ゲマトリア(偽)(かぼちゃ)の青過ぎる空 作:それがダメなら走っていこう
【Location:ゲマトリアアジト】
マフティーの安らぎのベストプレイス
ゲマトリアアジトの一角で……
「ようやくパヴァーヌ越え……まだ半分、まだ半分かぁ……」
踊るカボチャの道化、マフティー・ナビーユ・エリンは――
いっぱいいっぱい悩んでた。
「もうだいぶだいぶ許してほしいところだが……」
「本当に忙しかったですよねぇ……」
彼女はソファーに寝そべって歌番組を見てポテチを食べている。
ミクパイセンは完全にリラックスモードである。
マフティーの世話やら護衛やら歌のレッスンなどがない時は居眠りあるいはぐーたらして過ごしている。
マフティーはミレニアム株価のチェック中だ。
ふと思い出したようにミクパイセンが呟く。
「他の人たち、最近姿を見ませんね……」
「そういえばそうだな、デカゴルも黒服もマエストロもベアおばも……
アジトに戻らず一体何をやっているんだか……まあ忙しいんだろう。
あんまりゴロゴロしてると太るぞ……」
「ふーんだ、ちょっとくらいいじゃないですか。
今まで滅茶苦茶忙しかったんですから。
それに歌や踊りで使ってますー、あんまりお腹には脂肪付かない体質ですしー」
ミクパイセンはツーンとすねながらそんなことをのたまった。
脂肪は大体胸部装甲に行くのか……
「黒ユウカが聞いたらぶっ殺されそうなセリフを……」
「……スタイル維持の方程式を一回ユウカさんに聞かれました。
素直に答えたらナゼナゼ……ナゼナンデ……
コロシテヤル……コロシテヤルゾミク……ってガチトーンで言われて平謝りする羽目になりましたよ」
謂れのない殺意がミクパイセンを……いや、これは謂れのあるのか?
神経に映像が受信される。
怨嗟の籠った目でミクパイセンの胸部装甲を睨みつけ、そしてため息と敵を見る目で自らの太ももを摘まむ黒ユウカの図が……
(食事のカロリー計算は完璧なはずなのに……
どうして!どうして本体みたいに脚がスラっとならないの!
何処で式を間違えたの!? なぜ、なぜ、なぜ、なんで!?)
そんなことを言っているイメージを受信した……
(恐らく計算は完璧でも座って事務仕事ばっかりしてるから、実践部分の運動量とカロリー消費量が式に足りないんだろうなあ……
黒服はゲマ活で何だかんだ動き回ってるし……)
とは思ったが黒ユウカの式を訂正することはやめておいた。
黒ユウカもゴルヒフミもデカペロロも全然ゲマトリアアジトに来ねえな……
オリジナルゲマトリア全員バ美肉とか与太話が採用される世界線とか言っても酷くない?
キヴォトスいい加減にしろよ……
マエストロもベアおばもバ美肉してるとか……はは、まさかな。
「……まあ確かに、マフティーに太るぞなんて言われるのイヤですし。
私は私でカロリーをどっかで消費してきていいですか?」
「構わない、どの道暫くはアジトにいる予定だから護衛の必要はないしな……
エデン条約をどう進めていけばいいか思いを巡らせたいしな……
……外出の許可を出すのは構わないが怪我は大丈夫なのか?」
「……はいっ!ダラダラゴロゴロできたので元気いっぱいですよ!」
パッと瞳を明るくさせてそう答えるミクパイセン。
「そうか……それならばいい……しかし溜まりに溜まったアビドスのヘイトどうすっかな……トリニティとゲヘナの騒動が起きる前になんとか緩和出来ないか……」
あの時はああするしかなかったとはいえ……
幾らなんでもゲマトリアポイントを稼ぎすぎてしまった……
ガバチャーが行き過ぎてエデン条約の進行に差し支える……
「………………私がいない間コンビニ飯で済ませないでくださいね。
出る前にカレーとかお惣菜とか作って冷凍しときますから」
「ああ……助かる……一人になりたい時もあるだろう。
ミクの自主自立を促していきたかったしな……
こちらで何か起こったら連絡する、気を付けて気晴らしをしてきなさい」
ミクパイセンが単独行動したがるのも珍しい、引き留める理由は少ない。
湿度や依存体質も緩和したらいいなあ……
自主自立を促していけ……
再びパソコンの画面に神経を尖らせる。
パヴァーヌの後始末、株価の混乱などを着地させねば……
クレジットはマフティーの命綱だ、徒や疎かには出来ない……
【Location:アビドス高等学校】
「……当てもなくブラついてカロリーを消費しようと思ったら……」
「自然とここに来ちゃったんですよねえ……」
ゲマトリアアジトを出て、当てどなく散歩をしようとしていたミクパイセンは気が付けばアビドス中央線、砂漠横断鉄道に揺られていた。
絡んできたチンピラから乗り物を拝借し、砂漠に埋もれた住宅地や市街地を抜けて……
「……これは変わらないなあ……」
正門に飾られた三角形に太陽のシンボルマークの校章を見つめていた。
砂まみれになった校庭には人影はない。
沢山の人影が行きかう姿を幻視し、それが掻き消えた。
「砂まみれで……ガランと広くなっちゃいましたね、ここ……」
ふとそんな言葉が口を衝いて出る。
「……先輩……っ……生きてる……歩いてる……っ!」
「あっ……」
ミクパイセンはエアロブラスターを取り落とした。
胸部装甲のご立派な緑のヘイローの子は、ガトリングガンを放り出すとどことなく覚えのあるベージュのロングヘアー、ワンサイドアップの髪。
黄色のパーカーを羽織る娘は緑の瞳に涙を浮かべて抱きすくめてきた。
「えーっと……確か……」
(何処かであったことがある筈。
確か……砂祭りの為に、書類を書いて……渡して……)
「ネフティスの……ノノミ……ちゃんだっけ……よかった」
「先輩っ……記憶が!!そうです!うんっ……うんっ……私です……!!」
「あの後みんな無事に逃げられた……?」
「ううっ……ヘルメット団の子たちも、傭兵さん達も……先輩以外みんな無事……」
(どうしよう……組みつかれて動けない……)
ボスッ、っと砂の上に鞄が落とされた音がした。
地獄の底を煮詰めたような暁のホルスの目にハイライトが戻り……
猛然と突っ込んできた。
「ああ……うわ、うわああああああぁぁん!」
抱きしめられる人数が二人になった。
「えっと、えっと……ホシノちゃん……だっけ?」
困惑したように答えるとさらに嗚咽と泣き声は酷くなった。
「うへ、うぇ、うわあああ……私、私頑張ったんだよぉ!
ユメ先輩っ、もうどこにもいかないでよぉ!」
「ホシノ先輩?ノノミ先輩?ユメ先輩?これどういう状況!?」
「えっ、あっ……どうしましょうこれ……」
「ん……ひょっとして記憶が戻った、とか……?」
セリカ、アヤネ、シロコなども駆けつけるがイマイチ状況を呑み込めていない。
ミクパイセンはその光景がなんだかおかしくて。
思わず頬を抓った。
数十分後……
「うへぇ~簡単だよ~このまま拉致ればオッケー!
先生呼んでゲマトリアとの契約を何とかしてもらうようにするのー
……うちの学校の復学届にハンコを押すまで帰しませんよ、ユメ先輩」
暁のホルスの瞳は完璧に据わっている。
ホシノはハイライトを付けたり消したり忙しい。
「良いアイディアですねぇ~死亡届とかも取り消さないとぉ~
あ、制服とかお金とかそういうのは全部心配いりませんから~☆
やっとアビドスの止まっていた時間が動き出します~」
ノノミのほうもハイライトを付けたり消したり忙しい。
引っ付き虫と化したホシノとノノミ
右と左にがしっと引っ付かれ、動けなくなったミクパイセン。
「え~っと……うーん……どうしましょうこれ……」
困惑しきりだけれども、困ったように微笑んでとりあえず体にしみ込んだ動作をとるミクパイセン。
「よしよし……二人とも頑張ったんだね……」
ホシノとノノミの二人の頭を撫でる。
「うへぇ……ふわぁ……えへへ~……夢じゃない……」
「……ごめんなさい……!ずっとユメ先輩に謝りたかったの……許して……!
ネフティスの忖度で先輩にひどいこと……!」
「許すも何も……怒ったり恨んだりなんか……」
その度二人のハイライトがついたり消えたりし、再び瞳に涙が溜まる。
「えーっと、そっちの……セリカ、アヤネ、シロコ……だっけ?
ホシノちゃんにもステキな後輩が出来たんだね……
一杯優しくしてあげてね……って言った……ような気が……
どうあがいてもキヴォトスは辛いんだから、ゆとりやリラックスが大事……」
「ん……先輩二人の湿度と重力がスゴイね」
「えっと……状況を把握したいですが……感動の再会に水を差すのも……」
「よかった、ホシノ先輩もノノミ先輩もあんなに頑張ったんだから、
報われたっていいわよね……
こ、これは違うの、目にゴミが入っただけよ…!」
空気を読んで所在なさげに佇んだり貰い泣きするシロコ、アヤネ、セリカ。
「私も……ずっとアビドスに置いてきた未練を……」
困惑したように、宥めたり、慰めたりするミクパイセン。
この場が本当に居るべき場所で奇妙な居心地の良さを感じつつも……
(ガバったかもしれませんマフティー……)
(とっても帰りを切り出せるような雰囲気じゃないんですけど……!!)
面白いかどうかなどわからない。
ミクパイセン、ガバる。