異次元の逃亡者の息子に転生しました   作:読人不識

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芙蓉ステークス

 脚の違和感が消えた俺は、ホーストレーニングセンターヤマネで軽く調整してからレースの10日前に、美浦の竹林厩舎入りした。

 

 一度走っているから今回からは10日前の入厩でいいらしい。

 

 竹林厩舎で仕上げのためにトレーニングを積んだ後馬房の中を左回りにぐるぐる回る。

 

 落ち着かないと何故か馬房の中を左回りで回ってしまうのが最近気が付いた俺の癖だ。

 

 脚の違和感はないのだがここしばらく全く運動をしていなかったので体が重いしストレスも溜まる、それ故か気が付いたらこんな風にくるくる馬房の中を動いているのだが、それで気が晴れるという訳でもないので、気が付いた段階で止めて横になって寝るようにしている。

 

 気が晴れないなら寝て体を休めた方がマシだ。

 

 俺はそう判断して竹林調教師の科すトレーニングメニューをこなした後一日の大半を寝て過ごす。

 

 今回は外厩であまりトレーニングを積めなかったこともあり、竹林厩舎でのトレーニングは前回のような軽い追い切りではなく、かなり厳しいトレーニングになっている。

 

 トレーニング自体は苦痛ではないし、厳しいと言っても付いていけないものではないんだけどな。

 

 竹林調教師は厩務員の渡辺さんから俺が馬房でぐっすり眠って一日を過ごしていると報告を受けているのか、体調に合わせてメニューの比重を変えてくれる。

 

 こまやかな心遣いで俺の体調管理をしながら、トレーニングを科してくる。

 

 流石にこんな男社会をまだ若い女性が腕一本で生き抜いているのだから、それに見合う以上の実力があるのだろう。

 

 それを素直に評価してくれる人に出会えるかは運だけど、山根の婆様に出会えてるんだから運もあるんだろうな。

 

 今朝もトレーニングを終えて体を洗って貰った俺は上機嫌で飯を食いながらそんなことを思うのだった。

 

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 中山 9レース 芙蓉ステークス 芝 右2000m 2歳オープン

 

 

 

 今日が俺の二回目の出走の日らしい、芙蓉ステークスに勝てば、次は東スポ杯2歳ステークスと言う重賞に出る予定なんだそうだ。

 

 今回は移動時間が短かったので退屈はしていない。だがトレーニング不足のためか身体が重い。

 

 パドックを回りながら俺以外の七頭の様子をうかがう。

 

 前回みたいにデキる奴オーラを発してたり、体つきが凄かったりする馬はいなさそうだ。

 

 こりゃ楽勝かもな。

 

 前回は新馬戦で、今回は仮にも一度は勝った経験のある馬が出走してるはずだから今回の方がレベルが高いはずなんだが、前回俺の不安を煽ったような嫌な雰囲気の馬はいない。

 

 少なくとも変なプレッシャーで小細工して調子を崩しかけるなんて発想にはならずに済む程度の相手ばかりだ。

 

 

「とま~れ~」

 

 お、停止命令だ。

 

 駿が小走りに駆け寄ってくる。

 

「今日はやけに落ち着いてるみたいだな」

 

「今日はいつも通りのマキシマムですよ」

 

 駿が俺の調子を確認し、渡辺さんがそれに応じる。

 

 今日は変に興奮してないよ。変に興奮するようなこともしてないし。

 

 本馬場に入場し、ゲート前で輪乗りをする。

 

 やはり今回は前回ほど嫌な感じはしないし、焦りも湧かない。

 

 今日は3枠3番での出走だ。

 

 早めの順番でゲートに入れられ出走のタイミングを待つ。

 

「もう少しでスタートだからな」

 

 俺の気をなだめていた駿が声に緊張感を込め、合図する。

 

 係員がゲートからはけていき。

 

 ゲートが開くタイミングで飛び出す。

 

「ナイスタイミングだマキシマム!」

 

 好スタートを切った俺に駿がそう声をかける。

 

 ブフフン

 

 満足気に鼻息を漏らすとそのまま加速して先頭をひた走る。

 

 すぐに高低差2メートル以上の急坂に差し掛かる。

 

 俺の走るフォームは大跳びと言われるストライドを大きく使う走り方だ。

 

 正直急激に高度が変わる走路は心持苦手だ。

 

 それは俺だけなのかもしれないが……

 

 ぶっちぎりかけた他の馬との距離が縮まる。

 

 出来るだけスピードを落とさないよう懸命に走りながら坂を上り切る。

 

 坂を上り切ると平坦が続くのでスピードが自然と上がる。

 

 コーナーまでの直線を先頭で突っ走る。

 

 駿が体重を寄せて内側に俺のコースを寄せる。

 

 コーナーに差し掛かり、遠心力で外に振られそうになるのを堪えながら加速し、コーナーを回りきる。

 

 後方から馬蹄の音が聞こえる、まだ振り切れていないようだ。

 

 向こう正面の直線が下り坂になっているのを加速しながら走っていく。

 

 残り1000mのハロン棒を過ぎたあたりで

 

「マキシマム息を入れてくれ」

 

 そう言って駿が手綱を緩める。

 

 その声に応じて俺は息を入れようと呼吸を整える。

 

 後方の馬群とは相当な距離が空いてるようだ。

 

 残り800のハロン棒を過ぎても、残り600のハロン棒が近づいても駿は再加速を促さない。

 

 おかげで息は完全に整ったが後方との距離は詰められた。

 

 それでも駿が動く気配がないので俺からアクションを起こす。

 

 3コーナーから再び加速し、遠心力に振られるのを堪えながらコーナーを回る。

 

 残り400のハロン棒を過ぎ、直線に入り遠慮容赦なくスピードを上げる。

 

 残り200の辺りから二度目の急坂だ。

 

 スピードが落ちるのを我慢しながら、懸命に坂を駆け上がる。

 

 残りの直線はわずかだが駿は鞭を入れず、俺に任せたままゴールを切る。

 

「よ~しよし、よくやってくれたな。お前さんにレースを任せて正解だったよ」

 

 ブフフン

 

 駿の称賛に応じるように鼻息を鳴らす。

 

 ゴール板前からある程度距離を置いてから掲示板を見ると8馬身差での勝利。

 

 あれだけ相性よくないコースだったはずなのに、大楽勝ではないか。

 

 もしかして2歳戦ってそんなにレベル高くないのか? それとも俺が強いのか? 

 

 この前のレースも結局大差勝ちだったし、もしかして俺は強すぎるのか? 

 

 父の名を汚さぬようにと研鑚を積んできたが、もしかしたら過剰なトレーニングだったのかもしれない。

 

 そんなことを考えながら自信を深め、ブルルンとほくそ笑む俺だった。

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