異次元の逃亡者の息子に転生しました   作:読人不識

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新馬戦

 札幌競馬場第5レース 芝 2000m 新馬戦。

 

 俺のデビュー戦前にパドックを周回する。

 

 出走する馬達の中には頭を激しく振ったり、物見をしたり、尻尾を激しく振ったり、レースに集中できていない馬がいる中、俺は真剣にレース展開を考える。

 

 いや、こいつら周りを油断させるために、わざと集中できてない振りしてるんじゃね? 

 

 思い直して俺も激しく頭を振り始める。

 

 パドックで俺を引いてくれてる厩務員の渡辺さんが急に頭を振り出した俺に驚いて、

「おいマキシマムどうした? どうどう落ち着けって。か―周りの馬に影響されたのか? 大丈夫だから落ち着いてくれって」

 慌てて俺をなだめる。

 

 あまりに驚かれたので頭を振るのを一旦やめるが、周りの様子をうかがってすぐにまた頭を振り始める。

 

「さっきまで落ち着いてたんだがなぁ……よしよし大丈夫だから、落ち着いてくれよ……」

 渡辺さんが俺を落ち着かせようとなだめる。

 

 あ、頭振ってたら興奮してきた。

 

 逆にペース乱してどうするんだ。

 

 俺は深呼吸して切り替える。

 

「10番はナシだな」

 

 観客が俺を揶揄する声が聞こえる。

 

 人気などどうでもいい、損をする博打打がいようと俺には関係ない、俺は俺のために力を貸してくれた人たちのために勝ちたいだけだ。

 

 自分の目的を思い出し冷静になるのを感じる。

 

「とま~れ~」

 停止命令が聞こえ、それぞれの馬に騎手がまたがる。

 

 駿が俺の首筋を撫でながら

「今日はよろしく頼むぞ」

 と声をかけてくる。

 

「さっきまで周りにあてられて大変だったんですよ。落ち着いてくれてよかったですよ」

 渡辺さんがそう言うと。

「案外周りの馬を油断させるために、わざと興奮した振りしてたのかもしれませんよ」

 微笑みながら駿が返す。

 

 良く分かってるじゃないか相棒。まぁやり過ぎて興奮しかかってた面もあるのだが……

 

 そんなやり取りをしながら地下馬道を歩く。

 

「さぁマキシマムお前の力を見せてこい!」

 そう言った渡辺さんに見送られ、本場馬に入場し、ゲート前に向かうのだった。

 

「派手に勝とうぜ相棒!」

 背中に乗った駿が首を撫でながらそう声をかけてくる。

 俺は勿論という意思を込めてブフフンと鼻を鳴らす。

 

 輪乗りをしながら、周りの馬の様子を見る。

 

 何頭かは明らかにレースに集中できていないし、レースをすることが分かっていない馬もいるようだ。

 

 油断は禁物だがこれならヤマネンアポロンの方が強そうだな。

 

 周りを観察していると

「お前にかなう奴は今日はいないだろうな」

 と駿が耳元でささやく。

 

 お前もそう思ってくれるか。

 

 駿の期待に胸が熱くなる。

 

 今日はやってやるぞ。

 

 俺が闘志を燃やしているとファンファーレがなる。

 

 誰にも先頭の景色を魅せやしねぇ。俺が先頭でゴールに駆け込むんだ。

 

 内心で決意を新たに固める。

 

 ゲートに馬達が次々収まっていく。

 

 最後に偶数番の大外のゲートに俺が案内されゲートに入る。

 

 入ると同時にスタートの体勢を取る。

 

「すぐスタートだぞ」

 駿が背中から声をかける。

 

 係員が全て避難しゲートが開くと同時に俺はゲートを飛び出す。

 

「最高のスタートだよマキシマム」

 駿が称賛の声をかけてくる。

 

 飛び出した勢いのまま俺はトップスピードで先頭を走る。

 

 ここの直線はそこそこ長い、コーナーまでにどれだけ後ろを引き離して内に切り込めるか? 

 

 後ろを確認した駿が俺を中に誘導する。1コーナー手前で内ラチ沿いまで中に切れ込んだ俺はスピードを緩めぬままコーナーを回る。

 

 2コーナーを回って残り1000のハロン棒を過ぎた所で

「よし、一息つこう」

 と駿が手綱を緩める。

 

 2000mを最初から最後まで全力で走り切れる馬はいない。ここからしばらくは息をついて力を温存すべきなのだろう。

 

 追走しているはずの馬群まではまだ距離がある。

 

 俺は呼吸を整えつつ力を残しながら走る。

 

 残り800のハロン棒を過ぎて3コーナーにかかった所で後ろがペースを上げる馬蹄の音が聞こえる。

 

「行くぞマキシマム。ここからがお前さんの力の見せ所だ!」

 背中の駿が俺を励ますようにそう声をかけてくる。

 

 俺は応じるように鼻を鳴らすと再び加速する。

 

 グングン速度を上げ再び後ろの馬群を突き放す。

 

 スピードをあげながらコーナーを回るが、遠心力で外に振られそうになるのを堪えて内ラチ沿いをひた走る。

 

 4コーナーを回って最後の直線で残りの力を開放する。

 

歓声が俺たちを迎える。

 

 メインスタンドの観客の歓声が俺に爽快感を与えてくれる。

 

 あぁレースで走るってこんなに気持ちのいい事だったんだな。

 

 歓声に力を与えられ直線で更に加速し後ろをさらに突き放してゴール板の前を駆け抜ける。

 

「よーしよし、よくやってくれたなマキシマム」

 駿が嬉しそうに声をかけながら首筋を撫でてくれる。

 

 こちらこそありがとうだよ。

 

 お前さんのサポートのおかげでデビュートゥウィンを飾れたよ。

 

 少し足に違和感を感じるが、アドレナリンが出ているせいか痛くはない。

 

 その後は口取り式などを済ませ。俺のメイクデビューは勝利に終わった。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 翌日競馬関連の新聞にまだ小さな扱いで速報が流れた。

 

『スズカマキシマム ソエ発症 復帰は一ヶ月後か?』

 

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