異次元の逃亡者の息子に転生しました   作:読人不識

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二章開幕です。

よろしくお願いします。

今回ほぼマキシマムのモノローグだけにしてみましたが、いかがでしょうか?

感想などお聞かせいただけると幸いです。


入厩編
追い切り


 二歳の春になると俺は早々に美浦の竹林厩舎に入厩したが、そこで数日過ごすとすぐに別の場所に運ばれていった。

 

 どうやら外厩と言う所で生活するらしい。

 

 美浦の厩舎の狭い馬房で長期間生活するよりは、外厩で日中放牧させてもらった方が気分的にも楽だ。

 

 それが長期間に渡る滞在期間ならなおさらだ。

 

 体調を検査しながら外厩―この外厩はホーストレーニングセンターヤマネと言うらしい―でもトレーニングを積んでいく。

 

 プールもあるし、美浦のトレセンよりきついらしい傾斜の坂路もある。

 

 プールで素潜りしたらこちらでも驚かれたが、ホースパークから申し送りがあったためかそれほどの騒ぎにはならずに対応して貰えた。

 

 飯も美味いし、居心地も良い。ストレスをかけないように気を使って貰えてるせいか扱いも良い。

 

 言う事なしだ。

 

 儲けたお金を競走馬のためにつぎ込む、そういう信念すら感じられるのがこの環境だ。

 

 鞍上はトレーニングではここの元騎手の職員さんが務めてくれるが、時折駿が来ては様子を話してくれたり、トレーニングに付き合ってくれたりする。

 

 5月の頭の段階で20勝ちょっと勝っているらしく、このままのペースなら遅くても夏のデビューには間に合いそうとのことだった。

 

 駿も短期間に騎乗技術が上がっているようで、俺のトレーニングに付き合う時もメキメキ上手くなっているのを実感する。

 

 俺は俺で無酸素運動を400m走れるようになった。無酸素運動のまま更に一段上のギアがあるようなのだが、そのスピードで走ると怪我をするような気がしてそのギアを試したことはない。

 

 育成施設にいた頃も、そのギアを使わず他の馬達を千切っていたので試す機会はなかったのだが、使う機会などない方が良い走り方だという予感がヒシヒシとしている。

 

 たまに山根のオーナーや去年大学に進学した皐月が様子を見に来てくれることもあるが、オーナーがほぼ毎週顔を見に来るのに対し、畜産大学の獣医科は忙しいのか皐月はたまにしか来れない。

 

 山根の婆さんはたまに角砂糖を御褒美にくれる。

 

 強度の強いトレーニングの後にご褒美として角砂糖をもらうとまだ頑張ろうと思えるのが我ながら現金だと思う。

 

 この環境は山根の一族が代々設備投資して築いてきたものなので、山根の婆様には頭が上がらない思いを感じているのだが、この環境を与えてくれた礼はレースで勝って返さなくてはならないなと思っている。

 

 俺の力がどこまで通じるかは分からないが山根一家への礼も、このトレーニングセンターのスタッフさんへの礼も勝つことでしか返せないし、その為に彼等彼女等も俺に投資してくれているのだから。父の名を汚さないためにも頑張って走らないといけない。

 

 だからいざという時はあのギアを使ってもレースに勝たなければならない場合はあるだろう。

 

 いつどこで使うか? 

 

 下手な使い方はできないが、覚悟だけは決めておく必要はあるだろう。

 

 

 

 

 そんなことを考えていたら俺のデビューが決まったらしい。

 

 8月半ばの札幌競馬場 芝 2000m 新馬戦だそうだ。

 

 その目標に向けて身体を仕上げる。

 

 新馬戦の15日前には厩舎に入っていなければいけない規定があるらしいが、札幌への移動も考えて今回は3週間前には厩舎へ移動するらしい。

 

 それまではここでトレーニングと準備をするという話だそうだが、俺としては慣れたこのホーストレーニングセンターで、出来るだけ準備を整えたい。

 

 竹林厩舎で課されるメニューに不安がある訳では無いが、出来るだけ慣れた環境で調子を整えたいとは思う。

 

 そんなこんなでデビューに向けて調子を整え、一旦美浦のトレセンへ入厩し、そこで二週間ちょっとレースに向けて確認のため汗を流す。

 

 美浦の竹林厩舎も居心地は悪くはないが、馬房の外へ出られるのが朝の引き運動とトレーニングだけなのがやはり不満だ。

 

 生活が一気に窮屈になった気がする。

 

 竹林厩舎所属となった駿が騎乗だけでなく世話を焼いてくれるのだが、それが何となく故郷のホースパークにいる頃を思い出して懐かしい。

 

 みんな元気だろうか? 

 

 ヤマネンアポロンはホーストレーニングセンターでも顔を合わせるので、懐かしいとは思わないのだが、駿とは久しぶりにゆっくり過ごすので懐かしい感じがする。

 

 こいつにも成長した俺の走りを見て貰おうと思って気合を入れて追い切りをする。

 

「よーしマキシマム、これならよほどの相手が来ない限り勝ち負けは間違いなしだ」

 駿が嬉しそうにそういう。

 

「本当にホーストレーニングセンターはいい仕事してくれるのね。こっちでやる事なんかほとんどなかったわ」

 竹林調教師が苦笑して応じる。

 

「ここまで仕上がってるのはマキシマムだからってのはあると思いますよ。他の馬は厩舎で仕上げないといけないはずですけど、マキシマムはレースの日に向けて自分で調整してる感じはします」

 駿がそう返す。

 

「この子は本当に賢いわね、人間の幼稚園児より賢いんじゃないかしら?」

 竹林調教師がそう称賛する。

 

「そう思いますよ。マキシマムは走る為の才能に溢れてますけど、頭の良さは馬の中でも頭抜けてますね」

 我が事のように駿が嬉しげにそう返す。

 

 後は本番を待つばかり。

 俺のメイクデビューの相手はどんな馬が相手なのだろう……

 

 札幌に向かう馬運車の中でうたた寝しながらそんなことを考えるのであった。

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