ゲマトリア(偽)(かぼちゃ)の青過ぎる空 作:それがダメなら走っていこう
狂いだす運命の歯車。
勇気を出して新しい選択を踏み出す事は重要だ。
舞台袖や舞台にボッ立ちよりもずっといい。
ただ誤算は人類にとっては偉大な一歩――と信じたいだけ。
経験を裏切ったそのステップが美麗とは限らず
大概は無様な初心者のnoob。
ここからが地獄なのかもしれない。
カリギュラ効果。
禁止されればされるほどやってみたくなってしまう。
物事を禁止されると人はむしろやりたくなってしまうのです。
やるなとか禁止と言われると人は反発心から禁じられたことをやりたくなるのです。
【お友達 ごっこ / やさしい ともだち】
いつか、トリニティ通功の古聖堂、地下墓地(カタコンベ)にて。
「あはは……ベアトリーチェの折檻が行き過ぎ。
栄養失調に心停止、失血死寸前。
……笑い事じゃないですよね……でも笑うしかありませんよねぺロロ様……」
「そういうこったペロ!」
ベージュの髪の阿慈谷ヒフミが苦笑いする。
ペロロの鞄が相槌を打つ。
その足元にはアリウスの制服を身にまとい白い髪に紫の瞳、天使の翼持つ少女――
白洲アズサが倒れ伏している。
「う……あ……」
手足はやせ細り、出血し、美しいはずの紫の瞳は混濁し、金のヘイローは微細な罅が入り始めている。
阿慈谷ヒフミはアズサの傍に屈みこむと、
「んん……失血、栄養失調、心臓は破れ掛け……ひど過ぎます。
今から救護騎士団に連れて行っても……
どうあがいてもまともな手段では間に合わないかも……」
「そういうこったペロ!」
首を傾げるような動作をし、ペロロ様から手鏡を取り出して己を見つめるヒフミ。
「あはは……いいんですかフランシス?知ってると思いますが私は『好き』には一切の妥協も躊躇もない人でなしの文豪ですよ?
貴方がそうしたいのなら、好都合です、好きに書き散らさせてもらいます」
(どうせ、私たちは同時には存在できませんから)
「そういうこったペロ!」
「未熟な痛いポエムは仲間にだけは見せたくない」
「あはは……じゃ、始めましょうか……
酷いポエム……仲間にだけは見せたくありませんね……
生徒の神秘を媒介とする聖餐の密儀のテクスト実験――始めましょう、時間もありませんし」
ヒフミはペロロ様からパンとぶどうジュースを取り出した。
指を噛み切り、そこから溢れ出した血をパンとジュースに垂らす。
細かな光るテキストが止めどなくパンと葡萄のジュースに沁み込んでいく。
ヒフミはパンを取り、それを瀕死のアズサの口元に運んだ。
「これは、わたし……『これがわたしのからだである』――取って食べなさい」
葡萄ジュースのパックを取り、そのストローをアズサに含ませた。
「これは、わたし……『これがわたしの血である』――この杯から飲みなさい」
「これはわたしの血であり、罪の赦しを得させるために流される契約の血である」
変化は劇的だった。
「ううっ……けほっ……」
みるみるうちにアズサの血色は良くなり、血は止まり
骨と皮ばかりだった手足はたおやかな年相応の手足に時計を巻き戻すように戻っていく。
アズサのヘイローも罅のない完全な状態に修復され輝き始める。
「あはは……成功したみたいですね、聖餐の密儀の実験―
『フランシス』というテクストをアズサの『血肉』に読み替えることは……
文学的で神秘的な古の食人教義の名残――文字通り、フランシスは神秘の一部となった」
「そういうこったペロ!」
それから、二人はこっそり会うようになった。
「わからない――なぜ、助けたのだろう?」
「あはは……どうかな。んん……どうなんでしょう。
ペロロ様……新しい人形を欲しがっただけかもしれません。
打算、理解者が欲しかっただけかもしれません。
フランシスがいいと言ったから、神秘の検証に身を捧げてくれたから、それで。
アズサちゃんの止まって破れた心臓を繕ったのかもしれません」
「……一回で良いですから、フランシスのポーズを……」
「こう……?」
アズサはL字にした指でスカルマンを可愛く持ち上げ、自らの顔の前で掲げた。
「あっ、カワイイ、これダメ語彙が死ぬ」
「血肉はフランシス、魂と意志はアズサ。
フランシスは休眠してるから貴方は端末じゃないのに。
神秘の探求が為に、文字通りフランシスはアズサの血肉になってしまった。
フランシスに会えなくて寂しく思います。
フランシスがアズサちゃん……貴女の心臓を温めているうちに」
「――…………」
半眼のヒフミはそっとアズサを後ろから抱きしめた。
「言葉ってなんて不完全なのでしょう。
この気持ちを表現する言葉をもってません。
物語というのには残酷過ぎて、文学とするには甘すぎる……
私の文章力と語彙の少なさを呪う。
恩を売った最初のファン?承認欲求を満たすための読者?」
「全てが虚しい、全てが無駄なのならば――私たちは、なぜ生きているんだろう?
なぜ、助けたのだろう? 半身を裂いてまで暖かい心臓をくれたのだろう?
何もかも虚しいけれど、それは抵抗しない事にはならない」
アズサはふと思い浮かんだ疑問を呟くように口にする。
「虚無に抵抗するこの鈍重な世界――このパンを噛み砕けるのはただ神様のみだとしても?」
「それでもだ、諦める理由にはならない」
「あはは……世界が終わるからって好きなものを諦める理由になりませんよね。
お友達ごっことは思わないんですか?」
「ヒフミは、例え何者であろうとも……私にとっては優しい友達」
ヒフミの顔色を伺うようなおずおずとした疑問と疑念を
アズサはキッパリと断言することで解いた。
「~~!!あはは――もう少し、もう少しだけお友達ごっこ……続けて良いですか?
もう少し、もう少しだけ……この青い文学に酔いたい……
人でなしが「普通の女の子」を血で書く文学を……」
「そういうこったペロ!」
【走り出したスーパースターと引きずられるフォックス】
夜中、トリニティのとある場所。
「突然呼びつけてすまないね、トリニティ自警団一年生宇沢レイサ」
「お呼びですか!セイアさん!
この宇沢レイサに、なんでも、お申しつけください!」
「しーっ!声が大きいよ!出来る限り秘密にしておきたいからね……」
「あ、もしかして、声、大きかったですか?」
「響いちゃったかも……すみません……」
宇沢レイサは声のトーンを落として謝罪した。
セイアは長々と回りくどく喋り始めた。
「こほん、これから話すことはトリニティの派閥政治には関係ない……
レイサ、君がある意味派閥政治から浮いていて助かった。
サンクトゥス分派にはエデン条約に向けた密命を与えると言っておいたからね……
私がしたいことはマフティー・ナビーユ・エリンへの対抗策の確保だ。
あの謎めいたゲマトリアが手に負えない神秘というくらいだ。
レイサ……君は意図せずその身に対抗策を宿しているかもしれない。
ああゲマトリアというのはあの後シャーレに連絡してアビドスのホシノの誘拐や……
カイザー達ともかかわった洗脳疑惑……数え出したらきりがない疑惑……
生徒を利用して利益を得んと画策している組織だ。
キヴォトスを護るために手段を選ばぬ大義があるというがどこまで本当だか……
その辺りは非常に、疑わしい、信じた所で、そこには何の意味もないだろう?
ラプラスの匣という謎めいたオーパーツの為に生徒を確保しようとしていると言われた方がまだ納得が出来るというものだよ」
「はい!宇沢レイサにはさっぱりわかりません!」
元気よく宇沢レイサは返事した。
百合園セイアはガクッと姿勢を崩した。
セイアは眉間をもみほぐしながら言葉を選んだ。
「……より簡単に言おうか……ええと、つまるところ、ラプラスの匣という謎めいたオーパーツ……オーパーツで良いのか?これを……ゲマトリアという悪人が狙っているかもしれないので確保したいのだが……」
「おおおっ!盛り上がってまいりました!」
「それでその、どうしたものかと迷っていてねミカの様子も雰囲気もおかしいし……
幼馴染であるナギサはミカの変貌にショックを受けてしまっているし……
レイサ君が近づくと事象変異で深刻な危険の可能性があると警告されているが、却ってこれはカリギュラ効果を誘発させてあえて火中の栗を拾わせる……
危険を冒させる禁忌を侵させる策略なのかもしれないし、知らないままではそれが危険ともわからない故の、はたまた不確定要素を排除したいだけの真の警告の可能性も無きにしもあらずで、かといって調べないわけにも行かないけれど予知は役に立たないしで。
どうにか安全性を確保しつつ、マフティー・ナビーユ・エリンが語るところによればそれはシャーレのカフェが怪しいとのことだが普通に考えて罠か策略か判断がつかず、まずはシャーレに書状を送って許可を得てからどの程度危険がないか調べて、ああシャーレの先生がレイサを招集したときのケースも考えねばならないな。
その場合病欠ということでなんとか時間を稼いでもらって……
そのうえでレイサにはトリニティで待機を……」
「ほう、なるほどなるほど!」
「セイアさんの傍には私!宇沢レイサがついておりますから!」
「宇沢レイサに、おまかせ!ください!」
「シャーレのカフェですね!!とりゃー!!」
「待て、話を聞いていたのかレイサ!キミがうかつに近づくと不味いという……
……ああああああああああ!」
レイサを引き留めようとセイアがしがみつくが物凄い勢いで引っ張られて止められない。
「正義を求める人の元に……私あり……
そう私こそがスーパースター!
宇沢レイサ、見参です! 悪党が狙う危険なオーパーツ!
シャーレのカフェにあるという、ラプラスの匣は渡しません!」
「レイサ、君もか!君もミカと同タイプのアレな子なのかい!?
全く君は脳細胞の代わりに暴走とか正義とか言う字でも刻んであるのかい!?」
セイアの両足が宙に浮いてしまう始末。
景色が色付きの風になるような速度でレイサが驀進する。
バクシンするレイサは気にも留めていなかった。
必死でしがみ付いて止めようとするセイアはそれどころではなかった。
宇沢レイサは騒がし過ぎる。
故に、その声を聞きつけたヘルメット団がスマホを取り出して、何処かに連絡を始めたことなど想像の埒外だった。
もしも、ここにマフティー・ナビーユ・エリンが居てこの光景を目撃したら
カボチャ頭を抱え、神経を最大限に苛立たせながらこう叫んだだろう。
「フライングレイサだぁぁぁぁ!?やらかしやがったぁああ!!?
イヤだあああこんなんで再走は嫌だああ!!」
と、のた打ち回りながら悲鳴を上げて絶叫してくれたであろう。
先生に募集されていない――つまりはシャーレに呼んでないのに来れるというか来てしまうキャラはレイサ、は割と有名だ。
レイサは暴走して後でやらかしにへこむナイーブで繊細な一面も持つが、正義バカの暴走機関車に意図せず回りくどい話し方でセイアはお墨付きをあたえてしまったのだ……
面白いかどうかは分からんし保証の対象外です。
てぇてぇってなんだろう。百合てぇてぇってどんな気分なんだろう?
【お友達 ごっこ / やさしい ともだち】
「だれかの心臓になれたなら」が似合いそう。