(「ギギッ……しかし奴はここまで3度攻撃を受け、ダメージを負った」ハーデンベルギアはトビゲリの反動で跳躍・着地し、何事もなかったかのようにIRC通話を続行する。「ああ、もはや遠くには行けまい。30分以内には連行する。オタッシャデー」)
ハーデンベルギアはホワイト・クリスマスの繁華街の中、わずかな足跡や血痕を辿り、敵を追った。ビルの外壁を伝い、内部を通り抜け、次のビルへ飛び移る。
時折、周囲の機械が彼を攻撃し、あるいは行手を阻んだ。ワイヤープラーがジョルリ・ジツをトラップのように仕込んでいったものであろう。
(くだらん小細工を)ハーデンベルギアは内心辟易としつつ、それらに淡々と対処した。オイランドロイドをカラテで倒し、防犯サスマタをスリケンで破壊し、防火シャッターをサイバネパンチで破壊する。
施設侵入を咎めた警備員をスリケンで殺し、ワイヤープラーがカラテで昏倒させていったヤクザバウンサーの横を通り過ぎ、奴が割っていった窓から飛び降りる。ニンジャはいつしか摩天楼を下りきって、地上に降り立った。二車線道路の歩道である。
通行人がそれを見てどよめく。「あの人空から降ってこなかった?」「ケガしてないよ」「ニンジャ?まさか……」人ごみが引き潮のように遠ざかる。それに逆らうようにして、逆関節脚のロボニンジャが進み出た。右手にはガトリング砲。
『ドーモ、モーターヤブは祝日の交通を整理します!』電子合成音声のアナウンスとともに、BRATATATATA!ガトリング砲が火を噴いた!「イヤーッ!」ハーデンベルギアは高く跳躍して回避!「アイエエエ機械暴走!」「アイエエエ!」周囲の一般人が逃走!
ザイバツニンジャは半身サイバネの身ながら華麗に身を捻ってムーンサルトを決め、空中からロボニンジャの頭頂部を見下ろし……サイバネの右腕をカワラワリのごとく振り上げ、振り下ろす!
「イヤーッ!」KBAM!CRAAAASH!!『ピガーーーッ!!』電子合成音声の断末魔!サイバネ・カワラワリはかのロボニンジャを一撃で叩き潰し、ひしゃげたスクラップに変えてしまった!コワイ!
『ホーホーホー!』さらに、背後からおどけた笑い声。振り返ると、スモトリめいて巨大なサンタ・バルーンが宣伝音声とともに降下してくる。『メリークリスマス!』
「くだらん!ギギイーッ!」ハーデンベルギアは言い捨て、スリケンを3枚同時に投げつける。ドウン!ドウンドウン!スリケンはサンタの腹に食い込む。空気が噴出して、サンタは後方へ飛んでいく。
排除したか。そう考えて、注意を他へ向けた瞬間……サンタの腹が内側から引き裂かれ、銀色の影が飛び出した。ワイヤープラーである。「何だと」ハーデンベルギアは目を見開いた。回避は間に合わぬ。ガード……ガードを……サイバネの体が反射神経についてこない!
「イイヤアアアーーッ!!」ワイヤープラーの渾身のチョップ突きが、ハーデンベルギアの胸を捉える!「グッワ……!」ハーデンベルギアは目を剥く。ワイヤープラーの主観時間が泥のように鈍化した。
チョップ突きが敵の体にめり込む。1センチ。2センチ。このまま心臓を。3センチ。……指先が止まった。腕が動かない。奴の左腕が、チョップの腕を掴んでいる。遅れて金属の右腕が、こちらの襟を掴む。奴の生身の左眼がギラリと輝く!
「イイイ……ヤアアーーッ!」ハーデンベルギアは体を返し、グリップした敵の体を背負うようにして、投げ飛ばした!イポン!「グワーッ!」SLAM!ワイヤープラーはワイヤーアクションじみて宙を舞い、ガードレールを超えて車道に叩きつけられた!
「ゴホゴホッ……ハ、ハハハ!」ザイバツニンジャは胸のダメージで咳き込みながらも、笑う。「驚いた!今のは驚いたぞ!10年前の大抗争でも、こんな妙なアンブッシュは……ギギギッ……なんて若造だ!」
「ザッケンナコラーッ……褒めるくらいなら、死ねよコラーッ……!」ワイヤープラーは吐き捨てるように言いつつ立ち上がったが、ふらつく。彼はもはや満身創痍だ。アンブッシュで腹を蹴られ、背中にスリケンを受け、給水塔攻撃で左脚に瓦礫が突き刺さっていたところ、今また強烈な投げを受けたのだ。
「アイエエエ!?ニンジャ!?ニンジャナンデ!?」道を走ってきたスシ配達バイクが2人のニンジャに驚き、転倒してスシ・パックを撒き散らした。多くの通行人はすでに逃げ去っていたが、ぼんやり座り込んでいた薬物中毒の浮浪者がパックを拾い、上機嫌に路地裏へ消えていった。
「そういうわけにはいかん。私にも任務がある……イヤーッ!」CRASH!ハーデンベルギアはガードレールを威圧的に蹴り壊し、車道に出る。「ギギッ……貴様には、私と一緒に来てもらう」
ワイヤープラーは状況判断した。目の前の相手は完全に格上であり、自分はすでにダメージが重い。まともにカラテをすれば100%敗北するだろう……まともにカラテをすれば。カラテをしない手段はないか?
ハーデンベルギアがこちらの隙を窺いつつ、ジリジリと近づいてくる。目を逸らすことはできない。耳を澄ます。何かないか……1%でもいい、カラテ以外でこいつを殺しうる方法は。致命傷を与えうる破壊力は。
……あるかもしれない。ではそれを直撃させる方法は。カラテ以外で。ジツだ。しかし周囲に操れるものがない……本当か?(あなたは実際、ジョルリ・ニンジャクランの優秀な戦士なのよ)リーンハートの言葉が脳裏をよぎる。俺のソウルは知っているはずだ!
ハーデンベルギアが仕掛ける!「イヤーッ!」牽制のスリケン!「グワーッ!」ワイヤープラーは右肩で受けた。最小限の動きで致命傷を避け、コンマ1秒でも早く次の動きを!「ジョルリ・ジツ!イイヤアアアーーッ!!」かざした両手が蛍光グリーンに輝く!
ハーデンベルギアは嘲笑した。「同じ手ばかり!」もはやこの周囲に操れる機械や人形がないのは確認済みだ。遠くから呼び寄せるにしても、その前に自分のマメ・カラテが決まる!踏み込んで間合いを詰めにいく!
……踏み込む!……踏み込めぬ!?「ギギッ……!?」ザイバツニンジャは、自らの体を見下ろした……いくら動くよう思考しても硬直して動かぬ、サイバネの右半身を!
「アアアアア!クソッ!」ワイヤープラーが叫んだ。ニューロンへの負荷により鼻血が流れる。「やっぱダメだ、動かせねえ……だけどよ!」しかし彼は笑う!「やっぱ、カナシバリにするだけなら……できそうだぞ!サイボーグ野郎!」
ハーデンベルギアはメンポの裏で顔を歪めた。「貴様、私の体にジツを……!」右半身が鉛のように重く、その場に踏ん張ったまま、引きずることもできない。しかし左半身は!「イヤーッ!」左手でスリケンを投げる!
「グワーッ!」ワイヤープラーは右腕にスリケンを受け、少しよろめく。しかしジツは途切れぬ!「ハハハハハ!軽いぜ、オッサン!」ワイヤープラーが笑う!「殺せるかよ!いくら俺がサンシタでもよ、そんなヘロヘロ球でニンジャをよ!」
然り!右半身が直接的に攻撃に使えないだけならともかく、踏み込みや重心移動にさえも使えないともなれば……残る左半身での攻撃も、威力は大きく削がれる!
まして今のハーデンベルギアの目的は相手を生捕りにすることであり、下手に急所を狙うことができぬ……仮に狙うことができたとしても、ニンジャを弱々しいスリケンだけで殺すには一定の時間を要する!
ハーデンベルギアは動揺した。(何だ、この状況は……押されているのか?私が?)しかし熟練の戦士としての合理的思考が、その不安を押し留める。(いや、奴はジツで手一杯で、こちらに攻撃する余力がない。ジツの力を消耗し切れば終わりだ!)
……微かに、重低音と振動を感じた。「ハーッ……さあ、ハーデンベルギア=サン。ここからが本当の勝負だ」ワイヤープラーは平静を取り戻し、宣告する。ハーデンベルギアはカナシバリのまま、左目だけで音のする方を見た。
強烈なヘッドライトが……それを発する大型オイラントラックが、約100m先から、法定速度の2倍のスピードで接近してくる!「ルールはカラテじゃない。運だ」
ハーデンベルギアの背筋に冷たいものが走った。「ギ、ギ……!交通事故を期待しているのか!?バカな!ドライバーが気づくわ!」「だから言っているだろう。運だと」ワイヤープラーの目にあるのは、狂気……否、ボードゲーム戦士が数万通りの手を考えたうえで一発逆転の奇策をベストと判断するがごとき、異常に研ぎ澄まされた理性の光である!
「俺はジツがあんたに効いた時点でチップを置いたんだ。トラックが衝突して、あんただけが致命傷を負う数字にな」トラックが接近する!80m!70m!「あんたはどうする。覚悟を決めるか。それともルーレットをひっくり返す方法を考えるか」60m!50m!ドライバーはまだこちらに気づかない!
「何をバカな……!」ハーデンベルギアは焦燥しつつ、左手でスリケンを投げる!「イヤーッ!」「グワーッ!」額に命中!しかし骨を割れるほどの威力が出ない!「ハーッ……なるほど。その方法は間に合いそうか?」40m!30m!
「コワッパがあ!」ハーデンベルギアは2枚目のスリケンを構える!次は奴の目を!『ハーイ、止まって止まって!そこのトラック!』ガギャギャギャギャッ!……
一瞬、時間が止まった。静寂。睨み合う2人のニンジャ。ジョルリ・ジツの緑色の輝き。ネオンの光を背景に舞い散る雪。足元に散らばるスシ・パック。……トラックは20m地点で急ブレーキをかけ、停止していた。
「何スか?お巡りさん」ヤクザ運転手がオイラントラックの窓から顔を出した。運転席からエンカ・ロックが漏れる。『あのね、トラックね、この道ダメなの!』横道から出てきたマッポが拡声器越しに叫ぶ。
『なんか今車いないみたいだから、すぐUターンして国道に戻って!』「アー、そうスか。スミマセン」『あとスピードね、今日は酔っ払い多いからもっと落として!今回は面倒だから見逃すけど!』「ウス」
ヤクザトラックはしめやかにUターンして、いくらか奥ゆかしいスピードで来た道を戻っていった。マッポが周囲を見回し、ニンジャたちを遠目に見つけて、拡声器で叫ぶ。『そこのニンジャ・コス2人、道路でふざけてると轢かれるぞ!死ぬのは勝手だが死体を掃除する費用は税金なんだからな!』
ワイヤープラーは顔を歪めた。ハーデンベルギアは大きく息を吐いて、そのあと敵を見返した。「ギギッ……で。この後どうする」「イヤーッ!」
……唐突な、誰かのカラテシャウト。誰の?ハーデンベルギアは疑問に思い……その後、自分の胸から斜め上へ突き出したものを、呆然と眺めた。それは彼自身の血に塗れた、チョップ突き姿勢の腕だった。誰の?
「ドーモ、はじめまして。名も知らぬザイバツニンジャ=サン」腕の主はそう言って、チョップを斜め下へ引き抜く。ハーデンベルギアはよろめき、膝をついた。その者はワイヤープラーを見て、言う。「そして、お久しぶりです。ワイヤープラー=サン」
チョップ突きの主が……おお、頼りなくも見える小柄な体型、それもボロを纏う浮浪者じみた出立ちながら、メンポに「忍」「殺」の二文字をたしかに刻んだそのニンジャが、アイサツする!
「ニンジャスレイヤーです。オヌシらを惨たらしく殺しにきた」その瞳はセンコめいて細く輝く!
「……ド、ドーモ、ニンジャスレイヤー=サン。ワイヤープラーです」ワイヤープラーはダメージの重さと想定外の事態への驚きをなんとか抑え込み、アイサツした。「私は……アバッ……」ハーデンベルギアは座り込み、血を吐くだけだ。
ニンジャスレイヤーはセンコめいた瞳でワイヤープラーを見やる。「見知った獲物がイクサしておるのを感じて、追ってきてみれば……」そしてハーデンベルギアを見下ろす。
「こやつはマメ・ニンジャクランのレッサーニンジャ……実際マメと同程度のつまらん雑魚。少しつついてやっただけでこの通り、もうアイサツもできぬ」ニンジャスレイヤーはハーデンベルギアの首を掴んで吊り上げ、強引に膝立ちにさせた。「グワーッギギギ……!」
「しかしそれでもまあ、今までのイクサを見ておった限り……今の儂が真正面からカラテをするなら、ちと手間取る程度のワザマエはあったかもしれん」そう言って首をぐりんと動かし、再度ワイヤープラーを見る。
「その点オヌシのジョルリ・カナシバリ、誠にいい援護であったぞ?この後オヌシも殺すがな!グハハハハ!」「バカな……ニンジャスレイヤー=サンだと……!」ワイヤープラーはその名前を聞いたことがあった。10年前のマルノウチ抗争直後に現れ、ニンジャを無差別に殺しまくった悪魔のようなニンジャだ。
そして今、ワイヤープラーはニンジャスレイヤーの殺意に……襲撃の周到さに戦慄していた。(こいつは俺とハーデンベルギア=サンのイクサを追跡して、ひたすら好機を窺い……俺が十分に消耗し、ハーデンベルギアがカナシバリを受けつつ勝利を確信して気を緩めた瞬間を狙ったのか……!)
手負いの自分が今どう足掻いたところで、この敵は自分を逃すまい。ワイヤープラーはただ、路上に立ち尽くした。
「貴様。マメではあったが、多少は練れておったな」ニンジャスレイヤーがザイバツニンジャの顔を覗き込む。センコめいた瞳で。「組織の中で高い地位にあったのではないか?10年前、アイアンマスク=サンが儂に……ニンジャスレイヤーに何をしたか、知っておるか?」
「ギギ……それは」ハーデンベルギアの瞳が微かに収縮した。ニンジャスレイヤーは目を見開いた。「知っておるな!貴様!」首の締め付けを急激に強める!「グワーッ……!」「言え!言うのだ!アイアンマスク=サンは……オヌシらのロードとやらは、ニンジャスレイヤーの力をどこへやった!」
ボウ!ボウ!ニンジャスレイヤーの右手から赤黒い炎が断続的に噴き出し、ハーデンベルギアの頭部を炙った。「グワーッ!アーッ!」ハーデンベルギアはあまりの苦痛に意識朦朧!白目を剥く!
「ギギッ……ロードは、ニンジャスレイヤーを倒した後、奴のニンジャソウルの力を抽出して……『ベッピン』……『ザイバツ・シテンノ』……」ニンジャスレイヤーはほくそ笑んだ。核心的情報の予感。
「よいぞ……儂の力を抽出して、その後どうした?『ベッピン』と『ザイバツ・シテンノ』とやらはどう関係する?答えよ!」ボウ!炎がハーデンベルギアを炙る!「ギギーッ!それは!それは!」
ハーデンベルギアの黒目が戻ってきた。「それは、ジゴクで教えてやる」ニンジャスレイヤーの肌が粟立つ。「イヤーッ!」ハーデンベルギアを投げ捨てる!できるだけ遠くへ!次の瞬間、「ギギギガガガガガーーッ!!」KRA-TOOOOOM!!ハーデンベルギアが絶叫とともに大爆発!自爆である!
爆風が路面を吹き払い、周囲の店のショーウィンドウを砕いた。「「グワーッ!!」」ニンジャスレイヤーとワイヤープラーは方々へ吹き飛ばされ……そして……
【続く】