夜も深まり、ネオサイタマ繁華街はいよいよ賑わっていた。オーボンの帰省シーズンではあるが、それでも多くの人々がアルコールと音楽、そして性を求めてこの地を訪れる。この暗黒都市が故郷である者、低ホスピタリティ企業に勤めておりこの時期に休暇を取れない者、あるいは帰るべき故郷がない者。心なしか、平時よりも悪酔いした者の割合が高い。何かを忘れようとするように。
「オーン!ウオオーン!」1人の泥酔サラリマンがサイバー電柱の脇で座り込み、泣き崩れている。「婆ちゃんよう、ごめんよう……あんなこと言うつもりはなかったんだよう……なんで俺が謝る前に死んじまったんだよう……ウオオーン!」通行人たちが遠巻きにして通り過ぎていく。周囲では皮肉めいて、楽しげな広告アナウンスと音楽、酔漢たちの歓声が響いている。
「はいはい、どいてどいて。あー何してんの、アンタ」やがて2人のマッポが人混みをかき分けて現れ、サラリマンの両脇を抱えた。「飲み過ぎだよ、この物騒な晩に。サイフ擦られていないかい?」「おお、あんたたちはブッダ様かい?」泥酔サラリマンがマッポの1人にすがりつく。「頼むよ、時間を巻き戻してくれよ……俺を過去に戻してくれよ。今度はうまくやるからよう!」
「そんなことができるならな、本官がやり直したいくらいだよ。上官の不正チクったら昇進止められたしよ。同期は今頃のんびり休暇なのに俺はこうして労働だよ」「私は最近10年付き合ったカノジョと別れました。目玉焼きに何をかけるかで喧嘩して」マッポたちは口々にぼやきながらサラリマンを交番へ運んでいく。
「……」防塵パーカーのフードを目深に被ったニンジャスレイヤーは、そのさまを見送って何事か考えた後、再び歩き始めた。濁流めいて荒れ狂う人混みと喧騒の中を早足ですり抜けていく。『……ネオサイタマ市警の発表によりますと、先ほどウェストシュトコー・ハイウェイの武装暴走集団が鎮圧されたとのことアリンス』頭上のツェッペリンTVにミッドナイト・オイランニュースが流れている。
『調べによりますと、武装集団は10年前に崩壊した暴走クラン"ジゴクダイヤモンド・ディヴィジョン"の残党であり……精鋭チーム"黄金騎士団"の姿も確認されており……先日の電波ジャックとの関係が濃厚に』やがて路地裏、隠れ家の扉の前に辿り着く。電子錠にカードキーをスキャンし、引き開ける。室内には相変わらず、モノリスめいたUNIXサーバーが林立している。
「おお、ニンジャスレイヤー=サン!」その奥でUNIXチェアに座っていたワイヤープラーが声を上げ、松葉杖をついて立ち上がった。「あっ、大丈夫ですよ!無理しなくても!」ニンジャスレイヤーが制し、そちらに駆け寄る。「お前こそ大丈夫なのか?」「ええ。人通りの多いところをぐるぐる巡って遠回りしてから来ましたから、敵に尾行されるようなことは」
「違う。怪我はしなかったかって聞いてるんだ」ワイヤープラーはニンジャスレイヤーの全身をジロジロと見た。「切り傷はなさそうだな。頭や背骨は打たなかったか?そのあたりの打撲は後になって大変な症状が出ると言うぞ」「……はい、大丈夫だと思います。フフッ」「何がおかしい?真面目な話だ」
「すみません。ただ……」ニンジャスレイヤーは表情をほころばせる。「センパイが怪我すると私が慌てて、私の怪我の話になるとセンパイが落ち着かなくなるのが、ちょっと面白いなと思って」「ハアーッ、まったく。呑気なやつめ」ワイヤープラーは再びUNIXチェアに体を沈めた。
ニンジャスレイヤーは不意に神妙な顔になる。「あの……今日は、すみませんでした。センパイはあのゾックに構うなって言ってたのに、私……」「何も謝ることはない。自分のやることは最終的には自分で決めればいい。俺もそうする」ワイヤープラーは歳上の余裕をアピールするように笑う。
「ただ、たとえザイバツの黒幕どもを皆殺しにできても、お前が大怪我をするようなことがあったら俺は……なんというか、とても喜ぶ気にはなれない。それは頭の隅にでも入れておいてくれよ」「……ハイ。アリガト・ゴザイマス」ニンジャスレイヤーの声は少し震えた。「……センパイ、タダイマです」「ああ、オカエリ。ミフデ=サン」
「そうだ、怪我がないなら風呂で汗でも流して来たらどうだ?」「エッ?お風呂ですか?」「そうだ。この建物には風呂がある。やたらデカいやつがな」ワイヤープラーは親指で廊下の奥を示した。「さっきチェミ婆が沸かして入ったところだ。そろそろ上がる頃だろう」
「センパイはどうするんですか?その足で1人で入れますか」「ありがとうよ。だがどうとでもなるさ。俺もニンジャだ、片足が動けば十分。お前たちの後にのんびり入るとするよ」「わかりました、じゃあお先にお湯いただいちゃいますね」ニンジャスレイヤーは風呂場の方へ向かいかけて、振り返る。「ねえ、センパイ」「何だ?」
「別に覗いてもいいんですよ?私がお風呂入ってるところ」そう言ってイタズラっぽく笑った。ワイヤープラーは一瞬真顔になった後、苦笑して、「何バカなこと言ってんだ、早く行け!」「ハーイ」ニンジャスレイヤーは廊下の向こうへ姿を消した。彼女の顔は照れで耳まで赤くなっていた。
「まったく、ちょっと前までランドセル背負ってた歳でマセやがって……」ワイヤープラーは椅子を回してデスクに向き直り、そして再び真顔になって、何やら考え込んだ。彼女にボディタッチされるたびにドギマギしていた、少年の頃の思い出。「……覗いてもいいのか……いや!何をバカな!」
【Avenger in love】
一方、ソウカイヤの本拠地「トコロザワ・ピラー」では……。
『……であるからして、今回のジゴク・ダイヤモンド暴走事件を期に、我々は物流を自動車とハイウェイに依存しきった旧態依然の状態から脱却しなければならないわけですね』テレビの中で、壮年のコメンテーターが指で眼鏡を押し上げる。きわめて知的な所作だ。『その点、ネコソギ・ファンドが主導する次世代輸送システム構想は実に素晴らしく……』
「ムッハハハ!マーベラス!ムッハハハハハ!」ラオモト・カンはその放送と、デュアルモニタに映るネコソギ社株価の上昇曲線を見て、上機嫌そうに笑った。「万事、俺様の想定通りに事が運んだわ。クローンヤクザを適当に暴れさせるだけではこうはいかん。解散したはずの暴走クランが社会に不満を溜めて再集結し、大量虐殺事件を引き起こす!実際センセーショナルな筋書きよな」
「は、実に」彼の座るタタミ玉座の脇で、エモナジョーが短く答える。彼はラオモトの側近で、ソウカイヤの最古参である。「おうエモナジョー=サン、我々が派遣する増援クローンヤクザをあの何とかっていう金ピカの部隊に偽装するのは貴様のアイディアだったな?あれも世論に効いたようだぞ、なにせ見た目が派手だ。そのディテールの凝り方や良し!ムッハハハ!」「お褒めに預かり、恐悦至極でございます」
「で、タンドラッガー=サン!それにナイトリーパー=サン」ラオモトは玉座の下で跪いている部下2人を見下ろした。法服めいた装束のタンドラッガー、そしてライダースーツ姿のナイトリーパーである。「貴様らもいい働きだったようだな。特にナイトリーパー=サンは、もう1人の……あー……」「スペルバインド=サンです」エモナジョーが囁く。
「そう、スペルバインド=サンだ。まあゾックのお守り一つ満足にできずどこかで野垂れ死ぬような負け犬の名前なぞどうでもいいが」ラオモトは冷酷にそう言い捨て、「奴の不意の脱落をよく補ったものよな。褒めてやろう」「アリガト・ゴザイマス」ナイトリーパーが平伏する。「……しかし」ラオモトが目をぎらりと輝かせた。「その負傷はどうした?」
今こそ、そこにいるナイトリーパーの姿を見よ。彼女は全身に無数の傷を受け、生きているのが不思議なほどのボロボロな有様だった。左腕にいたっては肘の辺りで千切れているが、なぜか出血はない。そんな中でも彼女は平然としていた。「はっ、暴走行為を阻止しに来たザイバツニンジャに反撃を受けてしまいました。私の不徳の致すところです」
ナイトリーパーはフロストストームを道連れにハイウェイから落下した後も、彼と戦い続けていた。一対一ではおおよそ互角だった。しかし途中で怒り狂ったジャングルチャンプが乱入してきて二対一となり劣勢に立たされたため、全力で逃走した。その過程でこれだけのダメージを負ったのである。
「敵はグランドマスターでもシテンノでもなかったと聞いているぞ?貴様は今や末席とはいえシックスゲイツに名を連ねる身。一束いくらのザコを相手に手こずるようでは、俺様の期待に十分応えているとはいえん」ラオモトの声色がシビアなものとなり、玉座の間のアトモスフィアが張り詰める。「カラテを鍛えるなり、装備を工夫するなり、やり方を考えておくことだな。貴様のブザマさに対して俺様の堪忍袋が爆発せんうちに」
……「怒られてたなァ、シックスゲイツ様よ!エエッ?」タンドラッガーが挑発的に笑う。「しかしフロストストームたあ相手が悪かったな。あいつはたしかあの地獄のマルノウチ抗争でうちのニンジャを何人も殺したバケモンだ。いや、バケモン度だけでいえばお前の方が上かもしれないが……」「うるさい。死んで」ナイトリーパーは冷淡に突き放した。
彼らはラオモトのいる天守閣を出て、トコロザワ・ピラー屋上庭園を進んでいた。ライトアップされたバイオ松の枝ぶりが見事だ。漆塗りのアーチ橋を進むと、その下の池で錦鯉が優雅に泳いでいるのが見える。
「だいたい、ザイバツにあんなに正面から喧嘩を売る計画だなんて引き受けるとき聞いてなかったんだけど。スペルバインド=サンも帰ってこないし。よくこんなクソ案件持ってきたよね」「まあまあ、そう言うなよ!」タンドラッガーは悪びれない。
「ありゃラオモト=サン執心の計画だったんだ、いずれは誰かがやらなきゃいけない。しらばっくれててもお鉢が回ってくるかもしれない。だったら俺たちが自分から手を挙げて、ラオモト=サンにアッピールする機会にするのがお得ってもんだろ?まあさっきの様子を見ると、お前に関してはアッピールできてたかどうか怪しいけどな。ブハハ!」「イヤーッ!」「ウオーッ!?」
ナイトリーパーがやにわ大鎌を取り出し、周囲をぞんざいに薙ぎ払った。タンドラッガーは慌ててブリッジ回避する。「や、やめろ!急にキレんなよ!こんな場所で味方を殺すつもりか!?」「悪気はないの。蚊がいたから」「蚊1匹のために長物振り回すなよ、イカれてんのか!」「あとこれは関係ない忠告だけど、あまりやたらと他人を馬鹿にすると寿命が縮むと思う」「悪気バリバリじゃねえか!」
その時、屋上出口から新たな人影が姿を現した。大きな丸眼鏡とゆるく編んだ髪、そして白衣が特徴的な女性である。「あっ、ナイトリーパー=サン!探してたんですよ!」女性はナイトリーパーを見ると表情を明るくして駆け寄った。ニンジャたちが向き直り、アイサツする。「ドーモ、リー先生。ナイトリーパーです」「タンドラッガーです」
「ドーモ、リー・マリーです」女性がややギクシャクした仕草でアイサツを返す。彼女はニンジャではなかった。そしてそのバストは豊満だった。「で、ナイトリーパー=サン!改良したあの大鎌、"ミマカリ"の性能は如何でしたか!?」リー先生は目を輝かせて尋ねる。「あの改良案はまさに天啓でした。ニンジャソウルエネルギーの伝導経路を効率化し、形態変化の速度を50%向上!よければこの後すぐ私のラボでミマカリのメンテナンスがてら使用感を伺っても!?」
「使い勝手はよかったよ。ただ、ラボに行くのは後でいいかな」ナイトリーパーは自分の千切れた左腕を示した。「この通りボロボロだから。とりあえず体を修理しなきゃ」「ああーっ!スミマセン、お怪我なさっていたとは!気づきませんでした!」リー先生はコメツキバッタじみて繰り返し頭を下げた。「ああ、なんてこと!私、気になることがあると他に目がいかないタチで……いつもお世話になっているのにひどいシツレイを」
「うん。もう行っていい?」小柄なナイトリーパーは相手を見上げ、冷淡に答える。「ハイ!行きましょう!」「えっ、ついてくるの?」「ハイ!修理が終わりましたらすぐラボに来ていただきたいので!いえ、むしろ修理をお手伝いします!」「1人の方がやりやすいんだけど。服脱ぐし」「大丈夫です!気にしませんので!」「私の気持ちを気にした方がいいと思うんだけど」
「手伝うなんてやめといた方がいいですぜ、リー先生」タンドラッガーが口を挟む。「そいつの裸をマジマジと見るなんざ、死体性愛者でもなければ気分が悪くなるだけで。とんだナイスバディだよ全く」「イヤーッ!」「グワーッ!」そしてナイトリーパーに大鎌の柄で鳩尾を突かれて膝から崩れ落ちた。
「で、リー先生。私についてくるの?」ナイトリーパーはリー先生を見やる。「考えたら女同士なんだし、別に……一緒に来たいなら、来てもいいけど」「いえ、やめておきます」リー先生はこの一瞬で驚くほど醒めていた。「私、死体みたいなグロいのは映画とかでもどうも苦手で。見るだけで吐き気が」「イヤーッ!」「グワーッ!」そしてナイトリーパーに大鎌の柄で鳩尾を突かれて膝から崩れ落ちた。
ナイトリーパーは肩をいからせて屋上出口の扉をくぐり、エレベーターに乗り込むと、死体安置所のあるフロアのボタンをプッシュした。「うちの組織はデリカシーのないバカばっかり」ひとりごちて、エレベーター突き当たりのガラス窓から地上に目を向ける。
見えるのは、ネオサイタマの宝石をぶちまけたような夜景と、はるか下の地上……トコロザワ・ピラー入口前の広場で、ミヤモト・マサシ像がカタナを掲げているさまである。その刃はマルノウチ抗争から11年の時を経ても、まっさらに綺麗である。何かが落ちてきて突き刺さるようなこともなく。
【Avenger in love】
「チェミ=サン、何かお手伝いすることはありますか?」ニンジャスレイヤーの声が浴室に響く。彼女は裸にタオル1枚だけの姿であり、白い肌が眩しい。バストは豊満だ。「つまりその、シツレイかもしれませんが、その目だと体を洗ったりだとかする中で不自由があるんじゃないかと」
「ああ、大丈夫だよ!もう慣れたからね」チェミ婆が湯船の中からフランクに片手を上げてみせる。彼女の目元には……いくらか形成外科治療されてはいるが……いまだ痛々しい傷跡が残る。去年の末、チェミはザイバツニンジャに拷問されて光を失ったのだ。「安心しなよ、ちゃんと体を洗ってから湯船に入ったからさ」
「そこを気にしているわけではないんですが……まあ、大丈夫なら良かったです」ニンジャスレイヤーは老婆のカクシャクぶりに少し驚きつつ、手近な洗い場に椅子を据えて座った。この繁華街の隠れ家の風呂場は、セントー・スパほどではないが、実際広かった。ニンジャスレイヤーは昔に習い事の強化合宿で訪れた合宿所のそれに似ていると感じた。
「チェミ=サン、今日はハッキング支援ありがとうございました。すごく助かりました」ニンジャスレイヤーは体を洗いつつ話す。「そうだろう、助かったろう!ヤバイ級ハッカーchemy様がタダで味方してくれるありがたみを噛み締めなよ。アタシはWW3でも西日本軍のハッカーとして東日本軍のコミーハッカーを何人もフラットラインさせてだな……」
チェミがきっかけさえあれば自慢話を差し挟んでくるのはいつものことだ。ニンジャスレイヤーは適当に聞き流しつつ体を洗っていたが、不意に手を止める。「……あの、チェミ=サンは『昔はよかった』って思うことってありますか?」「その時アタシは決死隊に志願して東軍のマンモス戦車に直結してだな……エッ?なんだい、急に?」「いえ、今日そういうことを言う人に会ったもので」
「『昔はよかった』か」チェミは鼻を鳴らし、「しょっちゅう思ってるよ。息子も死んだし」「はあ、なるほど」突然重い話が出てくるが、ニンジャスレイヤーは動じない。チェミがザイバツに殺された息子のことをやたら軽々しくひけらかすのもいつものことだからだ。「あと、同じ女のアンタだから言うけど、最初のカレシとはひどい別れ方したんだよね。ババアのノスタルジーさ」「はあ」
(((あのゾックの人たちも、そうだったのかな)))ニンジャスレイヤーは考えつつ、自分の手を見た。ロードゴーストを容赦なく殴りつけ、その夢を断った手。「……でもね、『昔はよかった』って考えるのは、ポジティブで良いことだと思ってるよ。アタシは」「エッ?どうして」思いがけない言葉に、顔を上げる。
チェミは風呂でよく温まった赤ら顔でにやりと笑い、「何事も、うまくいった経験がないとやる気なんて出ないだろう?成功したこととか、得をしたこと、人に褒められたこと、好かれたことを噛み締めて『またああなりたい!』って考えるのは、超キツい今をなんとかする原動力になると思うね。むしろ悲惨なのはよかったと思える昔がない人の方さ。何を目指して何をすればいいのかわからないじゃないか」
ニンジャスレイヤーは考え込んだ。とりとめのない苦悩の中に、チェミの言葉が一つの指針を示してくれたように思えた。「アタシとしたことが、説教臭い台詞を言ったね。のぼせたかな」チェミが湯船から上がり、浴場を後にする。「じゃあアタシはお先。あとは1人でゆっくり入ってなよ。ゆっくりとね」……意味深にニヤニヤしながら。
白い湯気が立ち上り、天井近くで滞留して、換気扇に吸い込まれていく。高窓の向こうから、微かに繁華街の広告音声アナウンスが響いてくる。(((ゾックの人たちは、心の底では……昔の自分たちが成功していたとか、最高だったとか、思えてなかったんじゃないかな)))ニンジャスレイヤーは湯船に浸かりながら、その光景をぼんやり眺めていた。
(((だから、自分が本当に欲しい未来がわからなくて……そのために何をすればいいのかわからなくて……とにかく目の前の苦痛から逃れて、考えずに済む道を選んでしまったのかもしれない)))思い出すのは、恐怖に呑まれた表情でロードゴーストに従い、彼が敗れたとみるや潰走するゾックたちの姿だ。罪を重ねて、もはやまともな生き方はできまい。逃避を重ねた末路があれか。
(((勝手なこと考えてるなあ、私……ていうか、私自身はどうなのさ。私自身は欲しい未来をわかってる?復讐がしたいのか、センパイと一緒にいたいのか……どちらか選ばないといけない時が来たら、どうしたら)))考えるが、答えは出ない。チェミのように自分なりの人生哲学を構築するには、彼女はまだ幼すぎた。
ガララッ!浴室の扉が開き、全裸のワイヤープラーが入ってきた。「ハーッ、何度見てもでけえ風呂場だ」「キャアーッ!?センパイ!?ナンデ!?」ニンジャスレイヤーは仰天し、とっさに体を湯船に沈めて隠した。
「ウオオーッ!?ミフデ=サン!?なんでまだ居るんだよ!?」ワイヤープラーも驚愕し、大袈裟に目を背けながら自分の股間を隠した。「ち、違うぞ!覗きに来たわけじゃないんだ!チェミ婆が『ニンジャスレイヤー=サンももう風呂を出たから、お前も湯が冷めないうちに早く入ったらどうだ』とか言うから……」
遠くからチェミの高笑いが聞こえてきた。ワイヤープラーは弄ばれたことにようやく気づき、顔を真っ赤にした。「あのクソババア、俺の悶々とした気持ちも知らないで!ぶっ殺してやる!」全裸のまま、骨折していない方の足でピョンピョンと飛び跳ねて浴室を出ていく。
「ちょっと、センパイ!転ばないでくださいね!あと服着てください!」ニンジャスレイヤーはハラハラしながらそれを見送った後、体を隠している自分を省みた。(((な、なんで覗いていいって言ったのに隠しちゃったんだろう、私……ていうかセンパイ、悶々としてたんだ……)))
ニンジャ聴力が、浴場の外のワイヤープラーの怒声とチェミの笑い声を捉える。ザイバツとのイクサとは何の関係もない、他愛のないハプニング。他愛のない会話。(((この先、今この時を思い出して「昔はよかった」って思う時が来るのかな)))ニンジャスレイヤーは火照った頭でぼんやりと考える。とりとめもない疑問は立ち込める湯気の中に溶けていった。
【オーボンナイト・ゴーストライダーズ】終
本作の更新は今回で終了となります。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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