恋する復讐者◆暗黒の7日間   作:ボブ・ニンジャ

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ヨロシサン・アンチドート・クエスト#8/8

 

「厄介なノロイをかけられたようね」白い蛾が宙を舞う。誰の声だ?この蛾の声だ。「ドーモ、ワイヤープラー=サン。リーンハートです」

 

リーンハート。そうだ、このニンジャは名前をリーンハートといった。そしてワイヤープラー……俺の名前だ。「そうだ、俺はワイヤープラー……です。ドーモ」思い出して、アイサツを返す。

 

ワイヤープラーは自分が中学校のショドー部室にいるのに気づいた。壁際には何枚かの額縁入りのショドーと、教材の収まったキャビネット。室内にある机と椅子は3組。

 

ワイヤープラーはそのうち1つに着席している。1つは空席。もう1つには……緑色の、顔のない人型が静かに座っていた。CG合成用スーツを纏ったスタントマンに似ていたが、どこかニンジャらしい雰囲気があった。

 

「あなたのニューロンの中はずいぶん快適になったものね。それとも元々こうで、明るく鮮明になっただけなのかしらぁ」白い蛾は緑色の人型の周りをひらひら飛んだ。「この子もずいぶんハッキリしたわね」人型はそれをぼんやり目で追うような仕草を見せた。

 

「俺のニューロンの中なのか?ここは」ワイヤープラーはあたりを見回した。そして人形を睨んだ。「こいつは誰なんだ?」「あなたに憑依したニンジャソウルよ」「それは……つまり、なんていう名前のニンジャなんだ?生きている間に何をやった?」「それはわからないわね」

 

リーンハートは迷うようにふらふら飛んだ。「ニンジャソウルになると、生前の自我や記憶は消えるものよ。このソウルも、どうやらグレーター級だったらしいということしかわからないわ……グレーター級以下は元々、固有のニンジャネームもない没個性な存在」「有象無象だったってことか」

 

「ニンジャの大半はその有象無象よ。しかし今、あなたはそこから脱する道の入口に立っているわ」ワイヤープラーは眉をひそめ、何か言おうとした。リーンハートがそれを遮った。「ああ、くどいとは言わないでほしいわ。私もあなたの状況が変化したからこそ、こうしてまた誘いをかけに来たのよ」

 

「状況が変化だと?」「そう。あなた、女性のニンジャと親しくするようになったわよね」「……」ワイヤープラーは訝しんだ。「あんた、どこまで俺のことを把握している?」「調べるのはシツレイだったかしら。ごめんなさいね。ただ、異性のニンジャと親しくしていることだけが今の私の関心事だから、他はよく調べていないわ」

 

リーンハートの言うことは奇妙だったが、逆に言えばこちらを耳触りの良い言葉で騙す意図はないとも思える……それに。「あんたのドージョー、ソウカイヤ系だったよな」「ええ。系列というより、対等な立場で提携しているだけだけど。少なくとも外形的には」

 

然り。このリーンハートが率いるニンジャクラン……ネオ・ジョルリニンジャクランは、山奥でストイックに修行だけしているわけではない。このネオサイタマにドージョーを置き、ニンジャ人材育成や人材派遣のようなビズを行っているのだ。他の暗黒メガコーポや違法組織とも関わりを持っている……特に、ソウカイヤ。ザイバツと敵対する勢力だ。

 

「それならいい。俺たちは今ザイバツと少しモメてるもんでな」「大変なのね」「ああ。で、俺が女のニンジャと付き合ってると何か都合が悪いのか?」「逆よ。都合がいいの……あなたにとってね」蛾は人型の頭頂部に留まった。

 

「女性のニンジャというのは……最近少し事情の変化はあるようだけど……基本的に希少な存在よ。ゆえに異性のニンジャの親友、あるいは恋人を持つジョルリ使いというのは非常に稀……しかし、それが我がクランの秘技を修める前提条件なのよ」ワイヤープラーは唸った。「それはなんとも、ロマンチックな話だな。そういうカップルはドージョーにはいないのか」

 

「いないわ。私がそれを期待している子はいるけれど」蛾は複眼でワイヤープラーをじっと見た。「あなたは私の多くの弟子たちがどれほど望んでも立てないスタート地点に立っているのよ……」そして、ぶるりと身を震わせ、神秘的な力で小さな光の球体を生み出した。

 

球体はホタルのようにワイヤープラーの方へ飛んだ。恐る恐る手を差し出すと、その内に収まる。すると、彼の脳裏に一つの住所情報が浮かんだ。「私のクランの対外窓口の一つよ。他に行くところが無くなったら来るといいわ」

 

ワイヤープラーは悩んだ。今までのようにこのニンジャの誘いを拒絶することは簡単だ。しかし今、自分たちはザイバツに命を狙われる状況にある。いざという時、自分やミフデの命だけでも守るための駆け込み寺を確保しておくことは……「考えておく」短く答える。

 

「今までより少しいい答えがもらえたかしらぁ。あれを封印した甲斐があったというものね」「あれだと?」ワイヤープラーは部室を見回した。キャビネットの脇に、見覚えのない異物があった。数十センチほどの大きさの樽、あるいはダルマのような形の、木材をヨセギめいて複雑に組み合わせた容器……今、微かに震えたか?

 

「何か、妙な煙を出す獣みたいなノロイだったわね……この部屋を歩き回って煙まみれにしてたのよ。心当たりはあるかしらぁ」「……ある」ワイヤープラーはミフデと出会う以前に殺したニンジャ、シウンテイパーのことを想起した。悪夢を見せるジツを持っていたニンジャ。奴の死後、自分はしばらく悪夢を見るようになっていた。

 

「じゃあ、それを解決してあげたということよ。私がね」「……それは、アリガト・ゴザイマス。何かお返しをした方が?」「そうね。まあ、こんなことの対価とか貸しとかでどうこうとか言ってもつまらないし」蛾は小首を傾げた。「あなたに好かれるためにやったと思っておいて頂戴。私は尽くす女よ」

 

「……それはドーモ」ワイヤープラーは曖昧にオジギした。相手の真意を測りかねていた。まさかただ軽口を言っているだけなのか?悠久の時を生きるリアルニンジャを自称する者が?

 

「さて。暑くなってきたわね」リーンハートが人型から飛び立った。人型が苦しげに身じろぎした。「暑い?」ワイヤープラーがまた部室を見回すと、換気扇からチリチリと赤黒い火花が吹き込んできているのが見えた。すぐ外で焚き火でもしているかのようだ。あれのせいで暑いと言われれば納得できるが、ワイヤープラー自身は何とも感じぬ。

 

「あのノロイも苦しんでたみたいだったわね。多分あなたの物理肉体の近くに何かあるんじゃないかしら。何かのニンジャ・オーパーツか、もしくは強力なニンジャソウルかしらぁ」リーンハートは独り言めいて言い、壁に貼られた「社交」のショドーを窓めいてすり抜け、姿を消す。「くれぐれも、お友達を大事になさい。ではオタッシャデー」

 

「ハイ、オタッシャデー」ワイヤープラーはそれを見送り、その後、キャビネットの脇のヨセギダルマを見た。今やそれは明らかにガタガタと震えていた。このノロイも暑苦しく感じているのか?

 

ふと、ワイヤープラーは自分の右手に熱を感じた。暑苦しいものではなく、冬のカイロめいて心地よい熱を。

 

【Avenger in love】

 

……ワイヤープラーは目を覚ました。青白い蛍光灯の下、ハザメイ・クリニックの天井。壁に12月29日を示すカレンダー。

 

「センパイ?」ミフデの声だ。朦朧とした意識の中でも、それだけはわかった。だるい体を強いて動かすと、ベッドの脇で椅子に座り、こちらの右手を握る彼女の姿が見えた。

 

「……ミフデ……ミフデ=サン」ワイヤープラーは酸素マスク越しで3日ぶりに発声し、ようやくそれだけ言った。ミフデの両目から涙が溢れた。「センパイ……センパァァーイ!」

 

ミフデはワイヤープラーに覆い被さるようにして抱きつき、大声で泣き出した。「アアーン!センパイ死んでない……センパイ生きてるぅ!ウウッ、グスッ!」「お、おい……!」ワイヤープラーはミフデの体重と体温、体の柔らかさを感じて、少年のように当惑した。そして、彼女の体のあちこちが真新しいバイオ包帯やギプスに覆われていることに気づいた。

 

「……無茶……したらしいな」ワイヤープラーは口調が苦味走った。敵のスリケンを受けた直後、自分の体が急激に重くなり自由が効かなくなった時、彼はそのスリケンに毒が塗られていたことを悟った。そして、その敵が恐るべき手練れであったことを勘案して、毒は治療も許さず自分の命を容赦なく断つものだろうと他人事のように想像した……しかし自分は死なず、今、こうして意識を回復した。

 

「無茶しました!本当に大変だったんですからぁ!」ミフデは顔を上げた。整った顔立ちがくしゃくしゃになり、涙と鼻水に塗れてひどい有様だ。「みんなして……みんなして私のこと殺そうとするんですぅ……私は殺したくないのに……コモドドラゴンがぁ……」「コモドドラゴン?」「センパイ生きてるぅ……」

 

ミフデはそれ以上喋れず、またワイヤープラーに抱きついて泣き始めた。ワイヤープラーの胸中は複雑な感情でいっぱいになった。自分の命のためにミフデを何かしら危険な場所へ送り込んでしまったらしい罪悪感。ここまで傷だらけになって自分の命を救ってくれた彼女への感謝の念。そして自分の回復をここまで喜ばれることへの嬉しさ……こんな、人殺しのニンジャの自分の回復を。

 

「バカだなあお前は……俺なんかのために、こんな怪我して……」ワイヤープラーはミフデの頭を撫でた。柔らかな髪だ。「ぐすっ、撫でないで、ひっく!撫でないでくださぁい」ミフデが言うが、顔は上げていない。「犬じゃありませぇん」

 

「うるせえな。じゃあどうしろっていうんだよ……お前を褒めてやるのによ」馴れ馴れしいか、と思ったが、手を止められなかった。胸がいっぱいで、理性が十分働かなかった。

 

「ありがとう……ありがとうな……グスッ」いつしかワイヤープラーも涙を流していた。ニンジャになって以来消え失せていたかのような情動だった。

 

病室の扉の外で、チェミが闇医者ハザメイと顔を見合わせ、肩をすくめた。まだしばらく入れそうにない。その横では看護師ニンジャのスカルスマッシュがもらい泣きして、鼻をすすり上げていた。

 

【Avenger in love】

 

……時はやや遡り、12月28日午後。

 

「骨に染みる/自分のバカさ/つける薬なし……!」ヤクシマルは巧みなハイクを詠み、ドス・ダガーで自分の腹を深々と切り裂いた。セプクである!「アバーッ!」腹からおびただしい血液と内臓が溢れ出る!

 

「イヤーッ!」ヨロシサンのニンジャ、ラムダファージがチョップで彼の首を刎ねた。カイシャク!死体は前のめりに倒れ、ボーンブレードが殺したスマキ死体の群れに加わった。

 

「まるでツキジだな!」ザビヤマはスギナミ支社長室のそうした景色を辟易として眺めた。彼はヨロシサン製薬の役員であり、ネオサイタマ西部の支社群を統括する立場にある。ヨロシサン本社はニンジャスレイヤーとスゲンがこの支社を去った後、遅れて事態に気がつき、この男と彼が指揮する増援部隊を送り込んだのだ……そしてこの男がヤクシマルにセプクを命じたのである。

 

「ドーモ、ザビヤマ=サン」2人目のニンジャ、ディセクションが本社直属エリートクローンヤクザたちを連れて入室した。「もう一度チェックしましたが、やはり機密サーバにデータのコピーや移動をした痕跡はありません。金庫の中身もすべて無事です」

 

「ふむ。とすると侵入者の目的は何だったんだ?」ザビヤマは首を捻る。「地下14階からジャンクを一つ拾って行ったようだが、このビルに侵入するリスクに見合っているとは思えん……我々としてはこの支社のネットセキュリティの緩さやヤクシマルの無能さに気づけて助かったが」

 

『『『彼らはこのビルを自爆させようとしたのですよ』』』突如、支社長室の電子機器全てがまったく同じ音声を発した。ザビヤマの持つ携帯端末もだ!「ワッツ!?」ザビヤマは驚いて端末を見た。モニタに謎の女性アバターが表示されている!

 

『ドーモ、ザビヤマ=サン』女性アバターはクラシカルなドレスを纏っており、その髪は幻想的な虹色でどこまでも長く伸びていた。鼻から上は仮面めいたシックなメンポで隠している。『ザイバツ・グランドマスター、ラプンツェルです』そしてカーテシーめいてスカートを摘んでオジギ。

 

「なんだ、ザイバツの人か。驚かせんでくださいよ」ザビヤマは安堵の溜息をつき、警戒していた部下ニンジャ2人に休めのハンドサインをした。「……して、自爆とは?」『このビルには地上施設をコッパ・ミジンする機構が存在するのですよ。ヤバイ級以上のハッカーがよく調べないと分からないことですが』

 

ザビヤマは唸った。「バカな。そんな話は誰からも」『おそらく先代スギナミ支社長の方が秘密裏になさったことと推察します』「ああ、パスド=サンか。あれはたしかに少し様子のおかしな男でした。さもありなん」『自爆装置の操作システムは地下15階の隠しフロアにある様子。スタンドアロンのようですが』

 

「行けッ!」ザビヤマはディセクションに命じる。「ヨロコンデー!」ディセクションはクローンヤクザたちを率いて駆け足で退室した。『……ただ、爆破を試みたのは侵入者の一部のみのようです』ラプンツェルが付け加える。「一部?」『ハイ。今回の侵入者は2つのグループに分かれており、相互に敵対していた様子』

 

端末のモニタにいくつかウィンドウが開き、プログラム・コードの羅列が提示された。ザビヤマはその内容を理解できなかった。「エート、これは?」『この支社のネットワークに残されていた、今回のハッカーたちの工作痕跡です。両者ともこの場への往復の足跡はよく隠していますが、争った痕跡は消し切れなかったようで』

 

「つまり、今回の一件は2つの反ヨロシ勢力がこの支社に同時に侵入したものと?」『ご明察……』ラプンツェルはうっそりと答える。ザビヤマの横に控えるラムダファージのニンジャ聴力は、ラプンツェルの通信音声に微かな電子的歪みを感じた。(きわめて自然な電子合成音声、あるいはボイスチェンジャーか)

 

『私はこれより御社とのケツモチ契約に従い、侵入したハッカーを追跡します。必ずやその正体を暴き、ニューロンを焼き切ってご覧に入れましょう』ラプンツェルは芝居がかった仕草でセンスを広げた。センスの表側には「罪罰影業組合」とショドーされている。そういうテクスチャなのだ。

 

『私の前では、ファイヤーウォールなどショウジ戸も同然なのですから……』センスの裏側には非ニンジャすべてを卑下する「格差社会」の4文字がショドーされているが、ラプンツェルはヨロシサン側にそれを見せることはない。今はまだ……。

 

【Avenger in love】

 

……時は再び下り、12月29日。

 

「実際、我がクラン内部の問題です」カワズヌマは強調した。彼はウシガエルめいて太った体を高級スーツに包んだヤクザ・オヤブンである。「いかにもこの事務所はソウカイ・ニンジャのカチコミを受け、多少ダメージを受けました。しかしボスである私はこうして無傷……シノギ業務も問題なく行えます」

 

「ナルホド」ザイバツニンジャ・アイボリーカラスはぞんざいに相槌を打った。そして周囲を……モーレツ・ブルフロッグ・ヤクザクランの事務所を見回した。窓がダンボールで塞がれている。壁にクラックが残っている。ヤクザキャビネットはどれもガラス扉が割れ、中身の並べ方は乱雑である。

 

「ご心配なさらずとも」カワズヌマがその視線を咎めるように言う。「ザイバツへの上納金は問題なく収めさせていただく。この事務所も数日中には問題なく復旧いたすゆえ」彼の背後には重サイバネのヨージンボが4人立ち、無言の圧力を発している。

 

彼らはこの1週間、オヤブンであるカワズヌマの商談に同行して事務所を離れていた。仮に彼らがこの事務所に留まっていれば、襲撃者がニンジャであっても、囲んで棒で叩くことで対処できたはず……カワズヌマはそう考えていた。

 

「そうでしょうとも。何、私はあなた方の腹を探りに来たわけではないのです」アイボリーカラスはそう言って、ザイバツ紋スーツの内ポケットから1枚の写真を取り出した。オレンジ色の装束を纏った少女ニンジャ……トキシーだ。

 

「このニンジャはトキシー=サンといい、我々の敵対勢力『ソウカイヤ』の構成員です。我々は彼女を追跡し、ここまで辿り着きました……すなわち、彼女がこの事務所にカチコミした張本人であるということ」「なんと」カワズヌマは写真を受け取り、不服げに唸った。「このような子娘が私のオフィスと部下たちを」

 

「我々はトキシー=サンを追いたい。それがあなた方の心情にもとることとも思います。ただ、そのための判断材料として……彼女が何を行動指針としているのか知る必要がある」アイボリーカラスはどんよりした目でカワズヌマを見た。「この事務所に何か、トキシー=サンが置いていったものはありませんでしたか。あるいは持ち去られた、連れ去られたものは」

 

カワズヌマは唸った。「……金庫の中の金品と、武器が少し。あとヤクザベンツが1台無くなっていましたな」「ほう。金庫は破壊されていましたか」「いえ、正常に解錠されていました」しばしの沈黙の後、付け加える。「おそらく、我がクランのハンザワがそのトキシー=サンに与したものと」

 

「ほう。そのハンザワ=サンとはいかなる」アイボリーカラスは新情報にも色気を出さず、落ち着き払ってリョクチャを飲んだ。「ベテランのグレーターヤクザです。事務所の留守を任せていました……しかし、私が戻った時にはオリガミ・メールと借用書なるものを残して出奔を」

 

カワズヌマは身内の不始末を晒す嫌悪感を堪えつつ、オリガミ・メールの内容を語った。曰く、トキシーというザイバツニンジャがブルフロッグを裏切り、事務所を何らかの機密ミッションの拠点として使うべく制圧したのだと。自分はそのミッションの謎を暴くべく、しばらく金品と武器を借用する……等々。

 

「アイボリーカラス=サンのお話からすれば、このオリガミはケジメ逃れの真っ赤な嘘ということになります」カワズヌマは苦々しげに言う。「信じがたいことです。奴は筋を通すことには人一倍こだわる男で、だからこそ目をかけてやっていたんですが」

 

「それはお気の毒に……では、長居もなんですので、そろそろお暇します」アイボリーカラスはやにわ席を立つ。「おや、そうですか」カワズヌマは微かに安堵の表情を漏らした。ヤクザオヤブンにとっても、ザイバツ・マスターニンジャとの会見はスゴイ級の緊張状態なのだ。

 

「おいスガヤマ、お見送りを……」カワズヌマが部下に命じようとするのを、「いえ、それは結構」アイボリーカラスが遮る。そして、気づくといつの間にか、カタナを抜いていた。

 

「何……」カワズヌマがそれに反応しようとした瞬間、「「「「アバーッ!?」」」」ナ、ナムサン!彼の背後にいた4人の重サイバネヨージンボは一斉にヒラキめいて体を切り裂かれ、大量の血を噴き出してソクシ!オイル混じりの鮮血がカワズヌマの頭の上から降り注ぐ!「何オラーッ!?」アイボリーカラスが斬ったのであろうか?いつ?カタナを抜いた一瞬で?

 

「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」続けざまアイボリーカラスは機関銃じみた速さでスリケンを連射し、周囲の一般ヤクザを虐殺した。1人としてチャカすら抜けぬまま全滅!

 

「ダッテメコラーッザッケンナグワーッ!」カワズヌマはチャカを抜こうとしたが、アイボリーカラスがその腕を蹴り折った。チャカは持ち主の手を逃れて遠くへ吹き飛んでいった。「ハンザワ=サンが書き残したことは本当だ」アイボリーカラスは無感情な声で告げた。

 

「何だと!?なんでテメエらザイバツが俺の事務所を襲う!?」カワズヌマは尻餅をつき、後ずさる。背後の「罪罰」のカケジクがアイロニックだ。

 

「それは機密だ。とにかく重大な機密ゆえ、この事務所でそれに関係する騒動があったこと、私が今貴様から聞き込みをしたことも漏れないようにせねばならん」アイボリーカラスは手にカタナをぶら下げ、幽鬼めいて歩み寄った。

 

「ソマシャッテコラーッ!たわけたこと抜かしやがって!こんなことで俺のクランの命運が……畜生!ハンザワ=サン!とにかくどうにかしろーッ!」「イヤーッ!」「アバーッ!」アイボリーカラスはイアイでカワズヌマの首を刎ねた。

 

事務所内に静寂が戻った。今や床には血溜まりが広がり、その中に死体がいくつも転がっている。壁や天井もおびただしい血飛沫で汚れ、むせかえるような血の匂いが漂っている。まるでツキジだ。

 

アイボリーカラスは淡々とカタナの汚れを拭う……銀のカタナ、『ベッピン』。ザイバツ・シテンノの4人が各々1振りずつ持つ、強力無比なるニンジャウェポン。その真の力を発動せずとも、普通のカタナとしても切れ味は良い。

 

「ヒヒヒ、また派手にやりましたな」そこへ横から声がかかる。見ると、青い装束姿のザイバツニンジャが事務所に入ってきたところだった。顔面を覆うフルメンポには呪術的な筆致で大きな一つ目が描かれている。彼の名はミーターという。

 

「他のシテンノよりは大人しかろう」アイボリーカラスはベッピンを鞘に収める。キンと澄んだ音が鳴った。「ヤクザが1人奴らに加担した。戦闘の後、奴らはベンツでここを出たようだ。お前のジツで追えるな?」

 

「ヒヒーッ!もちろんですとも!」ミーターは引きつったような笑い声を上げた。2人のニンジャが血の海と化した事務所を後にするのを、壁のバイオウシガエル剥製だけが見ていた。

 

【ヨロシサン・アンチドート・クエスト】終




筆者多忙につき次回の更新は1週間後の8月2日となります。
申し訳ありません。
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