コブラ・ガール・ダンシング#1/5
12月26日……クリスマス翌日。ネオサイタマは昨夜の狂気から醒め、どこかよそよそしいアトモスフィアだ。灰色の空の下、大通りを眺めれば、多くの店で従業員が無表情にクリスマス・ポップやサンタ人形を片付けている。アフター・フェスティバルの憂鬱。
「ごめんなさい払えません」クジライはドゲザした。床が冷たい。頭上からハンザワの敵意に満ちた視線を感じる。「アー!?ザッケンナコラースッゾコラーッ!」案の定罵声が降ってきた!あまりにも滑らかなヤクザスラング!
「アイエエエ……」クジライはドゲザのままぶるぶる震え、失禁をあやうく堪えた。周囲の人々はそれをニヤニヤ笑って眺めたり、無視してオレオレ・テレフォンをかけたりしている。全員ヤクザだ。半分はリアルヤクザ、残る半分はクローンヤクザである。
「返せるって言っといて返せねえって筋通らねえだろッコラーッ!」ハンザワはクジライの胸ぐらを掴んで引きずり起こす!グレーターヤクザの古傷だらけの顔!野太い眉毛の下の三白眼!「アイエエエーーッ!スミマセン!絶対にスミマセン!」クジライは今度こそ失禁!
ナムアミダブツ!債権者と債務者のようだがそれにしてもこのような脅迫行為が許されるのか?咎めるマッポはいない。ここはヤクザの事務所……それも一際凶暴なことで界隈に知られる「モーレツ・ブルフロッグ・ヤクザクラン」の事務所なのだ。
壁にはボウリング球ほどもあるバイオウシガエルの頭部の剥製が飾られ、クジライの醜態を見下ろしている。その横にはトコノマがあり、奥ゆかしいカケジクが……いや、そこにショドーされているのは禍々しい「罪」「罰」の二文字……!
「アー、とにかくお前、ケジメだな。2本くらい」ハンザワはシガーカッターめいた刃物を取り出す。携帯ケジメ器だ!コワイ!「そのあと漁船だ。マグロとカニどっちがいい?」「アイエエエッ!漁船なんて嫌です!」クジライはかぶりを振る。
「働いて返します!カイシャで普通に働いて!」「ナマッコラー!それができねえからこうなってんだろうが!」ヤクザは威圧!「もういい、とにかくケジメしてから考えろお前」「アイエエエエエーーッ!」
その時、事務所の扉がバンと音を立てて押し開かれた!「はあーい!みんな注目!」何かが、陽気な言葉を発しつつ飛び込んでくる!「ナンオラー!?」「ダーラー!?」ヤクザたちは驚愕し、チャカやドス・ダガーを取り出す!何者だ!?
それはオレンジ色の衣装を纏った女……10代後半と思しき少女である。フィギュアスケート選手のごとく回転しながら事務所の中央まで滑り出て、ポーズを決める。「イエイ!ドーモ、トキシーです!」黒いサイバーバイザーで鼻から上を隠しているが、口元はにこやかな笑顔!八重歯が覗く!
手にしたマイクをヤクザたちに向ける!「何とかヤクザクランのみんな!元気かなー?」……静寂が返ってきた。クローンヤクザたちがタンを吐いた。「……アレレー?お返事がないぞ?」トキシーはわざとらしく顎に手を当てて考え込む。「クリスマスで疲れちゃったかな?」
「何だ、このガキ」リアルヤクザの1人がうめくように言う。「ネコネコカワイイかサンシマイの真似か?うちの事務所で?イカれてるのか?」周囲のリアルヤクザもおおよそ同じことを考えていた……しかし目の前の少女には、何か妙な威圧感がある。軽々しく扱い難い。
「エーッ!何でいきなりそんなシツレイ言うの?」トキシーはそれを聞いて頰を膨らませる。「私じゃなかったら怒っちゃうところだよ?プンプンだよ?」「テメー」ハンザワは債務者を投げ捨て、トキシーを睨んだ。オヤブンが留守の今、彼がこの事務所の責任者だ。「ニンジャだな」
「ニンジャ」若いヤクザが1人、オウム返しした。残りの者は合点がいったような顔をする。「ハイ!そうだよ!」トキシーは軽く肯定した。「トキシーチャンはザイバツ・シャドーギルドのニンジャアイドルなのです!ニンジャで、アイドル!」そしてまたポーズ。
「ハーッ、なんだ。ザイバツかよ」ハンザワは気だるげに息を吐いてヤクザ・チェアに体を沈めた。そして親指で背後のトコノマにある罪罰カケジクを示す。「ウチはザイバツ系だぞ、上納金だって毎月キッチリ払ってる。何しにきやがった?」
「ナイスな眉毛のあなた!お名前は?」ニンジャはハンザワにマイクを向ける。「ハンザワだ。ドーモ」嫌々返事。「何しにきたって聞いてんだよ。商売の邪魔か?」
「それはね、この事務所を貸してもらおうかなって!」……ハンザワは眉をひそめた。相手のおどけた態度の中に、何か冷たいものがチラついた気がした。「……そういうことは、オヤブンを通してもらわねえと」
オレンジ色のニンジャは悩ましげに唸った。「それはちょっと、機密ホゼン的に問題があるっていうかー……メンドッチイなって」「は?」「イヤーッ!」トキシーが突然カラテシャウトを発した。彼女の両手が霞んだ。次の瞬間、「「「アバーッ!?」」」その場にいたヤクザの半数が絶命した。
「な……」ハンザワは狼狽した。ドサドサドサッ!部下たちが死体となって倒れる。彼らの額に何か突き刺さっている。トキシーがやったのか?同じザイバツなのに?「……ナンオラー!?」
最初に反応したのはクローンヤクザたちだ!「「「ザッケンナコラーッ!」」」BLAMBLAMBLAMBLAMN!トキシーめがけチャカやアサルトライフルの一斉射撃!「ヘッ……!」ハンザワは引きつるように笑った。逃げ場のない閉鎖空間でこれは、ニンジャであっても死ぬ!
「アクロバット!いくよ!」トキシーがそう叫んで微かに身を沈め、消えた。直後、事務所を満たす硝煙の中を、オレンジ色の光が乱反射した。鏡張りの部屋にレーザーを打ち込んだがごとく。
「「「グワーッ!」」」耳をつんざく絶叫!ハンザワは隣にいたクローンヤクザを見た。首から上がない。その断面から今まさに、緑色のバイオ血液が噴水めいて噴き出す。他のクローンヤクザも同じだ。
「ザッケンナ」呟いたハンザワの目の前に、ニンジャが降り立つ。オレンジ色の、死の天使だ。「ねえ、ハンザワ=サン」天使が彼の名前を呼び、笑って、何か言おうとした。トコノマの壁が回転して新たなニンジャが飛び出した。
「イヤーッ!」「ンアーッ!?」トコノマのニンジャがトキシーにトビゲリを叩き込む!トキシーはキリモミ回転しながら事務所内を吹っ飛び、CRAAASH!!突き当たりのヤクザキャビネットに激突!収められていた債務者ファイルやコケシ、ダルマが雪崩めいて崩落する!
トコノマのニンジャは蹴りの反動で跳躍し、空中で1回転して着地した。「ツルヨシ!」ハンザワはそのニンジャの古い名前を呼び、震える声で怒鳴った。「遅えよ、バカ!もう大勢死んじまった!」
「逃げてください、ハンザワ=サン。生きてる人を連れて」ツルヨシはそちらを見ずに答えた。メンポの奥の表情は険しい。「できるだけ引きつけたつもりですが、防がれた。やっぱダメかもしれません」
「ダメだと?」ハンザワは表情を歪めた。「そりゃ、どういう意味だ?……お前、ニンジャになったんだろ?ニンジャは無敵だろ?」「もお〜!いったぁ〜い!」
ヤクザキャビネットの方から声。ハンザワは肌が粟立つのを感じた。崩落物の中から、オレンジ色の影が立ち上がる。「おっかしーな……このクラン、ニンジャさんはいないって話じゃなかったっけ?」
トキシー。無傷だ。バイザー越しにヤクザたちを見て、笑いかける。「アイエエエ」生き残りの若いヤクザが失禁した。
「……ドーモ、はじめまして」ツルヨシがオジギして、ニンジャとして名乗る。「モーレツ・ブルフロッグ・ヤクザクラン所属、クィントゥスです!」
「ドーモ、はじめまして。クィントゥス=サン」トキシーはカーテシーめいてスカートを摘んでアイサツする。「ザイバツ・アデプト、トキシーです……今のアンブッシュは実際、ちょっとビックリした!すごいぞ!」
「アイエエエーーッ!」ヤクザの1人が逃げ出す!「イヤーッ!」トキシーは振り返りもせずにそちらへ何か投げる!「アバーッ!」逃走ヤクザはその投擲物が頭に突き刺さって死亡!
「チェラッ……!?」クィントゥスは怒りとともに飛びかかろうとしたが、「はーい最前列!動かない!」トキシーが彼を指差す。隙がない。ヤクザニンジャは反射的に立ちすくんだ。
おお、逃走ヤクザの頭に突き刺さっているものを見よ。ただのスリケンではない。刃が長く伸びて枝分かれした、アフリカ投げナイフめいた邪悪なスリケンである。最初の不意打ちで殺害されたヤクザたちの死体も、揃ってその凶器を頭部に受けている。
「ンー、私のカラテのフレッシュ感は楽しませてあげられたかな?」トキシーはそう言って、手に持ったマイクをクルクル回す。「じゃあ次は、ジツの推しポイントを見せてあげちゃうぞ!」
マイクの周囲が陽炎のように幻惑的にゆらめく。クィントゥスは目を険しく細め、「ドグサレッガー……!」ヤクザスラングを吐き捨て、堅牢なる古代ローマカラテの構えをとる!
【Avenger in love】
……フリーランスニンジャ・ワイヤープラーは、物音で目を覚ました。青白い蛍光灯の下、見知らぬ天井……いや、何度も見たことがある?「ここは……」
「わしのクリニックだよ」しわがれた声が彼の疑問に答えた。身を起こすと、そこはチャノマほどの広さの病室だった。声の主はツギハギ顔の老医師、ハザメイである。白衣、猫背、禿頭。「わかってるはずだろ。ここのことは、あんたから聞いたって言ってたぞ。その子がな」
ハザメイは枯れ枝のような指でワイヤープラーの隣を指差す。そこには彼の病床に隣り合う形で仮設ベッドが置かれており……ミフデ・シュノンが、無防備な寝顔を晒していた。彼女自身も病衣に着替え、左腕をギブスに覆っている。
「ああ」ワイヤープラーは寝ぼけた思考で理解し、声を漏らした。そうだ。あの公園での死闘のあと、自分はこの闇医者の場所を彼女に伝え、比較的怪我の軽い彼女に背負われながら意識を失った……夢ではなかったのだ。昨日のことは、全て。
「一晩のうちに2回来るとは驚いたぞ。……何があったのか詮索はせんがな」ハザメイはそう言いながら、ワイヤープラーに繋がった医療UNIXを操作する。『高度な回復だ』電子音声。ガララ!病室の扉が外から勢いよく開かれた。
「おう!また死に損なったか、若いの!」身を屈めるようにして現れたのは、身長2m半はあろうかという巨体をもつ重サイバネのニンジャである。声には電子的なエフェクトがかかっていた。「ドーモ、スカルスマッシュです!」ぞんざいなアイサツ。
驚いたことに、この殺人ロボットじみた鋼鉄の巨人は、ニンジャ装束ではなく青い衛生服を着ている。単なるヨージンボではなく看護師なのだ。
「ドーモ……ワイヤープラーです」ワイヤープラーは半ば反射的にモゴモゴとアイサツを返す。「しかし今回は驚いたぞ、まさか女連れとはな!」スカルスマッシュは冷かした。「あるいは兄妹にも見えようが、俺の目は誤魔化せんぞ。その子が昏睡中のお前を見つめる時の、あのただならぬ視線!しかしお前の女の趣味もなかなか……」
「その辺にしておけ」ハザメイがツギハギの顔をしかめて制止した。「顔馴染みだが客は客だぞ……何の用だ?」「グフフ、スミマセン。5号室の患者さんが薬についてセンセイと話したいと」「わかった」
老医師はワイヤープラーの方を見やる。「あんた、毎度のことながらすごい回復力だ。さすがニンジャだな……ただ、まだ完全じゃない。万が一にも厄介な古傷を抱えたくなけりゃ、今日1日は寝ていることだ」それだけ言って、助手とともに病室を出ていった。
ワイヤープラーは静かな病室に1人取り残された。ミフデの寝息が聞こえる。意識が冴えていくにつれて、昨日よりも思考が明瞭であるような感覚を覚える。……そういえば、昨夜は夢を見なかった。熟睡できたのだ。
目を上げると、病室の壁に時計がある。午前9時……「9時だと?」ワイヤープラーは顔を歪めた。重大なことを思い出した。「あのババア、どうなった!」チェミ婆のタスケテ・コールからすでに半日が経過している!
【Avenger in love】
「イヤーッ!」「グワーッ!」トキシーがクィントゥスにトビゲリを叩き込む!クィントゥスはキリモミ回転しながら事務所内を吹っ飛び、CRAAASH!!突き当たりのヤクザキャビネットに激突!収められていた債務者ファイルやコケシ、ダルマが雪崩めいて崩落する!
「ンー……どうしたのかな?」トキシーは膝に手をつき、前屈みになってそちらを見やる。事務所のヤクザとの戦闘、クィントゥスとのカラテを経てもなお、いまだ無傷だ。「なんか動きが悪くなってきたよね。疲れちゃった?基礎トレ足りてないのかな?」
「ハアーッ……ハアーッ……!」クィントゥスは崩落物の山からどうにか這い出す。「ラッケン……ザッケンナコラーッ……!」呂律が回らぬ。足取りも生まれたての子鹿のように覚束ない。
しかし、彼はニンジャだからこの程度で済んでいる。生き残りのリアルヤクザたちを見よ……揃って床に倒れ込み、釣り上げられたマグロめいて口をパクパクさせている。ハンザワもその中に混じっている。
(毒だ。麻痺性の毒ガス)クィントゥスは推理し、敵の持つマイクを見る。ニンジャの得物としては冗談としか思えない代物だが、その周囲から陽炎じみた揺らぎが生じ、周囲へ発散している。(あれがガスの発生源)
「なーんてね!ゴメン!」トキシーが大袈裟に手を合わせる。「動けないのはトキシーチャンのドク・ジツのせいだよね。イジワル言っちゃった!」そして……華奢な両腕を、ゆっくりと左右に広げた。ごく無防備に。
「お詫びに1回、好きにカラテさせてあげるね」八重歯が覗く。「こんなスキンシップできるのはレアな機会だよ?トキシーチャン、実際健全なアイドルなんだから」
(ナメやがって)クィントゥスのこめかみに青筋が浮かんだ。(だがこれは好機!俺のヒサツ・ワザなら、一撃で奴の首をへし折れる……慢心が命取りよ!)マグロ化したハンザワを見下ろす。(アニキ!もうしばらくご辛抱を!)
クィントゥスは麻痺毒でままならない体を強いて動かした。死体が散乱する事務所を、一歩、また一歩と進む。トキシーはジーザスめいて腕を広げたまま待っている。サイバーバイザー越しに微かに光る目。
(カラテの間合いだ)ヤクザニンジャは右手を伸ばす。左手を伸ばす。そして小柄な彼女を、優しく抱擁した。(……何だと?)クィントゥスは訝しんだ。こんなことがしたいわけではない。奴の首をへし折るのだ……この手で……手が、動かない!
「はーい、ハグー。ハグ・カラテ」トキシーはクィントゥスを抱き返し、彼の頭を撫でた。「熱くなっちゃったか。なっちゃったね。ダメだよ?イクサしてる最中に、わざとらしく待ち構えてる相手に……正面からノコノコ近づいちゃうなんて。ウカツ印のウカツくんだぞ」
おお、彼女の目を見よ。サイバーバイザー越しにでもわかるほどに、オレンジ色の超自然の光を放つその双眸を……彼女はすでにフドウカナシバリ・ジツを発動していたのだ。それは目を合わせることで生物をカナシバリにする、あるいはその動きを操る邪悪なジツである。
クィントゥスがトキシーから離れ、ジョルリ人形めいたギクシャクとした動きで歩く。かがみ込んで、足元のヤクザの死体から、抜き身のドス・ダガーを拾う。
「チェラッコラー……!」クィントゥスが絞り出すように言葉を発する。血走った目。だらだらと流れる汗。全力で抵抗を試みているが叶わないのだ。「何だこりゃあ……テメエが動かしてんのか?セプクでもさせるつもりかッコラー……!」
「したいの?」「なわけねえだろ……!スッゾ……!」「そうだよね!エート、クィントゥス=サンにはね、ちょっと私のお手伝いをしてもらっちゃおうかなって」
クィントゥスの体は屈み込んだ。床で痙攣するヤクザの上に。「何を。まさか」手が、ドス・ダガーを振り上げて……「ヤメロ……ヤメローッ!」振り下ろす!突き刺さる!「アバーッ!」痙攣ヤクザが死亡!
「バカなあああ!テメエ!」クィントゥスは絶叫した。ドス・ダガーを通して伝わる、見知った相手の肉体が破壊され死んでゆく感覚!「サイコパスか!?ガキのくせに!狂ってやがる!」
「もう!なんでここのヤクザさんってそんなにシツレイなの?トキシーチャン泣いちゃうよ?」背後から返ってくる声はごく呑気だ。「ね、そんなに嫌なら早く済ませちゃお!」
クィントゥスの体が立ち上がり、次の痙攣ヤクザへ向かう!無抵抗に倒れ伏す相手に、ドス・ダガーを振り上げる!「ウオオーッ!ザッケンナコラーッ!」刺突!「アバーッ!」死亡!
「チェラッコラーッ!」刺突!「アバーッ!」死亡!「スッゾコラーッ!」刺突!「アバーッ!」死亡!「ドグサレッガーッ!」債務者クジライを刺突!「アバーッ!」クジライが死亡!ナムアミダブツ!
「アアア……スッゾ……」クィントゥスは悲痛な声を上げつつドスを振り上げる。最後に残ったのはハンザワだ。「ヒューッ、ヒューッ」危うい呼吸をしながら、横目でこちらを見上げている。「さあラストだよ、クィントゥス=サン!ヤッチマエー!」
トキシーが背後で命じると、またクィントゥスの体が動く。「アアアアアーッ!ザッケンナ!」ヤクザニンジャはその瞬間、最後の意思の力を振り絞ってジツに抵抗し、ドスの軌道を変えた。白刃は……クィントゥス自身の腹部に深々と突き刺さり、引き裂いた。セプクだ!
「アッ」トキシーが呆けた声を出した。クィントゥスはよろめき、ハンザワの横に倒れ込んだ。目が合う。(アニキ、情けないニンジャでスンマセン)そう言おうとしたが、口から血が溢れただけだった。そして、クィントゥスは爆発四散した。
事務所をしばし静寂が包んだ。「……アー、なんか悪いことしちゃったかな、私」トキシーが今更バツの悪そうな口調で言う。ハンザワが罵ろうとしたが、毒ガスの麻痺で叶わなかった。
「まあいっか!切り替えていこう!」ザイバツニンジャは数秒後には明るさを取り戻す。ハンザワを見て、「あなたにはオヤスミしてもらおうと思ってたけど、別の仕事してもらっちゃおうかな!せっかくクィントゥス=サンがオトコマエ見せてくれたし!」
トキシーの言う「別の仕事」の内容を問いただす者はこの場にいないが、読者の方々にはお伝えしておこう。彼女はこの事務所を立ち去る時にハンザワをジツで洗脳して残していき、このヤクザクランのオヤブンが帰ってきた時に「この惨状はソウカイニンジャの襲撃によるものだ」と偽証させるつもりなのである。
もちろんハンザワはその直後、責任感ゆえにという名目で自発的にセプクし、洗脳の弱まりや他のニンジャのニューロン系ジツによる真相の発覚を防ぐこととなるだろう。ザイバツのエリートニンジャ・トキシーの冷酷な打算の前ではヤクザさえジョルリ人形とされるのだ!
その後トキシーはハンザワを手際よく拘束すると、おもむろに事務所のガラス窓をすべて開け、毒ガスを換気した。そしてIRC端末を操作し、何事か指示。すると、やがて複数の足音が地上から階段を登って事務所へ近づく。
「「「スッゾー!」」」姿を現したのは5人のクローンヤクザだった。揃って胸にザイバツバッジを付け、アサルトライフルを背負っている。そして山賊めいてここまで担いできたものを今、手近なヤクザソファの上に投げ落とす。
「グワーッ!」投げ落とされたものが衝撃に苦悶した。それは拘束された老婆……なんとワイヤープラーの相棒、チェミ婆である!「年寄りはもっと丁重に扱いなよ……!」明らかに疲労困憊しながらも、強気に挑発する。
「あはは、言われちゃった!一晩明けてもまだまだ元気だね、c,h,e,m,y=サン!読み方はチェミーでいいのかな?」トキシーは楽しげに笑い、ヤクザの1人に持って来させた自分のカバンを開く。化粧品めいた無数のガラス容器がヤクザデスクの上に並べられる……それらは実のところ、全て毒薬である!
「さあ、会場を変えてトキシーちゃんトークショーの続きだ!ゲストはフリーランス・ハッカーのチェミー=サン!」トキシーは注射器を取り出し、毒薬の一つを充填する。「そろそろ例のデータのある場所、オシャベリしてもらっちゃおうかな!」そして再開されたのは……目を覆うような残虐な拷問である!
【続く】