Muv-Luv Tactical Surface Fighter Variation 作:オデ オマエ マルカジリ(CV:戦車級)
第一バイカル方面軍が守るウダ川防衛線から後方約三〇キロ程の地点に、戦術機甲部隊向けの野戦整備処が設けられている。
「二一〇と二一一はクラスターと通常弾頭を混載しろ! 二一と二三は
第二中隊付整備班班長イヴァン・パホモフ曹長が怒鳴りながら整備兵達に指示を飛ばしていく。
その頭上をソビエト空軍のTu-22が低空飛行で飛んでゆく。
衛士達は野戦整備処の直ぐ傍にあった無人の家屋を一時的に接収して、休息や次の任務の準備を行っていた。
カチューシャ二一/アレクサンドル・ヴァジエフ大尉は地図を眺めながら変更された周波数や部隊符号、地雷原の位置、部隊の展開位置等を頭に叩き込む。
不意に頬に温かい物が触れた。
顔を向ければカチューシャ二二/オクサナ・イヴァネンコ中尉が合成コーヒーの入ったコップを持って笑みを浮かべる。
「はい、オレク」
「ああ、ありがとう」
コップを受け取って一口。合成食料らしい安定の不味さを遺憾なく発揮したそれはコクも深みも無く。苦味と酸味だけの黒い液体であった。後付された匂いも弱すぎて全く感じない。
人は慣れる生き物だ。この不味さにもヴァジエフ大尉達はすっかり慣れてしまっていた。
地図から目線を上げると、ソファに並んで座る前衛三姉妹の姿が目に入る。
中央に座ったアナスタシア・セメンチェンコ少尉の肩と胸に寄りかかる様に、左右に座ったエリザヴェータ・ウィッテ少尉とエレーナ・モシェンコヴァ少尉が両側から頭を預けて眠っていた。防衛線開始から続く連戦の疲労が見え始めていた。
「ヴァジエフ大尉」
ヴァジエフ大尉はコップをイヴァネンコ中尉に預けると彼の元へと向う。スヴェトキン中佐が顎で外へ出るのを促し、それに従った。
「何かありましたか?」
「そのだな…………、あー……」
ヴァジエフ大尉の問いかけにスヴェトキン中佐は言い淀む。ヴァジエフ大尉は経験からこれはあまり良くない事だと悟った。
「……BETA第三梯団の規模が判明した。十万だ」
「は?」
「十万だ。十万体のBETAが向かっている」
H.15 クラスノヤルスクハイヴから続々と溢れ出たBETA第三梯団の数は、最終的に推定個体数約九八〇〇〇体にまで膨れ上がっていた。
梯団に含まれる
「司令部は
「鈍重な
「第二四八戦術機甲連隊が我々を
「…………了解です」
軍人である以上、命令には従わねばならない。ヴァジエフ大尉は敬礼すると部下への説明の為に家屋へと戻った。
イルクーツク基地の第一バイカル方面軍司令部は想定以上に膨れ上がったBETA第三梯団への対応に追われていた。
方面軍司令官ルカ・スヴィーニン上級大将は参謀達と協議の末、作戦を修正する。
BETAの死骸で埋め尽くされつつあるウダ川の防衛線は放棄。第四親衛戦車軍及び第二八軍は、後退しつつアンガラ川防衛線前衛まで遅滞戦闘を継続する。
第二四八戦術機甲連隊、第二四二戦術機甲連隊、第八〇戦術歩行攻撃大隊による
その後、第六一戦術機甲連隊による
約九八〇〇〇体で前進するBETA第三梯団の内部は大きく五つの集団に別れていた。各集団はそれぞれが師団規模で、第一波から第五波と呼称される。
一部偏りはあるものの集団ごとのBETAの構成比率に通常との差は殆どなかった。
MiG-23 MLDがマチェットタイプの短刀を振るい飛びかかってきた
《
《わーってるよ!》
先日の戦闘から補充を受けられないまま再編成された
噴射地表面滑走で進むMiG-23 MLDと
鈍重で速度の遅い
《こっ……のぉ……!》
跳躍ユニットの巡航速度を保ちながら先行部隊が片付けたBETAの死骸を躱し、その上高度にも気を付けなければならない。更には時折現れる先行部隊が取りこぼしたBETAを片付ける。
カチューシャ二七/モシェンコヴァ少尉は進路上に現れた
BETA梯団の最深部まで進出する必要がある
進路上のBETAを倒しすぎてもいけない。帰りの分や本命の
必要な場所へ必要な分だけ、それは熟練の衛士でも難しい。第二四八戦術機甲連隊は度重なる損耗で衛士練度に大きなバラつきがあった。その為、撃ち漏らしや半矢状態のBETAが出ることになる。
《えっ……! はぁっ!? そん──────ぐびゅっ!!》
三六ミリ弾を浴びて沈黙したフリをしていた
ノジコヴァ少尉は何とか回避しようと操縦桿を引き起こしたが鈍重な
グチュッと人が潰れる音が無線にのって響く。
何人かは顔をしかめたがそれだけだ。いくつもの戦場を乗り越えた彼ら彼女らにとっては、既に聞き慣れた人間の最期の音である。
(嫌な慣れだな)
冷静にノジコヴァ少尉を殺した
先導する第二四八戦術機甲連隊の二個大隊にも被害は当然でていた。
《嫌ぁあ゛あ゛あ゛! とって! どっでぇ!!》
MiG-23 MLDが撃破しそこねた
《コサック三一二! 落ち着け今────》
《嫌゛ゃ゛あ゛あ゛あ゛!》
パニック状態に陥った衛士が跳躍ユニットを噴かして上空へと飛びがった。
急激な加速で組み付いた
《やった! 大隊長やりま──────》
対レーザー塗膜が蒸発し、装甲を溶かし、そのまま衛士ごと管制ユニットを貫く。
跳躍ユニットの燃料が引火、炎上しながら墜落する。
《見えた! 前方、
《こちらヴォルガ二一。目標確認! 護衛の
最先頭を進むヴォルガ二五/イーゴリ・イグナートフ中尉が護衛に護られた重
「カチューシャ二一より中隊各機。射撃地点を確保する!」
そうして確保した空間へと
接近してくる脅威に気がついた
背の低い
《うぉっ!?》
《生きてるBETAを盾にしろ!》
そこへオルロフ少佐らの頭上を飛び越える様に五五ミリロケット弾の群れが飛来した。カチューシャ二六/セメンチェンコ少尉とカチューシャ二四/ライサ・ゲラーシェンコ少尉、カチューシャ二五/アンフィーサ・グラツカヤ少尉が、各二基の
飛来する五五ミリロケット弾を迎撃しようとするが、迫りくる戦術機から護ろうと動いていた四十体近い
着弾する五五ミリロケット弾の威力では
《いくわよ!》
三六ミリ劣化ウラン弾が向かってくる
「撃てッ!」
ヴァジエフ大尉の号令の下、一二二ミリロケット弾が斉射される。
ロケット弾は
通常弾頭が着弾し、その爆風で
ロケット弾による破壊の暴風が吹き荒れると、三〇〇体近く居た
残弾を気にすることなく突撃砲を掃射し、生き残った
分厚い保護膜を閉じていた重
重
突入した
肉薄するMiG-23 MLDを狙った
BETAの返り血で赤紫色に染まったMiG-23 MLDがこれまでの鬱憤を晴らすかのように暴れまわる。
耐久力の無い
そこへ
《周辺のBETAの殲滅を確認!》
「全周警戒しつつ、残弾確認! 燃料もだ!」
ヴァジエフ大尉は指示を出しながら機体パラメータに目を通す。
先導部隊に置いていかれない様に匍匐飛行を多様した事もあり、推進剤の残量が心ともなくなっていた。
同時に広域戦域マップにも目を通し、顔をしかめた。
南から突入したスヴェトキン中佐の第一中隊の反応がない。先導を担当した第二四八戦術機甲連隊 第一大隊『ウラル』の反応も同様である。
《
《了解です》
オルロフ少佐も
《
《……感謝する》
ヴァジエフ大尉は腰部装甲に格納されているマガジンを
離脱の先導を努めるジョキナ中尉のMiG-23 MLDが跳躍ユニットの可変翼の具合を確かめた。
《全機跳躍開始!》
ジョキナ中尉の合図で
(幸運を……!)
ヴァジエフ大尉は、その場に残るオルロフ少佐以下
BETA第三波から離脱した
第二四八戦術機甲連隊、第二四二戦術機甲連隊、第八〇戦術歩行攻撃大隊による
一方でその被害も大きく、第二四八戦術機甲連隊に至っては一個中隊以下の戦力にまで減少。壊滅を通り過ぎて消滅一方手前といった具合であった。その他の部隊も少なくない損害を負っていた。
ウダ川防衛線を越えた第一波は、着実に前進しつつも既にその数は半数近くまで漸減されている。相互支援による遅滞戦闘でアンガラ川防衛線に到達するまでに消滅させられると予測されていた。
補給を終えた第六一戦術機甲連隊
その後に続く様に戦線の後方から低空で爆撃機Tu-22が飛来する。第四級光線照射危険地帯を飛翔するTu-22のパイロット、イヴァン・ペトゥホーフ少佐は油っぽい嫌な汗を全身からかきながら前線へと向う。
いつ
(あと少し……!)
編隊を率いるペトゥホーフ少佐はTu-22の胴体に懸吊された空対地ミサイルの発射地点を睨む。
高速で飛行するTu-22にとっては数分であるが、ペトゥホーフ少佐にとっては永遠に感じられた。
「全機発射!」
懸吊した空対地ミサイルを一斉に発射する。
機体から切り離された空対地ミサイルはロケットエンジンに点火。自ら推進力を得て滑空しながら飛んてゆく。
ペトゥホーフ少佐ら空軍の攻撃開始と同時にバイカル湖周辺に展開した戦略ロケット軍隷下のロケット旅団が地対地ミサイルの射撃を開始する。
空と地から放たれた巡航ミサイルが第三梯団へと襲いかかった。
飛翔するミサイル群を生き残った
ミサイルが上空で迎撃される下で、梯団側面から
放たれたクラスターミサイル群は、GPS誘導に従ってBETA第二波へと飛んでゆく。
クラスターミサイル群は一斉に子弾をばら撒き、BETAの頭上から襲いかかった。それに続く様に
一方的な破壊の嵐が吹き荒れた。