恋する復讐者◆暗黒の7日間   作:ボブ・ニンジャ

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コブラ・ガール・ダンシング#3/5

 

トキシーはその場でくるりと回って、左手を腰に当て、マイクを持った右手を高く掲げてポーズを決めた。……まさかこれがオジギの代わりなのか?「ドーモ、ワイヤープラー=サン!この私がザイバツ・アデプトにしてニンジャアイドル、トキシーです!」

 

ワイヤープラーはチェミを見て、残虐な拷問があったことを察知し、眉をひそめた。「アイドルが拷問など」「あなたがハーデンベルギア=サンを殺したの?そんなわけないよね!」トキシーが威圧的に相手の言葉を遮る。「今の雑なアンブッシュをするようなワザマエで、あのマスターちゃんを殺せるわけないし!」

 

ワイヤープラーは言葉に詰まった。今のアンブッシュはチェミを助けるために焦り、雑になった面はある。(しかしたしかにハーデンベルギアは、第三者の介入がなければ俺を殺せるというところまで追い詰めてきたのだ……こちらのジツで操るものの多い繁華街というフーリンカザン、奴が重サイバネだったので動きを封じることができたという有利があってもなお)

 

目の前の相手はどうだ?外見はミフデより少し歳上の少女か。(年齢的にはハーデンベルギアの部下か?ならばカラテは奴より劣るか……本当に?)敵の振る舞いはおどけているようで、まったく隙がない。さっきのトビゲリも瞬時にガードされた。言動は妙だが、カラテはハーデンベルギアと同程度にあるのではないか?

 

「……ずいぶん上司を評価しているようだな。しかしお察しの通り、奴も最後にはブザマに死んだ」ワイヤープラーは努めて冷淡な口調で言った。「自爆が奥の手だったようだが、それも俺には大したダメージにならなかった。まったくご愁傷様だな……お前はどうだ?俺を殺せる手はあるか?その細腕で」

 

「スッゾ!」3号ヤクザがリロードを完了し、ライフルを構え直した。「チェラッコラー!?」裏口を警備していた2号が戦闘音を聞きつけて戻ってくる。なお1号は正面玄関を警備していたが、ワイヤープラーがアンブッシュの機会を伺う際にすでにサイレントキルされている。

 

「あなたを殺せる手か。ムウーン」トキシーは大袈裟に顎に手を当て、ワイヤープラーの出立ちをじろじろ見る。(ミラーみたいなオシャレな装束。下手にカナシバリすると跳ね返ってきちゃいそうだな……それにあのメンポ、ガスマスクかな?少なくともその類の機能はありそう。となると……)

 

トキシーはおもむろにマイクを手近なデスクに置き、「トキシーちゃん、マジカル・コスチューム・チェンジ!」そう言ってポーズを決めるや否や、彼女の衣装の上半身のフリル部分と下半身のスカート部分が脱落した。ガシャン!ガシャン!フリルとスカートは金属質な音を立てて落下する。内部に毒ガス拡散促進機構が仕込まれていたのだ。

 

今やトキシーはオレンジと黒に塗り分けられたボディスーツを身に纏うスポーティな姿だ。スカートの裏、右腿に女スパイめいて隠していたナイフを今、逆手に抜く。捻れた刃をもつ禍々しいナイフだ。「お色直し完了!さあ2曲目は、コブラ・ナイフ・コンバット!」

 

ワイヤープラーは、どうやら自分の装備が敵の"1曲目"の戦術を潰したらしいことを悟った。(ならば勝機はあるはずだ。たとえ相手が格上だとしても)「そうだ、教えておいてあげちゃおう!」トキシーが自分の得物を示す。「このナイフ、毒だから!ちょっとでも掠ったらオタッシャ重点だからね!」

 

ワイヤープラーは顔をしかめ、そのナイフを注視……いや、それが奴の狙いだ!回避!「「ザッケンナコラーッ!」」BRATATATATA!!クローンヤクザ2人がライフルをぶっ放す。しかしワイヤープラーはすでに全身のバネを弾けさせ、空中へ飛び出している。全弾回避!

 

「イヤーッ!」さらに空中で逆立ちになりつつ両手でクナイを投げる!「グワーッ!」2号ヤクザが眉間にクナイを受けてソクシ!「イヤーッ!」トキシーはナイフでクナイを弾く。彼女はすでに敵の着地を狩るため走り出している!

 

しかしワイヤープラーは、おお、見よ!「イヤーッ!」彼はコンマ数秒、天井を走った!何たる閉鎖空間立体機動か!トキシーはタイミングを狂わされ、「やるね!イヤーッ!」ナイフ攻撃の代わりに左手でアフリカ投げナイフめいた邪悪なスリケンを投げつける!

 

「イヤーッ!」ワイヤープラーは天井を蹴って急降下しそれを回避!チェミ婆の近くに着地し、「イヤーッ!」彼女を素早く担いで、主戦場から死角となるヤクザデスクの奥へ転がした。当座の安全確保!

 

トキシーのスリケンが虚しく窓を突き破って外へ飛んでいく中、「ザッケンナコラーッ!」BRATATATA!3号ヤクザの横薙ぎガンファイアー!「イヤーッ!」ワイヤープラーはブリッジで回避!

 

「イヤーッ!」そこへトキシーが右手でナイフを構えて突っ込んでくる!獲物に飛びかかる凶暴な砂漠コブラじみた敏捷性!「イヤーッ!」ワイヤープラーはブリッジから逆立ちに移行し、振り下ろす蹴りで敵の右手を打って逸らす!

 

「イヤーッ!」さらに身を捩り、2発目の蹴り!「イヤーッ!」トキシーは右手を弾かれたベクトルを両足を踏ん張って吸収し、逆立ちの敵めがけ左拳を繰り出す!「グワーッ!」「ンアーッ!」相打ち!ビリヤードめいて反発射出される両者!

 

「ヌウーッ!」ワイヤープラーは両足で床に焦げ跡を残しつつ踏み止まる。側のデスクにチャカやドス・ダガーが山積みにされているのが目に留まった。ブルフロッグ・ヤクザたちの武器だ。

 

トキシーが遅れて事務所の反対側に着地し、「イヤーッ!」アフリカ投げナイフめいた邪悪なスリケンを低空で投げつける!「イヤーッ!」ワイヤープラーは再び跳躍!スリケンを回避しつつ、空中で両手を伸ばして、一振りずつドス・ダガーを掴み取る。鞘を振り落とす。

 

3号ヤクザがまたも弾切れとなったライフルを捨て、チャカを抜く。「ザッケン、グワーッ!?」その眉間にドス・ダガーが突き刺さる。ワイヤープラーが投擲したのだ。しかしトキシーがその後隙を狙って飛び込んでくる!「イヤーッ!」ナイフか?いやトビゲリだ!リーチが長い!

 

「グッ……」みしり。トキシーの足先が、ワイヤープラーの鳩尾に深くめり込んだ。肺の中の空気が押し出される感覚。「……ワーーーッ!」ワイヤープラーは事務所内を吹っ飛び、CRAAASH!!突き当たりのヤクザキャビネットに激突!収められていた債務者ファイルやコケシ、ダルマが雪崩めいて崩落する!

 

「シューッ……!」トキシーは空中で回転して反動を殺し、その場にふわりと着地した。「アバーッ!」事務所の外から微かに悲鳴が聞こえた。さっき外へ飛んで行ったトキシーのスリケンが、表の道を歩いていた不運なブディズム・パンクスに命中したのだ。ナムアミダブツ!

 

「思ったよりやるじゃん!カイシャクにはもう少しかかるかな」トキシーは3号ヤクザの死体を一瞥したあと、キャビネットの方を警戒しつつ、左手でIRC端末を取り出す。「トリマ、君のことをジムショにホーレンソー……」

 

トキシーは首の後ろがチリチリするような感覚を覚えた。ニンジャ第六感による危機察知。IRC端末を取り出した途端に?端末を投げ捨てる。端末は一瞬緑色に光ったあと、爆発した。

 

トキシーがそちらに注意を振り向けたのは、ほんの一瞬のことだ。しかしその瞬間に、崩落物の中からワイヤープラーが飛び出した。トキシーは0.1秒遅れてそれに気づく。あまりにも重い0.1秒。

 

トキシーの脳内にニンジャアドレナリンが噴き出し、主観時間が泥のように鈍化する。敵が一歩、二歩、踏み込んでくる。右手にドスを持ち、左手はチョップの形で後ろへ引き絞るように構えている。こちらは右手にナイフ、左手は端末を投げ捨てた動作から回復できていない。

 

トキシーは足をにじるように開き、敵に向き直って、ナイフを繰り出す。ワイヤープラーはドスを閃かせ、それを弾く。そして左手のチョップでこちらの心臓を狙う……(やっぱその攻め方するよね。ドス拾ったんだし)トキシーは安堵した。敵が予想通りの動きをしてくれたことに。

 

ワイヤープラーは訝しんだ。ドスで弾いてやった敵のナイフが、いとも簡単にその手を離れて飛んでいったのだ。奴は握る力を込めていなかったのか?ではその分のわずかな時間の猶予を何に使った?左手は攻撃体勢に入っているようだが、こちらのチョップ突きに間に合うわけがない。……やがて気づく。奴の体が微かに低く沈み、前に滑り出ている。

 

SPLAT!血が舞った。トキシーの血だ。ワイヤープラーの左手のチョップは……彼女の右肩、首の付け根を抉って、後ろへ突き抜けていた。あの微かな動きが、チョップ突きを心臓から逸らしたのだ。今や2人は密着していた。長身のワイヤープラーが、小柄なトキシーに覆い被さるようにして。

 

「私がカワイイなのはわかるけど、ここまで激しいボディタッチは感心しないなあ」トキシーがワイヤープラーの顔を息のかかる距離で見上げ、ささやく。「トキシーちゃんは皆のものなんだぞ」彼女の左手は鋭いチョップを形作り、ワイヤープラーの右胸に横から突き刺さっていた。手首まで、深々と。

 

ワイヤープラーは目を見開いた。左後方へよろめくようにして、体をもぎ離す。「イヤーッ!」トキシーがサイドキックを繰り出した。「グワーッ……!」胸板に受け、背中から倒れ込む。力を振り絞るようにして、後転。立ち上がろうとするが、ふらついて膝をつく。

 

「ペケロッパ!」事務所の外から微かに悲鳴が聞こえた。さっき弾き飛ばされたトキシーのナイフが窓を突き破り、表の道を歩いていた不運なペケロッパ・カルトに命中したのだ。ナムアミダブツ!

 

トキシーもまた、奇襲を回避しカウンターを決めた代償として、大きなダメージを負っていた。「ンンーッ……!」苦痛に歯を食いしばり、冷や汗を流しつつ、右肩に力を込める……メキメキッ。小柄な体が軋む。筋肉のアイソメトリック緊張がかりそめに傷を塞ぎ、血を止めた。

 

「イヤーッ!」ワイヤープラーが苦し紛れにクナイを投げた。「イヤーッ!」トキシーはチョップでたやすく弾き返した。「ワイヤープラー=サン。すごかったよ、あなたのパフォーマンス。ハーデンベルギア=サンを殺したっていうの、満更あり得なくもないかもね」

 

オレンジ色のニンジャアイドルは落ち着き払ってハンカチを取り出し、自分の汗と肩の血を拭う。「でも、今日はもう閉場。アンコールはなし。ハイクとか、詠もっか」

 

(アイエエエ!モウダメダー!)ハンザワはスマキのままその会話を聞き、ついに絶望して失禁した。「クソッ……本当に何なんだお前ら、おかしいだろ。その強さ」ワイヤープラーが冷静さを失い、恨み言を発する。

 

「いくらザイバツだって、お前やハーデンベルギア=サンみたいなタツジンが普通なわけねえ……なんでそんなエリート様があのババアを襲いやがる?あのババアはザイバツからの仕事は真面目に」「データを探して、私たちに引き渡してもらった後さあ」トキシーが遮る。「死んでもらうところまでが、チェミー=サンにお願いしたい仕事だったんだよね」

 

「……何だと?」ワイヤープラーは訝しんだ。「何の意味がある」「だからね?」トキシーはおどけた口調で答える。「私たちみたいなタツジンのエリート様が探すようなデータがあったってこと自体も、秘密にしなきゃいけないってわけ」

 

彼女はあけすけに喋りつつ、カイシャクの機会を伺う。「今までの拠点からここに移動したのもさあ、ハーデンベルギア=サンが拷問されたり頭のサイバネをハックされたりしたリスクを考えてのことだったんだよ?とにかく確実にやらなきゃいけないと思って。それなのに本当、なんであなたはこの場所を……イヤーッ!」

 

トキシーが不意にその場でブリッジした。BLAMN!銃声。弾丸が彼女の腹の上を掠め、横の壁にめり込んだ。ワイヤープラーは、自分が床を蹴って飛び出しているのに気づいた。(そうだ、これが正しい。誰が撃ったのか知らないが、これがトキシーを殺す最後のチャンスだ!)思考が後からついてきた。

 

トキシーはブリッジ姿勢からバク転へ移行し、弾丸が飛んできた方向とワイヤープラーから距離を取ろうとする。ワイヤープラーは踏み切り、飛ぶ。残りわずかな体力を絞り出し、爆発燃焼させるようにして、鋭いボレーキックを繰り出す。逆立ち姿勢のトキシーの首を刎ねにいく。

 

トキシーの眼がバイザー越しに光るのが見えた。そして自分の体が、空中で一瞬硬直するのを感じた……フドウ・カナシバリ・ジツ。ボレーキックの速度が鈍る。トキシーのマメカラテ・ブロッキングが、間に合った。

 

トキシーは事務所内を吹っ飛び、CRAAASH!!突き当たりのヤクザキャビネットに激突!収められていた債務者ファイルやコケシ、ロブスター人形が雪崩めいて崩落する!

 

「グワーッ!アアア!」ワイヤープラーはもはやウケミを取る力もなく、事務所の床にブザマに転がった。周囲にはヤクザたちの死体がたくさん転がっている。自分も遠からず同じ道を辿るだろう。「アアアーッ!何で防ぎやがる!何で死なねえ!死ねよ!」ワイヤープラーは半ばパニックに陥り、騒ぎ立てる。

 

そして偶然、事務所の裏口を見た。先ほどの銃撃の主が立っていた。左腕をギブスに覆って肩から吊り、右手だけでチャカ・ガンを構えている。「何で……何で」ワイヤープラーは呆然とした。「何で来ちまったんだよ」

 

ミフデ・シュノンが、そこにはいた。緊張の面持ちで彼を見る。「センパイ……」

 

崩落物の中からトキシーが飛び出し、バイザー越しに両目を超自然的に発光させる。「カーッ!」ZAAAAP!!ビビッドオレンジ色のフドウカナシバリ・ソクシ光線が、一直線にミフデを目がけた。イビルアイ!

 

【続く】

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