人間に成った渾沌ゴアと、ミラルーツに成った少女のお話 作:サクラン
今回からアンケートも取っていますのでよろしければご協力お願い致します。
それではお楽しみください。
はー…よく寝たー…と思ったか!残念だったな!もう俺達は街中を歩いているぜ!…まあ、だから何だって話なんだが。
今日は週一の検査の日ということで、俺とルイン、シンゲツは本部に呼び出しされたという訳だ。ちなみに当然ではあるが検査に参加するのは俺とルインだけでシンゲツはあくまでもお目付け役って感じだ。
「いやー面倒くせぇなー…」
「気持ちは分かるがしゃあねぇだろ。キャロルに迷惑掛ける訳にはいかないし、色々と世話になってるところもあるんだから」
「……………」
けどルインは検査があまり好きではないらしく、頬を膨らませて不服そうな顔をしている。…まあ、出生を考えればそりゃ良い気分はしないわな。
シンゲツは…正直よく分からないが、まあずっと一人で待つことになるから好きではないんじゃないかとは思う。
そんなこんなで、ブーブー文句を垂れるルインを宥めながら本部に辿り着くと、門の前でキャロルが待っていた。
「遥々よく来てくれました。ありがとうございます」
「そう思うなら迎えの一つぐらい寄越せ」
「向こうも忙しいんだよ!汲んでやりな!」
キャロルが丁寧に頭を下げて挨拶すると、シンゲツは容赦なく嫌味を言うが、ルインが即座にフォローに入った。隊長で忙しいだろうに、わざわざ対応してくれるだけありがたいことだ。
「…まあ、シンゲツさんをあまり待たせる訳にもいかないので、無駄話も程々に行きましょうか。お二人はいつも通り私に、シンゲツさんは外で待ってて下さい」
「じゃあ、行ってくるからな。大人しくしとけよ!」
「お前は俺を幼子とでも思っているのか?」
「ある意味それより質悪いんだよ!」
「まあまあ…」
俺はルインを宥めながら、キャロルに着いて中に入って行った。
この間見た集会所を素通りして、更に奥に進むと一旦外に出る。するとコの字の形でできた建物が目に入る。
ここが研究施設。対モンスター用の兵器の開発や研究を主に行う施設だ。外見はともかく中身はモンハン世界とは思えない程機械的だ。正直、初めて入った時は面食らった。モンハンの龍歴院なんかとは訳が違う、ガチもんの科学研究所って言われた方が納得が行く。
「失礼します」
全面鉄でできた通路を通って一際大きな扉を開けると、だだっ広い広間に着いた。そこら中によく分からん計器があって明滅を繰り返している。中にはキャロルと同じ観測隊の証である隊服を着た人と、白衣を着た研究職の人の二種類がいた。
「! 隊長!」
「それでは今日もよろしくお願いします」
「ええ、任せて下さい!ルインさん、行きましょう!」
「…あいよ」
ルインの方は快活そうな女性の隊員。だけど、あまりその表情は優れない。ルインの検査を担当するのは全員女性らしいが、最初の方は男もいたもんだからわりとセクハラ気味だったらしく、キャロルが気を使って全員女性にしたらしい。
「! 隊長、こんにちは」
「はい、それでは今日もよろしくお願いします」
「分かりました。それではアークさんはこちらにどうぞ」
一方で俺の方を迎えてくれたのは落ち着きのある眼鏡を掛けた男性の隊員。初対面の時は胡散臭そうという偏見で距離を取ってたが、話してみると全然良い人だった。何なら一番気を遣ってくれてるまである。
「最近はどうですか。修行の方は?」
「やっと第一の壁を越えたって感じだな。まだまだ先は長いよ」
「それでも越えられたんですね。やったじゃないですか」
「…その感じからして分かってて聞いたろ」
「あはは、バレました?」
こんな感じでわりとお茶目。だけどこっちの気を汲んでくれるから話しててストレスがない。同じ観測隊の面々からも慕われてるから人望も厚いらしい。
「さて、それでは始めましょうか」
それぞれが配置に着いたらしく、検査が開始された。
「ふー…今日はこれで終わりかな」
俺は一通りの検査が終わって休憩中。ちなみにこの検査でやったことはというと―
・身体の構造の調査→主に変化してる左半身を中心に、骨や内臓が人間とどう違うか、あるいは以前と変わってないかを調べる。後は翼脚をどう動かすか、何か変わってないかを見る。これは学校でやる健康診断の延長線上って感じだ。
・能力の調査→鱗粉の散布可能時間、散布したことによって体調にどう変化を齎すかを調べる。個人的にこれが一番キツい。初めてやった時はガチで倒れる寸前までやらされたし、観測隊の人達が止めてくれなかったら危なかった。
・身体能力の調査→これは体力テストみたいなもの。どれだけの重さの物を持ち上げられるかとか、どれだけの速さで走れるかとか、身体の機能がどれだけ発達してるかを見る。ちなみにこの検査で分かったが、俺は左目の視力がめっちゃ悪くなってた。まあゴアだから失明してないだけマシだな。
・体組織の調査→古くなった甲殻や散布した鱗粉を採取して、どういう物なのか、人間からどれだけ変化しているのかを調べる。これは俺自身が何かする必要はあまり無いんだけどな。でもこれを元に鱗粉の性質とかを調査してるらしいから、研究者的には一番力を入れるらしい。ただ怖いのがこの検査で調べた結果がフィードバックされてないこと。もし鱗粉の性質が解明されて生物兵器として使われたらと思うとゾッとする。幸いなのが俺から取れる鱗粉の量なんてたかが知れてるから恐らく兵器として運用されることはないってこと。下手に使えばどんな猛毒よりも恐ろしい兵器になるからな。
まあざっとこんな感じだ。かなり淡泊な感じだが、正直俺もあまり検査は好きじゃない。アルターさん(眼鏡の隊員さん)を筆頭に観測隊の人らはわりと良い人達なんだが、白衣を着た人―研究者の人らは本当にこっちを実験動物としか見てないように思えて仕方ない。実際何回かアルターさんと研究者の人らが揉めてたこともあるし。
「ハァー…生命の尊さを知らない薄情者どもめ」
「ん?」
「あ」
俺がボケーっと椅子に座って休んでいると、アルターさんがため息を吐きながら部屋に入って来た。
「あはは…情けない所見せちゃいましたかね…」
「ああ…まあ…驚いたけどある意味ホッとしたよ。誰にでも優しいもんだから正直何考えてるか分からなかったしな」
部屋に入って来た時の疲れたような表情をいつも通りのにへらっとした笑みに変えると、俺の隣にアルターは座った。
「何かあったのか?」
「! 気になりますか?」
「いつも笑顔のアンタがそんな顔をするってことは相当だろ。何から何まで話せとは言わないが、俺の立場だからこそ分かることもあるだろ?」
「…ありがとうございます」
アルターは少し悲しそうに笑ってから、俯いたままぽつぽつと話し始めた。
「とは言っても、大したことはなくて…研究、開発職の方々がアナタとルインさんを引き渡せとしつこくて…」
「あー…アイツらは欲しがってるもんな」
「アナタ達の所存は実際はともかく建前としてはシンゲツさんを通して
「え、竜種観測隊と開発職の権利って別にあるのか?」
「ええ、私達の仕事はモンスターの観測、調査に編纂。開発、技術方面への知識は大してありませんから」
ずっとここに通い詰めてるけど初めて知った…どっちも部門が違うだけで同じ観測隊かと思ってた。
「私達と開発職の目的は同じです。私達はモンスターをより深く知ること、開発職は兵器を作り技術を発展させること。そしてその果てには―モンスターをより効率的に殺すことに行き着きます」
「………」
アルターの言ったことに対して俺は黙って聞く。時代が違う以上仕方ないことではあるが…
「開発職の人間が欲しているのはとにかく新たな実験体。モンスターの力を持っていながら人間であるアナタなど恰好の的。上手く行けばモンスターの力を宿した人間を人工的に増産することもできるんですから」
「さりとて私達もそんなことは許せません。ですが…“それを容認している時点で同類だ”と言われて…何も言い返せませんでした」
「………」
そう語るアルターの表情は見えなかったが…その声色は悲痛に満ちた声色だった。
「どれだけ頭が良くても…私は結局戦えない人間です。アナタ達や、
あんな物…恐らく竜機兵のことだろう。まだ表立って発表はされてないから、反応することはできないが…
「情けない話です…自身の善性が分かっていながら、それを見て見ぬ振りをして、結局、“仕方ない”と理由を取って付けて目を背けてるのですから…」
アルターは制服をぎゅっと握り締めて絞り出すように言う。
「アナタ達のことを、“同じ人間”として見れない…生命の冒涜を許容している自分が嫌で嫌で堪らない…」
制服に、複数の染みができているのが見えた。
「私は…結局自分のことしか考えていない…!」
「………」
決してアルターとは付き合いが長い訳じゃない、検査の中での付き合いでしかないから、全部理解してるとは言えない。
でも…
「やっぱり、アンタは良い人だな」
俺は胸を張ってそう言える。悲しいことではあるが、俺は一般人から見ればバケモノ―モンスターだ。シンゲツやキャロル、理解のある人間が多いからまだそこまで苦労してないが、変装せずに一般人の前に姿を見せれば、怖がられるのは間違いない。
まだ見ぬキラーズに所属してる人の中には、モンスターに恨みを抱いて武器を振るってる人もいるだろう。これは俺が向き合うべき問題であって、相手を恨むのは筋違いだ。俺だってゲームの中では大好きなモンスターでも家族が殺されれば当然恨むだろうからな。
正直まともに人の中で生きることすら難しいと思ってた俺からしたら、現状は恵まれ過ぎてると思うぐらいだ。
「そりゃ気心知れたアンタから見れば俺は人間かもだが…大前提として俺は人間じゃない。強さとかそういうのとは別にな」
「俺は別に…全員に認められようとかは思ってない。境遇によってはどう足掻いても俺の存在を受け入れられないって人もいるだろうしな」
「でもやっぱり、アンタみたいに俺の為を思ってくれる人がいるってのは…不謹慎ではあるが、やっぱり嬉しい」
「私は…アナタのことを心から思えていない…いざという時アナタの命と何かを天秤に掛けられたら、救うことができないかもしれない…」
どこまでも真面目だな…
「何もかもアンタに背負わせる真似はしねえよ。そのいざって時に、アンタが躊躇なく俺なら大丈夫だと思えるぐらい、俺が強くなれば良いだけだ」
「しかし…」
「そもそも、ウチの師匠は他人に判断を委ねるような甘っちょろいやり方を許してくれないんでな、もうやるしかないんだわ」
「…そうですか」
アルターは頭をわしわしと搔くと、どこか諦めたようにため息を吐くと―
「なら私も私なりに、向き合ってみるとしましょうか」
―顔を上げて、強い意志を感じさせる顔で言い放った。
「そう言えば…アナタルインさんの正体は知っていますか?」
「ん?まあシンゲツから聞いてはいるが…何かあるのか?」
何か分かったのか、それとも変わったことが…?
「いえ…どちらかと言うとアナタに関わることです」
「俺に…?」
まあ元のモンスターは骨格的には近縁種ではあるが…
「聞いてるなら知ってると思いますが、ルインさんは母親の胎内にいる間にモンスターの力を受け継ぎ、あの身体になりました」
ここまではシンゲツから聞いた話と同じだな。
「つまり…後天的に力を与えられた存在であって、元からああいう生物ではない訳です」
「なので彼女の棘を調べた者によると、ちゃんと繋がってはいるのですが、どこかツギハギなのだとか」
へー…でも確かに棘って豊富な栄養がなきゃ卵細胞への反応を示さないらしいからな。人一人の栄養じゃそりゃ足りないわな。根付いてるから成り立ってるだけで、わりとギリギリなのかも。
「ですがアナタの甲殻を調べると、人としての身体と竜としての身体が癒着していたのです」
「ん…?何か違うのかそれ?」
「分かりやすく言うとルインさんはくっついてるだけで、アナタは融合しているということです」
ルインも似た者だと思ってたが…イマイチ違いが掴めないな。
「うーん…結局どいうことだ?」
「ルインさんは元は人間、これは分かりますよね?」
「うん」
「アナタは元から
「…!」
記憶ないから何とも言えないが…後世には竜人族って種族もある訳だから、あり得なくはないんだよなぁ…ひょっとして俺の存在が竜人族のルーツだったりする?でもそれだとあそこまで長寿にはならないか。
「また不確定なので何とも言えませんが…一応アナタの耳に入れておいた方が良いと思ったので報告しておきます」
「…ありがとう、頭の片隅に置いておくよ」
思えば、おかしい。渾沌ゴアの寿命は短い。にも関わらず、俺は三ヶ月も生き続けられている。身体の痛みもあるが、慣れれば問題ない程度。狂竜ウイルスの行使に制限は掛かっているが、渾沌ゴアのわりには生きる上でのデメリットが少な過ぎるとは思ってたんだ。
だがそれも、
「おーい…!」
「「!」」
聞き覚えのある声が聞こえた。声の聞こえた方向へ向くと、ルインが身体から汗を流した状態でやって来た。
「ここにいたのか、終わったならさっさと帰ろうぜー」
「悪いな、こっちが先に終わってたもんだからよ」
「私が長話してしまったので、すみません」
「…別に怒ってる訳じゃねえよ」
アルターが謝ると、ルインはどこかバツの悪そうな顔で補足した。流石に八つ当りする程じゃないが…人懐っこいルインがここまで不機嫌になるとは…
「じゃ、帰るとしようか。シンゲツも待ちくたびれてるだろうしな」
俺は椅子から立ち上がって、フードを目深に被る。…これ暑いから何かしら代わりのものを見つけたいな。
「世話になったな、またよろしく」
「…キャロルちゃんにもよろしく伝えといてくれ」
「…ええ、必ず」
俺はアルターに向かって手を振りながら礼を言い、ルインはぶっきらぼうだったものの礼は伝えた。アルターは姿が見えなくなるまで頭を下げていた。
そして俺達は研究所を出て集会所を通って門へ向かって行く。
「もうすっかり暗いな…」
「長引いちまったからな、全く面倒くせぇ…」
「………」
ルインがマジで過去最高に不機嫌なんだが…何があった?俺とルインは別れて検査してるから互いに何してるか知らないんだよなー。ルインの場合は仮にも人工の者だからその辺りが関係してるのかもな。
「…お、あれシンゲツじゃねえか?」
「きっちり待てるだけの理性はあるみたいだな」
にしても周りが暗いと黒が基調の服に深く帽子被ってるからめちゃくちゃ不審者に見えるな…
「遅い。待ちくたびれたぞ」
「誰が暇潰しに付き合ってやったと思ってんだ」
「アラシのおっちゃんじゃん。わざわざありがとうな」
「あー、まあ構わねえよ。今日は仕事も少なかったからな」
まあ一人で時間潰すにも一日もあったら無理だわな。
「帰る。世話になった」
「おー、気ぃつけて帰れよ」
アラシのおっちゃんとも手を振ってその場で別れた。
「おい」
「「ん?」」
シンゲツは俺達に問い掛ける。
「何もなかったか?」
珍しく、心配するような言葉を掛けた。俺達が検査から戻ると、いつもする質問だ。シンゲツなりに気に掛けてるんだと思う。
「ああ、問題ないよ」
「…大丈夫だ」
ルインは少し間があったが、大丈夫だとハッキリ言った。
「…そうか」
シンゲツもそれ以上は何も言わなかった。街の光を受けて伸びるか影が、ゆらゆらと揺らいでいた。家族みたいだと、俺は思った。
やっぱり終わり方がワンパターンだ…!さっさと話進めないと…
繰り返しになりますが、アンケートにご協力お願い致します。
評価、感想もよろしければお願い致します。
それでは次回もお楽しみに。