Fate/GO 神人隣生国 イズモ 作:柏 憂奈
「クリプターで」
「異聞帯の王……」
白樺蘭と名乗った少年の前で、マシュとオレはたった今彼が言ったことを繰り返して言う。
ここに来てから、ずっと驚いてばかりな気がする。
今まで出会ってきたクリプターや異聞帯の王とは明らかに違う性質。
威圧感や敵対心を面に出すことは全くなく、ある種ひょうひょうとしたままで彼はオレたちの前に現れている。
「クリプターもどきですよ。もどき。やってることは似ているけれど、カルデアとは何の関係もないですし。まあ、異聞帯の王って方も僕はただの人間だから何とも言えないんだけど」
頬を搔きながら照れ臭そうに笑う彼を前に拍子抜けしていた気分を戻す。
「あなたも、オレ達を知っているんですか」
カルデアに関係ないといっておきながらクリプターの名称を知っている。そんなことがあり得るのだろうか。
相手の存在がどういった立場から出ているものなのかを確認する。
「はい、見てきたので。それと、敬語なんて使わないでいいですよ。多分僕の方が年下だし……」
「えっと、それじゃあ、よろしく。蘭」
それにしても、見てきた、見てきたとはどういう意味なのだろう。
マーリンのように千里眼で見てきたということなのか。
それならどこから?地球白紙化現象からなのか、それとも……
「詳しいことは上で話しましょう。みんなも話したがっているので」
「うえ?」
考え込んでいたオレとマシュの手を引いて蘭は言う。
「あれー蘭様いっちゃうのー」「あそぼーぜー」「最近全然降りてこないよー」
「ごめんね、そろそろひと段落着くから、そしたらまた降りてくるよ」
子供たちからも慕われているようで、オレたちをつれて拝殿の中へと行こうとする蘭を惜しむ声に彼は答える。
拝殿への扉はひとりでに開き、中から光があふれオレたちを包む。
「――――――」
最後にみくまり様の声が聞こえたような気がした。
――――――――――――
光が収まり、目を開けた先は大きな社だった。
後ろを振り返るとあるのは鳥居だけで、その奥には澄み渡る青の空が広がっている。
社の周りを鳥居がぐるりと一周しており、鳥居の先には地面はない。
今オレたちは浮島の上にいるようだった。
「こっちです」
そういって案内する蘭にマシュと二人ついていく。
荘厳で、ただ圧倒されるだけの存在感。ただ太く何があっても崩れないような厚みがある。
年月を感じさせる摩耗は見えるものの、積み上げてきたものはその減耗を感じさせず、価値を高め示している。
廊下を渡り、奥へと進む。
既にざわざわと多くの人がいる雰囲気があるが、どれだけの人数がいるのかはわからない。
「連れてきたよー」
蘭はそういってふすまを開き広間の中へと入っていく。連れて中の光景が目に入る。
「うわあ」
「これは……」
その光景でオレとマシュは思わず声が出してしまう。
中の広さは外に見える社の大きさよりもはるかに大きいみたいで、端が見えない。
ただ見渡す限り人、樹、狸、狐、鯰、果ては龍のような鱗を持ったものまで、さまざまなカタチの者が存在していた。
「おおー、来たのじゃ!!」
そのうちの見覚えのあるような幼女がこちらへと声をかける。
それを皮切りに全員がこっちの方を向き、各々歓迎の言葉を投げかけてくる。
なぜ歓迎ムードなのかわからぬまま頭を下げて挨拶をしながら蘭についていく。
そして、おそらく社の中心までたどり着いたところで蘭はこちらを振り返る。
「よし、それじゃあ宴、お祭りを始めましょう!!」
高々と社全体へと響きあたる声量で宣言する。
その言葉と同時に場は大きく盛り上がり、太鼓の音が響き、琵琶や琴などが音楽を奏で始める。
そして様々な料理が、酒が現れていく。
「蘭、蘭!」
状況に流されていくままに進み、何も呑み込めないため蘭を呼ぶ。
「はい」
「なんでお祭りを?それに――」
「同じ凡人類史の存在として、仲良くしたいからです。それにこっちのことを、よく知ってほしくて」
「え――――――」
蘭の告白に息をのむ。同じ凡人類史の存在、それはわかる。
クリプターのみんなも凡人類史で生まれ育った人たちだったから。
ただ、こちらと当たり前のように仲良くしてこようとする態度は、オレが知っている魔術師の在り方とは大きくかけ離れていて――
蘭のことを、オレと同じようにどこにでもいた、ただの人間であるように感じてしまった。
「それに、みんなあなたを待っていたので」
ニコリと笑いながら蘭は言った。
――――――――――――
それからはご飯を食べて、茶を飲み、神様たちからの質問攻めにあっていた。
カルデアに来る前のこと、カルデアに来てからの人理修復の旅、地球白紙化の謎を解く旅。
その中で最も多くのことを聞かれたのはカルデアに来る前、自分が今まで生きてきたただの日常の話だった。
幼稚園よりも前や小学校、中学、高校など、魔術の魔の字の存在さえも知らなかったもう戻れない日常。
たまたま献血に行くまでの人生は本当にありふれた話だったけれど、彼ら彼女らは興味深くオレの話を聞いてくれていた。
まあ、一番熱心に聞いていたのは――
「そうなんですか先輩!ちなみに部活動はエースだったのですかっ!?それともキャプテン??あと、その幼馴染さんの話も詳しく!!」
あの権幕のマシュを思い出して思わず笑ってしまう。
今までオレの話を詳しくすることはなかったとはいえ、マシュがあそこまで食いついてきたのは意外だった。
まさかホームズの話をしてくれる時以上の勢いで饒舌になるマシュを見るのは初めてだ。
「すみません。なんだか、最後の方は私だけが質問していたような」
祭りの雰囲気に当てられた空気から戻ってきたマシュは耳まで赤くしてうつむいている。
ボルテージは最高潮を過ぎて、今はそれぞれが和やかに会話をする雰囲気に変わっている。
笑って騒いで、本当に楽しい時間だった。
「カルデアのみんなとも、こんなパーティーをしたいなあ」
「先輩……はいっ!」
思わず口から出てしまった声にマシュが答える。
顔を見合わせ笑いあう。このくにを滅ぼさあなくてはいけないことを忘れてしまうような穏やかなひとときだった。
「お疲れ様です。楽しめましたか?」
「あれだけ食べて笑って話しておったからの。当然じゃ」
「マシュちゃんが一番食いついていたけど……」
少女を肩車して少年とともに蘭がそう言って歩いてくる。
続いて、この広間に入ってきたときにまず声をかけてきた少女は腕を組み、蘭の頭の上からふんぞり返って言う。
少年は蘭の右手を両手で握りながら伏目がちでマシュにクリティカルを放つ。
「楽しかったよ、ありがとう。ご飯もおいしかった」
「はい、お刺身などの海の幸やタケノコ、キノコといった山の幸。どれもとってもおいしかったです」
「よかった。安心しました」
心の底から安心したように蘭は言う。
そこからは軽く雑談をして交流を深める。
そんなことでオレはもうほとんどほだされてしまっていた。
雑談がひと段落したところでオレはまだ名前を知らない二人にむかって尋ねてみる。
「その子たち紹介してもらってもいい?なんか、オレが知っている人にすごく似ているんだけど、玉藻の前っていう英霊に」
蘭の上の少女と隣の少年。
その姿はまるで玉藻リリイと玉藻オルタリリイといってもいいほど玉藻の前に似ていた。
「ほう、見る目はそこそこあるようじゃの、妾は天照!!そちの言う玉藻の前は妾の一側面といっていいじゃろう!!」
「僕は月読……君が言う玉藻の前とは何も関係がないよ……」
「ご、ごめんなさい」
「いや、似ているのはわかってるから、しょうがないよ……」
天照様は堂々と宣言したが、月読様は少し頬を膨らませてむくれてしまった。
とっさに謝って思わずその頭をなでてしまう。
なでた後にまずいことをしてしまったと思いオレの身体は固まってしまう。
しかし、怒られるようなことはなく、軽くおなかに頭突きをされる程度だった。
思えば、みんなそうだった。祭りでも全員が、オレたちが異聞帯を滅ぼしてここまで進んできていることを知りながら誰一人として殺意を向けてはこない。
まるでオレを子供のように接してくるような人たちばかりだった。
自分の孫の活躍を聞いている祖父母といってもいいかもしれない。
優しく、穏やかに。
「蘭のことも聞かせてよ。みくまり様は見てきた、とか言っていた。他のみんなも俺たちのことは知っていたし」
本題に入ろうとする。
知りたいことはいろいろあるが、まずは蘭自身のことを知りたかった。
オレと同じような雰囲気のただの人間のことを。