恋する復讐者◆暗黒の7日間   作:ボブ・ニンジャ

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オーボンナイト・ゴーストライダーズ#3

 

 同日、ネオサイタマ繁華街。今日も空は灰色の汚染雲に覆われているが、その向こうでは太陽が真上に登ったころであろうか。通りに面した飲み屋から店員が1人、アクビをしながら出てきた。「バカ」「スラムダンク」などとスプレーで落書きされたシャッターを見て鼻を鳴らした後、一息に引き開ける。ぼちぼち開店だ。

 

「いいかササキィ~!俺だって若い頃はずいぶんヤンチャしてなァ、イック!」「デスネー」早くも千鳥足のサラリマンが、部下サラリマンに肩を貸されながら歩いていく。「それがなんでえ、上司も取引先もよォ、俺のことを見下してバカにしくさってよォ!イック!」「デスネー」「昔はよかった!」「ハイハイ」

 

その横を、小柄な人影がすり抜けた。薄手の防塵ジャケットを着て、フードを目深に被っている。「……」フードの人影は足が速い。動きのペースは早歩き程度に見えるのに、表通りをスルスルと進み、サラリマン2人はたちまち遠ざかっていく。「今夜はお安く一杯」のネオン看板に明かりが灯るのを尻目に、路地裏へ。

 

そこにぼんやり座り込んでいる老人は片足がない。「私はWW3でよく戦いました」という立札と空き缶。「……」フードの人影はそれを一瞥して、通り過ぎる。近くのビルの裏口へ。カードキーを扉のスキャナーにかざす動作ももどかしく、『認証な』の電子音声とともに扉を押し開け、中へ。

 

ブンブンブンブン、ドンツクブンブンブーン。たちまち大音量のロック音楽が溢れ出した。その部屋には薄暗く、モノリスめいたUNIXサーバーが林立してインジケーターランプをチカチカと点滅させていた。そこに流れる大音量のサイバーロック。ブンブンブン、ドンツクブンブンブーン。

 

「おや、お姫様のお出ましかい」サイバーサングラスをかけた老婆がUNIXモニタから顔を上げる。「センパイ!」フードをはねあげたその人物の顔を見れば、我らがニンジャスレイヤーであった。大筆めいたポニーテールの髪が揺れる。「大丈夫ですか、怪我だなんて……!」

 

「おお、ニンジャスレイヤー=サン……ドーモ」応じたのはそのカレシ、ワイヤープラーだ。彼は部屋の奥で折り畳み式ベッドに寝かされていた。「ちと、しくじっちまってな。このザマだ」右足を示す。彼の右足はギプスに覆われていた。

 

「ああ、なんてこと……!大丈夫なんですか、病院にいなくて!後遺症は残らないんですか!?」ニンジャスレイヤーはベッドの周囲をぐるぐると歩き回った。「まあ、落ち着けよ。大丈夫だ。ドクター・ハザメイが言うことには、2〜3日安静にしてりゃ治るってよ」ワイヤープラーは肩をすくめる。

 

「非ニンジャなら完治に1か月〜2ヶ月はかかっただろうって話だが、ニンジャは便利だなって言われたよ。まったく、年寄りはいつも同じ話を……だから落ち着けって!ちゃんと医者に手当てしてもらったんだからいじるなよ!」「エエッ、でも」ニンジャスレイヤーはワイヤープラーの脚のギプスをいじり始めていた。

 

「まったく、ニンジャスレイヤー=サンはワイヤープラー=サンのこととなると気が気じゃないね。自分の左耳が消し飛んだときは平然としてたっていうのに」背後から老婆が近づいてくる。ニンジャスレイヤーたちの仲間のハッカー、チェミだ。「それよりニンジャスレイヤー=サン、聞いたかい?例の電波ジャックのこと!」「電波ジャック?」「知らないのかい?来なよ」

 

チェミはUNIXを操作し、SNSにアップロードされている動画を再生してみせた。電波ジャックで流れた映像だ。ダイヤモンドを象ったエンブレムが映り、音声。『このオーボンの夜、死者は蘇り、俺たちはあの夜失った黄金時代(オーゴン)を再び手にする……"いつもの場所"で待つ!』

 

「どうだい、物騒だろ?IRCはこの話題で持ちきりだ」チェミはニヤリと笑う。「どうもこのダイヤのマークは、11年前の年末に壊滅した凶悪な暴走クランのものらしくてね。そいつらが再起するんじゃないかって話さ。ただ、当時そいつらの事件を担当してたマッポ関係者でも"いつもの場所"ってのは見当がつかないらしくてね……ニンジャスレイヤー=サン?」

 

「……」ニンジャスレイヤーは眉間にしわを寄せ、黙り込んでいた。動画に映ったダイヤのエンブレムに、ニューロンをくすぐられるような感覚があった。……自分はこのマークを知っている。どこかで見たことがあるのだ。いつ?どこで?……11年前の、年末。(((私がナラク=サンに意識を乗っ取られて、ネオサイタマのニンジャを無差別に殺しまくっていたらしい時期……)))

 

(((……ナラク=サン。このマーク、知っているんじゃないですか?)))ニンジャスレイヤーは自らのニューロンに呼び掛ける。暗闇の奥底で邪悪存在が身じろぎして、精神の水面に波紋を立てた。(((グググ……いかにも、知っておる)))ナラク・ニンジャは意外にも素直に答えた。

 

(((儂は11年前、その紋のクランを率いるニンジャを殺し、その手下どもも半分は殺した。残り半分は散り散りになって逃げていきおったわ。ニンジャが築いた独り善がりな王国を一息にカラテで崩してやるのはそれなりに興が乗ったものよ……愉悦……)))

 

ナラクはそう言ったきり、ゴボゴボと不穏にあぶくを立てながらニューロンの深淵へ沈んでいった。ニンジャスレイヤーは唸った。(((残り半分は散り散りになって逃げていった……とすると、この放送はその生き残りが再起を?)))「……オイ、ニンジャスレイヤー=サン。何を考え込んでる?」ワイヤープラーが背後から口を出す。

 

「暴走クランが暴れるのは気持ちのいいものじゃないが、あくまで俺たちには関係ないことだ……変なヒロイック精神は起こすなよ?俺もこの脚ではフォローしてやれないからな」

 

「……ハイ」ニンジャスレイヤーは曖昧に頷く。UNIXモニタの中では電波ジャック映像がリピート再生され始めた。『"あの夜"からもう10年半だ……』

 

【Avenger in love】

 

……同日、午後。

 

その廃工場はネオサイタマ郊外にあった。元はヨロシサン系列の薬品工場だったようだが、何らかの有害薬物流出事故を起こして放棄されたものと思しい。11年前からずっとそうだ。

 

ブオオーンッ!工場脇の多車線道路を疾走してきたのは、オオガタ・エレクトロニクス社の社用車だ。ギャギャギャッ!ドリフトしながら大駐車場に停止。降りて来たのはラガーマンめいた大柄の元ゾック、ジャクシマである。

 

「こいつァ……!」ジャクシマは驚きと共に大駐車場を見渡した。そこにはすでに何百台もの車両が入り乱れるようにして停車していた。みすぼらしい旧型ワゴン車から、ピカピカにワックスのかけられた新型ベンツ、果てはバイオスモトリ輸送車からクレーン車まで、種類は様々だ。

 

ギャギャギャッ!そこに新たな車がドリフト停車した。ファミリー向けのバン車両である。「オイッ!あんた、"ジャック"じゃないか!?"キリング・ジャック"!」振り返ると、降りて来たのは見知らぬ中年サラリマン……否!ジャクシマは彼を知っている!「お前……"マックス"か!?」然り!それはかつてともに暴走と抗争に明け暮れた戦友、"不死身のマックス"ことマクサであった!

 

「ウオオッ!ハハハーッ!久しぶりだな、兄弟!」「ずいぶん老けたじゃねえか、バカ野郎!」「お互い様だ!」ジャクシマとマクサは互いにバシバシと体を叩き合い、熱く抱擁を交わした。かつてたった2人でパンキチ・ハイウェイに乗り込み、そこを縄張りとする暴走クランから1人の女を救い出したあの日のように。あの女はその後すぐ薬物中毒で死んでしまったが。「会いたかったぜ、畜生……!」「俺もだ兄弟。ユウジョウ!」「ユウジョウ!」

 

「おい、あんたジャックだろ!?それにそっちはマックス!」工場本棟の方から声。2人が振り向くと、そこにいたのは……すっかり禿げ頭になってはいるが……「テメエ、"韋駄天のダニー"か!?」「すっかり涼しい頭になりやがって!」「余計なお世話だ、畜生!」ダニーは手招きする。「来いよ!みんなこっちに集まっている!」

 

2人が本棟に入ると、そこにはさらに信じがたい光景が広がっていた。「嘘だろ……幻想(ユメ)じゃねえよな!?」ジャクシマは思わず唖然とした。飛行機格納庫めいたその巨大な空間は、活きのいい元ゾックの男たちでぎっしりと埋め尽くされていたのだ!

 

「オイッ!マックスとジャックが来たぞ!」ダニーが叫ぶと、周囲の男たちが一斉にこちらを向き、揃って歯をむき出しにして笑い、駆け寄った。「久しぶりだな、ジャック!俺様だ、クルメダだ!」「俺はミキヤだ!"チキンレーサー・ミッキー"だよ!」「俺っちを覚えてるか?"キリサキのキリシマ"だ!」

 

「ああ、覚えてるさ……覚えてるよ、畜生!」ジャクシマの声は震えた。太い腕でゴシゴシと目元を拭う。「オイオイ、泣いてんじゃねえよ!」「大の男が情けねえ!」「ウルッセーゾコラーッ!泣いてやしねえよ!」言い合いながらも、周囲のゾックたちもつられて目を潤ませている。

 

「おい野郎ども、大変だ!ここに飛行機が降りてきやがる!」テラスにいた者が慌てて駆け込んできた。「飛行機だと!?」「マッポか!?」一同は色めき立った。ネオサイタマ市警がこの集会を察知して空挺ケンドー機動隊でも送り込んできたか?

 

キイイイイーン!ギャギャギャギャッ!ジェットエンジンの轟音と、タイヤがアスファルトに擦れる音!外へ駆け出したゾックの男たちが見たのは、工場前の多車線道路に着陸したジェット戦闘機であった。機体にネオサイタマ市警のマークはない。「こりゃソ連のミグ戦闘機だぞ!」ゾックの1人が叫んだ。

 

操縦席の風防が開く。「皆もうお揃いか」操縦者が立ち上がり、ヘルメットを取った。アサシマだ!「ア、アサシマ=サン!この戦闘機はどうしたんだよ!?」「拾った」「拾ったァ!?」「お前、ドサンコで何やってたんだよ!?」「公務員だ」

 

ゾックたちは戦闘機を囲んで騒ぐ。彼らの服装は駐車場の車同様、多種多様だった。薄汚い作業服を着ている者、パリッと糊のきいたスーツに身を固めている者、チェーンスシ店ドンブリ・ポンの制服を着ている者やピエロの仮装をしている者までいる。10年半前にクランが崩壊して以来、社会的地位は千差万別だったことであろう。

 

しかし彼らは皆、それぞれの現実に不満だった。かつてニンジャのリーダーの下で圧倒的な自由を味わった彼らは、暗黒メガコーポと暗黒ニンジャ組織が社会の表と裏から支配するネオサイタマの抑圧社会において真の満足を得ることはできなかったのだ。だからこうして再び集った!

 

「ホホホホホ!皆さん、仲が良くて大変よろしいことですね」背後からおどけた声。ゾックたちが振り返ると、クラシカルな出立の男が立っていた。燕尾服を着て、シルクハットを被り、ステッキを突いているのだ。鼻から下は奇妙な金属マスクに覆っている。

 

「なんだてめえ、誰だ!?」「どっからここのことを聞いたァ!」「マッポの手先か!?」ゾックたちが一転、殺気立って詰め寄る。コワイ!しかし燕尾服の男は余裕たっぷりに目を細め、「おやおや、どうか怖いことをおっしゃらないでください。わたくし、スペルバインドと申します」

 

スペルバインドは優雅な仕草でオジギしてみせる。「わたくしはあなた方もよく知るオミチ・モンド=サンの、そう、助手といったところでございまして」「モンド=サンだと!?」「モンド=サンもいるのか!どこだ!?」「そう、そのモンド=サンから皆様にお話があるとのことでお呼びに伺った次第で。皆様、どうか工場の中にお戻りを」

 

ゾックたちが廃工場内に戻ると、モンドはすぐに現れた。「ハーッ……テメェら」ガラクタを積み上げたステージの上から一同を見渡す。彼の目は血走ってギラついていた。「よく来た。テレビで招集をかけたのは俺だ」

 

ゾックたちは揃って息を呑んだ。彼が着ている不気味な黒い装束……まるでニンジャのような……その装束が、在りし日のリーダー、オミチ・ダイヤに酷似していたのだ。彼の右腕は甲冑めいた黄金の義手に置換されていた。背中には1振りのカタナ。鉢金にはザイバツのマークが刻まれているが、その上から一文字に傷が入れられている。ヌケニンの証。

 

「おお、モンド=サン……!ダイヤ=サンの魂を受け継ぐただ1人の弟!」「いよっ、副リーダー!」ゾックたちの声に、眉をぴくりと動かす。そして脇に控えるスペルバインドに顎をしゃくった。「オイ!」「承知してございます」

 

スペルバインドはセラミック瓦を50枚重ねたものを運んできた。ゾックたちは一様にざわついた。かつてのダイヤの得意技、セラミック瓦50枚割りを思い出したのだ。(((まさか、モンド=サンもあれほどのカラテを……?)))

 

しかしそれで終わりではなかった。スペルバインドはさらに50枚の瓦を運んできたのだ。「オイ、あと1セットだ」「おや、張り切っておられる」さらに50枚!計150枚!今や積み重ねられた瓦は高さ3mを超え、見上げるばかりだ。ゾックたちは息を呑んだ。(((まさか、そんな)))

 

「イイイイイ……!」モンドは目を固くつぶり、中腰姿勢で力を溜めた。ボウッ、ボウン!右腕黄金義手の硬く握った拳に、超常の青い炎が灯った。(((な、なんだあの炎は?)))(((サイバネなのか?)))混乱するゾックたち。

 

次の瞬間、モンドは目を見開いた!「ヤアアアアーーーッ!!!」ドウンッ!足元の地面が砕けた。バネ仕掛けめいて、弾かれたように上方へ回転ジャンプ!高い!最高到達点で体を開き、セラミック瓦の頂を見下ろす。青く燃える拳を、叩きつける!「イヤーーーッ!!!」

 

CA-DOOOOM!!!「「「グワーッ!?」」」爆発じみた衝撃と粉塵!ゾックたちは揃って顔を覆い、その後、残響を聞きながらおそるおそるステージの方を見た。粉塵が晴れると、大量のセラミック片が散乱する中、たった1枚残った瓦に拳を突き当てているモンドが見えた。その1枚に今、亀裂が走り、パリンと音を立てて割れ砕けた。ゴウランガ……セラミック瓦150枚割り達成……!

 

「「「ウ……ウオオオオーッ!!」」」ゾックたちは叫んだ。新しいリーダーの誕生に。先代よりもなお強き者が自分たちの上に君臨したという祝福すべき事実に!「「「モンド!モンド!モンド!モンド!モンド!」」」

 

モンドは礼賛の声を浴びながら深く息を吐き、装束の上に積もったセラミック粉塵を払った。そしてスイと両手をかざしてゾックたちの叫びを制した。静寂。モンドが口を開く。「……俺たちは、幽霊(ゴースト)だった」

 

「11年前のあの夜、俺の兄ダイヤと黄金騎士団たちとともに、俺たちも死んだんだ。あのクソッタレのニンジャスレイヤー=サンに自由の翼を奪われ……俺たちはジゴクへ堕ちた。何か待っていた?ジゴクの日々だ」

 

モンドはゾックたちが一様に鎮痛な表情を浮かべるのを見渡す。「ジゴクの鬼どもは俺たちを侮り、コケにして、攻撃し、搾取した。俺たちの努力はなんら認められることはなく、苦労と災難だけが延々と押し付けられてくる……生きているなどとはとても言えない、死んだ日々」

 

「……しかしオーボンの今宵、俺たちは蘇る。不自由なジゴクから、自由な現世へと」モンドは教祖めいて両腕を広げた。ゾックたちの視線が集まる。「スピードだ。スピードが全てを取り戻させてくれる。善悪も常識も理性もぶっちぎった果てに、俺たちは再び全てから解き放たれ、真なる命を手に入れる……そのために邪魔な対向車(モノ)があったら、どうだ?」

 

「許せねえ……そんなモノは許せねえよ!」ゾックの1人が答えた。「許せねえならどうする?」モンドは再び問う。「ぶっ壊せ!殺せ!」別のゾックが叫ぶ。「そうだ!俺たちはハイウェイ無敗のジゴクダイヤモンド・ディヴィジョン!誰にも俺たちの進路妨害(ジャマ)はさせねえ!」モンドは応え、指を鳴らした。

 

ガラガラガラッ!ステージ裏の錆びたシャッターが開き、その奥の大空間が露わになった。そこにはなんと、大量の最新鋭インテリジェント・モーターサイクルが整然と並んでいたのだ!「駐車場見たぜ。どいつもこいつも退屈な四輪に乗りやがって……男なら二輪に乗れ!」「「「ワオオーッ!!!」」」ゾックたち熱狂!

 

「皆様!武器も人数分用意してございますよ」スペルバインドがモーターサイクルの横に積まれたコンテナの1つを手に取り、中からSFチックな銃器を取り出した。レールガンライフルだ!「複雑な制御は全てオートでございます。反動も小さいです。安全装置を外して、敵に向けて引き金を引くだけで、これこの通り!」

 

キャドゥーム!CRAAAASH!!!スパーク光とともに銃口から大口径重金属弾が射出され、廃工場の頑丈な鉄筋コンクリートの壁に巨大な穴を穿った。なんたる威力か!「「「ワオオーッ!」」」ゾックたちはさらに熱狂!我先にシャッターの向こうへ走り、モーターサイクルに跨る者、あるいはコンテナを開けてレールガンを手にする者!

 

モンドもモーターサイクルの1台に跨った。キックスターターを蹴ろうとしたが、それらしいペダルがない……グリップ部分に「点火な」と書かれたボタンがあった。押してみる。ヒュイイーン!SFチックな高いエンジン音が鳴り始めた。メーター部のUNIXモニタに周辺のマップが表示される。GPSナビゲーション機能のようだ。

 

「いかがですかな、我々ソウカイヤからのプレゼントは。お気に召しましたか?」スペルバインドが囁いてくる。「まあまあだな」モンドは鼻を鳴らす。「この10年でバイクもずいぶん進化しました。転がしてみれば実感していただけるのではないかと……つきましては」

 

スペルバインドがシルクハットの下で目をキラリと光らせる。「このバイクと武器をもって、ウェスト・シュトコーで最低6時間は暴走していただきたく。間違いのなきように」「わかっている」モンドは憮然として応える。

 

ナムサン!今回のジゴクダイヤモンド再集結の背後にはソウカイヤのスポンサードがあったのだ。ウェスト・シュトコーはネオサイタマ西部における経済の大動脈であり、まして現在はオーボンの帰省ラッシュで交通量が激増している。そこをジゴクダイヤモンドに荒らさせることで何らかの利益を得るのが狙いなのだ。その過程で死傷する一般人は何百人、何千人か?なんたる悪辣な陰謀!

 

「知っての通り、ネオサイタマ西部はザイバツの縄張り……おそらく彼らが妨害部隊を送り込んでくるとは思いますが、わたくしも同行いたしますので、撃退に協力いたします。そのためにわたくしの分のバイクも持ってきた次第でして」スペルバインドが手近なモーターサイクルをポンと叩く。「それとソウカイニンジャがもう1人、暴走開始後に手勢を率いて合流する予定です。あいにくその手勢の装備を揃えるのに時間がかかっているのですが」「ドーモ。手厚いことだな」モンドは鼻を鳴らす。

 

キャドゥーム!キャドゥーム!ゾックたちが興奮してレールガンを乱射している。「ああ、皆様!あまり屋内でやたらと発射いたしますと壁や天井が崩れる危険が……!」スペルバインドは制止へ向かう。

 

モンドはそれを尻目に、モーターサイクルのエンジンを空ぶかしした。ヒュイン……ヒュイイーン!エンジン音は奇妙に高いままだ。彼は11年前に乗っていたバイクの、野獣の唸り声じみた低いエンジン音を懐かしく思った。「ソウカイヤめ……」『あら、何か不服なの?』

 

女の声が彼の呟きに応えた。モンドは舌打ちして、自分の右腕黄金義手を見た。……おお、どういうことか?いつのまにか黄金義手の金属表面が飴めいて歪み、そこから一つ目と口が生えているではないか!

 

『このバイクすっごく高いのよ。今の落ちぶれたあなたたちじゃ一生かかって1台買えるか買えないかくらい。あのレールガンもそう』一つ目がモンドを見る。口がパクパクと動いて女の声で喋る。『あなたたち暴走行為したいんでしょ?このバイクと武器を使えばマッポやその辺のヤクザはイチコロよ。邪魔されずにたっぷり暴走できるってわけ。感謝してもしきれないほどよね?』

 

誰かが遠くからマイク越しに喋っているわけではない。この義手自身が喋っているのだ。この義手には自我があるのだ!これぞソウカイヤのハイテク兵器「ツクモ・ウェポン」……武器にニンジャソウルを移植し、その力を制御する人工の人格をインストールした、神をも恐れぬ冒涜的技術の産物である。

 

「黙れ、無機物風情が」『あら、アタシにそんなシツレイなこと言っていいの?あなた、アタシが突然サボタージュしたりしたらまともに戦えるの?』黄金義手の口ぶりは挑発的だ。『手下相手にカッコつけるのにもアタシの力を使ったくらいなのに』「……」

 

モンドはむっつり黙り込んだ。周囲ではゾックたちが新しいおもちゃをもらった子供めいて無邪気にはしゃいでいるが、彼だけはいまだソウカイヤから干渉されるストレスに晒されている。(((昔は、俺は兄貴の後について楽しく暴走するばかりだったが……もしかすると兄貴も、裏でこういう苦労を……)))

 

しかしその時!CRAAAASH!!!にわかに、廃工場の天窓が外側から砕き割られた!そして「Wasshoi!」赤黒の影が飛び込んできたのだ!

 

「おや!?」スペルバインドが振り向く!「何だァ!?」モンドがバイクから飛び離れて向き直る!『誰よ!?』その右腕で、黄金義手が一つ目をギョロギョロ動かす!「「「アッコラーッ!?」」」遅れてゾックたちが反応!

 

「ドーモ、ゴブサタしています。ジゴクダイヤモンド・ディヴィジョンの皆さん」廃工場内に降り立った姿を見れば、小柄な体躯に赤黒のニンジャ装束、恐ろしげな「忍」「殺」漢字のメンポ、そして大筆めいたポニーテール!「……ニンジャスレイヤーです!」

 

【続く】




次回の更新は13日です。
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