Muv-Luv Tactical Surface Fighter Variation 作:オデ オマエ マルカジリ(CV:戦車級)
異形の群が荒野を駆ける。
H.15 クラスノヤルスクハイヴから溢れ出た連隊規模BETA群約一八〇〇が東進を開始。ソビエト連邦軍 第一バイカル方面軍のゼレノゴルスク前哨基地がそれを捉えた。ボロジノ前哨基地もである。
その情報は直ちに後方のカンスク前進基地に伝達された。
前哨基地には哨戒戦術機隊や
この例に漏れずゼレノゴルスク前哨基地には第二四八戦術機甲連隊から分派された一個戦術機中隊と砲兵が、カンスク前進基地にはソビエト連邦軍 第二四八戦術機甲連隊 第二大隊『コサック』とソビエト連邦軍 第一〇九自動車化狙撃兵師団隷下第四〇一自動車化狙撃兵連隊が配備されていた。
比較的小規模なBETA群であった為、カンスク前進基地はゼレノゴルスク前哨基地と連携してこれに対処すること決めた。
ゼレノゴルスク前哨基地には第二四八戦術機甲連隊から派遣された一個戦術機中隊、第三大隊『ヴォルガ』の第二中隊が配備されていた。
同中隊所属の七機のMiG-23 MLDは迫りくるBETA群を迎え撃つ様に展開する。
《…………何か数が多くないか?》
《ヴォルガ二五、気の所為よ。疲れてるの?》
《…………ッ! ヴォルガ二一、気の所為なんかじゃねぇぞ! 明らかに聞いてたより多い!》
対レーザー弾はBETA集団内の
第二中隊長ヴォルガ二一/ゾーヤ・ジョキナ中尉の背筋を冷たい物が走る。
《ッ! CPこちら
《CP了解》
第二中隊からの報告はCP将校マリーヤ・ブラヴィノヴァ中尉を通じて、迎撃の指揮をとるカンスク前進基地司令兼第一〇九自動車化狙撃兵師団師団長ヨーシフ・ボチャルニコフ少将へと伝達された。
「哨戒部隊は何をやってたんだ!」
拳を机に叩きつけながら怒声をあげる。
「旅団規模だぞ! 見間違えるか!」
低軌道衛星による偵察の結果、今回の侵攻してきたBETA群は旅団規模約四一〇〇体であった。
ボチャルニコフ少将は直ちにゼレノゴルスク前哨基地とボロジノ前哨基地の放棄を決定。両基地の将兵に撤退命令を出しつつ、ビリュサ川に沿って構築されたタイシェトの陣地まで後退許可を、第一防衛線を担当する第六四軍司令部に申し出た。
《後退は許可できない》
「しかし、以前の間引き作戦における損害が補充されていない現在の部隊では、撃退できない可能性があります!」
《ボチャルニコフ少将。カンスクには間引き作戦に備えた武器弾薬が多数搬入されている。後退すればそれらを丸々失うことになるのだ。そうなればハイヴから溢れるBETA共の数は増えてしまう……。こちらからも増援部隊を急ぎ向かわせている。そこで耐えてくれ》
「…………わかりました……! 一刻も速く増援を寄越して下さい! では!」
ボチャルニコフ少将は叩きつける様に電話を切った。
ゼレノゴルスク前哨基地の敷地内はBETAとの混戦状態にあった。
規則正しく整頓された天幕の列を踏み潰しながら
ヴォルガ二五/イーゴリ・イグナートフ中尉は、左主腕に保持した突撃砲を
砲列を組んで放置されたD-20 一五二ミリ榴弾砲を弾き飛ばしながら突進してくる
「マリーヤ達は無事に脱出できたと思うか?」
《さぁね。確かめに行ったら?》
「ぬかせ! ここで引いたらそれこそヤバいだろ」
イグナートフ中尉やジョキナ中尉ら第二中隊はゼレノゴルスク前哨基地で迫りくるBETA群の足止めを行っていた。
ボチャルニコフ少将の早期の撤退命令で基地の将兵達は一足先に離脱することができていた。第二中隊は基地に残された補給コンテナを使いながらBETA群の勢いを削ぐ役割を担っている。
たった七機には少々荷が重い役割であり、既に相当数のBETAがゼレノゴルスク前哨基地を越えてカンスク前進基地方向へと抜けていた。
「それにしても流石に多いな……!」
《何? キツくなってきたの?》
「そんな訳あるかよ。戻ったらマリーヤをどうデートに誘うか考えてたんだ」
《ハッ! 無理に決まってるじゃない。……わたしにしといたら?》
「…………いいの?」
カンスク前進基地から出撃した
中隊規模の
回避に成功した機体は突進を続ける
「各個に撃て!」
第二大隊大隊長コサック一一/セルゲイ・オルロフ少佐の号令で二五機の戦術機が
三六ミリ劣化ウラン弾が
後続の
BETA前衛集団と中衛集団の間には約三〇〇〇メートル程の距離しかなく、数分の内に
(止められん!)
砲撃が全て
低い士気も影響して、
カンスク郊外に展開した第四〇一自動車化狙撃兵連隊の正面にBETAが姿を現す。
連隊所属の戦車大隊に属するT-72Bが一二五ミリ滑腔砲の力強い砲声を響かせ、僅かに向かってくる
「くたばれクソBETA共!」
軽機械化歩兵装甲を身に纏い即席の陣地に籠もったイサイ・クラスノヤロフ二等兵が右腕部に装備したNSV重機関銃を掲げて吠えた。
その隣に停車したBMP-2が三〇ミリ機関砲の射撃を開始する。
三〇ミリ機関砲が
自動車化狙撃兵大隊が有する一二〇ミリ迫撃砲と砲兵大隊のD-30 一二二ミリ榴弾砲が接近するBETAに連続射撃を行うも、その殆どは空中で
低空を這うように接近する四機のMi-24Pが
しかし、三〇ミリ機関砲に撃たれて死んだように見えた
尾翼がへし折られて千切れ飛んだMi-24Pが、錐揉み状態に陥り墜落する。まだパイロットが生きていた為、墜落した機体に
押し寄せるBETAの数は衰えることなく、防衛線へと殺到する。
弾幕をくぐり向けた
「北東部より小型種が侵入」
「第五中隊が応戦中!」
「砲弾迎撃率変化なし」
「戦車大隊が後退許可を求めてます」
第四〇一自動車化狙撃兵連隊の指揮所には隷下部隊から上がってきた情報が一手に集まった。
広域戦術データリンクの情報が投影されたモニターには防衛線正面に取り付きつつあるBETA群の光点が映っている。一部では防衛線をすり抜けたBETAがカンスク市街地に侵入しているのが確認できた。
第四〇一自動車化狙撃兵連隊連隊長ヴァレリヤン・ヤンコフスキー大佐は顎髭を撫でながら唸った。
(このまま戦えば乱戦になり食い破られるが、小型種はともかく大型種相手に市街戦は分が悪い……。川まで引くしかないか)
カンスクにはカン川という川幅約二〇〇メートル程の川が流れており、カンスク前進基地はこの川を挟んだ北東側に位置していた。カン川はまさに最終防衛線と言える。
ヤンコフスキー大佐は部隊にカン川まで後退する様に命令を出す。
「来たぞ!」
部隊の後退を支援するためにカンスク市街の道路に進出した
四連装機関砲の猛烈な射撃のその脇を機械化歩兵が離脱してゆく。
崩壊した集合住宅を乗り越えて
「総員近接戦用意!!」
その場に居合わせた機械化歩兵達はNSV重機関銃を乱射しながら戦刃を抜いて応戦する。十二・七ミリ弾が
一方で
BETAの体液と人間の血液が混ざり合って大地を染めあげる。
「死ね死ね死ね!」
軽機械化歩兵装甲を身に纏ったクラスノヤロフ二等兵は至近距離から
眼の前の
クラスノヤロフ二等兵の視界に戦術機の編隊が現れた。
「やづ……を…………ぶっ……せ……」
カンスク前進基地に駆けつけたソビエト連邦軍 第八〇戦術歩行攻撃大隊『カチューシャ』は接近するBETA群の前に降り立つと、保有する絶大な火力をぶつけた。
「前衛は正面の
《この間、間引きしたばっかじゃん! 何でこんなにいるのさ!》
《間引きした数が足りなかったんじゃないのぉ》
前衛を努めるカチューシャ二九/エリザヴェータ・ウィッテ少尉とカチューシャ二七/エレーナ・モシェンコヴァ少尉が、背部兵装担架システムのガンマウントまで使用した突撃砲四門と
《リーザ、レーナ。弾切れと銃身加熱に気をつけるのよ》
《解ってるってば!》
《ナーシャは心配性だなぁ》
前衛第二小隊長カチューシャ二六/アナスタシア・セメンチェンコ少尉が下腿部外縁ハードポイントに装備した
「前衛三姉妹、五〇歩前進! 押し返すぞ!」
ヴァジエフ大尉の命令に従い、前衛三機の
前衛の前進を支援しながら、ヴァジエフ大尉は後方の後衛第三小隊の様子を確認した。
「カチューシャ二二、行けそうか?」
《照準できたわ。いつでもどうぞ》
カチューシャ二二/オクサナ・イヴァネンコ中尉以下第三小隊の
「CPこちら
《CP了解。…………カチューシャ〇一、〇二、これより誘引射撃を開始する。爾後、各個に対
「
カンスク前進基地に展開する砲兵大隊のD-30 一二二ミリ榴弾砲十八門が一斉射撃で対レーザー弾を発射する。
放物線を描いて飛翔した砲弾は一定高度に達した瞬間、遥か彼方の
《最終照準よし! 小隊効力射、始めッ!!》
一機あたり八十発、一個小隊三二〇発の一二二ミリロケット弾が噴煙と共に飛翔する。
護衛の
照射インターバル中の個体を除く全ての
着発信管によって内蔵した爆薬が炸裂し、
《
指揮所からの報告通り榴弾砲や迫撃砲の砲弾が
「中隊前進! 前方の戦術機部隊を支援するぞ!」
《 《 《了解!》 》 》
三六ミリ弾が
第二中隊は前方で戦闘を繰り広げる
《支援、感謝する》
ようやく現れた援軍の姿にオルロフ少佐は安堵の声を漏らした。
生き残った機体の多くは主腕や主脚等を損傷しており、これ以上の戦闘は厳しいものであった。
「間もなく空軍の攻撃が始まります。後退して下さい。殿は我々が」
《了解した。重ねて感謝する……!》
新たに接近してくる
匍匐飛行で離脱していく
かつて戦場の覇者であった航空機達は
機銃掃射を行いながら懸吊した無誘導爆弾を投下し、地表のBETAからは手の届かない位置から無慈悲な破壊を振り撒いた。爆撃の嵐が
当初約四一〇〇体いたBETAは擦り減らされ、二〇〇体程度にまで漸減されていた。
多くの個体を失ったBETAは前進と戦闘行動を中止し、一斉に彼らが出立したクラスノヤルスクハイヴへと戻っていく。
「…………助かった、みたいだな……」
背中を見せて離れていく
《残ったのはわたし達だけみたいね……》
戦域マップに映る光点が二つだけになったのを見ながらヴォルガ二一/ジョキナ中尉は呟いた。
二人はゼレノゴルスクから徐々に後退しながら手な渡りの様な戦闘を繰り広げて何とか生き残っていた。一つ間違えば他の仲間の様に天に導かれていただろう。
「あー、取り敢えず休みてぇ……」
《デートが先よ!》