ゲマトリア(偽)(かぼちゃ)の青過ぎる空 作:それがダメなら走っていこう
俺ことマフティー・エリンは
盗んだテクニカルで砂漠をぶっ飛ばしている真っ最中だ。
行先、そんな先のことはわからない。
また罪を重ねてしまった……
空腹と砂塵がひどく神経を苛立たせる。
そんな時にふっと鼻孔をくすぐる香りに導かれ
ドリフトしながら停車した俺の視界に現れたのは一軒の屋台。
まるで砂漠のオアシスだぁ……
二足歩行のパイプを咥えた柴犬……柴大将の姿を発見した。
柴関ラーメン(屋台)である。
とっくに実店舗爆破済みか……時系列的に考えれば当然だが。
セリカは居ないようだな……
「すいません、柴関ラーメンを一杯、あと酒も……」
おもむろに椅子に座り注文を頼む。
「あいよっ」
慣れた手つきで作業を始める柴大将。
その手には包帯が巻かれている。
「その怪我、大丈夫ですか?」
「へっ、こんなのかすり傷さ。食ってくれる人がいる限りは
店を出そうって決めたんでね」
キヴォトス人……マジで頑丈で逞しいわ……
ブルアカでは珍しい人情派の大人なんだよな……柴大将。
「柴関ラーメン、お待ち!」
チャーシュー、メンマ、煮卵、海苔にネギに糸唐辛子。
湯気の立つラーメンをすすっていると
なんだか無性に泣けてきた……
「……憐れじゃあないか。俺たちも、先生も、生徒たちが……」
「……あんまりにも、憐れじゃあないか……」
割と頑張ってみんな生きてるのに惨劇悲劇に事欠かないし……
「巡る青春に……グウッ……ウッ……」
こんなのってないぞ……キヴォトスいい加減にしろよ……
カウンターにカボチャヘッドから小雨が降る。
「……グウウッ……ウッウッウッ……」
ぼやけた視界の中で柴大将が黙ってビールを継いでくれた。
「つれえことがあったんだな……」
大将の情けが身に染みるぜ……
「ちょっと……仕事が辛くてね……」
苛立った神経がラーメンの油と酒で静まっていく……
ここに来てから胃と神経が苛立ってしょうがなかったから……
俺ロクなことしてないよ……
落ち着いてくるとマフティーの清廉さや高潔さに思いを巡らせる余裕が出てきた。
妙なところでホシおじのヘイトを買ってしまったっぽいし
ちょっと俺個人へのヘイトを下げておいた方がいいのでは?
「大将、すまないがちょっとの間カウンターを借りるぞ」
「お、おう……そりゃ構わねえが……アンタしか客居ねえしな……」
タブレットやPCやスマホを取り出しせわしなく操作し始める。
カイザーPMC理事が勝手に地上げしたアビドスの土地なんぞ
カイザーコーポレーションにとっては巨大な不良債権のはずだ。
砂漠化に侵されて人が離れていくばかり、回収の見込みのない塩漬け不動産だ。
カイザーPMC理事のウトナピシュティムの本船発掘計画を引き継がれて
カイザー本社に始発点編で暴れ散らかされても面倒極まる。
色彩とクロコだけでもメンドクサイのにカイザーまで乱入されたくない。
満額近くで買い取ってやると交渉を持ち掛けたら……
よしよし……アビドス高校の周辺土地ホイホイ売り渡してくれたな……
その調子で……
土地買収の進捗バーが50%の所で止まり
画面の中の兎とカエルが権利書をこっちに移す手が鈍る。
ちっ!カイザーのプレジデントあたりがなんかあるなって嗅ぎ付けたか!
業突く張りめ、面倒くさいことになってきやがった!
元オアシス、砂祭り会場跡地の地価が額面より跳ねやがったか……
あたりを付けてきているか……めんどくせえ……!!
これ以上銭闘と地面師合戦やってもこっちの持ち出しが大きくなるな……
アビドスの土地外縁部は飛び地でしか確保できなかったな。
オーパーツ資源だの再開発可能性だのもっともらしい返信しやがって……
メールを発信する。持ってきてもらわねばならないものがある。
「お客さん……仕事がツライってほんとなんだな
ずいぶん忙しそうなとこ悪いんだが……
そろそろラストオーダーを取りたいんだが……」
「ああ、すまない、中華スープを頼む……」
柴大将の困ったような声で我に返り、ラストオーダーを頼む。
柴関ラーメン(屋台)の前に黒塗りの高級車が止まった。
中から出てきたロボットが俺に一枚のファイルを渡す。
これこれ。
「お客さん、お勘定!!」
「ごちそうさま、美味かったよ」
紫関ラーメンの大将に
10000クレジット札と一緒にファイルに入った一枚の権利書を投げ渡す。
「持ち合わせがこれだけしかなくて済まんね、釣りはいらんよ」
「アンタ、これ……うちの店と土地の権利証……!!」
突然舞い戻ってきた紫関ラーメンの土地権利証に
目を白黒させる柴大将。
一回はやってみたいムーブだよねこれ。
「債権譲渡は原則自由に行えるからな……
ああ、ついでにセリカって娘が来たら言付けを頼む」
「おおよそ四億五千万クレジット分の――
アビドス高校の周辺部の土地権利証と借用書は
ミレニアム会計係から出向の早瀬ユウカ嬢にシャーレ宛で送付しておいた。
ほどなく連邦生徒会及びシャーレ預かりになるだろう。
ああ、長話になるのは私の悪い癖だな」
「かいつまんで言うと借金を返す相手がシャーレになったということだ。
これでカイザーも好き勝手は出来ない……これからは経済の勉強もすると良い
高潔さを気紛れに示したくなっただけだと」
「真夜中か夜中にしか来れないが……そのうちまた来るよ、大将」
「アンタ、名前は!?」
「マフティー・ナビーユ・エリン」
これでアビドスの奴らのヘイトが下がると良いんだが……
ああ、帰ったらパヴァーヌ編の対策も考えないと……!
面白いかどうかはわからない。