Fate/GO 神人隣生国 イズモ 作:柏 憂奈
初めてこちらを見たときのことを今でも鮮明に覚えている。
青い空。果てはなく、どこまでも続く群青の境界。
その先に何があるかなどわからぬままに、こちらを指さす。
君たちに望まれ、そうあれと定められ、生を受けた。
言葉を交わした感動は、今でも色褪せず心を満たしている。
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かつて世界は燃え、文明は蹂躙された。
とある捕食者との戦いは滅びしかもたらさず、一部がかろうじて残ったのみだった。
神代は衰退をはじめ、我らは何も残せず消えるしかない。
存在を知覚されなければ、それは、死んでいるのと変わらない。
体躯を保存することもかなわず、崩れ、残滓が零れ落ちていく。
最果ての孤島へと流れついた時にはただ眠りにつくことしかできなかった。
何も残らず、残せず、無だけが満ちる。
ただ、自分がもう世界に必要とされないことだけが心に残り、終わりの中へと歩みを進めた。
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緊急事態を伝える警報がカルデア内を駆け巡る。
新たな特異点が見つかったのか、それともストーム・ボーダー内に何かが攻めてきたのか、とにかく出来るだけ急いで管制室へと向かう。
「藤丸、到着しました!何があったんですか!?」
「先輩…それが…」
既にマシュは管制室にいたみたいだが、状況はわかっていないようだった。すでにオルテナウスへの換装は終了しているものの、なぜ警報が鳴ったのかわからず、困惑する様子が見て取れる。
「カドック・ゼムルプス、到着した。現在の状況を教えてくれ」
「敵襲かね?襲撃者の詳細は!?迎撃の準備はできているのかねっ!?」
カドックも到着し、ゴルドルフ新所長も何が起こったのかを確認する。
「わかりません。誰かが襲撃してきた様子もなければ、新たな特異点を発見したわけでもありません。ストーム・ボーダーに何か問題が生じたわけでもないみたいですし。」
「問題がないのに問題が生じていることを示す警報が鳴っているんだ!こっちも何が起こってるのかわからない!考えられるとすれば何者かがこちらをハッキングしているってことだけど…
それでも、何かが起きていることはわかっているのに問題が見えないことはおかしい!?」
「つまりあれかね?相手方はこちらの技術力を完全に上回っているということかね??」
正体がわからぬままに、警報だけが鳴り続ける中、新所長の不安そうな声が流れる。
これも彼が言っていた歪みの影響によるものだろうか。そうであるならば、自らの潔白を証明するために立ち向かわなければならない。
何もわからないのはいつものことだ。ただ混乱せず、自分にできることを落ち着いて行っていくだけ。
そんな決意を固めることしかできない自分が少し情けないが、シオンやダヴィンチちゃん、ネモ、カルデア職員のみんながあわただしく元凶を調べていく中、そんな決断をし指示を待つ
「あー、すまない。そんなに慌てることはないのだが、この警報は手っ取り早く諸君を集めるためであって、ストーム・ボーダーに問題はありませんよ」
そんな管制室の中央で、突如として虚空に五芒星が引かれ、聞き覚えのある声が中心の式神から放たれた
――あまりにも突然な声にカルデアに緊張が走る。敵なのか味方なのか、その判断がそれぞれの間で下されようとしている。
ただ、自分はその声の主を知っている。
「その声は…もしかして、清明?」
「藤丸、それはあの安倍晴明か?」
カドックも安倍晴明という名は知っているようで、そんな疑問を投げかけてくる。
「ああ、確かに、私が史上最高にして最優の陰陽師、安倍晴明だ。初めまして」
警報が鳴りやみ、カルデア内の緊張もほぐれる。予想外の襲撃者ではなく、味方といっていい存在による行動の結果だと予想ができたようだった。
落ち着きを取り戻した中で、自分が平安京で交流したことを知るマシュが話しかける。
「晴明さんっ!平安京ではありがとうございました。今回はどうされたのですか??」
「少々問題が生じてね。本来は私一人で何とかするつもりだったのだが、そうも言ってられない状況となった。力を――
そんな言葉が最後までつづられる前に、赤い豚の怪物が五芒星の中心の人型に食らいついた。
「ンンンンンン、マスター、先ほどまで警報が鳴り響いておりましたが、何かあったのですか??この道満、何やら嫌な気配を感じ取りました故、元凶を退治しにまいりました。まあ、もうすでに終わりましたため、何も心配はござりませぬが…ささ、拙僧と蹴鞠でもしに遊びに行きましょう」
「道満、これから始まるんだよ」
晴明の式神を食べたことに悪びれもせず道満はそんなこと言う。今は道満と遊んでいられる状況ではない。
こんな時はいつものようになぎこさんを呼ぶべきか、それともキャットを呼ぶべきかを真剣に考える。
「マスター??何やら寒気が…もしや清少納言殿か怪猫かを呼び、拙僧を早々に退場させようとしていませんか?」
そこまではっきりと自分の未来が見えているのならそんなことをしなければいいのにと思うが、話を進めるためには非常な決断をせざるを得なくなってしまう。
「多分しないよ。ほら道満、式神にペッさせてペッ」
「いや、それには及ばない。こうして掌握もできたからね」
道満に式神を出させようとすると、道満の式神から先と同じように晴明の声が聞こえ始めた。
見れば赤ブタの額には五芒星が刻まれており、腹の中から式神を乗っ取ったということが分かる。
「ぐぬぬぬぬ、おのれ晴明ェェ」
式神が乗っ取られたことが悔しいようで、道満がハンカチを嚙んでいる。慰める言葉が思いつかず、背中をさすることしかできない。
「今は小競り合いをしている時間もないのでね。話を進めさせてもらおう。特異点が出雲にある。力を貸してほしい」
「待ってください。特異点の反応なんてありませんでしたし、あると聞いた今でも、トリスメギストスⅡや観測レンズ・シバには何も映っていません。本当に存在するのですか?」
「ああ、間違いなく。少々特殊な条件だが、特異点……異聞帯といった方がいいか、は存在する。侵入するにはBBのようにこちらからレイシフトさせるしかありませんが……」
「わかった。よろしくお願いします」
悩んでいる暇はない。異聞帯が存在するなら、切除しなければならない。もうとっくに覚悟はできている。ただ、いつも通りの動きをするだけだ。
「――――こちらに来るのは、藤丸立香含む数人。メンバーは既に――」
「わし参上ー!いやー、ぐだぐだやってられない非常事態のようでの、第六天魔王の本気を見せてやるのじゃ!」
「ノッブだけだと思いました?沖田さんもいまーす。あとの二人もすぐに……」
晴明が呼んだのか、ノッブと沖田さんが管制室に現れる。口調はいつも通りだが、その顔は少し緊張しているように思える。
「いや、時間が無くなった。すまなななななないが、レえええええイシふふフトを行う」
晴明の声が急に慌てた様子に変わり、声が乱れ始める。
「詳しくはこちらで話しまず!!」
「待って、まだコフィンに入ってな―――」
そんな言葉を発する途中で足元の地面がいつものように青い螺旋状に広がり―――「ますたあ!」そんな声と背中に何か貼られたような感触。
同時に体は自由落下をはじめ―――
「させない」
そんな言葉だけが、レイシフトをしているメンバーの間で響いた。
藤丸君の一人称視点は難しいですね…