ゲマトリア(偽)(かぼちゃ)の青過ぎる空   作:それがダメなら走っていこう

8 / 84
ランキングの上の方に居座るにはまだまだ自身は持てないけど
与太や怪文書が大好きな人のために……
どうか、どうか、喝采を……
黒ユウカ回。


おどり利息でみぃんなご破算、さぁ願いましては――

 

計算が狂いだしたのは何時からだっただろうか?

シャーレの机で伝票や事務書類を片付けながら

「端末」のニューロンの中で検算する。

 

やはり最大の変数はマフティーでしょうか。

あの男が使い潰す予定のカイザーから

ケチな詐欺を働こうとして――

 

軽く脅すだけで拍子抜けするほど簡単にこちら側に引き込めた。

私とは違うプロセスで未来を予測演算し

連邦生徒会の混乱を見通しておきながらやることは

取るに足らないインサイダー。外から来た悪い大人。

 

驚いたのは先生の出現も、秘していた計画も、この端末も恐らくは予測していたこと。

極小の可能性として切り捨てていたと謙遜はしますが……

予測の精度には舌を巻くばかり。

 

よくあんな占いじみた原始的な石ころで数を数えるような……

ポンコツなソロバンでやって見せるものです。

ゲマトリアに引き込めてよかったと思います。

 

解に至る式は一つではない。

 

指折り数えて未来を見通そうなど隠秘学的で非効率な迂遠なやり方に見えますが……

苦労するのはあのカボチャ。

精々私の計算の補助として役に立ってもらえれれば上出来です。

 

これから先の未来は決定論に支配されている。

宇宙の原子が有限である以上、その組み合わせは無限に見えて有限。

 

遥か先までそのすべてが決まり切っている。

私が将来誰と出会って何をするのかも

私の意思とは関係なく、宇宙が始まった時から決まっている。

 

仮に一日時間が巻き戻ったら、同じように私はパンを食べるだろう。

原因と結果がある以上、未来が不透明のように見えるのはタダの錯覚。

只計算と予測が追い付いていないだけ。

 

もし何となくの決断だとしても、それは実際には小さな少数の集まりの積によって答えが出る……

もし時間が巻き戻ったとしても、同じ決断を繰り返してしまうはず。

益体もないことに思いを巡らせながらも

 

端末の手はテキパキとシャーレの書類を処理していく……クックック、完璧ですね。

 

「計算通り、かんぺき~♪」

 

「端末」が笑みを作り肉体反応、電気信号の波が心地よい賦活を齎す。

 

モモイとミドリに紹介してもらったゲームを弄る。

 

余りにも膨大な……無限にも見える神秘の検算と

式の解き方に疲れた私にはよい気晴らしになります。

 

おっと、先生からの連絡にモモトークを返さねば……

 

「ボードゲームもそうですし、オンラインゲームも嗜みます」

 

意外かも、との返信。

 

「何か勘違いされているかもしれませんが……

私も他の生徒と同じくらいゲームは普通に好きですよ。

敵の攻略法を考えるのは、数学の問題を解くのと同じくらい楽しいですから」

 

送信。

 

クックック、先生は私にとって新しい難問……

それが難しければ難しいほど良い。

アビドスの計略を覆されたとき、なぜで埋め尽くされましたが……

改めて考えれば先生の存在という変数は

私の計算に入っていなかったので当たり前です。

 

私の愛する数式、未知。

子供っぽく欲しいものがあったら買ってしまう

計画性のなさはいただけませんが……フォローすればよいことです。

 

 

 

ん、投資家ナビーユからの書類……

 

思わず、端末の顔が……ユウカが宇宙猫の顔をしてしまいました。

 

アビドスの債権をシャーレと連邦生徒会に付け替えるのは

先生の意向もありますしやろうと思ってたんですが……!

カイザーからアビドスの権利を奪い返す手間が省けたともいえますが……!

おかしいでしょう!なぜ!?なぜ!?

カイザーの暴利を消して連邦生徒会基準の標準金利に計算しなおす作業……!

カイザーPMCの追訴の公文書発行!

書類を手直しするの私ですか?

やってくれましたね、マフティー!

結局のところ、アビドスの債権や権利は彼女らが返済し終るまでは

端末が――つまるところ私が管理することなりますので

ゲマトリア内部で債権を受け渡しした大人のやり方なのですが……!!

 

「ふふっ、そこが弱点ですね?」

 

ヒヤッとした感覚が背筋を伝い

 

「ひゃあ!?」

 

意に反して端末が声を上げる。

よく冷えたペットボトルを端末の首筋に押し当てられたのだ。

こんな下らないいたずらをするのは一人しか心当たりが居ない。

 

「難しい顔してどうしたんですかユウカちゃん」

 

いたずら成功、と紫の瞳に笑みを浮かべるのは

セミナーの生塩ノアだ。

この女は苦手だ、細かいところまで完璧に記憶できるので

口先の誤魔化しと大人のやり方が通用しにくいうえ

事あるごとにこのようなちょっかいを掛けてくる。

 

「ふふっ、根を詰めすぎなんじゃないですか」

 

「……アビドスの後始末の件で

面倒な計算をしなきゃいけない書類が……

ちょっと変数が多すぎるだけで落ち着いて行けば……」

 

特にこの件は困る、一人で片付けたいところだが……

 

「ユウカちゃんが処理に困る書類なんて

興味深いですね、好奇心が湧きました。

二人でやった方が合理的な選択ですよね?」

 

そういって有無を言わさず書類を取る。

 

「私も先生のお役に立ったことを記憶してもらいたいんですよ

ユウカちゃんにばっかり良い顔はさせません。

この先にどのような変数が……」

 

ノアはあっという間に書類をめくり、一枚の書類の前で手を止める。

 

「不可解ですよ、これ、特に特記事項」

 

「シャーレへのアビドス債権譲渡に関する特記事項は別紙Aを参照……」

 

「ミレニアムクソゲー開発部……もとい

ゲーム開発部の活動実態を調査したうえで廃部通告。

なお、これを撤回するにはミレニアム生徒会の内規に運用されたし。

この特記事項違反に関する罰則は特になくあくまで推奨の要望。

期日:ミレニアムプライスの結果発表時より○○週日前とする。

 

これは遥か古より決まっている事。

一株主として活動実態の怪しい部活動を放置するのは

ミレニアムの関連企業の株価を憂慮しています。

もしかしたら風評被害と株価暴落と底値を招きかねないと……

ぜひ、ぜひ、ご検討を――ナビーユ・エリン。

P.S:テイルズサガクロニクルが開発者のゲームに対する独りよがりの愛しかない

クソゲー過ぎて苦痛だったのでゲーム開発部に深く反省を促したいなんてことはない」

 

 

「……これはミレニアムの自治権に関する内政干渉……

にしては弱いですね、深読みのし過ぎでしょうか

内規に従っていいって書いてますし、罰則もありません。

株主からのクレームじゃないですかね……」

 

何を考えてるんだあのカボチャ……

暇なのかアイツ……

 

「株主ブチ切れてゲーム開発部に嫌がらせ……と取れますね……

隠しきれない本音が文末に出てますよ……

あの子たちの自業自得ともいえますが……」

 

そう答えると

ノアが目頭を摘まむ。

 

「ミレニアムの株価を慮った発言としてはそうおかしくないのがまた……」

 

「はあ、知らない子たちじゃないですし……

私が後でモモイとミドリを捕まえてお説教しときます。

ついに株主からのお説教とお気持ちメール来ちゃったって」

 

「ユウカちゃんがそうしてくれると安心です。

それじゃ、あの子たちのお尻を叩くのはお願いしますね♪」

 

そういってノアは書類を処理済みの箱に突っ込んだ。

業務を処理することが優先され……

 

「記録に残すほどでもない、クソゲーをやらされた暇な株主の腹いせよね。

全くあの子たちは……ふふっ、そんなことより迅速に仕事を片付けて

先生に褒められることをしっかり記録しないと……」

 

ノアの書類に感じた微かな違和感は

完璧な記憶と一緒にしまい込まれたようだが……

私は株価暴落の一文が気がかりになった。

あいつが読んだのなら、そうなる可能性があるということでは?

ミレニアムの株価が底値になることがある、と。

あいつのスタンスは、「利用したいだけで殺したいわけではない」

 

利用価値がなくなった生徒はどうなる?

私とは違うやり方で計算を走らせているカボチャが

ゲーム開発部を見ている。

 

私のお気に入りのミレニアム

資金、技術、人材、どれもこれもゲマトリアにとって有用だ。

楽しい数学パズルが、それ、壊れるよと言われたような不安感。

ここは私の哲学者(スコラ)の庭だ。

あの可愛いモルモットを弄っていいのは私だけだ。

 

当然、真理と神秘の探求者として分解しようとも――

解いたら――どうなる?

モモイとミドリとゲームしている姿が浮かんで、やめた。

 

取るに足らない感傷……のはずです。

いつでもできる、いつでも解ける足し算を今解く必要はない。

 

今やることは差し当たってはモモイとミドリの柔らか脳みそに

無慈悲な理性と合理を叩き込むことで……

マフティーの懸念と予測を払うのも仕事の内でしょう。

 

「あー!ミレニアムの冷徹な算術使い!」

「今ちょっとゲームいいところだから後にして」

 

「やってる場合ですか!

貴方達にお説教に来たんです!

遂に株主からクレームが来たんですよ!」

 

「ききたくなーい!冷酷!

ゆーかはあしふといな!」

 

「――太くない!!」

 

「ユーカの足太いじゃん!」

 

「太くないですって!! これは黄金比です!!」

 

端末の脊髄反射で喋らせるAIやニューロンに

湧き上がるアドレナリンやストレッサーにすら

そういうのに妙な居心地の良さを感じながら――

私は端末にモモイとミドリに対するお説教を始めさせた。




そろそろ、時計仕掛けの花のパヴァーヌの幕があがる

面白いかどうかは不明ですが……
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。