人間に成った渾沌ゴアと、ミラルーツに成った少女のお話   作:サクラン

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第九話 試練と命

「…思えば布団で寝たのは久しぶりだな」

 

 街からの喧騒で目が覚め、身体を伸ばしていた俺はポツリと呟く。

 突然のシンゲツの提案でアラシのおっちゃんの所で世話になることになった俺は、あの後即風呂に入って寝るだけだった。何分突然だったもんで案内とかは今日してくれることになった。

 ちなみに着てる服はおっちゃんから貸してもらってる。道着みたいな上下真っ黒な袴の和装スタイル。翼脚どうすんだって思ったけど、おっちゃんが「もうそれやるから背中ぶち抜いて良い」って許可を貰ったので周りから見たら和装に黒いボロ布を纏った感じになってる。角は布を被って誤魔化すらしい。

 

「当然だが加工屋だからこんな朝早くから働いてるのか…大変だな」

 

 縁側から見える加工屋の煙突からもくもくと煙が上がるのが見え、しみじみと呟いた。実際モンハン世界の加工屋って休みとかあるんだろうか…

 

「━━━━━」

 

「!」

 

 っと、誰かが廊下を歩いて来る音が聞こえた。多分アラシのおっちゃんだろう。腰に昨日貰ったばかりの刀を提げ、絵になるなあと呑気なことを考えていると、外に続く襖が開いた。

 

 

 

 

 

「……………」

 

「……………」

 

 

 

 

 

 …えーと、いつの間におっちゃんは女性に性転換した上に若返ったんだ?

 目の前にいるのはいつもの恰好をしたおっちゃんではなく、白い道着を着た青髪の女性の人だった。肌も白くて服も白だから瞳の緑色がめっちゃ目立つ…じゃなくて、誰?何だこの人?取り敢えず理由を話して納得を―

 

 

 

 

 

「師匠の部屋に知らない男がいるぅぅぅぅぅ!!??」

 

「うおおおおお!?」

 

 

 

 

 

 ―する前に女性が叫んで腰に提げていた刀を凄まじい速さで振り抜いて来た。俺は驚きながらも何とか刀を受け止める。

 びっくりしたー!?何だこの人!?しかもがっつり振り下ろして来るし普通に危ない速さだし力強っ!!今は鍔迫り合いで済んでるがこのまま戦うのは色んな意味でヤバい!!とにかく誰でもいいから助けを呼ばねえと…!!

 

 

 

 

 

「よせ()()()!!そいつは敵じゃねえ!!俺が招いたんだ!!」

 

「「!!」」

 

 

 

 

 

 俺が叫ぼうとした時、聞き覚えのある声が部屋の中に響いた。その瞬間に女性の力が緩んだことを感じて刀を弾いて距離を取る。

 そして声の聞こえた方向を見ると、アラシのおっちゃんが息を荒くして襖に手を掛けていた。女性は驚いた顔でおっちゃんの方を見ていた。

 

「師匠!どういうことです?この方は一体…?」

 

「言ったろ、俺が招いた客だ。シンゲツの奴から預かってんだよ」

 

「な…!またあの男は勝手な…!師匠!あんな男とは縁を切っても良いんですよ!」

 

「あー、まあそう言うな。別に嫌々預かった訳じゃねえよ。それと、俺を思ってくれたのは嬉しいが、そろそろアークに謝っとけ」

 

「あっ!そうでした…!失礼な真似を…!」

 

 俺を蚊帳の外にして少し話していた二人だが、おっちゃんが俺の方をちょいちょいと指差すと、女性は慌てた様子で服装を整えると、姿勢を正して俺の方に向き直った。

 

「どうも、こちらの加工屋で働かせて頂いています。リサクと申します。先程は申し訳ありません…とんだご無礼を…」

 

 女性…いや、リサクは俺に自己紹介と謝罪を言って深々と頭を下げた。正直最初のインパクトとおっちゃんに少し執着してる感じから危うい人かなとも思ったが、普通に知らないならビビって当然だし、仕方ないことではある。

 

「いやいや、そんなに頭下げないでくれよ。もう気にしてないから。俺はアーク。よろしく」

 

「はい、よろしくお願いします。アークさん」

 

 シュウカの方から手を差し出してきたので、俺も手を出して握手を交わす。ちょっと堅物だけど、良い人に違いないと思った。

 

「おーし、二人共仲良くなれたところでアークはここを案内しなきゃならんから、リサクはいつも通り指揮を頼むぞ」

 

「はい!任せて下さい!」

 

「んじゃ、行くか」

 

「ああ、分かった」

 

「行ってらっしゃいませ!」

 

「元気だな」

 

「だろ?優秀な奴だよ」

 

 元気なリサクの声に見送られながら、俺とおっちゃんは加工屋の方へ向かって行った。

 

 

 

 

 

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「! おはようございます!師匠!」

 

「おう!おはようさん!」

 

「師匠!お疲れ様です!よろしければ出来栄えを見ていただけないでしょうか?」

 

「あー悪い、今はそっちに行けなくてな。後で行くから続けててくれ」

 

「師匠!その方は一体…?」

 

「ああ、後で説明する。少し待っててくれ」

 

 おっちゃんは俺を案内する中で弟子?だと思われる人に挨拶して回った。その中で俺を見る目は様々だった。興味深そうに見る人、警戒するように見る人、明らかに敵意を持って見る人…警戒と敵意の目で見る人はかなり少なかったけど、その人達は多分かなりの実力者だな。帯刀してる人もいたし。

 そして一通り回って、一旦休憩する為にまた部屋に戻って来た。おっちゃんに茶を入れて貰って、置いてあった煎餅をパリパリと齧っていた。

 

「どうだった?」

 

「広いんだな。後あそこまで人数が多いとは思わなかった。全員おっちゃんの弟子か?」

 

「あー、まあざっくり言うとそうだな。とは言っても色んな奴らがいる」

 

 ズズズ、とお茶を飲みながらおっちゃんは続ける。

 

「キラーズとして剣を教わってる奴もいれば、単純に加工屋として働いてる奴、あとはキラーズ所属だったが怪我で引退せざるをえなかった奴、身寄りや帰る場所もない奴…って感じだな」

 

 成る程、そんだけ色んな人達を迎え入れていればあんな大所帯にもなるわな。

 

「にしても、何でそこまで受け入れたんだ?」

 

 でも気になったのはそこだ。そもそもおっちゃんが何で加工屋なんてしてるのか、それ以前は何をしていたのか全く知らないから別に無理に答える必要はないんだが…

 

「…ま、単純に放っておけないからだな。必死に頑張ってる奴は手助けしたくなるし、自分に絶望してる奴にはそんなことないって声を掛けてやるだろ?立ち上がれるかは本人次第だが」

 

「…そうか」

 

 おっちゃんは少し複雑そうな表情をしながら話した。その目はどこか遠い場所を見るような目だった。全部本音…って訳でもないだろうが、何か思う所があるんだろう。

 

「お!もうこんな時間か。それじゃあ皆を集めるから、そろそろ行くか」

 

「分かった」

 

 

 

 

 

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「あーあー、皆忙しい中よく集まってくれた。そう長々と話すつもりはないから安心して聞いて欲しい」

 

 そこからおっちゃんは工房内の全員に声を掛けて鍛錬で使ってる道場に皆を集めた。おっちゃんの隣に立った俺を何人かは不思議がった様子で見ていたが、おおよその人達が何となく察した様子だった。

 

「まあ、周ってる時からいたから察しの付いてる奴もいるだろうが、これから一人仲間が増える。色々気になることもあるだろうが、俺が招いた客みたいなもんだから決して悪い奴じゃない。腕も立つから仲良くしてやってくれ」

 

 おっちゃんは端的に話をまとめて締め括った。まだ俺を訝しんだ目で見る人もいたが、おっちゃんの言葉が効いたのか、表情を柔らかくした人が増えた気がする。

 おっちゃんはそのまま俺に自己紹介しろと目で促す。

 

「えーと、今紹介を受けたけど、アークだ。これからよろしく頼む」

 

 取り敢えず俺は頭を下げて簡潔に紹介を済ませる。少し間があったが、拍手で迎え入れられたから何とか認められた…かな?

 

 

 

 

 

「師匠」

 

「「「!」」」

 

 

 

 

 

 流れで解散かと思われた時、大勢いる弟子の中の一人から声が上がった。自然と皆が避けるように譲ったことでその人物が顕になる。

 その人物を見て俺は思わず息を呑んだ。黒髪に鋭い瞳、服装は和装だったのだが、モンスターの素材でも使っているのか質感がモンスターの皮や甲殻のようなものになっていた。だけど何より驚いたのは―片腕がない。

 俺を見る刺すような視線と言い、間違いなくこの人はモンスターに恨みを持ってる―おっちゃんが言う所の身寄りや帰る場所もない人だと確信した。

 

「感じる気配と言い…何となく正体は察しています。だからこそ師匠の口からちゃんと説明して頂きたい。ここにはモンスターの被害で流れ着いた者も多くいる。拾ってくれたアナタには感謝しているからこそ…変な勘繰りはしたくない」

 

 おっちゃんを信じている、でも何とか怒りを抑えているような表情で見詰めていた。その視線が俺かおっちゃんのどっちに向けられていたのかは分からない。

 だがおっちゃんは少し俯いてポリポリと頭を掻く。そして申し訳無さそうに話した。

 

「…後で話すつもりではあったんだがなあ…ま、全員に話しておかねえとフェアじゃないな」

 

 おっちゃんは俺の方を見て、角と翼脚を出すよう促す。俺も覚悟を決めて、頭の布を取り去り、背中をぶち抜いて翼脚を展開した。

 

「ッ!!」

 

 突然のことに弟子の何人かが表情を変えて武器を抜こうと構えたが―

 

 

 

 

 

「止まりなさい」

 

「「!!」」

 

 

 

 

 

 ―リサクが威圧感のある声で皆を諫めたことでどうにか止まった。だが、敵意を感じさせる視線が明らかに増えた。ここからが正念場だな。おっちゃんも話せる空気になったことを察して話し始める。

 

「まあ、見ての通りアークは人間じゃない。知ってる奴は知ってるが、ルインちゃんと同じタイプだ」

 

「で、一番知りたいアークが敵か味方かの問題だが…」

 

 おっちゃんが言い淀むのと同時に、弟子の人達の表情が明らかに強張った。俺も思わず身体を硬くする。

 全員が固唾を飲んで見守る中、おっちゃんは顔を上げて―

 

 

 

 

 

「味方だ。間違いなく」

 

「「!」」

 

 

 

 

 

 ―真っ直ぐな目で言い切った。その言葉に弟子の人達は勿論俺も驚いた。分からないことが多過ぎる中で、味方だと断言できる根拠なんてどこにもないし、俺も自分が化け物ってことぐらい理解してるから。

 

「お言葉ですが師匠…その確信に根拠はありますか?」

 

「人で在ろうとした。これ以上に信頼できることはねえ」

 

 厳しい面持ちの弟子の言葉にも怯まずおっちゃんは言葉を連ねるが、弟子の表情は更に鋭くなる。

 

「師匠…確かに彼の感性は人間ですが、いつまでもそう在れる保証はない。異形の力を宿している以上、何が起こるか分からないのです。ルイン(あの女)と違いいざと言う時に全てを背負える人間がいない。アナタが腹を切れば全てが済む問題ではないのです」

 

 弟子は苛立ちを隠しきれない声色で言い放った。特にルインに言及した所は更に殺意が強くなった。

 

「“仕方なかった”という下らない理由で失われる命があって良い筈がない。そしてモンスターには、それを起こし得る力がある」

 

 恐らくモンスターに大切なものを奪われたからこその言葉。その言葉は俺の心に深く突き刺さった。それと同時に、何かが蠢くような感じもあった。

 

「…()()()、お前がモンスターをどれだけ恨んでいるかは痛い程知ってる。それを防ぐ為にキラーズに所属してることも」

 

 おっちゃんはシュラの言葉を受け止め、目を瞑ったまま言葉を紡ぐ。まるで噛み締めるように。

 

「確かに、現実ってのは何が起こるのか分からねえもんだ。理不尽ってのは予想だにしてなかった所から全てを奪い去るから理不尽ってんだ。取り返しのつかないことが起きる前に処理しておくのも、悲劇を防ぐ為の手段の内の一つだろう」

 

 理不尽の定義、それを聞くとこの世界ではそれを引き起こし得る存在は多くいる。古龍だけじゃない。普通のモンスターですら、一般人にとっては十分に理不尽の権化とも言える。

 そして自分はその力を継いでいる。その事実だけで忌避する人はそりゃあ多いに決まってる。

 

「だがな、アークは俺達と同じ“人”としての感性を確かに持ってる。シュラだけじゃねえ。皆もしっかりよく見ろ。こいつが何も感じない化け物に見えるか?」

 

 そしておっちゃんが俺を指差すと同時に、弟子の人達は俺を見詰める。シュラも含めて、その瞳は戸惑ってるようにも見えた。

 

「未来なんて誰にも分からねえもんだ。アークの力が悲劇を起こさないなんて、誰にも断言できない。だか、アークのお陰で救われる未来だってあるかもしれねえ。アークが怪物か人間か…それを決めることなんてまだできない。だからせめて、向き合ってみようじゃねえか。悲劇が起きず、皆ハッピー。できるならその結末が一番良いに決まってるだろ?」

 

 おっちゃんは穏やかな声色で締め括る。弟子の人達も何か感じる所があったようだ。

 …おっちゃんだけに任せっきりじゃ、あまりに情けないよな。

 

「…俺は怪物だ。その事実は俺自身もよく分かってる。何も起こさない…とは言い切れない。…だけど、俺はそんなことは起こしたくないし、皆と仲良くしたいと思ってる。だから、少し信じて欲しい」

 

 そう言って俺は深々と頭を下げる。根拠がないと言われれば全く持ってその通りだが、何も行動しないことには零が一になりもしない。少しでも、誠意が伝わるように。

 

「…信じてみましょうよ」

 

「リサク…」

 

「シュラの懸念も分かりますけど、彼が私達に協力するなら確実にモンスターの被害を減らせる。私達が協力することで、彼について何か分かるかもしれない」

 

 ここでリサクから優しいフォローが入る。そして「それに―」と続ける。

 

 

 

 

 

「覚悟を持って頭を下げた彼を認められない程、アナタ達の眼は曇っていないと思ってるけど?」

 

「「…!」」

 

 

 

 

 

 リサクの言葉にハッとした顔でシュラを筆頭にした何人かの弟子が俺を見る。そしてしばらく俯いて何かを考えるような仕草をした後、顔を上げると真正面から俺を見て言った。

 

「…確かに、少々盲信していた所はあったな。彼を信じるかどうかは、もう少し見極めてからだな」

 

 シュラが認識を改めたのを見て、おっちゃんは笑顔で声を上げる。

 

「…まだアークを迎え入れることに反対の奴は名乗り出ろ!」

 

 誰からも手は上がらない。取り敢えずは、決まりだな。

 

 

 

 

 

「よし!一先ずはこれからアークを俺達の仲間として迎え入れる!全員で面倒見るぞー!!」

 

「「「はい!!」」」

 

 

 

 

 

 弟子達の大きな返事と共に、その場は解散した。

 

 

 

 

 

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「よし、取り敢えずは迎え入れられたな。良かった」

 

「ありがとう。俺一人じゃ無理だったからな」

 

 俺とおっちゃんは部屋に戻ってお茶を啜りつつ礼を言っていた。

 

「礼なんざ良いんだよ。受け入れた以上はお前に良い経験をさせてやりたいからな」

 

「ただ…シュラの件で分かっただろうが、ウチにはモンスターに対して恨みを抱いてる奴もいる。何とか認めさせることはできたが…流石に対人関係まで命令する訳には行かないんでな。すまないがその辺りは自分で何とかしてくれ。明らかに疎外されるようなら止めに入るが…」

 

 おっちゃんは申し訳無さそうな表情で味方になれないと言ったが、俺からしてみれば十分過ぎる。

 

「その辺りは元々自分でどうにかするつもりだったから問題ない。これからも色々世話になるだろうから、よろしく頼むよ」

 

「ああ、よろしくな」

 

 改めて俺とおっちゃんは互いに挨拶して、固い握手を交わした。

 

「もし俺がいない時はリサクに頼ると良い。アイツは実力もあるし工房内でも顔が広い。頼りになる筈だ」

 

「分かった。ありがとう」

 

 俺が礼を言うと、おっちゃんはヤケに真剣味の増した表情になってから俺の耳に顔を近付けると―

 

 

 

 

 

「…もし互いに良ければそういう関係になっても良いぞ。式にも読んでくれ」

 

「アンタ本当に俺のこと何だと思ってるんだ!?」

 

 

 

 

 

 ―真剣な顔で巫山戯たことを言ったもんだから、俺は思わず湯呑みをぶん投げた。おっちゃんはそれを躱してゲラゲラと笑っていると、リサクがやって来て二人共拳骨+説教のコンボを食らった。解せぬ。




名前考えるの難しい…あ、名字はないわけではなく自分が考えてないだけです。何気にフランシスカ登場回の話も修正してるけど、名字は出来る限り出さずに行きます。そこまで影響もないだろうし(小声)

評価、感想もよろしくばお願い致します。

それでは次回をお楽しみに。
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