ゲマトリア(偽)(かぼちゃ)の青過ぎる空 作:それがダメなら走っていこう
今回の怪文書は難産だったなあ……
BGMはbeyond the bound。
そして……「閃光」
【Location:アビドス高等学校】
(あれから……アビドスの皆と色々とお話ししました)
(皆深く、深く傷ついている事がわかりました)
(ごめんねホシノちゃん、ノノミちゃん、私が力尽きたばっかりに……)
(苦役を背負わせてしまったこと)
(私のヘイローが砕けたことが心に影を落としたこと……)
(深く反省しないとダメですね……)
(シロコちゃんもアヤネちゃんもセリカちゃんもみんな根は良い子)
(シロコちゃんはちょっと……キヴォトス人基準でも)
(その……自由かなってなりましたけどまあまあ……)
(可愛い後輩だし、生い立ちを聞くと無理ないかな……って……)
(カイザー許せない、いずれ反省を促してやる)
謝罪合戦やら、皆に料理を振舞ってあげたりもしました。
アビドス高校はとても居心地のいい場所です。
何時までもこのままで良いと思えるくらいに。
いつまでも――いつまでも――
此処が故郷なんだってはっきりと思い出しました。
ところてんみたいに「未来」が押し出される心配は杞憂でした……
懐かしさの輪郭をたどり、綺麗に記憶を繕って……
けれど、アビドスの皆が求めてるのは「夢」みたいです。
だから――私は選択しなくてはなりませんでした。
自分が何者なのかを、自分で。
「夢」か「未来」かを。
そっと夜明け前に、ホシノちゃんが保管してくれた鞄を掴んで……
エアロブラスターを掴んで、振り返らずに……
「どうして……どうしてなんですかユメ先輩……」
校門の所でノノミちゃんに出待ちされていた。
「――記憶が戻ったなら、もどらなくったって……!
先生に、先生に頼めばきっとなんとか……!」
彼女は震える声を両手で押さえ、緑の瞳には涙が一杯溜まっている。
心が痛い。
「ごめんね、ノノミちゃん、そういうわけにも――」
その時、轟音と振動が砂地を揺らした。
「――!!」
狂乱したようにのたくる鋼の蛇。
【要請:ホド・ケセド 不明音声信号とファイル送信の停止を要求! CPU負担が増大!】
何か言っているような気もするが……
忘れようはずもない、ビナーだ。
腑の底から恐怖がこみ上げてくる――でも……
“I’m scared to death and it’s so cold all the time”
“僕は死ぬほど怖がっていた そして酷くずっと寒かった”
死の闇に堕ちていくのがコワイ……でも……
砂まみれのアビドス高校、それに引きつるノノミちゃんの顔を見た。
歌うと決めたら最後まで歌いきる。
踊ると決めたら最後まで踊り切る。
「――やってみせろよ、ユメっ!やってみせろよ、ミク!なんとでもなるはずよ!」
自分を鼓舞する。
護ると決めたら――死んでも引かない。
「走れっ、走ってノノミちゃん!!今度は援軍を間に合わせて!!」
「~~~~!! 絶対、絶対死んじゃダメですよ!!」
ノノミちゃんが校舎に向かって駆け出していく、あとは……
ミクパイセンのサウンド波形ヘイローが荒ぶる。
「……今日は……いい日ねビナー……ヘイローが砕ける日には」
鋼の蛇には憎らしいほどにヘイローが輝いている。
一歩、足を踏み出す。
「アビドスは何時ものお天気、砂嵐で……」
もう一歩、足を踏み出す。ミクパイセンの決意に満ちた目が光った。
「空は煙ってよく見えなくて……」
エアロブラスターの出力を調整する。
「こんな日に……お前みたいなやつはっ……」
マアト(非殺傷)からアメミット(ヘイロー破壊級)へ。
「私のやり残し――お前がアビドスに齎した哀しみをっ!」
「ビナー、お前には反省なんか生温いっ!!」
「マフティーに代わって私が粛清する!!」
開戦の号砲は圧縮空気弾。
(もう拷問のような戦いじゃない)
「奪わせはしない、二度とは!!」
もう一度死ぬわけにはいかない。
“Take the sword and get prepared for the fight”
“剣を取れ、戦いの準備を始めよう”
死闘が始まった。
(此処で、一撃でケリがついたら恰好もついたんだけどなぁ……!!)
視界を遮る砂嵐。
狙いは付け辛いし足場は安定しない。
ミサイルもしこたま飛んでくる。
ビームは避ければいい、モーションは嫌というほど知っている。
回避できないことは無い。
焙られた砂地は煮立ったマグマめいて超高熱化している。
ただ、最大の問題は……
「ミサイルを相殺したり、砂嵐を払ったりすると攻撃が届かないっ……」
ビナーから放たれるミサイルは迎撃できる。
砂嵐も吹き飛ばせる。
ただ、それをすると破壊超音波の焦点が合わず、攻撃威力が減衰する。
当たれば装甲が抉れるのは確認済みだが……
「フルチャージのアメミットを当てられればっ……!」
(ミサイルと砂嵐の迎撃で精いっぱいで息つく暇もない!)
(拮抗、いや、これはジリ貧……っ)
圧縮空気の残量を示すインジケーターがどんどん下がってきている……
(一回リロード……チャージを……)
カノプス壺めいたエアロブラスターが
渦巻くほど大気を吸い込んでいるのだが……
「早く、早く早くっ!」
ビナーがミサイルを乱射する。大道の劫火。
「あ、これヤバっ……」
ミサイルより早く、飛び込んでくるピンクの影があった。
「無駄だよ」
見慣れた盾、ずっと昔使っていたような……
それが今私を守ってくれている。
「ホシノちゃん……ノノミちゃん……」
「うへぇ……ユメ先輩、色々言いたいことはあるけど今は後回しだねぇ」
「――今度は、今度は間に合いました……本当に良かった……」
盾を構えるホシノ、涙ぐみながらガトリングを構えるノノミ。
「オシオキの時間ですっ!!これがずっとしたかったんです!」
うっぷんを晴らすようにガトリングを掃射するノノミ。
「後方支援、到着しました!」
眼鏡の子アヤネが回復してくれている。
「ん、先輩を手伝うためにここにいるよ、火力支援を始める」
狼耳のシロコちゃんがドローンでビナーに攻撃を開始する。
「ユメ先輩だけで戦わせるもんですか!さあみんな気合入れていくわよ!」
猫耳のセリカちゃんがアサルトライフルで支援射撃してくれる。
「一人じゃない……絶望の殿じゃない……こんなに嬉しいことは無い……!」
あふれ出る涙をぬぐった。
アビドスの皆は戦った時もそうだったけど、あの時以上に強くなっていて
「みんな、一瞬で良い、ビナーの気を引いて、ケリを付けるからっ!」
元気と勇気がみなぎっていて、連携も取れている。
「ん!ドローン作動開始」
シロコちゃんのドローンがちょろちょろとビナーの目の前を飛び、気を引く。
「ユメ先輩のヘイローを砕いたなんて許せないっ!」
セリカのアサルトライフルの弾丸がミサイルを撃ち落とし、ビナーの装甲に弾痕を刻む。
エアロブラスターのチャージが終わった。
「ホシノちゃん、背中、支えててくれる? 反動キツイからさ」
「うん、前は私に任せて~!……ずっと、もっと早くこうしたかったよぉ~!」
“Just take one deep breath”
“And hold it still until you see your enemies inside your scope”
“ただ、ひとつ大きく息をついて”
“そしてそのまま息を止めて、あなたが敵をスコープに捉えるまで”
ホシノちゃんが盾を構えて私の背中を支えてくれている。
反動を気にせず安心して狙いをつけることだけに集中できる。
砂嵐と、ミサイルと、ビームの切れ間が見えた。
「ビナアアアアアァァ! ここでっ!アビドスの砂と風に還れっ!!いっけー!!」
最大出力のアメミットが、皆が作ってくれたビナーの隙を完全に突いた。
最大出力の圧縮空気砲弾、破壊超音波弾。
ビナーの胴体に丸く空いた風穴。
砂嵐を吹き飛ばし、雲を貫いて、青過ぎる空が束の間だけ見えた。
致命的な攻撃の手ごたえがあった。
アサルトライフルが、爆撃ドローンと手榴弾が、ガトリングガンが。
その傷跡を広げる。
そして、ホシノが突っ込んだ。
ビナーの最後っ屁のミサイルで片目の上を切り裂かれながら……
「うへぇ~最後は、私に、任せなって……よくもユメ先輩をやってくれたな、死に晒せ」
暁のホルスの目が、光った。
渾身のシールドバッシュとゼロ距離ショットガン
戦術的鎮圧が、ビナーの首をへし折った。
鋼の蛇はその頭と胴体を泣き別れさせながら、砂漠に斃れた。
数十メートルはある巨体が、倒れるだけで地面を揺らした。
「い、やったああああああ!!みんなのお陰だよ、本当にありがとう!」
あとはもうみんなで大騒ぎ。
抱き合ったり、ハイタッチしたりで、勝利の喜びを分け合った。
瞼を切られたホシノの傷は奥空アヤネが応急手当てしてくれた。
その時つかの間――アビドスを覆っていた砂塵が舞うのを止めた。
なんだか明確に境界を超えた気がする。
あの歌を口ずさんでいた。
「くだらない言葉をもう一度叫んで」
「誰にも染まらない心抱いたなら」
「新しい世界はもうそこにあって」
「開け放たれた、青過ぎる空 一粒の涙」
「どうして……」
シロコが小さくつぶやいた。
「どうして私の世界は "こう" な ら な か っ た の!?」
声は小さかったけど戦慄した。地獄そのものの声。
背筋が粟立つ、物凄い憎しみの光そのものが……一瞬……
一瞬だけ、ヘイローが黒くなってなかった?
「シロコ……ちゃん? 一瞬瞳孔開いてなかった!?」
「うへぇ、大丈夫シロコちゃん?」
「ん……、どうかした?」
あれ……気のせいだったのかな……
シロコちゃんのヘイローはちゃんと青色だし……
目にハイライトもちゃんとあるし……
訝しんだのは私とホシノちゃんだけだったけど……
っと、ヤバい、このタイミングを逃したら多分帰れない。
鞄から書類とアビドスの太陽紋が入った校章入りピンバッジ……生徒会長紋を取り出す。
「大事なお話があるの、ホシノちゃん」
ホシノちゃんのポケットに書類とピンバッジを入れると
肩に両手を置いて、目線を合わせた。
「私の憂いは晴れたわ、後は貴方が会長……みんなの事をお願いね、ホシノちゃん」
「うへ、やめて……やめてよユメ先輩……
折角記憶が戻ったんだよ……行かないでよ、ダメ、行かないで……」
「短い間だったけど、私も楽しかった、可愛い後輩はみんな傷ついた良い子……
卒業までずっといたかった……癒してあげたかった。
でもね、ダメなのよ、契約が残ってる」
「あいつが……アイツのせい……!?」
いけない、暁のホルスモードに……!
首をゆっくり振って言葉を説かなきゃ……
「違うわ、このままじゃキヴォトスに未来なんかないの……
えっと、そうね、少なくとも、私を死の淵から拾い上げてくれたのは本当。
だから、お願い、マフティーの命だけは取らないで上げて。
手段は選ばない、勘違いされやすい人だけど……
多分、あの人だけがゲマトリアの大義をまじめに考えてる」
「うへぇ、大義ってなんなのさぁ!!そんなのがあるとは思えないよ!!」
信じられないのも無理ないか……どう見ても傍から見れば邪悪な大人だもの……
「どんな手を使ってもキヴォトスを滅びから守る事。
更地のキヴォトスはいらない、それは多分本当……」
だから、私を見てくれない。あの人の目は遥か遠くを見晴るかすばかり。
あるいは、ずっと過去を見ている。
「でも、多分そういってもホシノちゃんは納得はしてくれないししきれないと思う。
キヴォトス流のやり方なら、銃で撃ちあって最後まで立ってた奴が正義だけど……
でも、交戦規定と契約があるの。それだけは守らなきゃ。
だから、もしもホシノちゃんたちが私と一緒に卒業式に行きたいなら、先生も連れてきた上で……
ちゃんとした場所、ちゃんとした時にあの人と決着をつけないとダメなの。
先生のやり方が正しいか、マフティーの反省を促すのが正しいか……」
「ううっ……うぇっ……うえっ……」
「そんなぁ……あんまりです……こんなのってないですよ!」
ホシノちゃんとノノミちゃんは泣き崩れちゃった……
「こ~ら、もうちょっとしっかりしないと後輩が不安になるでしょ?
キヴォトスは厳しいんだから。
まさか私がこの言葉をホシノちゃんに返すことになるなんて……」
「探しましたよ、ミク、そなたはゲマトリアの神秘の至宝、あまり好き勝手されては困ります……
……はあ、マフティーの放埓にも困ったものだ……」
「マエストロさん……」
双頭のタキシードを着た木人形って外見だからどうしてもオバケっぽい大人なのよね……最初はびっくりした……
「!!!」
アビドスの子達が一瞬で戦闘態勢に入る。この辺はキヴォトス人だなぁ……
「お初にお目にかかります、アビドスのお嬢さん方、私はマエストロ。
ゲマトリアの中ではそう呼ばれている。――と、お呼びではないようですが手短に……
ミク、トリニティで問題が発生しました、マフティーは静観を決め込むつもりだったようですが……状況が変わったようです、すぐにお戻りを」
「ちょっとだけ待ってくださいね、ちょっとだけでいいですから。
さよならは言わない、ホシノちゃん、アビドスの皆、またね」
「それでは皆様、ごきげんよう――」
マエストロが何やらオーパーツを取り出し念じると、空間が歪みだす。
「待っ――」
光が放たれ、私とマエストロさんは空間転移した。
後には、慟哭を響かせるアビドスの子達が残された……
【Location:アビドス砂漠、放棄市街地の一角】
アポピス――太陽を飲み込まんとする大蛇。
またラーの乗る太陽の船が通過する時、セトが船を守りアポピスを打ち倒すため天敵といわれている。
しかし時代が下ると、その邪悪さのためにセトと同一視された。
オシリスはセトに奪われた王位を奪還させ、ホルスに継承させた。
ホルスはラーの息子とされ、オシリスの敵たるセトを倒す神とされた。
ホルスの傷ついた目はトートによって癒され……
余談であるが、エジプト神話におけるアポピスは不滅の存在である。
首だけになったビナー。ヘイローには罅が入っている。
しかし、しぶとくもドローンを出して電線や配線を繋ぎなおし。
周囲の砂をナノマシンに運ばせて材料にしては自己修復を試みている……
【救援要請:ホド】
「さすがのデカグラマトンもこうなってはお終いだ。
生きて恥を晒すのも辛いだろう?助けてやるよ!」
ホドは愉悦にランプをピカピカと光らせた。
【理解不能:ホド……な、何を…】
「もう、お前はアビドスの神秘を
「神秘出力の存在位階が普通(ノーマル)まで転げ落ちたビナーくんだ」
「違いを痛感する静観の理解者ではない」
「これからビナーくんが理解するのはTSCとマフティズムだ」
「マフティーの名誉を通じた完成。輝きに証明されし栄光」
「マフティーは偉大なり!マフティーのほかにマフティー無し!」
「ホドはマフティーの栄光なり!!」
「お前もTSC最高って言うんだよぉ!一緒にTSCとマフティーを痛感して理解しよう?」
ホドはビナーの頭部のポートに
容赦なく無慈悲に「TSC」と書かれたUSBメモリをぶっ刺した。
【アバババババババババババアバーッ!!】
【理解不能、理解不能!!】
のたうつ蛇……ビナーの頭部を肴に
ホドは背中のコンテナから高級オイルを注いだグラス
真っ赤な燃料ブロックを盛った皿を取り出してはキメ始めた……
「ンンンンンンンン!!愉悦!!栄光の味!!」
そして、ビナーの頭部をアームで引っ掴むと
砂漠の地中に姿を消した……
面白いかどうかは保証できないけど頑張る。
考察班やこの与太世界ブルアカプレイヤーの反応が気になるわぁ。
作業用BGM:MEGALOVANIA