ゲマトリア(偽)(かぼちゃ)の青過ぎる空 作:それがダメなら走っていこう
エデン条約編に入る前に……
某ヘルメット団の皆がカラオケで駄弁ってるだけの話。
ヘルメットを外すとゲヘナモブ、トリニティモブ、そして視点は隊長……
うわ湿度たかっ……何のことですかねえ?多分気のせいです。
カラオケBOXの中で『天道虫』と音符が踊る。
何処にでもある場末のカラオケボックスにて――
ジャブジャブヘルメット団の子が歌う。
カラオケの画面に表示されるタイトル、曲名表示はパーフェクトスター・パーフェクトスタイル。
クラブ系テクノポップ。
「 I still love キミの言葉が まだはなれないの♪」
「あの日あの場所で 凍りついた時間が♪」
「逢えないままどれくらい 立ったのかなきっと♪」
「手を伸ばしても もう届かない♪」
「パーフェクトスター♪」
「たぶんね、キミは本当はそう 全てパーフェクトなスター♪」
「掴めない風のように 気楽そうに映るスタイル♪」
「ありのまま ゆらがないように 後ずさりなんて出来ない♪」
「今も大切なあのファイル そっと抱えたあのまま♪」
「いぇーい!」
「いえーい!」
曲が終わり、ハイタッチしてマイクを次の子に回す。
上手いか否かはともかく気持ちは乗ってる……気がする。
何処となく歌詞に共感できる――気がするのよ。
When the Saints Go Marching in
聖者の行進 聖者が街にやってくる。
次の曲は底抜けに明るいゴスペル・ジャズナンバー。
「Oh, when the saints go marching in♪」
(おお 聖者達が行進して行く)
「Oh, when the saints go marching in♪」
(おお 聖者達が行進して行く)
「Oh, Lord, I wanna be in that number♪」
(主よ 私もあの列に加わりたい)
「When the saints go marching in♪」
(聖者達が行進して行く)
今歌ってるあの子は確かトリニティの陰湿さに
ついていけずドロップアウトした子だっけ?
白いベレー帽をヘルメットに変えた子。
あの列に加わりたい――それに必死な懇願が――
トリニティへの郷愁――なわけないよね。
「Oh, when the saints go marching in♪」
(ああ 聖者たちが行進していく)
「Oh, when the saints go marching in♪」
(ああ 聖者たちが行進していく)
「Oh, Lord, I wanna be in that number!!」
(どうか 私もその列に入れてください!!)
「When the saints go marching in――↓」
(聖者が街にやってくる――)
あの子涙目になってない?
明るいのに悲しい。
ゴスペルジャズだからなのだろうか。
そんな歌を聴きながら――パフェをつつく。
「隊長そのフルーツパフェ好きっすねぇ」
「ん?……なんか無性に食べたくなるのよ」
パインにチェリーにクリームの乗ったパフェを
スプーンでつつく。
「でもなにか――違う……違うのよ」
半ばヤケクソにギザギザの歯で乱暴にパインを噛み砕くと所なさげにサクランボの茎を指先で弄って捨てた。
「で、行くんすかリゾート狩り」
カイザーのリゾート地上げを手伝う傭兵バイトか……
払いは悪くないしリゾート使用権も付いてくるし
あわよくばシマも手に入るといえばそうなんだけど……
「嫌な予感がするのよ……振り回された挙句、お家を粉砕されて終わりそうな気がするわよ……」
とんでもない『災厄』に絡まれそうでイヤなんだけど……
此処で尻込みするアホには傭兵バイトの仕事がこなくなっちゃうわよ……
「でもカイザーの傭兵バイトやんないと
お家の燃料代も最近高いし……
呑気にカラオケとか遊びとかもいけないっす……」
世知辛くて嫌になるわ。
拠点ホバークラフトの整備代に燃料費、遊興費。
ヘルメット団幹部としての義務――
カイザーの手が長く、大人の手が長いことなんて分かり切ってる。
都合よくビジネスに利用されてるなんてわかってるわよ。
これからうちらはどうなるのよ?
ヘルメット団を率いることは並ではないの。
無軌道な各学園のドロップアウト、アウトサイダーたち。
学園の庇護を外れた彼女たちに部費など出ないのよ!
それらを引っ張るのに必要なのは金よ。
生活費と遊興費の供給が途絶えればたちまちこの集団は瓦解しちゃうわ。
当然、うちの上にはカイザーをはじめとするキヴォトス暗黒メガコーポの顧問が付いているに決まってるでしょ。
クンクン嗅ぎまわるヴァルキューレと連邦生徒会の目と鼻を躱す為、矯正室送りにならないための毎月の上納金ノルマはギリギリ。
「だってしょうがないでしょ……だってしょうがないわよ……
やんなきゃどうしようもないわよ……」
ブツブツと呟く。
「あ、隊長の番っすよ」(やっべ、隊長が鬱モードに……)
「持ち歌聞かせてくださいよ!!」
ヘルメット団Aがうちにマイクを手渡した。
入っているナンバーは……
カラオケの失恋ソング定番ランキングのサウダージだ。
「よりによってまたこれ?まあ構わないけどさ……」
「聞きたいっす!歌ってうさを晴らしてくださいよ隊長!」
この歌、好きじゃないのよ。
うち自身に言い聞かせなきゃならないからさ。
「――私はっ 私とっ! はぐれるわけにはいかないから!」
「いつかまた逢いましょう その日までサヨナラ恋心よ」
ヘルメット団の皆がうちを見つめる。
一緒にテッペン取ろうよと誘い、誓った連中の眼は裏切れない。
もう、青春賭けちゃったわよ。
「嘘をつくくらいなら 何も話してくれなくていい」
「貴方は去っていくの それだけは わかっているから」
短い短い夏だったが――
契約は終了する、夢が叶った以上、目覚めが来る。
「見つめ合った私は 可愛い女じゃなかったね」
「せめて最後は笑顔で 飾らせて」
ギザギザの歯はどっちかというと凶悪で威圧には役立つけどさ。
スケバンがフリフリのカワイイスカートを穿くわけにもいかないのよ。
貫禄がないわよ。
「涙が悲しみを溶かして 溢れるものだとしたら」
「その雫ももう一度のみほしてしまいたーい!」
飲み干せない涙なんかないわよ、涙は海じゃないのよ。
全く悲しくないのが何故か哀しいのはなぜだろう。
あの日は記録に凍り付いてしまった。
何故そんなことを想うのだろう。
「凛とした痛み胸に 留まり続ける限り」
「貴方を忘れずにいられるでしょう」
痛みなんかないわ、ぼやけてしまったわよ。
こころがはりさけそうよ。うちにはやることがあるのよ。
無理矢理忘れなければうち壊れちゃうわよ。
「許してね、恋心よ 甘い夢は波に浚われたの」
「いつかまた、逢いましょう、その日までサヨナラ恋心よ」
「時を重ねるごとに ひとつずつ貴方を知って行って」
連■生■会にダ■スで反■を促■て、居■所を作■うぜ!
「さらに時を重ねて、ひとつずつわからなくなって」
いい■だ、世■は――もうおしまいな■■から。
「愛が消えていくのを、夕日に例えてみたりして」
いつか見た、デジャウの真っ赤に染まった空。天を突く六本の塔。
「そこに確かに残る、サウダージ」
大人の傭兵やってるよりずっと面白いよ。
「思いを紡いだ言葉まで、影を背負わすのならばっ!」
毎日が楽しいんだって『誰に』いったんだっけ?
■■は水浴びを喜ぶ……いつまでもさせてやりたい
だれがなぜひどく悲しそうな声でそう言うのだろう?
うちも何時までもみんなと踊って歌っていたかったわよ。
だれと?ジャブジャブヘルメット団のうちらならいるわよね……
「海の底で物言わぬ貝になりたーい!!」
きっとまた誰かにいつも酷い目に遭わされる。
いっそのことうちの愛したジャブジャブとした波打ち際を超え深い深い海の底の貝に――
そうだ、貝が良い。
どうしても生まれ変わらなければいけないのなら。
深い海の底で抗争も兵隊も無い――
「誰にも邪魔をされずに、海に帰れたらいいのに」
そんなことは出来ないわ、うちはヘルメット団の面倒を見なきゃならないわよ。
「貴方をひっそりと思い出させて!」
話が違うじゃん。話が違うわよ。
思い出に耽る暇なんてないわよ。
「諦めて恋心よ、青い期待は私を切り裂くだけ!」
期待しなければ、裏切られることもないのよ。
「あの人に伝えて、寂しい大丈夫、寂しい!」
「繰り返される、よくある話、出会いと別れ、泣くも笑うも好きも嫌いもっ!」
「Ah~あぁあ”あ”あ”あ”あ”ぁっ!!」
思わず音程を外してしまう。
(隊長の魂が乗ったシャウトパねえっすわ……)
「許してね恋心よ、甘い夢は波にさらわれたのっ!」
「いつかまた、逢いましょう、その日までサヨナラ恋心よ」
「貴方の傍では 『永遠』を確かに感じたからっ!」
皆が居て、清廉で、高潔で、青春で、何処までもキラキラしていて――
この瞬間が永遠だったら――
永遠の瞬きに過ぎない短い短い夏だったけど、うちも――貴方と踊れて幸せだったよ。
「夜空を焦がして 私は”生きたわ”恋心とっ!!」
過去形なのがなんか無茶苦茶に悲しいし腹が立つのよこの歌。
マイクを乱暴にソファーに叩きつける。
「流石っす隊長……」
「この曲なんかエモいっすわー」
ヘルメット団の皆が何時も拍手してくれる。
元、トリニティの子が大事そうに傷だらけのカボチャのヘルメットを磨いている
……そのヘルメットには天道虫が留まっている。
赤と黒のコントラストが素敵に調和した天道虫が。
やめなよ、うちには例え夢の中でも思い出したくないことがあんのよ。
「ん?どうしたのさそのヘルメット、うちらの制式ヘルメットじゃないわよ」
「あの……その……これはっ……傭兵バイトの記念品で……
捨てるに捨てられなくて……隊長見逃してください……」
「まあ……私物くらい構わないけどさ……」
目を逸らした、チクチクすんのよ……
キヴォトスの空の下這いずり回る天道虫……
「知らないんすか隊長?それ被ると妙にビッと気合が入って……」
「なんかやべー組織がエンジニア部に作らせたやべー洗脳装置の疑いがあって連邦生徒会やミレニアムが躍起になって回収されてるプレミア品なんすよ」
「あぶねーもんほど惹かれるってのはスケバンのサガっすわ」
「上がダメっていうと余計にねー、うちの制式ヘルメットじゃないの惜しいわー」
「音楽聞けるのもいいよねー」
「ねー」
皆口々にそんなことを言う。
「ちょっとお前ら……確かにそれもなかなかイカした
ヘルメット性があるのは認めるわよ……
だけどジャブジャブヘルメット団のヘルメットはもうあるじゃないのよ……」
「お祭りの記念品ヘルメットなんで勘弁してください隊長!」
「連邦生徒会に無理矢理回収されて泣いてた子もいたんです!!」
「チームもヘルメット性が違う奴らが傭兵バイトでムリヤリ纏まるには特攻服も統一しなきゃならんじゃないですか!いつも着るわけじゃねえっすから!」
「はあ……まあいいわよ、かまわないけどさ……」
他愛もない会話でカラオケボックスの時間は過ぎていく。
黙ってパフェの残りをつついているうちに雑談に花が咲く。
「それミレニアムプライスの傭兵バイト記念品らしいけどなんでそんなに傷だらけ?」
「アビドスの連中がシャーレのガサ入れでカチ込みしてきたんだってさ」
「音楽ホールで違法取引の疑いがどうたらこうたら」
「戦闘の余波で屋根とか吹っ飛んだらしいよ」
「映像作品の優秀賞とったやつの収録中だったって話だけど見た?」
「みた、確かになんかエモかったわ」
「それプロデューサーとかアイドルとかとばっちりじゃん、訴えへんかったの?」
「株価とか色々あんだろ、シャーレと揉めんのどう考えても得策じゃないべ」
「やりすぎな警戒網と便利屋もいたんだろ?アビドスの連中やっべえわ」
「キレッキレの暁のホルスはゲヘナの風紀委員長もまともに当たるの避けるって話」
「シャーレに雇われた暁のホルスを迎撃するとか祭りじゃん、いいなー」
「そういえば話変わっけど『ラプラスの匣』ってオーパーツ聞いたことねえ?」
「先生が持っているとか言う『シッテムの箱』じゃねえの?弾丸無効になる奴」
「あー、先生の持ってるやつじゃなくてなんか連邦生徒会を転覆させるとか」
「そうそうそれそれ、匣が解放されれば連邦生徒会が転覆する、とかのほう」
「死海文書とかいうオーパーツが入ってるだの入ってないだのの匣らしいぜ」
「あーなんか聞いたことのあるようなないような」
「パねえじゃん、連邦生徒会が倒れるとか最強じゃん」
たわいない雑談は続いている。
「隊長はなんかラプラスの匣とか聞いたことあります?」
急に水を向けられた。
「ん?ラプラスの匣、そんな話聞いたことも――」
ちょっと■■■■■人の話聞いてる?
また昼間っから酒飲んで寝てないでよ。ねえってばあ!
この不良音楽教師はさあ……早くみんなにダンスと音楽の指示をしてよ皆待ってるわよ!
……大声を上げるな神経が苛立つだろ……ボケナス天道虫……
いいんだよどうせキヴォトスはおしまいで……
私は……「ラプラスの匣」に還ってしまうんだから……
「聞いたこと、ある、探すわ、探すわよお前ら、ラプラスの匣」
「隊長?ラブ隊長?」
訝し気にうちらの仲間が聞くが気にしている場合ではない。
「いつかどこかで酔っ払いから聞いたことあるのよ。キヴォトス最悪のオーパーツ。
シャーレのシッテムの箱、証の箱(あかしのはこ)掟の箱 聖櫃(アーク)の対。
カボチャのランタン。
災厄を詰めたパンドラの箱、魍魎の匣。色彩の虹の詰まった禁忌の匣。
「災厄の枝」「傷つける枝」「裏切りの枝」を収めたアーカイブを解凍する炎を秘めた、九つの鍵で封されたレーギャルンの箱。
数多の祈りと呪い。古い、古い言葉の枝で、絡み合った枝で作られたフェンス」
酔っ払いの言葉を、そのまま繰り返す。波の音を閉じ込めた貝のように。
「ずっとずっと昔の、白檀の香りの先生の骨箱。遺言状の匣。
知ってはいけないことを教えてくれる匣。
連邦生徒会の秘匿され抹殺された黒歴史を収めた匣……」
「聞くだにパねえっすね、それが有れば……」
「お前ら、キヴォトスのテッペン、獲りにいくわよ」
どんな顔をしていたかはわからない。
リゾートで寝そべっている場合じゃない。
いつもと違う「選択」をしようと思った。
面白いかどうかは分かんないけど書きたいものを書く。
BGM
パーフェクトスター・パーフェクトスタイル
聖者の行進
サウダージ