異次元の逃亡者の息子に転生しました   作:読人不識

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約束

 最近分かってきたことがある。

 

 それは飯の喰い方についてだ。

 

 俺はママンの乳の他に、餌として豆やら穀物やらを結構食べてる。

 

 多分普通の仔馬の食べる量より遥かに多く……倍とは言わないけどそれに近い数字ではあるかもしれない。

 

 俺に餌を与える為に一時帰省した駿が仔馬と母馬を集めに走り回るのだが、俺だけ捕まえられる回数が多い。

 

 と、いうかママンの乳と最初与えられてた離乳食的なサムシングだけではすぐに腹が減って、何度も餌を要求してたら俺の食餌回数だけ普通の仔馬より数多く与えることになったらしく、今では飯食って一休みしてトレーニングを一日に何セットも繰り返してる。

 

 正直俺の生活サイクルに付き合わされてるママンと牧場のスタッフの皆さんには頭が下がる思いだ。

 

 そんだけ喰っても下痢しないのは内臓機能が優れているのだろう。

 ただ一度に食える量は普通の馬と大した差はない。

 

 食事をする回数が多いのだ。

 

 運動した後に飯を食うのでその度に駿が駆け回って俺とママンを馬房に連れて飯の支度をしてくれる。

 

 この夏頃にはママンの乳では全然腹の足しにならないので、食事回数がさらに増えてる、水も飲んでるし塩も舐めてるが食事の度に瀬川さんが駆け回るのも大変なので、今では食事の度に駿が俺を連れに来る役目になった。

 

 山根の婆さんは最初

「あんたは一番下っ端だからこの子の世話はさせない」

 と駿に言ってたんだが、瀬川さんが大変そうなので一番走る量の多い役回りを押し付けることになった。

 

 帰ってきた当初は時間を作って俺の様子をよく見に来てた駿だったが、嫌でも顔を合わせる状況になって嫌がるかと思ったら、

「俺が新人騎手としてデビューする年にお前も2歳新馬で出てくるだろうから、俺を勝たせてくれよ」

 と言ってしきりにご機嫌を取りに来るので、その素直さと献身的に走り回る姿に感心したこともあり婆様の前では懐いてる様に見せることにした。

 駿はヤマネホースクラブは伯父が継ぐし、このヤマネホースパークは皐月か優が継ぐだろうからという事で騎手を目指したらしい。

 皐月と優がいうには婆様が駿に厳しく接するのは外面のためらしい。

 

 あ! 食事の後はちょっと間をあけるようにしている、

 

 最初はすぐに運動してたんだがそれを見た優が血相変えて運動を止めさせるので、しつこく理由を聞いたら食事後すぐに運動すると消化不良で疝痛と言うのを起こすらしい。

 

 どういうものかはよく分からんが痛いらしいので気をつけることにして食後は少々休むことにした。

 

 それにしても喰う量は多いし、きちんと消化もしてるのに体は他の仔馬に比べて小さいままだ。

 

 と言っても俺の体重で成人男性二人分以上はあるだろうけども……

 

 喰ってる分を動いて消費してるのかな? 

 

 愚にもつかないことを思いながら飯を食う。豆がおいしいな、何の豆だろ? 

 

 まぁいいか、そんなことを考えてたら俺の飯の支度を終えた駿がペットボトルで水を飲みながら

「よぉ~し、もっとくえよ~」

 と言って俺の首筋をなでてくれる。

 

 飯の度に走り回る羽目になってるのに、こいつはいつも俺に優しい。

 

 好ましい時は誉めるが好ましくない時はきちんと叱ってくれるので、俺としてもやっていい事と悪い事を判断しやすい。

 

 優と駿は似たところの多い姉弟だが、俺に求めるところは違う。

 

 優は自分の家の牧場にいる有望な仔馬として俺を見るだけなのに対して、駿は俺を期待のできる相棒として扱う。

 

 駿の中には出来る手段を全て取って勝利を勝ち取り食っていく覚悟が出来ているのである。

 

 十代半ばでその覚悟を決めて行動に移せる胆力はそら恐ろしくさえある。

 

 だから俺はこいつの事を認める、こいつが相棒として俺を選んでくれる限り俺はこいつの期待を裏切らない努力をする。

 そう決意して駿の顔を舐めてやる。

 

 すると

「その仔に乗りたいかい、駿?」

 山根の婆様が現れ駿にそう問う。

 

 駿は振り返って一礼すると

「乗りたいです」

 ときっぱり答えた。

 

 オーナーは

「なら、その仔がデビューするまでに31勝しな、出来なきゃ他の騎手を主戦にする」

 と厳しい条件を突きつける。

 

 流石に厳し過ぎる。

 31勝なんて年度によっては最多勝利新人クラスだ、それを俺のデビュー前なんて不確定要素があり過ぎて無茶過ぎる。

 

 俺は心配そうに駿を見やると、こちらを見てニカッと笑った駿は

「心配すんなって……1%でもチャンスがあるなら、挑まなきゃ損だろ?」

 となだめるように言う。

 

「その条件で約束させてもらいます」

 オーナーに向かって一礼し、そう言い切った駿は堂々としていた。

 

「あたしはね、この子でダービーを奪りたいんだよ……」

 吐き出すようにオーナーがそういう。

 

 万感の思いがこもった重い一言だった。

 

「ひいひい爺様が馬主資格取った時からの悲願ですか……」

 駿が一言そう返す。

 

「あたしもそう先は長くはないだろうしね、この仔に夢を見てるのさ」

 人生を掛けて追い求めたタイトル―東京優駿―その四文字の重みを実感する。

 

「あたしの夢にあんたを巻き込むつもりはない。だがあんたがそれに乗りたいなら資格を示しな」

 敢えて厳しい言葉で突き放すように婆様が言う。

 

「しかと承りました」

 慇懃にそう返した駿の顔には勝負師の太々しさが垣間見えた。




ストックが尽きたのでしばらく間が開くかもしれません。
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