(『ドーモ、モーターヤブです!私はニンジャではないのであなたがたのアイサツは省略イヤーッ!』ロボットは早口の電子音声でまくし立て、BRATATATATATA!!ガトリング砲を発射した!)
集中砲火は蓮型玉座を粉々に破壊し、その後ろのブッダ像の足に深い弾痕を刻む。ニンジャであっても直撃すれば致命傷となる攻撃だ。しかしシウンテイパーは先んじてのアグラジャンプによってこれを完全に回避している。
そして空中で体を捻って、ブッダ像の顔を蹴ってトライアングル・リープし……「イヤーッ!」カノン砲のごとき鋭角トビゲリ!『ピガーッ!』直撃を受けてドージョー外へ弾き出されるモーターヤブ!
ロボの乱入からここまで、一瞬の出来事であった。ここに至ってやっと、周囲の非ニンジャ自我研修ボンズたちは何か物騒なことが起きたことに気づいて騒ぎ始める。「アイエエエ!?」「ワッザ!?」「ナンダ!ナンダ!」
シウンテイパーはトビゲリの反動で再跳躍し、空中で3回転して、かつて蓮型玉座があったところに着地した。正面、外の庭園を入口扉越しに睨む。モーターヤブがボディ正面部を凹ませながらも立ち上がる。
シウンテイパーはこのマシーンを知っている。暗黒メガコーポの一つ「オムラ・インダストリ」が製造する、警察・警備用ロボットである。ロボニンジャというキャッチコピーもあったか。そして目の前の機体は白と黒に塗り分けられ、頭部に赤色回転灯を備えている。
(この仕様はネオサイタマ市警の機体……ガサでしょうか?)ニンジャはバクメンポの奥で目を細める。(いや、他にマッポやデッカーはいないようですね。少なくとも正規の任務では単機で突っ込んでくることはないはず……そういえば、このロボットはAIの出来に問題があると聞いたことが)
『モーターヤブは先制攻撃後も降伏を受け付けています!』ロボニンジャが高らかにサイレンを鳴らしつつドージョーに再侵入する。「カンバヤマ=サン!ヒガンナミ=サン!そいつを破壊しなさい!」シウンテイパーは入口近くのスモトリボンズ2人に命じる!
「ド……ドッソイ!」「ハッキヨホ!」スモトリボンズのカンバヤマとヒガンナミは唐突なテッカバ状況に混乱しつつも、サスマタを構えてモーターヤブを迎え撃つ。しかし、モーターヤブはにわかに身を低く沈めたかと思うと、『イヤーッ!』逆関節脚で高く跳躍!
スモトリたちを飛び越え、空中で姿勢を制御して180度水平回転し、スモトリたちの無防備な背中を正面に捉える形で着地した!『イヤーッ!』「グワーッ!」モーターヤブのサスマタ攻撃がカンバヤマの首を後ろからへし折る!
「オノレーッ!?」ヒガンナミが向き直ったが、すでにガトリングガンの銃口が突きつけられている!『モーターヤブは公務執行妨害を許さないです』BRATATATA!!「アバーッ!」ナムサン!さすがのスモトリも至近距離から機関砲で撃たれれば死ぬ!
『モーターヤブは逮捕状を執行します』空薬莢が舞い落ちる中、ロボニンジャは再びドージョー奥のシウンテイパーに向き直った。『なお法定刑は死刑以上死刑未満です』
「まるでマーラの遣わした外道戦闘人形ですね」宗主ニンジャはスモトリボンズたちの死にもまるで動じずにそう言い放ち、指を鳴らす。「ではディグマン=サン、お願いします」
「イヤーッ!」その瞬間、自我研修ボンズのうちの1人が跳躍!空中で回転しながらケサ・ウェアを脱ぎ捨て、その裏に着込んでいた鈍色のニンジャ装束を顕にして、モーターヤブの眼前に着地した。このボンズもニンジャだ!「ドーモ、サンナスビ・テンプルのディグマ……」
『有形力行使イヤーッ!』BRATATATA!!モーターヤブがアイサツの終わりを待たずにガトリング砲をぶっ放した!「イヤーッ!」しかしディグマンは最初のアイサツ省略云々からそれを予測していたのか、素早く連続側転を繰り出して回避!
「ブディズムの教えどころか基本的なマナーも解さぬ鉄屑め!」ディグマンは両腕のサイバネ機構を作動させた。両手指が集束変形して高速回転!危険な殺人ドリルと化す!「スクラップに変えてくれよう!」
『急迫不正の侵害を認識な。正当防衛シーケンス開始』モーターヤブがガトリングガンで薙ぎ払う!BRATATATATATA!!超音速で乱れ飛ぶ大口径重金属弾によってテンプル内のフローリングが弾け飛び、丁度品や労働バーが片っ端から破壊される!非ニンジャ自我研修ボンズたちが悲鳴を上げて物陰に逃げ延びる!
「イヤーッ!」しかしディグマンは円を描くようにスプリントし、その猛烈な銃撃から逃げ切る!鋭い角度で急接近!モーターヤブはサスマタで迎撃しようとしたが、唐突にボディから軋むような金属音を発して硬直する。最初に受けたトビゲリのダメージによる動作不良だ!
「イヤーッ!」ディグマンの右手ドリルチョップ突き!『ピガーッ!』モーターヤブの右手が貫通破壊!「イヤーッ!」左手ドリルチョップ突き!『ピガーッ!』左手貫通破壊!
『モーターヤブは犯罪者を許さないです!』ロボの頭部が展開して機銃が迫り出し、「イヤーッ!」『ピガーッ!?』ディグマンのドリルチョップ突きが機銃を貫通破壊!「ブッダはお前のような胡乱な殺人機械の存在を許さん!」
なんたる一方的な戦闘展開か!このモーターヤブとて、チャンコ・ドラッグで超人的なパワーを得たスモトリを先ほど2人も殺した強力殺人ロボットだというのに!
「ニンジャは強い。他の何よりも」シウンテイパーは独りごちた。「だからこそ神話の時代以来、現在まで、全ての人間の歴史を影から支配してきた……」
他の無力なボンズたちにとって幸運だったのは、ディグマンがカラテを振るい始めた時点で彼ら全員がNRSを起こして昏倒しており、宗主ニンジャが口走ったこの悪魔的真実を知って即時発狂することがなかったことである。
「イヤーッ!」『ピガーッ!』ディグマンは足払いでモーターヤブを転倒させる。そしてマウントを取り、カワラワリめいたドリルチョップ突きで敵のボディを抉る!「イヤーッ!」『ピガーッ!』抉る!「イヤーッ!」『ピガーッ!』抉る!「イヤーッ!」『ピガーッ!』
KBAM!ロボニンジャは装甲の内側から爆発し、逆関節脚を引き攣るように縮めて……力なく伸ばし、そのまま動かなくなった。
ドリルが金属を抉る音の残響はしばらく残っていたが、すぐにそれも消える。環境音が戻ってきた。「……フーッ」シウンテイパーは気だるげに溜息を吐いた。「おそらくこの騒動は、そのロボのAIのバグによるものです。マッポとオムラ社に厳重に抗議して、損害賠償を請求しなくては」
「なるほど」ディグマンはザンシンを解き、ワンダーテイパーに向き直る。「しかし、このテンプル内の復旧はどう……」「イヤーッ!」
ディグマンには見えなかった。シウンテイパーにも見えなかった。2人の集中力の糸が切れた瞬間、思考をイクサから雑事に移したまさにその瞬間を狙って、ステルス装束を纏った襲撃者が入口扉から広間に飛び込みアンブッシュを仕掛けたのである。
「アバッ……?」ディグマンが気づいた時には、自分の胸板から他人の腕が生えていた。チョップ突きが貫通したのだ。「イヤーッ!」「アバッ」襲撃者は腕を引き抜きつつディグマンの背中を蹴飛ばした。
「ブッダよ!シウンテイパー=サン、私は……」ディグマンは倒れ込み、血の泡を吹きながらうわ言を言ったあと、「サヨナラ!」爆発四散した。
「……」シウンテイパーはたじろいだ。あまりにも唐突な部下の死。襲撃者のステルス装束は激しい動作をしたことで映像が乱れ、ほぼ全面モザイク状になっていた。不定形のオバケじみた存在を相手取るような感覚。「あなたは……何者ですか」
「ニンジャは強いと言ったな」襲撃者が口を開いた。「同感だ。だからこのモーターヤブはステゴマ。同じニンジャの俺がお前を直接殺す」ベルト部のコントローラを操作し、ステルス機能をオフにする。
モザイクのオバケが消え、ミラーめいた装束を纏う長身の男性ニンジャが現れた。そしてアイサツ。「ドーモはじめまして、シウンテイパー=サン。ワイヤープラーです」
「……ドーモ、ワイヤープラー=サン。シウンテイパーです」宗主ニンジャは渋々アイサツに応じた。「どこのアサシンさんでしょうか。神聖なテンプルにそのような胡乱な機械を送り込んで破壊活動を行ったうえ、ボンズであるディグマン=サンまで手にかけるとは……」
「神聖なテンプル?冗談はよせ」銀色のニンジャは吐き捨てるように言った。「お前の全てはとうに調べがついている。この無駄に豪華な施設も、その後ろのブッダ像も、ジツで洗脳した一般市民から巻き上げた金で作った下衆の産物だろうが」
「なるほど」シウンテイパーは少しも気分を害することなく頷いた。まったく痛いと思っていないからだ。「ではあなたは、私が洗脳したと称する一般市民から……いや、その親族あたりに雇われたフリーランスといったところでしょうか」
「……」ワイヤープラーは少し黙ったあと、カラテを構えた。「その点について答えるつもりはない。疑問を抱えたまま死ね」「イヤーッ!」シウンテイパーがスリケンを投げつける!「イヤーッ!」ワイヤープラーはクナイ・ダートを投げ返す!二つの飛び道具は空中で衝突し火花を上げて相殺消滅!
「イヤーッ!」シウンテイパーは3連続のバク転でブッダ像の後方まで退避し、懐から手のひら大の何かを……クロスカタナが刻印された押しボタンを取り出す!ソウカイヤへの救援要請発信装置である!「あなたとまともに戦うつもりはない。そのためにカネを払っている!イヤーッ!」押す!
ボタンが電子音声を発した。『通信エラーな。電波状況のよい場所で再試行推奨ドスエ』「何ですって?」シウンテイパーは呆気に取られた。このテンプルは複数の強力な無線LANルーターを備えているはずであり……
「イヤーッ!」ワイヤープラーが急接近してトビゲリを繰り出す!「グワーッ!」シウンテイパーは直撃を受けて吹き飛ばされ、大広間後方の壁に叩きつけられる!
「バカな、こんなことは……!」宗主ニンジャはもう一度ボタンを押す。『通信エラーな』さっきと同じ無愛想な電子音声が返ってきた。「調べがついていると言ったはずだぞ」ワイヤープラーは無感情に言う。「このテンプル内の回線は全て掌握済みだ。ケツモチなど呼ばせん」
「イヤーッ!」シウンテイパーは連続側転を繰り出し、大広間右側の出口へ退避を試みる。しかし!「イヤーッ!」ガラガラガシャン!おお、これは何たることか!?ワイヤープラーのシャウトとともに、出口のシャッターがひとりでに降りてシウンテイパーの行く手を塞ぐ!
「何!?イヤーッ!」シウンテイパーは驚きながらも方向転換し、連続側転で大広間左側の出口を目指す!しかし!「イヤーッ!」ガラガラガシャン!ワイヤープラーが念じるや、再びシャッターが降りて退路を封鎖!
宗主ニンジャは左側シャッター前で狼狽し立ち止まった。「ハッキング……いや、この反応速度は!」「イヤーッ!」そこにワイヤープラーの再トビゲリ!「ヌウーッ!」かろうじてガード!ワイヤープラーは反動で跳躍し、右側シャッター前に着地する。
2人のニンジャはブッダ像の眼前で御前試合めいて対面した。テンプル内は破壊された設備と昏倒したボンズ、モーターヤブの残骸が散乱し、硝煙の臭いが立ち込めるサツバツたる有様だ。ブッダ像は辟易として「ヤンナルネ」と呟いているかのようであった。
「俺に宿ったニンジャソウルは、古代のジョルリ・ニンジャクランの、グレーター級ニンジャのもの……らしいぞ」銀のアサシンニンジャは低く言う。その両手が緑色の超常の輝きを帯びた。「俺のジツにかかれば、このテンプル内の全ての無機物が俺の味方で、貴様の敵だ。おとなしくハイクを読め」
「ジョルリ使い……仏敵にふさわしい、せせこましい力ですね」シウンテイパーは苛立ちを滲ませつつ、逃走を断念してカラテを構えた。テンプルのセキュリティは後で見直す。今は目の前のこの敵を殺す!
「見せてあげましょう。ゲダツ求道者たる私の、崇高なるジツを!イイイヤアアアーーッ!!」宗主ニンジャが念じるや否や、ボシュウウーッ!その全身から紫色のガスが大量噴出し、たちまちテンプル内を満たした!
「私以外がこのガスを吸えばニンジャであっても10秒以内に昏倒し、悪夢を見ることになりますよ!」シウンテイパーはあえてジツの効果を明かした。精神的マウント!
「そして一度目覚めたとて、以後は死ぬまで眠るたび無限の悪夢に苦しむことになるのです!嫌ならせいぜい無呼吸でカラテしてみるがいい!」そして優位なカラテ戦闘への布石!シウンテイパーは勝ちを確信してチョップを構え突き進む。
しかしワイヤープラーは敵のジツに動揺することなく、ガスの向こうからまっすぐに接近してきたのである!「何!?」たじろぐシウンテイパー!「イヤーッ!」ワイヤープラーの右手チョップ!「グワーッ!」左肩鎖骨を砕かれる!
「イヤーッ!」立て続けに踏み込みながらの左拳!ポン・パンチである!ガードが間に合わない!「グワーッ!」シウンテイパーは鳩尾に打撃を受けて吹き飛ばされ、広間左側の壁に背中を打ちつける!
「オゴーッ!」宗主ニンジャはバクメンポの裏から嘔吐した。よろめきながら立ち上がって、右腕一本でカラテを構え直す。左腕は鎖骨を砕かれたことで力なく垂れ下がるばかりだ。「貴様、私の話を聞いていなかったのか……不信心な」
「ジツについての調べは特に容易かったぞ。非ニンジャ相手に散々使っていたようだからな」ワイヤープラーはガス吸引を警戒するそぶりもなく普通の調子で話した。
シウンテイパーはこの時になって初めて、敵のメンポがやけに大ぶりであることに気づいた。……ガスマスク、あるいは小型の酸素ボンベを組み込んでいるのか。「そして対策も容易い。これこそせせこましいジツだ」
「……」宗主ニンジャは黙り込む。……そして、確かなパワのある目でワイヤープラーを睨み返した。「いいでしょう。建てるのに苦労したこのテンプルを壊したくはなかったが、もう出し惜しみはなしだ」
ワイヤープラーは訝しんだ。「……ハッタリだ。貴様にこの状況を逆転する手段はない」「真の奥の手というものは」シウンテイパーは体を幻惑的に揺らめかせた。ガスとは違う何らかのオーラが生じる。「極限まで秘しておくものです……カァーッ!」
その瞬間、テンプルに閃光が走った。そして、DOOOM!!天井から巨大破砕音!ワイヤープラーは顔を引き攣らせつつ、「それ」を見上げた……一瞬のうちに、直立する巨大なバクに変身したシウンテイパーの姿を!大広間の天井に頭が激突するほどの巨体!なんたる怪物か!
【続く】