恋する復讐者◆暗黒の7日間   作:ボブ・ニンジャ

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オーボンナイト・ゴーストライダーズ#8

 

ゾックたちは疲れていた。ザイバツ部隊との戦いで多くのメンバーを失い、黄金騎士団という増援を得ながらも、最終的にその数は当初の半分にまで減っていた。モーターサイクルのガソリンも残り少ない。

 

彼らはヨヨギ・パーキングエリアを制圧し、ハイウェイ外からの入口を封鎖した。ハイウェイから避難してきていた一般人たちを牧羊のごとく脅しつけて食堂や土産物屋のある本館に押し込めた後、ガソリンスタンドで順次給油を行った。

 

順番を待つ間、あるいは給油を行う間、多くのゾックは座り込んで項垂れていた。喋るものは1人もいない。戦闘中はアドレナリンが噴出し、興奮状態で活発に動き続けていた彼らだったが、ひと段落した今になって鉛のような疲労感に襲われていた。今の彼らは人生も半ばの歳であり、若い頃の無敵じみたスタミナを失って久しい。とにかく彼らは疲れていた。

 

「……」ガソリンスタンドの青白いタングステン灯の下で、マクサは給油機のそばに座り込み、自分の両手の平に目を落としていた。(((昔よりずっとカサつき、皺が増えている)))暴走中はまったく気にならなかったこと、ストレスフルだが安定したサラリマンをやっていた頃にも気にならなかったことが、彼のニューロンを不安にざわめかせ始めていた。

 

「マックス。もうヘバったのか」頭上から声が降ってくる。見上げるとアサシマがおり、本館から略奪してきたと思しきバリキ・ドリンクを投げてよこした。「アサシマか。ドーモ……」マクサはバリキを受け取り、意を決したように一息に飲み干す。「ヘバっちゃいねえ、昔みたいに朝まで暴れてやるさ……きっとな……テメエはどうなんだ?」

 

「俺は平気だが、俺だけ平気でも意味がない」アサシマは疲労の色をまったく見せていなかった。これまでKGBのスパイとしてハードな訓練と任務をこなし、体力を維持していたがゆえだ。ガソリンスタンドを見渡すと、黄金騎士団たちはヘルメットも取らないまま勤勉にモーターサイクルを点検しているが、一般のゾックたちは揃って疲労困憊している。「……潮時だな」

 

「ハーッ……野郎ども」そこに、ロードゴーストがぬっと現れた。「「「モンド=サン!お疲れ様です!」」」ゾックたちは一斉に立ち上がり、キオツケする。何名かが立ちくらみでふらついた。ロードゴーストは以前の戦闘でひどく負傷しており、体の広範囲に乱暴に包帯を巻いていて、ミイラ男めいた印象を与えた。どろんとした目で一同を見渡す。「給油作業の進捗はどうなってやがる。あと何分で再出発(デッパツ)できる」

 

「ハッ、モンド=サン。それなのですが」アサシマが毅然と進言した。「……今夜の暴走は、このあたりで切り上げてはいかがでしょう」「「「!」」」ゾックたちの間に衝撃が走り、ざわめきが生じた。「アサシマァ……そりゃあ、どういう意味だ?」ロードゴーストが真顔で見返す。アサシマは無感情な人喰いワニを相手にしているような感覚を覚え、身を固くした。

 

「給油が済み次第ハイウェイを出て、11年前の隠れ家にでも撤退してはいかがか、ということです。モンド=サンはいまだ余力十分と存じますが、あいにく我々はちと疲れてしまいました」アサシマは他の一般ゾックに目線をやった。「暴走の続きはまた後日にするのはいかがでしょう。あるいはモンド=サンとあのスペルバインド=サンとの間で何か約定があったのやもと推察致しますが、しょせんあの者は組織外のトザマ。律儀に約束を果たすためにチームを消耗させることもないのではないかと……」

 

ゾックたちの間に安堵のアトモスフィアが漂った。休みたい、その欲求は誰の内にもあったが、鬼気迫る勢いのリーダーに対して進言する精神力など残ってはいなかったのだ。しかしアサシマがその役目を買って出てくれた。「……」ロードゴーストは顔に巻いた包帯の奥で目を細めた。笑っているのだ。「なるほどな、アサシマ。お前のいうことは正しい。皆疲れているようだからな」アサシマの肩に右手を置く。「ありがとうございます。では……」

 

「イヤーッ!」「グワーッ!?」次の瞬間、ナ、ナムアミダブツ!ロードゴーストは義手の腕力で右手を押し下げ、アサシマの体を強引に押し縮めて破壊した!「ア、アバーッ!」アサシマは体をイビツに圧縮破壊され、行き場のなくなった血液を口から噴水のごとく噴き出した。残虐!「「「アイエエエ!?」」」ゾックたちが悲鳴を上げる!

 

「アサシマ、お前の言うことは正しいぜ。だが全然自由じゃねえ!死人の考えだ、それは!」ロードゴーストが見下ろす。カッと見開いた目に狂気!「アサシマ、さっきの戦闘で少し働いたんでいい気になってるのかもしれんが、実際のところこの場で1番疲れていたのはお前だったようだな。一度は俺の招集に応えて暴走のために全てを捨てたくせに、今更常識にすり寄って、暴走をやめろだと?寝ぼけたことを抜かすな!イヤーッ!」「アバーッ!」

 

ロードゴーストは左手でカタナを抜き、アサシマを突き刺した。血の噴出がロードゴーストをさらに興奮させる!「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」突き刺す!突き刺す!突き刺す!「クソが!クソが!死ね!死ね!死ねーッ!」繰り返し突き刺す!アサシマはとうに息絶えているにも関わらず!なんたるオーバーキルか!

 

「ゲホッ!ゴホッ!ハーッ、ハーッ……」ロードゴーストは血混じりの咳をしたのをきっかけに、ようやく突き刺すのをやめた。ゾックたちの方に向き直る。彼らは自分たちのリーダーがニンジャとしての本性を剥き出しにして仲間を嬲り殺しにする場面を前にして、あまりの恐怖に逃げ出すこともできず、カエル・セラピーのコトワザめいて立ちすくんでいた。失禁している者も多かった。

 

「情けねえ、不自由な連中……おい、テメエらはどうするんだ」ロードゴーストは黄金騎士団に目を向けた。黄金騎士団は平然と整列して答える。「「我々はリーダーに従います」」」その統率のとれた動きと声……読者の方々は同じものをどこかで見たことがあるだろうか?……もしあったとしても、それは気のせいのはずだ。彼らは死の世界から帰還したジゴクダイヤモンドの精鋭部隊であり、何かの同等品ではない。そのはずなのだから。

 

「聞いたな!?野郎ども!腰抜けの半死人どもが!」ロードゴーストは再度ゾックたちを睨み、ドスの聞いた声で脅迫する。「テメエらも俺に従え!11年前と同じだ、夜が明けるまで暴走、暴走、暴走だ!邪魔な対向車(モノ)は全部ぶっ壊し、殺す!最初に言ったはずだろうが、アァ!?」「「「ハイ、スミマセン!」」」ゾックたちは一斉にドゲザした。

 

「5分後に出発だ。給油が済んでねえやつは粛清する!次に俺が給油するまでに勝手にガス欠になりやがった奴も粛清する。こうやってな!」ロードゴーストはそう宣告して、遠くにある「ドサンコまで1000km」の標識をスリケンで撃ち抜いてから立ち去った。

 

残されたゾックたちは皆半泣きだった。まだ給油が済んでない者たちは給油時間を巡って罵り合い、取っ組み合い、ついにはレールガンまで持ち出して争った。その過程で数人が死んだ。黄金騎士団たちは整列したままそのジゴクを眺めていたが、あるとき同時に顔を背け、ヘルメットのシールドを開けてタンを吐いた。

 

【Avenger in love】

 

前方に障害物が現れ、ハイウェイを塞いだ。ずらりと並んだ対車両防御壁である。その表面には「外して保持」「治安を守りたい」「有形力行使」などとショドーされており、陰には何台もの警察車両と数十人のマッポが構えていた。

 

『ゾックども!我々はネオサイタマ市警だ』城壁じみた防御壁の上からデッカーが拡声器越しに叫ぶ。『善良な市民を大量虐殺した重犯罪者である貴様らに、ネオサイタマの法の番人である我々は慈悲深くも一斉射撃前の警告をくれてやる。すぐにバイクを路肩に止めて武器を捨て、手を頭の後ろで……!』

 

ヒュイイイイ!ヒュイイイイ!SF機械めいた甲高いエンジン音を轟かせ、最新型インテリジェント・モーターサイクルに乗ったライダーたちがその防壁へ突進していく。ジゴク・ダイヤモンドのゾックたちである!「ウオーッ!うるせェーッ!」「俺たちの邪魔をすんじゃねェーッ!」キャドゥーム!キャドゥーム!防壁めがけレールガンを発射!

 

CABOOM!!CABOOM!!砲弾が炸裂するが、爆煙が晴れると、その奥の防壁は無事だ。依然ハイウェイは血管梗塞じみて完全封鎖状態!『バカめが!この防壁はイッキ・ウチコワシの爆薬満載トラックカミカゼ攻撃を受けても持ち堪える耐久力よ』隠れていたデッカーが再び顔を出し、勝ち誇る。『そして貴様らは今、法の裁きを受ける最後の機会を自ら捨てたのだ。無力化準備!』

 

「「「ヨロコンデー!」」」デッカーの号令に従い、対戦車ロケットランチャーを構えたマッポたちが防壁から姿を現した!『無力化実行!』再号令とともに、ロケットランチャーが一斉に発射される!BOOM!BOOM!BOOM!BOOM!BOOM!殺人的威力のロケット弾が群れをなしてゾックたちを襲う。「アイエエエ!」ゾックの1人が思わず顔を覆う!

 

しかしその時、1台のモーターサイクルが急加速してきてゾックたちの先頭に陣取った。ロードゴーストだ!「イイイヤアアアーーッ!!」両手でスリケンを投げる!投げる!投げ続ける!いくらかは外れたものの、残りが空中でロケット弾に命中し、CABOOM!!CABOOM!!CRATOOOM!!ロケット弾全弾撃墜!ハイウェイ上に丸い爆炎の花が咲き乱れる!

 

「バカナー!あれは……まさか、本当にニンジャなのか!?」デッカーが防壁上で驚愕する。「ヤクザどもを取り調べると僅かに話に出てくることがある、ニンジャ、そしてその組織ザイバツとソウカイヤ……まさか、本当に……!」

 

ロードゴーストはモーターサイクルを自動走行モードに入れると、そのサドル上に飛び乗った。どんどん迫ってくる防壁を親の仇じみて睨み、黄金の右拳を固めると、そこに青い超常の炎が灯った。そして!「イイイイイ……ヤアアアアーーーッ!!」

 

CRAAAASH!!CRA-TOOOM!!!ロードゴーストが飛び込みながら放ったカトン・パンチは滅茶苦茶な衝撃とカトン爆発を引き起こし、マッポの防壁に大穴を穿った!「「「グワーーッ!!」」」防壁の破片に混じって、何人ものマッポ、あるいはその死体がオモチャか何かのように宙を舞う。

 

「ハハハハハ!マッポごときにジゴクダイヤモンドは止められねえーッ!」ロードゴーストは反動で再跳躍してバイクに戻ると、大穴を通って封鎖線を易々と突破する!「ウオオーッ!」「アーポウ!」ゾックたちもそれに続く!「ち、畜生!突破されましたーッ!」デッカーが無線機へ向けて悔しげに叫ぶ!

 

「ウフッ!ウフッ!」マクサは再び開けたハイウェイを前にしてアクセルをふかしつつ、しゃくりあげて泣いていた。先頭を行くニンジャの、あの背中から立ち上る狂気。逃げ出したい。しかし奴はニンジャだ。お互い高速走行するバイクに乗っていて自分が奴の背後にいるという状況においてもなお、自分が逃げ出せばニンジャはたちまちのうちにそれを察知し、スリケンで粛清するだろう。

 

(((カイシャと家庭から逃げ出しても、ここも不自由だ。ジゴクダイヤモンドにも俺の自由はなかった!それどころかこの恐怖支配か!?俺はこんなもの望んじゃいない!誰か助けてくれ!)))マクサの脳裏にゲバコとキティミの顔が浮かんだ。家を出る時、ひどく痛めつけてしまった妻と娘。(((ゲバコ、キティミ、助けてくれ。お前たちのところに帰りたい!なあ、俺はひどいことをしちまったけど、今まで10年間はいいパパだっただろ……!?)))女々しい思考!

 

「スピード、スピード、スピードだけが地平を超える……」ロードゴーストはメンポの裏で歌っていた。傷の痛みを誤魔化すために接種した違法薬物が、彼の意識を朦朧とさせていた。実際のところ、ゾックが1人くらい逃げても彼は気づくことができなかったかもしれない。「スピードだけが夕陽の落ちる場所に到達する。スピードの果てに俺たちは再会する……」

 

意識がフッと遠のき、ロードゴーストは再びあの光景を幻視した。バイクに乗って自分の先を走っていく、亡き兄モンドの背中を。(((ああ、そうか。俺が欲しかった黄金(オーゴン)とは……俺が欲しかった自由とは……兄貴。あんたがいないという不自由、あんたを感じられないという不自由から逃れることだったのかもしれない。あんたを感じさせるもの……ジゴクダイヤモンド、そして暴走……)))

 

幻覚の兄がミラーを一瞥した後、身をよじって、こちらを振り向くそぶりを見せた。(((兄貴!俺を見てくれ!)))ロードゴーストが期待に身を震わせたその時、再び前方に障害物が現れ、ハイウェイを塞いだ。幻覚は掻き消え、ロードゴーストは苛立ちに顔を歪ませる。またマッポの対車両防壁か?……否。

 

障害物の正体は、廃車の山だった。ゾックたちはすでにウェスト・シュトコー2周目に突入しているところ、1周目で破壊した車両が高く、分厚く積み上がって車道を塞いでいるのである。ロードゴーストは舌打ちした。さっきの防壁のように通りがかりに破壊していくには大きすぎる。一体誰がこんなものを……。

 

「止まれーッ!バイクを止めろ!」ロードゴーストは後続のゾックたちに指示し、自らもモーターサイクルをアキラ停車させる。「ファッキン・バリケードだ。マッポの仕業か?とにかく、バイクを担いで対向車線へ移るか、この山を登って……ン?」廃車の山の頂に、小柄な人影が見える。……そして、その正体に気づいた瞬間、彼は心臓を鷲掴みにされるような衝撃を感じた。

 

「ドーモ、ジゴクダイヤモンド・ディヴィジョンの皆さん。ニンジャスレイヤーです」おお、そこに立っていたのは……廃車でバリケードを作ってゾックたちを待ち受けていたのは、赤黒の復讐者の少女、ニンジャスレイヤーだったのだ!11年前の年末と今日の暴走出発(デッパツ)前、そして今、3度目の対面だ!

 

「ド……ドーモ、ロードゴーストです」なんとかアイサツを返すが、動揺を隠せない。「バカな、非実在(ありえ)ねえ……非実在(ありえ)ねえんだ。テメエは11年前のニンジャスレイヤー=サンを騙るつまらねえサンシタに過ぎねえ……そのサンシタが、あのスペルバインド=サンを倒せるはずは……!」

 

ニンジャスレイヤーは腰にぶら下げていたものを取って、廃車の山の上から投げ落とした。バスケットボール大のそれは、鈍い音を立てて路面に落下し、ロードゴーストの足元に転がった。それは驚愕の表情のまま凍りついた、スペルバインドの生首だった。

 

「私は今までに2度あなたたちを取り逃しました。その結果、あなたたちはこうして暴走し、何十人もの人を殺した……」ニンジャスレイヤーはルビー色の瞳でゾックたちを見下ろした。もはや年相応の情など欠片もない、ジゴクの処刑人じみた冷酷な目だ。今の彼女は煮えたぎり研ぎ澄まされた殺意の塊だった。「もう、ダメです。3度目はありません。あなたたちは1人残らずここで殺します」

 

【続く】




更新が遅れまして申し訳ありません。
次回更新は明後日27日の予定です。
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