その頃、繁華街路地裏の隠れ家では。「……」ワイヤープラーがベッドの上でアグラして腕を組み、眉間にこの上なく深い皺を寄せていた。「ニンジャスレイヤー=サン……あの、バカめ!」
『まあまあ。ニンジャスレイヤー=サンも、あそこで見過ごせるような性格なら、初めからあの歳でザイバツと戦うなんてバカなことは言い出さないってもんさ』ワイヤープラーの近くのUNIXモニタに文章が表示された。チェミだ。彼女の物理肉体はすぐそこの椅子にぐったりともたれているが、論理肉体はインターネットへと飛んでいる。
ゾックたちの集結場所を突き止めたのはチェミである。ヤバイ級のハッキングに加えて何らかの年の功を用いることで、マッポやザイバツにもできなかったことを成し得たらしい。彼女は今もニンジャスレイヤーを支援している。廃工場周辺の無線LAN回線を制圧し、自分たち以外の通信を遮断しているのだ。
『何と言っても、ニンジャスレイヤー=サンはニンジャがワルをするのは見過ごせないタチだろう?その点、例のゾックは首領がニンジャなようだし、ソウカイヤのニンジャもいて……』「だから心配なんだ!」ワイヤープラーはうめくように言った。「俺たちはただでさえザイバツと敵対してるってのに、ソウカイヤにまで喧嘩を売ったら……本当にこのネオサイタマで生きてはいけないぞ!」
『なあに、ゾックたちの周りのネットはアタシがよく見ておく。ソウカイヤへの安易な通報は通しやしないさ』UNIXモニタに再び文字が連なる。『あとは、あの場のニンジャが最終的に全員死ねば、ソウカイヤ上層部にアタシたちのことが伝わることはない』
「アブナイな橋だ。アブナイすぎる……ザイバツと戦うだけなら本来そんなリスクを負うことはないんだ」ワイヤープラーは世界滅亡を予測した科学者じみて陰鬱な面持ちだ。自分の脚の負傷を忌々しげに見下ろす。「頼むから無事に生きて帰ってきてくれよ、ニンジャスレイヤー=サン……!」
【Avenger in love】
「ドーモ、ロードゴーストです……ニンジャスレイヤーだとォ?」モンドは訝しんだ。「プッ!ブハハハハッ!」そして笑った。「ゴブサタだぁ?バカ言ってんじゃねえよ、メスガキめ!11年前のあいつとテメェとじゃ、歳も背格好も似つかねえよ!」「「「ワハハハハ!」」」ゾックたちも笑った。
「ドーモ、ニンジャスレイヤー=サン。ソウカイヤのスペルバインドです」しかしスペルバインドはナーバスな面持ちだ。「去年の暮れからザイバツがニンジャスレイヤーと称する存在と戦闘状態にあるのは我々も把握しておりましたが、あなたのことでしたか。よくこの場所がお分かりになった……」後ろ手でひそかにIRC端末を操作するが、通信エラーの表示が出た。「……優秀なハッカーを抱えていらっしゃるご様子」
ニンジャスレイヤーは廃工場を見回した。大量のモーターサイクルと、破壊兵器レールガンを手にしたゾックたち。このあと破壊的な暴走行為に出発しようとしているのは明らかだ。「……ロードゴースト=サン、あなたがこの暴走クランのリーダーとみました」ニンジャスレイヤーは挑発的にロードゴーストを指差す。「私と決闘してください」
「決闘!?いきなり何言ってんだ、このガキがァ!」ロードゴーストは吼えた。「俺たちゃニンジャスレイヤー=サンには借りがあるのさ。その俺たちを前にその名前を騙っておいて、タイマンしろだぁ?してやるわけねえだろ!」「「「オーッ!」」」ゾックたちが応え、一斉にレールガンを構える。ナムサン、袋叩きか!?
「怖いんですか?」ニンジャスレイヤーはさらに挑発した。そして禁断のフレーズを口にした。「11年前のリーダーはもう少し骨がありましたけどね」「なっ……」ロードゴーストは一瞬、唖然とした。そして次の瞬間にはワナワナと震え、怒りで顔色を真っ赤にした。「テメェ……テメェ!」
「モンド=サン、そんなやつの言うことを聞いてやることはないですぜ!」「やっちまいますかい!」ゾックたちが騒ぐが、「黙れ!野郎ども!」ロードゴーストは大音声で一喝!「……いいだろう。タイマンしてやるぜ」血走った目でニンジャスレイヤーを睨む。視線で射殺さんばかりだ。
……やがて、ゾックたちは廃工場の中心にドヒョー・リングめいてスペースを空け、そこで2人のニンジャが向かい合った。「袋叩きがタイマンになったところで、結果は変わらねえぜ」ロードゴーストは右腕の黄金義手を握ったり開いたりした。さらに左手では背負っていたカタナを抜く。「テメェはもう許さねえ……ファックして殺して、その後またファックしてやる」
「あいにくですが、私カレシがいるので」ニンジャスレイヤーはしめやかにジュー・ジツを構え、手招きした。「バカなこと言ってる暇があったら早くかかってきたらどうですか。許せないんでしょう、私のこと」
「ぬかせ!イヤーッ!」ロードゴーストはカタナを構えて飛びかかった!「「「ウォーッ!ヤッチマエー!」」」ゾックたちが熱狂する中、ニンジャたちは衝突!「イヤーッ!」「グワーッ!?」吹き飛ばされたのは……ロードゴーストだ!
「「「エッ?」」」ゾックたちは唖然とした。「テ、テメェ……」ロードゴーストは地面を転がり、なんとか起き上がった。メンポにはヒビが入り、その下から鼻血が溢れた。鼻を折られたのだ。一撃で。「……」ニンジャスレイヤーはもはや語らず、ツカツカとそちらに近づく。
「モンド=サン、ドシタンス!」「血が出てるぞ」「嘘だろ、あんなメスガキに……」ゾックたちがざわつく。「ザッケンナコラーッ!ガタガタ言ってんじゃねえぞオラーッ!」ロードゴーストは必死にそれを制し、右腕の黄金義手に向けて囁く。(((オイ、手を貸しやがれ!そのためにソウカイヤはてめえを俺に寄越したんだろうが!)))(((あら、タイマンなんじゃなかったの?仕方ないわねえ)))
黄金義手は応え、全体から青い炎を発した。炎は幾筋かに別れ、ハーネスめいてロードゴーストの体の表面を駆け巡り、循環した。「ヨシ……!」ロードゴーストが満足げに笑ったところへ、「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーが飛び込んできてチョップを放つ!
バチン!「グワーッ!?」弾けるような音と共に苦悶したのは、おお、ニンジャスレイヤーの方だ!何が起こったのか?……チョップが命中する瞬間、ロードゴーストの体表を循環していた青炎が破裂し、それを弾き返したのである。さらに飛び散った炎がニンジャスレイヤーに降りかかり、高熱で怯ませた!
「イヤーッ!」ロードゴーストは黄金義手で殴りつける!「ヌウーッ!」ニンジャスレイヤーは手甲でガードするが、タタミ3枚分ノックバック!その間に黄金義手から更なる青炎が噴き出し、再びハーネスめいてロードゴーストの体を覆う。
「ハハーッ!行くぞ!」ロードゴーストは勢いづき、カタナを大ぶりに構えて突進!「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはスリケンを投げて迎撃する。バチン!青炎が破裂してスリケンを弾き返す!「イヤーッ!」ロードゴーストがカタナで斬りつける!「ヌウーッ!」ニンジャスレイヤーは手甲でガードするが、タタミ6枚分ノックバック!
「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」ロードゴーストは黄金義手の右手で、青く燃えるカトン・スリケンを投げつける!1枚!2枚!3枚!「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはスライディングでその下をすり抜けて接近し、跳ね起きながら殴りつけた。しかし一瞬早く、青炎の鎧が再展開!
バチン!「ヌウーッ!」ニンジャスレイヤーはまたも打撃を弾かれ、弾けた炎を浴びて怯む!「マヌケめ!イヤーッ!」ロードゴーストは再び黄金義手で殴りつける!「ヌウーッ!」ニンジャスレイヤーは手甲でガードするが、タタミ9枚分ノックバック!
「グワーッ!」「アバーッ!」ゾックたちがカトン・スリケンの流れ弾を受け、何人か死んだ。ニンジャスレイヤーはジュー・ジツを構え直し、タタミ9枚分離れた敵を睨んだ。ロードゴースト本人のワザマエは大した脅威ではないが、あの義手の力は相当に厄介である。
「手も足も出んか!くたばれーッ!」ロードゴーストが黄金義手の拳を大ぶりに構えて突進してくる。「シューッ……!」ニンジャスレイヤーは鋭く息を吐きつつそれを待ち構える。左手にスリケンを隠し持ち、右手はチョップを構え。まずスリケンで炎の鎧を散らし、続くチョップでカウンターを決める算段だ。
……しかし次の瞬間、ニンジャスレイヤーはその姿勢のまま全く身動きが取れなくなった。全身の骨を太いワイヤーで固く縛られたかのような感覚に、体が軋む。「……!」ニンジャスレイヤーは目だけでゾックの群れの奥を見た。スペルバインドと目が合った。彼はステッキを魔術師の杖めいてこちらに向け、何か念じているような仕草をしており……
「イヤーッ!」「グワーッ!」ロードゴーストの黄金義手カラテパンチが直撃した!ニンジャスレイヤーはキリモミ回転しながら吹き飛び、ゾックの群れの頭上を飛び越えて、CRAAASH!!壁を突き破って外へ飛んでいった。粉塵がもうもうと立ち込める。
「「「ウ……ウオオーッ!」」」ゾックたちは熱狂した。非ニンジャの彼らにも、ロードゴーストがニンジャスレイヤーを殴り飛ばしたらしいということはかろうじて見て取れたのだ。「「「モンド!モンド!モンド!モンド!モンド!」」」
「ロードゴースト=サン、あとはわたくしが引き受けます。ゾックたちと一緒に先に出発なさってください」スペルバインドがロードゴーストに近づき、囁く。「ニンジャスレイヤー=サンがこの場所を突き止めた以上、ザイバツが同じ結論に達して部隊を送り込んでくることも考えられます。そうなれば我々の計画はご破算です」
ロードゴーストは頷き、ゾックたちの方に向き直った。「野郎ども!ニンジャスレイヤー=サンの偽物はこの通り血祭りに上げた。景気付けはもう十分だろう!」そしてモーターサイクルに飛び乗り、叫ぶ!「ジゴクダイヤモンド・ディヴィジョン、10年越しの
「「「ワオオーッ!」」」ゾックたちはそれに応えて一斉にレールガンを担ぎ、モーターサイクルに飛び乗った。「行くぞォ!」そしてロードゴーストがアクセル全開で発進していったのに続いて、続々と廃工場から飛び出していく。ジゴクから蘇ったゴーストライダー軍団の出撃だ!
ヒュインヒュインヒュイイイイ!『パラリラパラリラパラリラパラリラ!』『ナムミョ・ホレンゲキョ!ポク!ポク!ポク!ポク!』SFチックなエンジン音、ミュージックホーン音、モクギョビート音楽を高らかに響かせつつ、ゾックたちは往く。目指すはネオサイタマ市街、ウェストシュトコー・ハイウェイである!
ニンジャスレイヤーは死んでしまったのか?否。「イヤーッ!」壁の大穴の側に降り積もった瓦礫の山が爆ぜて、ニンジャスレイヤーが飛び出した。「待て!勝負はまだ……」叫び、ゾックたちを追うべく手近なモーターサイクルに飛び乗ろうとする。
しかしその眼前に燕尾服のニンジャが立ちはだかった。スペルバインドだ!「シツレイ。ここからはわたくしがお相手いたします」ステッキをカツンと垂直に立て、その柄に飛び乗って直立する。
「11年前のニンジャスレイヤー=サンはともかく、今ここにいる貴女と我々ソウカイヤとは必ずしも敵対関係ではないはずですが……我々のシノギを邪魔なさるならば、生かしておくわけには参りません」喋りながらも、直立姿勢のバランスは寸分たりとも乱れることがない。タツジン!
「チッ……!それはこちらのセリフです、曲芸男め」ニンジャスレイヤーは苛立ちとともに敵を見上げる。「私の邪魔をしなければもう少し長生きできたかもしれないのに。後悔しても遅いですよ」「ホッホッホ……」スペルバインドは肩をゆすって笑ったあと、紳士めいた態度から一転、凶暴な猛禽じみた眼光で見下ろした。「やってみろ。ガキが」
「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーがジュー・ジツを構えて突撃する!「ノロイ・カナシバリ・ジツ!カーッ!」スペルバインドはステッキの上から両手を突き出し、相手の身動きを封じる邪悪なジツを再び放った!
【Avenger in love】
次の車は旧式のバン車両だった。「正しく支払うべき」と書かれた遮断機にその行手を塞がれ、停止する。横にある詰所の窓が開き、係員が顔を出した。「ハイ、入場券いただけますか。どちらのインターチェンジから?」
運転席から若いヤクザが顔を出し、「代金はこいつでいいかァ?」チャカ・ガンを抜いて係員に向けた。係員は散弾銃を構えた。「エッ」ヤクザは思わぬ重火器の登場に唖然として、「エイッ!」BLAKKA!「アバーッ!」なすすべなく散弾を受けてソクシした。ナムアミダブツ!
係員はゲートの上に「侵入禁止」の表示を出した後、「こちら9番ゲート!踏み倒し野郎が来たんで正当防衛した。レッカーを寄越してくれ」内線インターホンに向けて叫んだ。……ここはウェストシュトコー・ハイウェイ、ハチオージ・インターチェンジの料金所だ。周囲にはいくつも同じようなゲートがあり、多くの車両が料金を支払って下道へと降りていく。
係員は散弾銃を窓の下に戻した。治安レベルの低いネオサイタマにあってはハイウェイの料金所さえ安全ではない。しかしカイシャから護身用武器の支給はないので、職員はポケットマネーで用意することを強いられる。仮に護身用武器の使用についてコンプライアンス問題が生じても、カイシャは知らぬ存ぜぬを通す姿勢なのだ。
(((まったく、クソなカイシャだ。でもまあ)))係員は椅子に深く腰掛け、窓の上に貼ってある写真を見た。妻と幼い子供とのスリーショットだ。(((給料稼いで、こいつらを食わしてやらなきゃいけないからな。ガンバロ!)))
やがて、ゲートの外側、下道の方から奇妙な騒音が聞こえてきた。……パラリラパラリラ……ポク、ポク、ポク……。(((なんだこの音は?街宣車か?1台じゃねえな)))係員は訝しむ。パラリラパラリラパラリラ!ポク!ポク!ポク!ポク!音は近づいてくる。(((下道の方から……逆走してきてやがるのか!?)))
ヒュイイイイイイ!!甲高いエンジン音を何重にも響かせて、最新型インテリジェンス・モーターサイクルに乗った集団が姿を現した。ジゴクダイヤモンドのゾックたちだ!数が多い!とにかく多い!車列がいつまでも途切れない!『パラリラパラリラパラリラパラリラ!』『ナムミョホレンゲキョ!ポク!ポク!ポク!ポク!』騒音音楽!
「何だ、こいつらーッ!?」係員は散弾銃を手に取るが、「イヤーホー!」「アーポウ!」キャドゥーム!キャドゥーム!ゾックたちが奇声を上げながらゲートへ向けて破壊兵器レールガンを乱射!CABOOOM!!「アバーッ!」詰所に命中し、爆砕!係員は爆死!ナムアミダブツ!
「イヤーホー!」「アーポウ!」キャドゥーム!キャドゥーム!CABOOOM!!CABOOOM!!「グワーッ!」「アバーッ!」レールガンの砲撃は続き、料金所は数秒のうちに破壊し尽くされた。ガラ空きになったゲートをゾックたちが悠々と通過していく!
「聖地ウェスト・シュトコーよ!俺たちは帰ってきたぜーッ!」先頭に立っているのはもちろんオミチ・モンド=ロードゴーストだ!カタナを掲げて叫ぶ!「野郎ども、突き進め!スピードだ、スピードだけがジゴクに縛られた俺たちを自由にしてくれる!もっとアクセル入れろーッ!」
「ヨロコンデーッ!」「モンド=サン、バンザイ!」ゾックたちが呼応して叫ぶ!彼らは11年ぶりの破壊活動の快感に打ち震え、ほとんどトランス状態だ。彼らはそのままハイウェイを逆走開始!
「アーポウ!」「邪魔だーッ!」キャドゥーム!キャドゥーム!「アバーッ!」「アイエエエアバーッ!」邪魔な対向車は片っ端からレールガンで爆砕!正しく交通ルールに従って走っていた一般市民がどんどん死んでいく。さながら暴走破砕機がベルトコンベア上を逆走し、流れる商品をすり潰していくがごとく!
【続く】
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