ゾックたちは怯んだ。廃車の山の上にいる赤黒の少女ニンジャ……その威圧感とアトモスフィアに対して、腹の底から湧き上がってくるような恐怖を感じていた。曖昧なものではなく、あのニンジャが引き起こす最悪のケース……ハイウェイに広がる血の海が、明確に想像される。過去の教訓のように。
(((俺たちはこいつに会ったことがある)))マクサはレールガンの銃把を強く握りしめ、手の震えを打ち消そうとした。(((今日の
「そうか、テメエがそうなんだな」ロードゴーストはスペルバインドの生首を見下ろしたまま、口を開く。「偽物なんかじゃねえ……なんで歳やガタイが子供に若返ってるのか知らねえが……テメエこそあの夜、兄貴を殺し、黄金騎士団も殺して、俺たちのチームをバラバラにした……あのニンジャスレイヤー=サンなんだな」
「最初からそう言っているでしょう。ゴブサタしています、と。あなたたちが勝手に偽物だと言い張っていただけです」ニンジャスレイヤーが腕組みする。レールガン攻撃で半壊したハイウェイ街灯がバチバチと明滅し、彼女の顔に影を落とした。闇の中で紅い双眸だけが輝いていた。「私が本物だったら何だって言うんですか?」
「嬉しいのさ。こんなに嬉しいことはねえ!」ロードゴーストは顔を上げ、歯を剥き出しにして笑った。小動物を虐待して楽しむチンパンジーめいた凶暴な喜びの表情だ。「テメエを殺せば俺は兄貴の仇を討ち、兄貴を超えることになる。俺たちジゴクダイヤモンドは11年前のあの夜を克服して先に進める。11年前よりも自由になれる!ブッダはこのオーボンの夜に、俺たちに最高の贈り物をしてくれたってわけだ!」
「人を殺さないと自由を感じられないとは、人間としておそろしく不自由な性分ですね」ニンジャスレイヤーは吐き捨てるように言い、しめやかにジュー・ジツを構えた。「オミチ・モンド=サン。その狂った自由を抱いたままジゴクに落ちるといいです」
「野郎ども、撃てェ!奴をネギトロに変えてアスファルトにぶち撒けろ!」ロードゴーストはもはや答えず、ゾックたちに攻撃命令を下す!「ザッケンナコラーッ!」「スッゾオラーッ!」黄金騎士団たちがいち早くそれに応じ、レールガンで一斉射撃!「ウオオーッ!死ね!死んでくれ!」「もう止まれねえんだよーッ!」一般ゾックたちがやや遅れて射撃!
「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは廃車の山を蹴って跳躍!CABOOOM!!その背後で、さっきまでいた場所がレールガンの集中砲火を受けて大爆発!「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは左右の街灯で交互にトライアングル・リープしながらゾックの方へ迫った。非ニンジャのゾックたちはそのマニューバに対応できないが、ロードゴーストは別だ!
「イヤーッ!」ロードゴーストは上方から迫る敵めがけ対空カトン・スリケンを投げた。カトン・スリケンは青く燃えており、摘んで逸らすのは危険だ。「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは自らもスリケンを投げて相殺!そこへ跳躍したロードゴーストが突っ込んでくる!
「イヤーッ!」ロードゴーストの対空トビゲリ!「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーの迎撃エアロスピンキック!衝突!両者ともエアロカラテの熟練者ではない以上、長く空中にいるニンジャスレイヤーとたしかな足場を蹴って飛び出して来たばかりのロードゴーストとでは当然後者の方が有利であり……「グワーッ!?」しかし、吹き飛ばされたのはロードゴーストだ!
「ゴボゴボーッ!」ロードゴーストはブザマに大量の血を吐きながら路面を転がった。彼のカラテの地力はあくまでサンシタニンジャ相応のものでしかなく、ニンジャスレイヤーとの間には天地の差がある。まして今の彼はザイバツニンジャたちに散々痛めつけられた後だ!
『チッ、仕方ないわね!』黄金義手が毒づき、カトンの力を攻撃から防御に振り分けた。線状の青炎が幾筋か噴出し、ロードゴーストの体をハーネスめいて覆う。「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーが着地し、倒れたままのロードゴーストめがけ追撃のスリケンを投じるが、バチン!ハーネスめいた炎がスリケンを受けて破裂し、弾き返す!厄介!
「畜生、撃て!無能ども!奴を殺せ!」ロードゴーストがなんとか体を起こしつつ命じる。「「「ドグサレッガーッ!」」」黄金騎士団たちがレールガンを構えるが、引き金が引かれるよりも早く、ニンジャスレイヤーはその場でコマめいて高速回転した。
「イイイヤアアアーーーッ!!」おお、そうして放たれたワザは……イビツで不完全ではあったが……たしかに「ヘルタツマキ」だったのだ。暗黒カラテの大量殺戮奥義である!回転の中から大量のスリケンが投げ放たれ、四方八方へ飛ぶ!
「「「グワーッ!」」」黄金騎士団たちは揃って額にスリケンを受け、被っていた黄金ヘルメットもろとも頭蓋を砕かれた。当然ソクシだ!一瞬のうちに全滅である!「バカな!ジゴクダイヤモンドの精鋭連中が、またこうもあっさりと……」マクサは驚愕し、そして見た。黄金騎士団たちの死体の、ヘルメットを破壊されたことで露わになったその顔を。クローンヤクザの顔を!
「アイエエエ!?さっきのヤクザどもと同じ顔ナンデ!?」マクサはその顔を知っていた。さっきザイバツのクローンヤクザ部隊と戦ったばかりだったからだ。彼はクローンヤクザという概念を知らず、てっきり何かしらイカれた組織統率のために同じ顔に整形しているのだろうと考えていたが、黄金騎士団の死体はどれもこれもそれと同じ顔だ。自分たちの味方、ジゴクから蘇ったかつての同胞たちのはずなのに、敵のヤクザと同じ顔!これは一体!?
「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」その横ではニンジャスレイヤーがロードゴーストに連続でカラテを叩き込んでいる!ベイビー・サブミッション!「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」
「畜生!死ね、ニンジャスレイヤー!」「よせ、モンド=サンにも当たる!粛清されるぞ!」周囲のゾックがレールガンで援護射撃しようとして、仲間に制止される。ただ1人精密射撃を行うことができたアサシマはさっきロードゴースト自身が粛清してしまったところだ。インガオホー無援護!
『ええい、もう一度よ!カトン・リアクティブ・アーマー!』黄金義手が叫ぶと、ロードゴーストの体表を青い炎が駆け巡った。カトン防御再展開だ!「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは構わず、踏み込んでカラテパンチを撃ち込んでくる!「ゴボボッ……!」ロードゴーストは血を吐きながらも笑い、チョップを振りかぶった。(((奴のパンチはカトンで防げる。そして飛び散った炎の熱で奴が怯んだ瞬間、カウンターでこちらのチョップを……!)))
バチン!カトンの鎧が破裂し、ニンジャスレイヤーのパンチを弾き返した。飛び散った青炎がニンジャスレイヤーに降りかかる!「かかったな!学ばない奴……」ロードゴーストの喜びの表情は、たちまち引き攣った。敵が怯まない。高熱を感じないかのように平然と、再び踏み込んでくる!
「何!?イヤーッ!」「イヤーッ!」ロードゴーストのチョップとニンジャスレイヤーのカラテパンチが衝突し、「グワーッ!」当然、カラテで劣るロードゴーストがダメージを受けて吹き飛ばされた!「な、何故……!テメエもカトンが効かねえのか!?」
「そのワザは前に見せてくれたじゃないですか。私も対策くらいしてきます」ニンジャスレイヤーが装束の前合わせ部分をはだけると、ゴワゴワした難燃性の布が覗いた。防火ベストだ!「そんなケチな自動カウンターごとき、これで十分です。もっと強力なカトンならともかく」
「グギギ……!」ロードゴーストの怒りのボルテージが極限まで上がった。知略で上を行かれた屈辱、そして"もっと強力なカトンならともかく"の言葉にノヴァフレイムを連想したことによる激情だ。自分はニンジャスレイヤーに勝てないが、仮にノヴァフレイムならば勝てるのか?(((違う!俺はノヴァフレイム=サンを殺した。俺は奴より強い!)))
否!読者の方々はご存知であろう。ロードゴーストがあのイクサに勝利したのは、仮に黄金義手の力を彼自身のものと解するとしても、度重なる幸運やアサシマの援護射撃による面が大きいことを。11年前の若く無鉄砲な彼ならば、あるいは英雄的なストーリーの主役になれたかもしれない。しかし今の彼は何もかも勘違いした小悪党に過ぎず……当然のインガオホーは今や目前にまで迫っていた!
「ウオオーッ!死ね!イヤーッ!」BOOM!ロードゴーストが燃えるカタナを振るうと、炎の一部が千切れ飛び、波となってニンジャスレイヤーを襲った。炎の衝撃波だ。「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは側転で回避!衝撃波はその背後にあったハイウェイ街灯を切断する。街灯の上部は支えを失い、ガシャンと音を立てて路面に落下した。
「イヤーッ!」BOOM!再衝撃波!「イヤーッ!」再側転回避!ガシャン!街灯破壊!「ブッダファック!イヤーッ!」BOOM!三度衝撃波!「イヤーッ!」なおも側転回避!ガシャン!街灯破壊!「ゼーッ、ハーッ……!畜生、何故当たらねえ!」ロードゴーストは苛立ちとともに叫び、「俺の自由を邪魔しやがって、おとなしく死……ゲホッ!ゴボッ!」膝をついて血を吐いた。もはやダメージの蓄積が薬物でも誤魔化せない領域!
「イヤーッ!」そこへニンジャスレイヤーの狙い澄ましたトビゲリが突き刺さった!「グワーッ!?」ロードゴーストは胸板に強烈な一撃を受け、水車めいて回転しながら吹き飛び、仰向け姿勢で路面に叩きつけられた。「ヒューッ、ヒューッ……!」起き上がろうとするが、できない。呼吸が苦しい。肋骨が折れて肺に突き刺さっている感覚。
ロードゴーストはなすすべなく仰向けのまま頭上を振り仰ぎ、死が落下してくるさまを見た。「イイイヤアアアーーッ!!」ニンジャスレイヤーが斜めに切断されてタケヤリ状になった街灯の破片を持ち、それをヤリめいて構えて急降下してきていた。ロードゴーストの心臓をキリタンポのごとく串刺しにしてカイシャクするために。
それまで興奮していたロードゴーストのニューロンは急速に凪いだ。兄ダイヤの死に様がフラッシュバックする。モズの早贄めいて街灯の先端に串刺しにされた
『なに満足して死のうとしてるわけ?』声が彼を恍惚から引き戻した。黄金義手の声だった。『自由が欲しいんでしょう?諦めずに戦いなさい。私がとっておきの力をあげる』(((何を言ってる?もういい。力なんて欲しくない)))『ホホホ、欲しくなくてもあげるわよ!私たちソウカイヤはあなたたちの破壊活動に投資したんだからね。戦いなさい、死ぬまで!』(((ヤメロ!アバーッ!)))ロードゴーストの意識は青い業火に呑まれた!
……「アババババーッアーッグワーッ!」CABOOM!!ロードゴーストの体が青く爆発し、降下してきたニンジャスレイヤーを吹き飛ばした。「ヌウーッ!?」ニンジャスレイヤーが空中で身を捻って着地し、向き直ると、炎の魔人が身を起こすところだった。ロードゴーストだ。今や青い炎は全身を覆い、激しく燃え上がっている。
「AAAAAGH!!」魔人が奇妙な姿勢からバネ仕掛けめいた動きで跳躍し、ニンジャスレイヤーに飛びかかった。「AAAAAGH!!」叫びながら放つのは、力任せに叩きつけあるいは引き裂く、粗雑ながら苛烈なカラテだ。さっきまでよりも強い!「ヌウーッ!ロードゴースト=サン、まだこんな力を……!」ニンジャスレイヤーはなんとかジュー・ジツで捌いていく。
ロードゴーストの絶叫はその実、ジゴクの責苦じみた苦痛を受けたことによるものだった。今燃えているこの炎は彼を守るものではなく、彼自身の体を燃料として消費して燃えているのだ。全身のタンパク質が役立たずの茹で卵に変わっていくおぞましい感覚。皮膚が炭に変わり、ボロボロと剥がれ落ちていく。
(((グワーッ!やめてくれ、金ピカ!痛い!苦しい!もう死なせてくれ!)))『ホホホ、情けないわね!大勢の無関係なカタギを好き勝手殺したくせに、自分が好き勝手されるのは嫌なわけ?』黄金義手は今や組み込まれたニンジャソウルの力でロードゴーストの全身をジョルリ人形めいてコントロールしていた。『今のあなたはまさしくインガオホー。おとなしく私の燃料になっていなさい!』
「AAAAAGH!!」「イヤーッ!イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは数秒の間魔人と切り結んでいたが、やがて耳のインカムにチェミから通信が入り、眉間に皺を寄せた。タイムリミットが近づいている。「GAAAAAAAAGH!!!」魔人が渾身の一撃を振りかぶる。ニンジャスレイヤーは決心した。
(((ナラク!)))ニンジャスレイヤーの右目の瞳がセンコめいて細まって輝いた瞬間、赤黒い炎が花弁めいて散り、彼女の姿は掻き消えた。当然魔人の攻撃は空振りだ。どこかで金属の砕ける音がした。
『え?』黄金義手はあっけに取られた。敵はどこに行った?逃げたのか?追跡を……ロードゴーストの体の調子が何かおかしい……いや、この感覚は。『……えっ?』黄金義手は一つ目をギョロつかせて、近くにある廃車の窓ガラスに映る自分の姿を見た。装甲を砕かれ、グシャグシャにひしゃげていた。
『サヨナラ!』黄金義手は爆発四散した。内部に封じられていたニンジャソウルが解放され、白いヒトダマめいた姿となって天へ登っていった。「……アバーッ……」ロードゴーストが倒れた。炎は消えたが、彼の体はすでに半ば炭化していた。
「フウーッ……!」その背後からニンジャスレイヤーが現れた。彼女は敵の義手が力の根源になっていることを見抜いていた。そしてあの一瞬、ナラク・ニンジャの力を解放して急加速し、背後に回り込んでから渾身のカラテで義手を破壊したのである。「ハイクを……読んでください……!」ナラクの影響で過熱する悪意を強いて押し殺しつつ、宣告する。
「アバッ……俺の
「アイエエエ!モンド=サン!」「モンド=サンが死んだ!」周囲の一般ゾックたちは戦闘に介入できないまま立ちすくんでいたが、リーダーが死ぬ決定的瞬間を目にして恐慌状態に陥った。「アイエエエ!助けて!」「終わりだ!ジゴクダイヤモンドは終わりだーっ!」レールガンを捨て、モーターサイクルに乗って逃げる者、あるいは転がるように走って逃げる者。
「イ……」ニンジャスレイヤーはその背中を狙ってスリケンを構えた。そして躊躇した。破壊的暴走行為を好み、自分に恨みを持つことになるであろうゾックたち。しかし……(((殺せ)))ナラク・ニンジャの囁き。(((このような屑ども、生かしておいても後の面倒事にしかならぬ。1人残らず殺すと言ったのはミフデ、オヌシであろう?)))
「……」ニンジャスレイヤーはスリケンを収めた。あのゾックたちはたしかにどうしようもない悪党であろうが、ニンジャでもない相手が戦意を喪失して逃げるところを後ろから撃ち殺す権利など自分にはないと思った。(((なんたる軟弱。では聞くが、あやつらがまた暴走行為に出て人死が出たらどう責任を取るのか?オヌシはやっていることがチグハグぞ)))「……」
ゾックたちの姿が消えると、ニンジャスレイヤーはハイウェイ隔壁の向こうの夜空を見やった。地上のビル街の明かりを受けて、4機のVTOL機が飛んでくる姿が浮かび上がっている。オムラジャイロ社製VTOL輸送機「ヤタガラス」だ。ニンジャスレイヤーのニンジャ視力は機体の外面に罪罰紋がペイントされているのを見てとった。ザイバツの増援部隊なのだ。
輸送機に乗っていると思しきニンジャの存在感が5つ、いや6つ。ナラクを呼び起こしたことで昂ったニンジャ感覚が、それらの中に高位ニンジャソウルの憑依者が何人か混ざっていることを感じ取った。もしかするとグランドマスターがいるのかもしれない。今のニンジャスレイヤーがまともに戦っては勝てない相手だ。チェミが警告した"タイムリミット"の正体である。
ニンジャスレイヤーは最後にロードゴーストの爆発四散痕を見下ろし、「……昔は良かった、か」呟いて、ハイウェイから地上へと飛び降りた。彼女の小さな背中はたちまちネオサイタマの闇へ溶けていった。
【続く】
次回最終話です。
同時にニンジャ名鑑も投稿します。