だろ」
「んん…まあ構わんが」
「アンタまさか見つけるだけ見つけて放置するつもりだったの?」
「喋れるだろう」
「人の心とかないんか?」
「口調変わってますよ…」
うん。若干不安な所もあるけど悪い人達じゃなさそうだ。
それから女性の方に担いでもらってこいつらの…家?までおぶってもらった。
「貴方達の家ってこの森の中にあるんですか?」
「ああ、アタシらはこの先にあるアイツの屋敷に住んでる。後、変に気遣う必要はないよ。別に獲って喰おうって訳じゃないし、アイツも口調程度でウダウダ言う器の小さい男じゃないよ」
「そうか…じゃあ遠慮なく」
「うん。そのくらい砕けてくれた方がこっちも喋りやすいよ」
こうして見ると本当にただの年頃の女性に見える。明らかにただのカタギとは思えない男の元にいるのを見るに、色々な苦労があったんだろう。
今の俺じゃ何かできることもないだろうが…ただ―
「礼を言いたいんだが…名前は?」
「! …ハハッ、ルインってんだ。よろしくね」
「ルインか…よろしく。それと、ありがとう」
「ああ、良いってことよ」
―こんな風に、寄り添うことのできる友達ぐらいにはなれると思う。断じてワンチャンの下心がある訳じゃない(断言)
「そういや、アンタの名前はあんのかい?」
「俺は…あ」
そういや俺名前ないじゃん。正確に言うなら分からないだが、この身体は前世の俺とは違う、別人に転生(この場合は転移になるのか?)したから、名前はあるかもだが、記憶は前世から据え置きなので分からない。
ルインの名前からして日本語の名前は違和感があるだろうし…だからって黙りこくるのは空気が重くなるし…まあ正直に言うか。
「…ああ、俺の名前は分からないんだ。親も知らないものなんでな」
「そうか…でも呼ぶ上で名前がないのは困るしな…おい!そこの無愛想も自己紹介ついでに名前考えてやんな!!」
「……………」
そして彼女―ルインはずっと黙って後ろを着いて来ていた男に呼び掛けていた。男は鋭い瞳をルインに向ける。
一見すると睨み付けている様にも見えるがあれが真顔なんだと何となく感じた。それでも少し気が変われば両断されかねない相手にこの口の効き方は凄いと思うが。
「………お前まさかもうそいつをウチで面倒を見る気でいるのか?」
「ああ?当然だろ。こいつはまだ上手くコントロールできないだろうし、オッサンに預けようにもまだ社会に溶け込めないだろ」
「………まあ、あんな腑抜けに預ける訳にも行かんか…」
二人共当然のように話してるが、オッサンって誰!?
実力の底が見えない男と、半分モンスターのルインと知り合いって時点でただ者じゃないことは分かるが…いずれ会えるのかな?
「………分かった。しばらくは、ウチで預かろう。役にも立ってもらうがな」
「助けられただけでお釣りが来るぐらいなんだ。やるべきことはやるさ」
自信満々で返事したけど、何させられるんだろう…まあ、二人で暮らしてるっぽいし、家事やることになるのかね。一応大体のことはできるが。
「おい、アンタの名前も教えてやるんだよ。後、こいつの名前も考えて」
「………お前良い名前が浮かばないから丸投げしているだろう」
「うっさい!!アタシはネーミングセンスないんだよ!!変な名前つけたらそれこそ可哀想だから、アタシじゃ案が浮かばないんだよ!!」
ネーミングセンスないからって別にそこまで考えなくても良いんだがなぁ…まあ、真剣に考えてくれてるのは嬉しいが。
「………アーク」
「ん?」
「お前の名はアークだ」
「へぇ…アークか…良いね。覚えやすいし変な感じでもない。でもそんな即決で浮かぶもん?」
「お前のセンスが終わっているだけだ」
「うっさい!!」
「………」
ルイン達が言い合う中、俺は名前を噛み砕いていた。
男がどういう意図でアークって名前を付けたのか分からないが…奇しくも一歩違ったら至っていたかもしれないモンスターの防具の名前が付けられるとは…これも何かの因果なのかね。
「さて…さも確定みたいに言っちゃったけど…アンタはこれで良い?」
「別に良いよ。そこまでこだわりもないしな…で、アンタの名前は?」
「………シンゲツ」
「へー…」
「変わった名前だろ?何か出身が遠い東の国らしくてな、そこは他国と少し文化が違うんだと」
シンゲツか…東の国といい日本と同じような文化の国があるってことだな。ただルインの発言からして彼女が転生者でも転移者でもなく純粋にこの世界出身って分かったな。
けど気になるのはシンゲツの名字だ。多分シンゲツって名前だよな?ルインの口振りからしてもうなくなってる訳じゃなさそうだが…
「答えたくなかったら答えなくて良いんだが…姓はないのか?」
「………捨てた。生きる上で邪魔だったものでな」
「成る程…」
家柄が複雑なんだろうか。格好は明らかに洋装だから普通に見たら分かんないわな。
「シンゲツは結構尊い血筋の生まれらしくてな。歴代の当主の中でも類を見ない強さも相まって将来は国を継ぐ予定だったんだが、断って強引に家出してきたんだと」
「へー…止められなかったのか?」
「その時点でコイツは最強って言われてた。説明はこれで十分か?」
「ああ…そういうことか」
返り討ちにしたのか…え、ちょっと待てよ。強さで当主が決められる国の中で歴代で類を見ない強さって言われるレベルってどんだけ…
「シンゲツってひょっとして化け物?」
「ああ」
「おい」
俺が思わず聞くと、ルインは脊髄反射を疑うレベルの早さで即答し、シンゲツはツッコミを入れる。
「アタシはコイツの元で鍛えてもらってるけど、手合わせでシンゲツに勝てたことは一度もない。ってか勝負が成立した相手すら一人しか見たことないよ」
「勝負が成立する相手はいるのか…」
分かってはいたがこの世界の人間逞し過ぎだろ。古代種とはいえ古龍級生物を睨んで追い払う奴とタメを張る人間ってもう人類としてカウントしちゃダメだろ。
「ま、いずれ会えると思うよ。コイツと違って常識人だから、話しやすいと思う」
「おい、俺を常識知らずのように言うな野蛮人」
「誰が野蛮人だよ!それに!アンタわりと身勝手でしょうが!キャロルちゃんを振り回してるでしょ!!」
ルインは俺を抱えたままギャーギャーと言い争いを始める。まあ、シンゲツはどこ吹く風って感じだが。何か疲れたな…寝たい所だが、流石にルインに迷惑なので黙って抱えられておく。
そうしてルインとシンゲツの言い争いを聞きながら森を駆けて数分後―
「あ、もう着くよ」
「そうか…にしてもアンタらこの距離を走って来たのか」
「いやー何か騒がしいなーぐらいには思ってたのよ。そしたらシンゲツがアタシを置いて行っちゃったからさ、全力ダッシュで来たよ」
ルインは恨めしそうにシンゲツを睨み付ける。まあ、曲がりなりにも古龍の力を受け継いでるのに疲れたってだけで相当な距離だって分かるな…いや、何でシンゲツはそれだけ足速いんだよ。
「おちおちしていたらアークは死んでいただろう。お前が弛んでいるだけだ」
「ぐぬぬ…弛んでるのはともかくアークが助かったのは事実だから否定しづらい…」
「…まあ、済んだことだしそこまで気にしなくて良いよ」
シンゲツ、強いのは分かるがわりと素で変人っぽいな…まあ、そうじゃなきゃ国捨てたりしないか。
「お、見えたぞ。あれがアタシ達の家だ」
「!」
ルインが声を上げ、視線の先に目を向けると、鬱蒼とした森が急に開けた場所に変わり、森と更地の境界線に位置する場所に立派な屋敷があった。
「いや、何でここだけ更地なの?」
「シンゲツが強引に屋敷を建てさせた時に人使いの荒さにブチギレた人がいてね、大喧嘩の余波でこうなったんだよ」
「木が折れるとかでも信じられねえのに、更地は最早なんでそうなった」
「シンゲツも相手も手数で押すタイプだったからね」
「そういう問題じゃない」
マジでぽつんと陸の孤島状態だから違和感がハンパない。
にしてもこんな立派な屋敷を建てさせるとは…確かにブチギレるのも分かる。多分あのラージャンモドキがうろついてないことからシンゲツの強さで縄張りって主張してるんだろうが…だとしても気が気じゃないな。
「さて…まずは一通りの家事から…」
「アホかぁ!まずは中の部屋の案内からだろ!アタシらは慣れたから良いけど慣れてなかったら普通に迷路みたいに思えるからな!?」
「んん…それもそうか。ルイン、屋敷を案内してやれ。今日の晩飯は俺が作ろう」
「あいよ。後ついでに治療もするからね。放置してるけど折れてない箇所の方が少ないから」
「ちゃんと風呂にも入れておけ、いくら何でも汚れが多過ぎるからな」
「「え?」」
「何を驚いている。清潔感を保つのは当然のことだろう」
「男女二人で入ることが問題だってんだよ!!」
「お前以前欲求も多少獣寄りになっていると言っていただろう」
「少なくなってるってだけでなくなった訳じゃないからな!?」
「大丈夫だって!ちゃんと見ねえから!!」
「アンタ下心あるんじゃないの!?」
シンゲツの発言にルインは顔を真っ赤にして怒鳴り、俺は下心と常識的な思考の末に中途半端な発言をしてしまう。
結局言い争いの末にルインが晩飯を作り、シンゲツが俺を風呂にぶち込んで屋敷を案内した。
初日からドタバタした一日だったが…まあ、退屈はしなさそうだと思った。
何か日常系みたいになっちゃった…
ちなみに多少ネタバレにはなりますがシンゲツ=前世のカムイです。特に深読み要素とかではなく、気分で変えただけです。
他にもオリキャラを複数追加しますので良ければお楽しみに。
評価、感想もよろしければお願い致します。
それでは次回をお楽しみに。