異次元の逃亡者の息子に転生しました   作:読人不識

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初めての重賞

 東スポ杯2歳ステークスを控えた俺は、デイリー杯2歳ステークス出走の為に美浦の竹林厩舎入りしていたヤマネンアポロンと合わせて調教するためいつもより少し早めに美浦に入厩することとなった。

 

 どうもサウジアラビアロイヤルカップでヤマネンアポロンは他の馬に大敗したらしい。

 

 その失地回復とばかりに竹林調教師が気合を入れて調教をつけたいので俺が早めに呼ばれたという事だそうだ。

 

 美浦入りが早くなるのは構わないのだが、調教終わった後厩舎にいる間が暇なんだよなぁ。馬房の中をくるくると左回りに回ってしまうほどには暇だ。

 

 だからと言って俺の身になるモノがなかったか? と言えばそういう訳でもない。

 

 ヤマネンアポロンは回転の多いピッチ走法で走るのだが、坂路を走る際俺もその真似をしていつもより跳びの幅を狭くして回転を上げるつもりで走ったのだが、急坂を駆け上がるのにはこちらの方が走り易い事に気が付いた。

 

 アポロンのようなピッチ走法と言うほど高速回転の双方とまではいかないが、いつも走っている大跳びを控えめにして回転を上げることで劇的に坂道を駆け上がり易く感じる。

 

 これでスタート直後の中山の急坂もストレスなく走れる。

 

 気分よく坂を走れるようになった俺は、上機嫌でお礼にヤマネンアポロンの調教に付き合う。

 

 次のレースにも前回敗戦を喫した相手が出走するらしいので、今度こそ勝てるといいな。

 

 まぁ俺も次は重賞に出るそうだからお互いに重賞馬になりたいものではある。

 

 俺の方は大丈夫だろうが、ヤマネンアポロンはライバルらしい馬に勝てるのだろうか? 

 

 つい上から目線になってしまうが、オープン戦に勝った自信か? ついつい増長してしまう。

 

 そんな俺の思い上がりを叩き潰す出来事が、間近に控えているとはこの時はまだ思いもよらなかった。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 東スポ杯2歳ステークス GⅡ 東京競馬場 芝 1800m 雨 不良

 

 

 俺にとって初めての重賞である東スポ杯2歳ステークスの当日であるが、昨日から降り続く雨のせいで不良馬場である。

 

 今日は2枠2番、雨で気分は滅入るが、重賞を走るのだから厭うている場合ではない。

 

 それよりも気になるのは……

 

 じーっ! 

 

 パドックで入れ込んで俺に噛み付こうとして騒ぎになった3枠3番の馬の方が気になる。

 

 あまりにも俺に執着しているので、パドックを回る順番を入れ替えたが、本場馬入場を果たしてもまだ俺をにらみつけてくる。

 

 あまりにも興奮状態にあるようなので危険を感じた駿が、その馬―フラッグスカルと言うらしい―から俺を遠ざける。

 

 だがゲートに入っても隣の俺を威嚇してくる。

 

「もうすぐ最後の馬がゲートに入るぞ、隣を気にせず落ち着いてスタート頼むぞ」

 

 駿が俺にそう声をかける。

 

 偶数番の最後の馬がゲートに入り、係員の人達がはけていき、ゲートが開くと同時に飛び出す。

 

「よし! ナイスなスタートだ!」

 

 俺の背中で駿が快哉を上げる。

 

 だが俺の足元は嫌な感触、重い。

 

 雨の不良馬場がここまで重いとは。

 

 反射的に俺は跳び幅を縮め、足の回転を速める。

 

 ピッチ走法ではなく、普通の走り方の範疇なのだろうが、それでも回転が速いおかげか良い感じにスピードが上がる。

 

 いつもより200mも短いし、この走り方なら頭から最後まで走り切れるな。

 

 スピードが乗って来たところで大跳びに切り替える。

 

 スピードに乗った状態なら嫌な感じにならずに走れそうだ。

 

 バックストレッチの先頭の景色を満喫しながらスピードを上げていく。

 

 と、コースの外から被せる様に俺に噛み付こうとする馬が! 

 

「危ないっ!!」

 

 駿が内ラチ沿いに俺の進路を切り噛み付こうとした馬から引き離す。

 

「大丈夫だったか、マキシマム?」

 

 駿が心配そうに俺に声をかける。

 

 1番の馬は馬群にいるのでコースは空いていたが、これでぐちゃぐちゃのコースを走らなければいけない。

 

 更に、

 

「もうすぐ急な坂があるぞ」

 

 矢継ぎ早に駿からそんな注意が喚起される。

 

「坂を上がったら一息入れるぞ」

 

 続いて瞬がそう指示する。

 

 急坂は回転を上げて走るに限る。

 

 俺は跳び幅を縮めて回転を上げると、東京競馬場の急な坂を駆け上がる。

 

 坂を上がり残り1000から800のハロン棒の間までは息を入れる。

 

 その間に追いついて来た3番のフラッグスカルが外から俺を抜きにかかるが足の回転を上げて俺はそれを許さない。

 

 遠心力に振られそうになるのを堪えながらコーナーを回る。

 

 この競馬場は急なコーナー過ぎないから回り易くて好みだ。

 

 600のハロン棒を過ぎたあたりで直線に入ると、跳び幅を広げ大跳びに走り方を変える。

 

 坂にはなっているが角度がついてるといった程度なので苦にはならない。

 

 更にスピードを上げて直線を駆ける。

 

 残り400、200のハロン棒を過ぎる頃には、フラッグスカルの姿は見えなくなり、追いついてくるほどの馬も視界に入らないまま、俺はゴール板の前を駆け抜けていたのだった。

 

「よーし! よし! よくやってくれた!!」

 

 俺の背中で駿が歓喜の叫び声をあげる。

 

 これでお前さんも重賞ジョッキーだな、おめでとう。

 

 後ろを走る馬達が続々ゴールしてくるのをゆっくり走りながら眺めると。

 

 ゴール板を過ぎたあたりで倒れる馬がいた。

 

 係員が駆けつける中物々しい雰囲気に場内が包まれる。

 

 あれはフラッグスカル? 

 

 怪我でもしたのか? 

 

 心臓が激しく脈打つのを感じながら俺は俊に促され検量に向かう。

 

 どうなったんだ? 

 

 何が起こったんだ? 

 

 あいつは4コーナーまで俺に追いつこうと必死に走っていたぞ。

 

 俺は今日競い合った好敵手のその後を聴こうと耳をそばだてる。

 

 

 

 フラッグスカル 急性心不全で死亡……

 

 その報を聞いた俺は雷に打たれたように立ち尽くすのだった。




所用が立て込んできたので、次回更新はちょっと空くかもしれません。
遅くなったら申し訳ございません。
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