恋する復讐者◆暗黒の7日間   作:ボブ・ニンジャ

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ヴァーサス・タンク#3/3

 

……大地が割れたかのような爆音の後、高台にひとまずの平穏が戻った。熱風が粉塵を拭き払うと、頭上には乾いた青空が再び広がった。太陽がギラギラと照りつける。佇む戦車と、地面にメチャクチャに描かれたキャタピラ痕、散乱する一本松の残骸。背景ではバンザイ・ヌーク弾のキノコ雲が拡散しつつある。

 

「ハーッ、ハーッ……」車内で、ギアレイヴンはどうにか息を整えた。猛暑の中を走り回っていた敵よりマシとはいえ、長時間のタンク・ドー機動のために戦車の操縦系を目まぐるしく操作し続けるのは相当な疲労をもたらすことだった。

 

「……」サブメタルは耳を澄ました。静寂は続く。「……殺った。これは確実に殺ったっスよ。さすがのニンジャスレイヤー=サンも、片腕をやられた上この暑さでへばったところに今のヒサツ・ワザを喰らったら……!」

 

「ワシらはそれと同じことを考えたぞッ!バンザイ・ヌーク弾の時にも!」ギアレイヴンはカッと目を見開き、ペリスコープを覗き込む!戦車の周囲を確認!

 

ボコッ!後方の地面が小さく隆起したかと思うと、「イヤーッ!」土に塗れた何かが姿を現した。どうやら赤黒いニンジャだ。顔を右腕で乱雑に拭うと、ルビー色の双眸が再びこちらを見返す!ニンジャスレイヤー!

 

「バカな!どうやってさっきのヒサツ・ワザを!?」ギアレイヴンが驚愕!「ウワッ、クソーッ!ありゃドトン・ジツッスよ!カラテで地面を掘って避けたんだ!」サブメタルが遅れてスコープを見て、慌てて主砲の再装填を始める!自分もドトンの使い手なので理解が早い!

 

ギアレイヴンのニューロン内に2つの選択肢が生じた。1つ目は車体と砲塔の回転を再開して防御を固めること。2つ目はとにかくいち早く攻撃すること。主砲か機関銃を使うことになろう……しかし、どちらもすでに回避されたことがある。そしてスコープの向こうの、あの……ゾッとするほど美しい、ルビー色の瞳!

 

『イヤーッ!』ギアレイヴンは1つ目の選択肢を採った!ギャルルルルッ!車体と砲塔が三度高速回転を始め、装甲と併せて全てを弾き返す無敵の城と化した。ニンジャスレイヤーは……またも、スリケンを振りかぶった。

 

ギアレイヴンは更なる奇策が飛んでこなかったことに安堵し、せせら笑った。『スリケンは無駄だと何度言えば!』「無駄じゃない!イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは叫び、スリケンを投げた!

 

ガキン!ギガガガガッ!「「「グワーッ!?」」」激震が車内の3人を襲った。絶叫じみた異音は砲塔と車体の接合部からだ。……砲塔の回転が止まっている!

 

「ブッダ!何故!?」サブメタルが驚愕!「ま……まさか!」ギアレイヴンの脳裏に、この事態を引き起こしうるただ一つの可能性が浮かんだ。

 

(((もしも、最初に受けたあのトライアングル・トビゲリの衝撃で、接合部に……ワシが気づかんほどわずかな……亀裂か歪みが生じていたとしたら。奴が砲塔回転の調子や異音からそれに気づき、初めからそこを狙ってスリケンを投げていたとしたら!)))

 

ギアレイヴンは焦燥とともに足元の接合部に目を走らせた。確かに小さな亀裂はあった。そしてその箇所に外側からスリケンが突き刺さり、亀裂を押し広げて、砲塔の回転を妨げていた!

 

「ウオアアアーッ!?」ギアレイヴンは叫んだ!50年以上に及ぶ戦車兵としての経験を、サブメタルよりもなお若いニンジャスレイヤーに上回られた衝撃!……そして叫びながらも、工具に手を伸ばす!熟練でありニンジャでもある彼が応急修理に要する時間はわずか10秒!

 

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは乗員が慌てている間に戦車の車体の回転を見切り、砲塔の後ろに飛び乗った。これまでは砲塔が回転するたび主砲砲身が薙ぎ払っていた位置だが、もはやその障害はない。

 

左手はやはり動かない。右手一つを砲塔の下にかけ、両足を踏ん張る。オスモウめいた姿勢。「イイイイイ……!」ニンジャスレイヤーの背中と右腕に縄めいた筋肉が浮かび上がる。

 

まさか、ニンジャスレイヤーは重量20トンの砲塔を引っこ抜くつもりであろうか?腕一本で?狂気の沙汰だ……しかし彼女はニンジャであり、ニンジャスレイヤーなのだ。狂気など元から彼女の内にある。メキメキッ!砲塔の接合部が軋む!

 

しかしその時!ニンジャスレイヤーの背後の金属製エンジングリルが奇妙に水面めいて波打ったかと思うと、「イヤーッ!」SPLASH!!飛沫をあげて弾け、そこからサブメタルが飛び出したのだ!土だけでなく金属にも潜航する特殊ドトン・ジツである。ほとんどシェイプシフターじみている!

 

「とったりーッ!」サブメタルはタント・ダガーをニンジャスレイヤーの無防備な背中めがけ、「イヤーッ!」「グワーッ!?」ニンジャスレイヤーのシカめいた後ろ蹴りがサブメタルの肋骨を砕き、吹き飛ばした!ナラクの警告によりドトンは想定済みだ!

 

「ゴボッ!畜生!何故俺のアンブッシュを……!?」サブメタルは血と恨み言を吐きながらエンジングリルの中に潜航して姿を消した。

 

ニンジャスレイヤーはそれを無視して、なおも右腕に力を込める。「イイイイイ……!」ボウッ!ボウンッ!右腕が断続的に超常の黒い炎を噴き始めた。メキメキッ!バキッ!接合部から破壊音!砲塔が傾き、わずかに浮き始めた!

 

ガチャン!砲塔上部でハッチが開く!「おのれーッ!ニンジャスレイヤー=サン!」ギアレイヴンが修理用バールを構えて飛び出した!もはや修理は間に合わぬとみたか?……だが、その判断はあまりにも遅すぎた!

 

「イイイイイイイヤアアアアアアーーーッ!!!」ニンジャスレイヤーの右腕がはちきれんばかりにパンプアップし、黒炎が最高時速666kmを叩き出すニトロターボエンジンじみて溢れ出した!

 

バキバキッ!ボキン!接合部が完全破壊!ニンジャスレイヤーは力任せに砲塔を引っこ抜いて、投げ捨てた!ウッチャリ!

 

CRAAAASH!!砲塔は上下逆さまになって落下!「グワーーーッ!!」ギアレイヴンは不安定な姿勢のまま重量20トンの下敷きになった!ボギャッ!全身の骨が砕ける音!

 

ギアレイヴンのソーマト・リコールはごく短かった。第三次世界大戦中のあの勝ち戦でも、あの負け戦でもなく、ただ、ついさっき見たニンジャスレイヤーの瞳だけがフラッシュバックした。

 

(((あの時の2つの選択肢……ワシは判断を誤った。奴は避けながらスリケンを投げ続ける過程で相当消耗した。あらためて攻撃すれば結果は出せた。わかっていたはずなのだ。なぜ判断を誤った?……怯んだのか?熟練の戦車兵でありニンジャであるこのワシが、あんな小娘の目つき一つに?奴が次々と打ち出す奇策に、ワシが怯えていたとでも……!)))

 

「サ……サヨナラ!」ギアレイヴンは混乱のうちに爆発四散!ニンジャスレイヤーはそれを一瞥すると、砲塔から車体へ目を移した。今や砲塔があった場所に大穴が空いている。

 

「ザッケンナコラーッ!」運転手が振り返って大穴越しにニンジャスレイヤーを見とめ、戦車兵チャカを抜こうとするが、「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは湾岸警備隊制式手榴弾"HAU-12"を取り出し、歯で安全ピンを抜いて車内へ投げ込んだ!

 

CABOOOM!!「アバーッ!」運転手爆死!この爆発で制御系も破壊され、戦車は自走能力を失った。砲塔も逆さまになった状態で機能しようはずもない。ニンジャスレイヤーはついに生身で戦車を破壊してみせたのだ!ゴウランガ!

 

ニンジャスレイヤーは戦車から飛び離れ、数秒の間ジュー・ジツを構えてザンシンした。その後、力尽きたようにガクリと膝をついた。

 

「ゼーッ、ハーッ……」熱射病になりかかっているのは演技ではなかった。頭上の太陽が近い。視界と平衡感覚が危うい。頭上の太陽だけが、ただ近い。バーベキューグリルで炙られているかのようだ。

 

早く日陰へ。いや、敵戦車の中に飲み物が残っていないか探したほうが。それより何か忘れてはいないか……思考が定まらない……とにかく日陰へ。違う!何か大事なことを忘れているはずだ!サブメタル!

 

SPLAAASH!!「とったりーッ!」背後の地面が飛沫をあげて弾け、血みどろのサブメタルが飛び出した!タント・ダガーで斬りつける!「グワーッ!」ニンジャスレイヤーは体を斜めに斬り裂かれたが、かろうじて身をよじり、急所を避ける!

 

「イヤーッ!」サブメタルは追撃のケリ・キックを繰り出すが、「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーの回し蹴りがハヤイ!

 

「グワーッ!」サブメタルは吹き飛んで地面に転がった。……ニンジャスレイヤーはその一瞬のうちに、敵がそのまま爆発四散することをどれだけ祈っただろうか?……しかし、サブメタルは手をついて起き上がったのだ!

 

「アア、シブトイですね……!クソが!」ニンジャスレイヤーは心底辟易としながらジュー・ジツを構える!「私は疲れたんですよ、もう……見てわかりませんか?クソ暑い!」支離滅裂な言動!

 

「ハハハ!シブトイのはお互い様だろ……!」サブメタルも重傷であり口からボタボタと血を溢しているほどだが、直前まで冷房の効いた車内にいたので意識は鮮明!「疲れた?暑い?だったら楽にしてやるぜ……まさか現状を互角だとでも思ってんじゃないだろうな?」

 

「何ですっ、て……?」ニンジャスレイヤーは、自分が再び膝をついているのに気づいた。立ちあがろうとするが、うまくいかない。熱射病とは明らかに異質な……動こうと考えても、手足が反応しない……これは!

 

「毒だぜ。麻痺毒だ」サブメタルはダガーの刃を見せつけた。奇妙なツヤ。何かの薬品が塗られているのだ。「そもそも俺の本領は戦車乗りなんかじゃねェ。こうしてドトン・アンブッシュで毒を喰らわせて、しかるのちに……!」

 

サブメタルがダガーを一振りすると、ジャキン!刃が特殊警棒めいたギミックで伸長し、カタナに変形した!

 

「アア……アアアーッ!!」ニンジャスレイヤーは絶叫した!動け、体!「終わりだ、ニンジャスレイヤー=サン!ジゴクに行ったらギアレイヴンの爺さんによろしくなーッ!」サブメタルはカタナを振りかぶった!

 

ドスッ!ドスドスッ!「……!」鈍い音がしたと思うと、サブメタルが目を剥き、動きを止めた。そして先ほどのニンジャスレイヤーの再現のように膝をついた後、うつ伏せに倒れた。乾いた地面が土埃を立てた。

 

ニンジャスレイヤーはサブメタルの背中にクナイ・ダートが何本か突き刺さっているのを見た。後ろから投げつけられたのだ。誰が投げた?……銀色の装束を纏ったニンジャが走ってくる。

 

「ニンジャスレイヤー=サン!大丈夫か!?」銀のニンジャはニンジャスレイヤーに駆け寄り、抱え起こした。ニンジャスレイヤーはその声と匂いに、全身の緊張をいっぺんに解きほぐされるような安堵を味わった。「ああ……ワ、ワイヤープラー=サン……!」

 

「そうだ、お前のワイヤープラーだ!遅くなって本当にすまない」銀のニンジャの正体は、ニンジャスレイヤーのカレシ、ワイヤープラーことスズリガ・タグルであった!「これでも今回の件が罠だとわかってすぐに飛んできたんだが……ああ畜生、大丈夫かなんて聞いたが、どう見ても大丈夫じゃないな。またこんなに怪我をして!」

 

「ホラ、とりあえず水だ!」ワイヤープラーはよく冷えたミネラルウォーターのボトルを取り出し、ニンジャスレイヤーに飲ませてやった。「ゴクッ!ゴクッ!ゴクッ!」その水のうまいこと!枯れたオアシスが蘇るかのように乾きがみるみる癒されてゆくのを感じる。ニンジャスレイヤーは泣きそうになった。「ああ、センパイ……アリガト・ゴザイマス……!」

 

「ち、畜生……いきなり新手なんざ、理不尽な」サブメタルがもがいた。「しかも最期に見るのが、自分を痛めつけた連中がイチャついてる景色なんて……最悪だぜ……」

 

「やかましい!イヤーッ!」ワイヤープラーはクナイ・ダートを投げた!「グワーッ!」サブメタルの額に突き刺さる!「サヨナラ!」爆発四散!

 

……「ああ!天国です。ゴクラクです!」ニンジャスレイヤーは冷房の効いた車内で伸びをした。左腕の傷とサブメタルに斬られた傷にはバイオ包帯が巻かれている。麻痺毒もすでに効果は消えていた。「エアコンは人類最大の叡智ですね。よくわかります。涼しいと頭がよく回ります!きっとノーベル賞発明のいくつかはエアコンのおかげで出来ましたよ」

 

「ところでニンジャスレイヤー=サン、あの戦車はお前がやったのか?すっかりスクラップになってたが」ワイヤープラーが運転しつつ尋ねる。「ええ。上の部分を引っこ抜いて壊しました」「引っこ抜いた?どうやって」「エッ?普通に手でですけど」

 

「手で!?……しかし、左腕は動かないって言ってなかったか?」「ええ、ですから右腕で」「右腕一本で?」「ハイ」「……」ワイヤープラーは今更のように自分のカノジョの馬鹿力に戦慄した。そして今後彼女との間に少しでも暴力の介在する喧嘩が発生しないことを祈った。

 

あれほど凶暴だった太陽は、今やしおらしく西の地平線へ沈もうとしていた。荒野は夕日で茜色に染まっている。2人を乗せたヤクザベンツはひび割れたアスファルトの道を疾走し、「ネオサイタマまで200km」の標識の横を通って、なおも走っていく。太陽に代わって天に昇った一番星がそれを見下ろしていた。

 

【ヴァーサス・タンク】終

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