「「「ザッケンナコラーッ!」」」クローンヤクザ警備兵たちが女子トイレ個室の扉を蹴破る!「アイエエエーッ!?」用を足していた女性職員が慌ててスカートを引き上げる!警備兵たちはそれを無視し、次の個室へ!
「「「スッゾコラーッ!」」」クローンヤクザ警備兵たちが女子トイレ個室の扉を蹴破る!「アイエエエーッ!?」用を足していた女性職員が慌ててスカートを引き上げる!警備兵たちはそれを無視し、次の個室へ!
「「「ワドルナッケングラーッ!」」」クローンヤクザ警備兵たちが女子トイレ個室の扉を蹴破る!中は無人!床にモジョー・ガレット配達員のユニフォームとバックパックが転がっている。
警備兵たちは同時にサイバーサングラスを操作し、精密探査モードに切り替える。個室を区切るパーティションに、無理矢理潜ったり乗り越えたりしたような痕跡がないことを確認。外から施錠した痕跡もない。となれば、配達員に変装していた不審者は、施錠したあと……
……「不審者は30階の女子トイレから、天井裏のダクトを通って移動したようです」秘書ヤクザが報告する。今や、支社長室には濃密な緊張感が漂っていた。
「バカな。スパイ・ムービーじゃないんだぞ」ヤクシマルは渋い表情だ。「あの暗くて狭い埃まみれのダクトの中を、音を立てないようのんびり這い進むなど。それも我々が工作に気づく前のわずかな時間に……どれだけの距離を移動できるというんだ?杜撰すぎて逆に不気味だ」
「しかし、我々のセキュリティが実際に一時欺かれたのも事実です」ボーンブレードがアグラのまま発言する。「まさか監視カメラネットワークを一部ジャックされていたとは……おそろしいハッキング能力です。それほどのハッカーが場当たり的なハック&スラッシュに加担するとは考えがたい」
ヤクシマルはそちらを見やる。「とすると、奴らは……少なくとも当座のうちは、ダクト移動で十分アドバンテージが稼げると考えていたわけか?」「ハイ。相当な匍匐前進スピードが必要でしょう。重サイバネか、あるいはニンジャ」ニンジャ。ヤクシマルはその言葉の重さに唾を飲み、汗をたらりと流す。
彼は知っている。ニンジャは実在することを。ボーンブレードの働きを見て、その力が目覚ましいものであることも知っている。そしてその精強なるボーンブレードさえ、ニンジャたちの中では必ずしも最強ではないことも。
「……問題は、ダクトで移動したあと、実際にどこへ行って何をやったかだな」ヤクシマルは思考を切り替える。「カロウシ対策研究室のデータを盗まれたかもしれない。あの部署のUNIXを全部チェックさせろ」「ヨロコンデー」秘書ヤクザが彼の指示を受け、カロウシ対策室へ指示のIRCをタイプする。
「それと、支社長も仰っていた通り、この騒動は陽動の可能性があるかと」ボーンブレードが付け加える。ヤクシマルは眉をひそめた。「これだけ大がかりで奇妙なことをやっておいて、陽動?全部囮だと?」「お言葉ですが、大がかりで奇妙であるからこそこちらの目を引き、有効な陽動となる面もあります」
ニンジャは訝しげに目を細める。「だいたい、ハッキングが発覚したタイミングが不自然です。我が支社のネットセキュリティは、残念ですが、この電脳都市ネオサイタマにおいてはさほど優秀な部類ではない」「それがさっき監視カメラのジャックに気付けたのは不自然だと?」
「ハイ。敵のハッカーは攻め手の鮮やかさに対して脇が甘すぎます。まるでこちらを誘い込んでいるかのようだ」ヤクシマルは唸った。たしかに、完璧な手並みでこちらのセキュリティに食い込んでおいて、ダクトに潜っただけの早い段階で露見してしまうなどいかにもチグハグだ。
「敵の真の目的を見極め、それを防ぐ形でこちらの戦力を無駄なく配置なさるのがよろしいかと進言いたします……月並みなことでお恥ずかしいですが」ボーンブレードは太い左腕を折りたたむようにして、控えめにオジギした。ヤクシマルはそのニンジャの言外の意図を理解した。
(「自分の命可愛いさに、ニンジャの俺をこのまま出し惜しみするなよ」と言いたいわけか)ヤクシマルは顔をしかめる。慇懃だが主張の強い、憎たらしいニンジャである。「進言は聞いておいてやる」それだけ返答して、一旦このニンジャのことを思考から排除した。
どんな陽動があろうと、スギナミ支社で一般にターゲットとしての価値がもっとも高いのはこの46階である。この支社最強のコマをそこに控えさせておくことは間違いであろうはずもない……そして、ボーンブレードは最強のコマではあっても、唯一のコマではないのだ!
「30階周辺にバイオ・コモドドラゴンを放て!」ヤクシマルは警務部へ決断的に指示を飛ばす!
【Avenger in love】
「シャッコラーッ!」「ワメッコラーッ!」クローンヤクザ警備兵たちが地下からエスカーレーターを駆け上がってきて、そのまま上階へ登っていく。「何なんだ、さっきから?」カバジマはそれを訝しみ、相棒に尋ねた。「さっきの放送の不審者関係なのか?社内IRCでなんか言われてないか」
「NOPE」ドータニはつまらなそうにUNIXをいじる。「多分これは、ハックされてんじゃないか。IRCで連絡すると敵に筒抜けになっちゃうって配慮なんだろ」「はあ?天下のヨロシサンがハッキングされてんのか?」カバジマは呆れ顔だ。
「そんなの、相手はどんなタツジンハッカーだよ。ユカノか?」「カバジマ=サン、それもう古い。10年前のハッカー界隈の流行りだぞ」ドータニは相棒を容赦なく突き放し、バリキを一口。「それに、この支社のネットセキュリティはベンテンがあるようなデカい施設の中じゃ一際ボンクラだからな。相手もそれを狙ってきたんじゃないのか?」
「ベンテンってなんだ?」「40階にあんだよ。3mくらいある、デカいマシンが。バラして運んだらしい」ドータニはややバリキ・ハイになって手を伸ばし、こんなにでかいぞ、と大袈裟に示す。「たしか薬作るやつだよ。まあ、お薬作るのが目的でメガコーポのビルに不法侵入する奴はいないだろうけどな。正式な権限のある奴に賄賂積む方が速い……ン?」
回転ドアが回り、来客が現れた。「こんな時に」カバジマはだるそうに言って、迎えに行く。来客はギーク・エンジニア風の男で、大きな段ボールの載った台車を押している。
「あの、スミマセン。ネリマ営業所のコンドーという者なのですが」エンジニア風の男は落ち着かない様子で1階フロアを見回す。「この機材を届けろと言われまして。ひとまずロビーに来いと……中身は精密機械なんですが」
「ナルホド。ネリマのコンドー=サン」カバジマはぞんざいに相槌を打ち、横目で相棒を見る。ドータニは無言で頷く。アポはあるらしい。「オーケーです。ではその機材は、アー……」「あの、この機械はとってもナイーブな子で。X線もチョット」「じゃあ、とりあえず検査はパスで大丈夫です。手荷物だけこちらへ」「助かります」
コンドーは無事検査をパスし、荷物とともにロビーへ入った。そしてしばらく待合席に座っていたが、ヤクザたちが登り下りのエスカレーター部分を厳しく警備する頃になると、IRC端末を見てから席を立った。
「アノー、受渡相手がしばらく来れないらしいので、外にタバコを吸いに行っても?」何やらビクビクした表情でカバジマに問う。「エエ、どうぞ。出口はあちらですんで」「戻るまで、あの荷物を見ておいていただいても?」「いいですよ。誰か取りに来ても、あなたが戻るまで待っていただいていいですね?」
「ハイ!すぐに戻りますので!」コンドーは繰り返しオジギしながら、そそくさと出口へ向かった。「なんだか落ち着かない奴だな」ドータニが陰口を叩く。「通行料取ってやればよかった」
「エンジニアなんかみんなああだろ?」カバジマが言い捨てる。ドータニは肩をすくめた。「それだと私も括られるんだがな」「違うのか?」「目薬さしてやろうか?」バリキ瓶を掴む。「よせよ。効きすぎて千手観音見えちまうだろ」
ブガー!ブガー!ブガー!「「ア?」」再度のアラート。2人は揃って呆けた声を出した。「何だオイ、これこのフロアだけか?このフロア重点か?」「不審者はいないはずだがな。お前不審者か?」「目薬要るのはテメーだろ」
そしてマイコ放送。『1階フロア外部に重大な脅威を感知しましたドスエ。これより隔離プロトコル実行アリンス。カラダニキヲツケテネ』ガラガラガラガラ、ガシャンッ!「「エッ?」」
2人は揃って周囲を見回した。暗い。分厚い装甲シャッターが降りて、1階にある外との出入口と窓をすべて閉ざしてしまったのだ。ガラガラ、ガシャン!さらに2階へ通じる階段・エスカレーターの前に防火シャッターが降りる。
「やべえ」カバジマが口を開く。「閉じ込められたぞ」シャッターに描かれた初代ヨロシ=サンの肖像が2人を嘲笑う。
「何だと?」ドータニは状況が呑み込めぬ。「ここはウチのカイシャだろ。閉じ込められるも何も……」バババッ!バラパパパパパ!「「グワーッ!?」」
2人は突然猛烈な閃光と騒音を浴びた。火薬の嵐の只中に投げ込まれたかのようだ。彼らは当然認識する暇などなかったが、それは実際のところ……コンドーが置いていった荷物の内側から射出された大量のスモーク・バクチクの炸裂だった。
そしてバクチクに遅れて、人間が飛び出してくる。ヤマブシめいたパワードスーツを纏ったタカミヤ・スゲンが。
「「「ダーラー!?」」」エスカレーター周辺のクローンヤクザ警備兵たちもバクチクに怯み、反応できない。スゲンは彼らの眼前に悠然と着地し、両手でLAN直結拳銃を抜いた。
『死ね』BLAMBLAMBLAMBLAMBLAMN!「「「アバーッ!?」」」ナムサン!容赦なき二丁拳銃の掃射により、1階警備ヤクザは一瞬にして全滅!千切れ飛んだ肉体のパーツと緑色のバイオ血液が硝煙に巻かれて宙を舞う!なんたるゴアか!
「ウオオーッ!」誰の叫びだ?カバジマだ!彼は一瞬早く危険を察知していたため混乱から素早く回復し、眩まないサイバネ義眼の視界でスゲンに背後から襲いかかった!「てめえも死ね!不法侵入者がッコラーッ!」サイバネの右腕でショックメイスを振りかぶる!
キュイン。パワードスーツが高い音を立てて駆動し、スゲンは一瞬でカバジマに向き直った。ZZZTTT!「グワーッ!?」絶叫して倒れたのは……カバジマだ!胸に小さな電極が打ち込まれている。スゲンが銃から発射した非殺傷制圧弾である!
『粗雑なサイバネティクスだ』スゲンは冷淡に罵り、足元のカバジマへ制圧弾を発射!ZZTTT!「グワーッ!アーッ!」電流を流され悶え苦しむカバジマ!
『洗練されていない』さらに1発!ZZZTTTT!!「アバーッ!オゴーッ!」サイバネの右目がショートして煙を噴く!まして生身の部分に蓄積するダメージはいかばかりか!?しかし時にズンビーじみたタフネスを見せる重サイバネ者に対しては当然の追い討ちでもあった!
さらにスゲンはおもむろに銃を上げ、カバジマが来た方向へ制圧弾を発射!ZZTTT!「ンアーッ!」ドータニが感電して倒れた。彼女も遅れて混乱から回復し、ニードルガンでスゲンを撃とうとしていたのだ!
スゲンはザンシンし、銃をリロードする。『動けるようになったら、地下水路からでもこのビルを出ろ。ヨロシなど辞めてブディズムにもとるカイシャに務めるか、ボンズになれ』カバジマたちに向けて言うが、彼らが意識を保っているかは怪しい。『これは戦争だ』
スゲンはスーツのIRC通信機構をアクティベートする。『1階をクリアした。地下をナビしろ』『ヨロコンデー』レスポンスは1秒以内に返ってきた。
【Avenger in love】
「イヤーッ!」CRAAASH!ニンジャスレイヤーはトビゲリで扉を破壊し、その向こうへ飛び込んだ。無人の会議室である。窓の向こうにどんよりした灰色の空。地上35階。
「SHHHH!」彼女を追ってくる影がある。床を這う細長い体。蛇か?否!その生物は力強い四肢を有する。バイオ・コモドドラゴンなのだ!目はらんらんと輝き、口内の牙から毒液がほとばしる!
「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはスリケンを投げる!「SH!?」バイオ・コモドドラゴンは眉間にスリケンを受けて倒れ、ビクビクと痙攣!倒したか。しかし!「「「SHHHHH H!!」」」3匹のバイオ・コモドドラゴンが新たに会議室へエントリーする!
『ザッケンナコラー!なんで製薬会社でコモドドラゴンなんか飼ってんだよ!』インカムの向こうでハンザワが喚く!「イヤーッ!イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはそれを無視し、連続でスリケンを投げる!「SHH!?」1匹殺す!「SHHH!?」2匹殺す!
「「「ザッケンナコラーッ!」」」コモドドラゴンの背後の廊下にクローンヤクザ警備兵が出現し、一斉にニードルガンを発射する!プシュプシュプシュプシュ!弾丸の代わりに飛来するのは、明らかに致命的な毒針!
「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは側転で回避し、会議室内を移動して射線を切る!『おいババア、ハッキングでなんとかなんねえのか!』『黙れバカヤクザ!』インカムの向こうで口論!チェミが何かに苦戦し、苛立っている!
側転を終えたニンジャスレイヤーに、「SHHHH!」3匹目のバイオ・コモドドラゴンが襲いかかる!その牙から毒液が噴き出す!素手で触れるのは明らかに危険!
ニンジャスレイヤーは咄嗟にその場にあったオフィスチェアを掴み、「イヤーッ!」SMASH!それでコモドドラゴンを殴る!「SHH!?」吹き飛ばされるコモドドラゴン!
『何なんだい、こいつは!ヨロシサンのボンクラじゃねえ!』チェミの叫び。どうやら電子空間で別のハッカーと格闘しているものか。『アタシと同じヤバイ級だ!それも前からここに網を張ってやがったな!チキショ!』
「「「チェラッコラーッ!」」」ヤクザ警備兵たちが会議室内へ入ってくる!狭い室内でニードルガンを避け続けるのは至難!「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは躊躇なく……窓へ、飛んだ!CRAAASH!!
……無重力がニンジャスレイヤーを包んだ。視界いっぱいにスギナミ・ディストリクトの雑多な街並みの俯瞰が広がる。彼女を迎えた。地上35階。高さは100m強か。風が吹いて、重金属酸性雨の雫がメンポを打ち、高所への恐怖を呼び起こした。意思の力でそれを塗り潰す。
「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは自分の真横にある、外壁から突き出した配管を蹴って斜めに跳んだ!跳んだ先にも配管!「イヤーッ!」蹴って跳ぶ!その先にも配管!「イヤーッ!」蹴って跳ぶ!
おお、それは一流のパルクール選手にも不可能であろう、ニンジャ身体能力だけが実現する立体機動!高度はたちまちのうちに上昇してゆく!36階を通過!37階を通過!38階!
『ニンジャスレイヤー=サン!上だ!』チェミの警告の直後、CRAAASH!!「「「ザッケンナコラーッ!」」」ナムサン!頭上、41階のガラス窓が内側から割られ、クローンヤクザ警備兵3人が前のめりになって顔を出す!
「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは両手で真上へスリケンを投げる!「「グワーッ!」」頭上で警備兵2人が額にスリケンを受けて死亡!「スッゾコラーッ!」しかし残る1人がニードルガンを発射する!プシュプシュ!
「グワーッ!」ニンジャスレイヤーの肩に毒針が命中!このままでは撃たれ放題だ!彼女はとっさに、最後の配管跳びをビル側へ軌道修正し、目の前にあった38階のガラス窓へ飛び込む!
【続く】