Muv-Luv Tactical Surface Fighter Variation   作:オデ オマエ マルカジリ(CV:戦車級)

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【シベリアの怪鳥】Ⅳ

 

長距離制圧誘導弾(AIM-54/R-37)の全弾命中を確認!」

「BETA第二波の壊滅を確認。第三波到達まで約二〇分」

《こちらボストークリーダー。これより帰投する》

「第二ロケット旅団による地対地ミサイル攻撃開始を確認」

「第四親衛戦車軍、第二八軍の後退完了」

「砲撃迎撃率、三八パーセント」

 

 イルクーツク基地の作戦司令部には隷下の諸部隊から集まってきた情報が集約される。

 戦域マップに映るBETA群は第六一戦術機甲連隊 第一大隊(ボストーク大隊)同第二大隊(ボイジャー大隊)による対BETAクラスターミサイルによって多数の光点が失われたが、依然として地を埋め尽くすBETAの前進は続いていた。

 

「何とかなりそうですな」

 

 第一バイカル方面軍参謀長ヴィクトル・モロゾフ大将は戦域マップを見ながら呟く。その声色は明るいものであった。

 BETA第三梯団に対する光線級吶喊(レーザーヤークト)により、光線(レーザー)級の砲弾迎撃率が大幅に低下。効果的な面制圧が可能となっている。光線級吶喊(レーザーヤークト)は損害も大きかったが、相応の結果をもたらしていた。

 

「第六一連隊の再攻撃を急がせろよ!」

「了解!」

 

 モロゾフ大将の言葉は通信手を通じて第六一戦術機甲連隊付整備隊へと伝達される。

 

「……しばらくはAIM-54(フェニックス)の使用を控える必要がありそうです……」

 

 消費されていく長距離制圧誘導弾(AIM-54/R-37)の備蓄量を計算していた方面軍補給参謀ピョートル・メシコフ中将がこめかみを抑えながら呟いた。

 いざという時に備えて備蓄していたとはいえ、高額な兵器が大量に消費されていくのは、補給を担う者としては素直に喜べないものである。

 

「閣下。第六一戦術機甲連隊 第三大隊ですが、彼らもAIM-54(フェニックスミサイル)へ換装し投入しては如何でしょう? 今は一機でも発射プラットフォームが多い方が良いと考えます」

 

 モロゾフ大将は第一バイカル方面軍司令ルカ・スヴィーニン上級大将に向き直ると意見具申を行う。

 

「参謀長の思うがままにするといい」

「ありがとうございます」

 

 スヴィーニン上級大将は小さく頷くと戦域マップへ視線を戻した。

 

「六一連隊第三大隊にAIM-54(フェニックスミサイル)を搭載させろ! 一気に叩くぞ!」

 

 モロゾフ大将の命令はイルクーツク基地に待機していた第六一戦術機甲連隊 第三大隊『イスカンデル』へと伝えられ、第三大隊(イスカンデル大隊)MiG-25(スピオトフォズ)の装備換装が進められた。

 

《ボストークリーダー、第二次攻撃目標確認。これより射撃位置まで進出する》

第一大隊(ボストーク大隊)の出撃を確認。続いて第二大隊(ボイジャー大隊)、滑走路へ」

《ボイジャーリーダー了解》

 

 イルクーツク基地の滑走路から三六機のMiG-31(ブラーミャリサ)が飛び立つと、駐機場(エプロン)に待機していたMiG-31(ブラーミャリサ)Su-32(ウツノコス)で構成された三四機が滑走路へと主脚歩行で移動する。

 跳躍ユニットを小さく動かして可動状態の最終確認を行うと、跳躍ユニットに火を入れた。

 

《こちらボイジャーリーダー。全機離陸、目標へ向う》

 

 戦域マップ上でイルクーツク基地から青い光点の集団が離れていくのが確認できる。

 その様子を見ながらスヴィーニン上級大将は、ロシアンティーが入ったカップを口へと運んだ。高級将校らしく天然モノである。

 

「こ、コード九九一!? コード九九一発生!!」

 

 コード九九一、それはBETAによる地中侵攻を意味する符号である。BETAは時に地中を掘削して進撃し、前線をすり抜けて後方地域を襲撃することが時折あった。

 

「場所はどこだ?」

 

 モロゾフ大将は慌てることなく出現位置を確認する。

 前線には予備戦力が待機しており、この様な非常事態に対応できる様になっていた。

 

「スリュジャンカ近郊です!!」

「なっ!?」

 

 スリュジャンカはイルクーツクから直線距離にして南南西へ約九一キロ程に位置するバイカル湖沿岸の町である。BETAの進撃速度からすればイルクーツクまで一時間程で到達する距離であった。

 前線より遥か後方、第一バイカル方面軍司令部を直接狙える位置に出現したBETA群に司令部は蜂の巣をつついた様な騒ぎになる。

 報告を受けたモロゾフ大将も想定外の事態に絶句した。

 

「動ける部隊は直ちに全て投入! 第八親衛軍に警報を出せ! 第二バイカル方面軍にも警報と応援を要請しろ!」

 

 スヴィーニン上級大将が椅子から立ちながら矢継ぎ早に命令を叫ぶ。

 スヴィーニン上級大将の一喝で司令部は混乱しながらも命令を実行する。

 この不測事態に対応する動きが早くも戦域マップに映し出され始めていた。

 

 

 

 カチューシャ二一/アレクサンドル・ヴァジエフ大尉率いる第八〇戦術歩行攻撃大隊(カチューシャ大隊) 第二中隊は、第二四八戦術機甲連隊 第三大隊(ヴォルガ大隊)とプラーツク基地で別れるとイルクーツク基地へと帰還していた。

 管制に従って中隊は指定された格納庫へと駐機させる。

 主機を落とし管制ユニットから出ると、先に帰還していたイヴァン・パホモフ曹長以外の整備班が駆け寄ってきた。

 

「機体点検! 素早く終わらせろォ!」

 

 度重なる連戦で乗機のSu-25(グラーチュ)にもそろそろガタが出始める頃合いである。簡単でも整備が必要であった。

 

「曹長。駆動系を重点的に頼む。だいぶ無理をさせた」

「了解です、大尉!」

 

 パホモフ曹長と別れるとヴァジエフ大尉は衛士の待機室へと足を運ぶ。機体を降りた部下達も同様である。

 

「うぅ〜! お尻固まっちゃう!」

「ずっと座りっぱなしだからねぇ。わたしは早くシャワー浴びたいわぁ」

「まだ戦闘待機中だから我慢よ」

 

 待機室へと向う衛士達を避けながら、小柄な女性将校が小走りで駆け寄ってきた。

 

「ヴァジエフ大尉!」

「ブガエヴァ中尉、どうした?」

 

 ヴァシリーサ・ブガエヴァ中尉。第八〇戦術歩行攻撃大隊(カチューシャ大隊)のCP将校の一人である。

 

「伝令です。『第八〇戦術歩行攻撃大隊は別命あるまで待機せよ』です」

「わかった」

 

 ヴァジエフ大尉は頷きながら答える。

 

「……ブガエブァ中尉、第一中隊に帰還者はいるか?」

 

 CP将校として部隊の状態を知るブガエヴァ中尉は何も言わずに首を横に振った。

 

「わかった。正式な引き継ぎはまた後にしよう。今は少し休みたい」

「了解しました」

 

 ブガエヴァ中尉は敬礼すると再び小走りで走り去っていく。

 その後ろ姿を見送りながら、ヴァジエフ大尉は頭を掻きながら深く溜息を吐いた。

 待機室に入ると中隊員の目がこちらを向いたあと、すぐに逸らされる。彼ら彼女らも先程のやり取りが何なのか察しがついていた。

 第三中隊から臨時配属され今や二人の生き残りとなったカチューシャ二五/アンフィーサ・グラツカヤ少尉が待機室の隅にあるソファで小さく座っている。

 俯いているためその表情は解らないが、泣きそうな雰囲気であった。

 

「大丈夫、大丈夫」

「ライサ少尉ぃ……」

 

 その隣に生き残りの片割れカチューシャ二四/ライサ・ゲラーシェンコ少尉が寄り添う。

 

「彼女、これで二回目の出撃らしいわ」

「……そうか。まだ慣れてないんだな」

 

 ヴァジエフ大尉は、カチューシャ二二/オクサナ・イヴァネンコ中尉が持ってきた合成コーヒーをすすりながら、その様子を眺めた。

 

「やっぱり、中佐達は……」

「ああ。しばらくは俺が大隊長代理だ」

「……そう。見知った顔が逝くのには慣れたけれど、やっぱり悲しいわ」

「……そうだな」

 

 ヴァジエフ大尉は部屋の中をぐるりと見渡す。

 第八〇戦術歩行攻撃大隊(カチューシャ大隊)の衛士はここにいる十人のみとなってしまった。

 感傷に浸るヴァジエフ大尉らを現実に引き戻す様に、けたたましい警報が鳴り響いた。

 警報は基地のスピーカーというスピーカー全てから鳴り、その音は整備班の機械音を掻き消す程である。

 

《九九一発生! 九九一発生! 戦術機は緊急発進! 順次管制の指揮下へ入れ! 繰り返す──────》

 

 警報が鳴ったと同時に走り出したヴァジエフ大尉は、待機室を出て格納庫を走り乗機の元へと向う。

 愛機のSu-25(グラーチュ)の前でパホモフ曹長が待っていた。

 

「曹長! 整備状況は?」

「第一、第二小隊は全機完了しとりますが、第三小隊がまだです! 今、急ぎで組み立てとりますんで、少し時間を下さい!」

「わかった! 急いでくれ!」

 

 管制ユニットのシートに身体を収めると胸部装甲を閉じる。

 主機を立ち上げるとSu-25(グラーチュ)のセンサーとリンクした網膜投影装置に周囲の状態が投影される。

 

「第一、第二小隊は着いてこい! 第三小隊は整備完了次第合流しろ! いいな!」

《カチューシャ二二了解!》

 

 整備兵がガントリーを操作し、Su-25(グラーチュ)の固定か外れたのを確認すると主脚歩行で格納庫を出る。

 

(武装も燃料も問題ない。駆動系も大丈夫そうだ)

 

 格納庫を出ると周囲に人がいないのを確認して跳躍ユニットの確認を行う。

 

《カチューシャマムよりカチューシャリーダー。聞こえますか?》

 

 無線からブガエヴァ中尉の声が聞こえる。

 

ブガエヴァ中尉(カチューシャマム)、状況はどうなってる?」

《スリュジャンカ近郊にてBETAの地中侵攻を確認。推定個体数二〇〇〇~五〇〇〇、連隊又は旅団規模と推定されます。現在、戦域マップを更新中です。……できました!》

 

 網膜に投影される戦域マップにBETAを示す赤い光点が現れる。BETAはバイカル湖に沿って北進し、まっすぐイルクーツクを目指していた。

 

《第八〇二独立ヘリ飛行隊及びバイカル湖小艦隊 第一〇七水域警備艦旅団が既に展開、遅滞戦闘を行っています。イルクーツク郊外には第五二狙撃師団が進出、防御準備中。また、第二バイカル方面軍の第十七親衛戦車師団がウラン・ウデから前進中とのこと》

 

 戦域マップには他にも第八親衛軍の隷下部隊がイルクーツク方面へ移動する様子も映し出されている。

 

(第五二狙撃師団は後方警備用の編成だ。BETAの本格侵攻に耐えられる様な部隊じゃない。後ろは当てにできないか……!)

 

 イルクーツク郊外のシェレホフからマルコヴァ間に陣地を構築し始めた第五二狙撃師団はイルクーツク基地の警備を主任務とする治安維持部隊である。小型種ならともかく大型種を多数含むBETA群に正面から立ち向かえる重装備は有していなかった。

 滑走路に出たSu-25(グラーチュ)の頭上を爆装したMi-8(ヒップ)が二機飛び立ってゆく。

 

《大隊はトルドニまで進出し、BETA群の侵攻を阻止せよ》

「カチューシャリーダー、了解。中隊各機、跳躍開始!」

 

 跳躍ユニットに火をいれ、Su-25(グラーチュ)が飛び立った。

 

 スリュジャンカに出現したBETA群は、疎開せずに残っていたスリュジャンカの住民を殺戮すると、イルクーツクを目指して北進していた。

 その進路を阻むように第八〇二独立ヘリ飛行隊のMi-24V(ハインド)が展開する。

 シードル・セベンツォフ大尉の視線の先には土埃を上げて疾走する突撃(デストロイヤー)級の姿があった。

 

「来たぞ。後方の準備はまだ整っていない! できる限りここで削るぞ! 中隊、対戦車ミサイル射撃用意!」

 

 セベンツォフ大尉は視線を落としディスプレイに表示された突撃(デストロイヤー)級のシルエットを注視する。

 

「射撃始め!」

 

 号令と共にMi-24V(ハインド)が一斉に懸吊した対戦車ミサイル9M114(シュトゥールム-V)を発射した。

 ロケットに点火したミサイルはMi-24V(ハインド)からの誘導に従って真っ直ぐ迫りくる突撃(デストロイヤー)級へと、正面から向かっていく。

 着弾したミサイルは突撃(デストロイヤー)級の装甲殻を貫き、柔らかい内部組織を破壊する。しかし、一撃での絶命にはいたらず、複数発が命中して初めて活動を停止した。

 Mi-24V(ハインド)の攻撃を受けた突撃(デストロイヤー)級は、数体が擱座したもののその進撃速度を緩めることなく木々を薙ぎ倒しながら疾走する。そして、セベンツォフ大尉らの眼下を抜けてイルクーツクへと駆けてゆく。

 数機のMi-24V(ハインド)がその場で反転し弱点の背面を曝け出した突撃(デストロイヤー)級に機銃とロケットを撃ち込んだ。

 

「後続、戦車(タンク)級及び要撃(グラップラー)級の集団を確認!」

 

 セベンツォフ大尉は操縦手のアルセニー・オブラソフ軍曹の報告を聞きながら八〇ミリロケットランチャー(S-8)をBETA中衛集団に指向した。

 Mi-24V(ハインド)の編隊がロケット弾を斉射する様子を睨みながらBETA群の側面から接近する者達がいた。

 バイカル湖の水面を疾走するバイカル湖小艦隊所属の砲艦である。

 小型ボートに一二二ミリロケットを載せただけの簡易な物から戦車の砲塔が取り付けられた物まで、多様な砲艦が水上から搭載する火砲を一斉にBETA集団側面へと叩きつけた。

 

 初動対応として展開した諸部隊の奮闘もあり、BETA群の侵攻速度は僅かながらも鈍化。第八〇戦術歩行攻撃大隊(カチューシャ大隊)がトルドニに展開するまでの時間的猶予を十分に稼ぐことに成功していた。

 ヴァジエフ大尉以下七機のSu-25(グラーチュ)は戦域マップを睨み、赤い光点が接近してくるのを待ち構える。

 戦域マップ上での彼我の距離は直ぐそこにまで迫っていた。

 

(来た)

 

 ヴァジエフ大尉の網膜に疾走する突撃(デストロイヤー)級が巻き上げる土埃が投影される。

 鈍重なSu-25(グラーチュ)を始めとする戦術歩行攻撃機にとって突撃(デストロイヤー)級は光線(レーザー)級に次いで天敵といえる存在であった。

 しかし、A-10(サンダーボルト)と異なりSu-25(グラーチュ)には突撃(デストロイヤー)級への対抗手段がある。

 一五二ミリ打撃支援砲を構えた中衛カチューシャ二一/ヴァジエフ大尉とカチューシャ二三/ボグダン・ノヴォセリツォフ少尉のSu-25(グラーチュ)が迫りくる突撃(デストロイヤー)級に対して射撃を開始した。

 一五二ミリ打撃支援砲は殆どの場合、正面から突撃(デストロイヤー)級の装甲殻を貫くことができる。

 これは突撃(デストロイヤー)級や要塞(フォート)級等、強力な大型種を遠距離から一方的に殲滅するために創り出された一品であった。強力な射撃の反動で主腕の摩耗が激しいという欠点はあれど、一五二ミリ打撃支援砲はその威力を遺憾なく発揮して見せる。

 砲声が轟き装甲殻を撃ち抜かれた突撃(デストロイヤー)級が大地に突っ伏す。擱座した突撃(デストロイヤー)級を避けて後に続く突撃(デストロイヤー)級が雪崩込んでくる。

 しかし、たった二門の一五二ミリ打撃支援砲だけでは止めることなど出来る訳がなく、彼我の距離は縮まるばかりであった。

 遂に突撃(デストロイヤー)級の先頭が突撃砲の射程に入る。

 

《来たわね》

 

 カチューシャ二九/エリザヴェータ・ウィッテ少尉の呟きを合図に前衛三姉妹のSu-25(グラーチュ)が攻撃態勢を整える。

 最先頭を努める突撃前衛(ストーム・バンガード)、カチューシャ二六/アナスタシア・セメンチェンコ少尉が突撃砲の斉射した。

 突撃砲が放つ三六ミリ劣化ウラン弾では突撃(デストロイヤー)級の装甲殻を貫く事はできない。

 第二中隊に臨時で配属されているカチューシャ二四/ゲラーシェンコ少尉は無意味なその行為に眉を顰めた。セメンチェンコ少尉が恐怖からその様な行為に走ったと思ったからである。

 だが、その認識は直ぐに改められた。

 発射された三六ミリ弾は的確に先頭を走る突撃(デストロイヤー)級の脚部を穿ち、脚を潰された突撃(デストロイヤー)級がそのままつんのめる様に大地へ突っ込んだのだ。

 

《なッ!? 突撃(デストロイヤー)級の脚だけを狙うなんて……!!》

 

 セメンチェンコ少尉の舐めるような射撃が地表と突撃(デストロイヤー)級の脚部を穿ってゆく。

 突撃(デストロイヤー)級の脚を撃って動きを止める。言葉にすれば簡単に思えるが、現実には非常に難しい特級クラスの技量が求められる。ただでさえ動いている目標を正確に撃つのは難しい上に、突撃(デストロイヤー)級は全BETAの中でも最速。これを遠距離から脚部だけを狙って撃つのは、熟練の衛士であっても不可能に近かった。

 そんな超絶技量を目の前で魅せられたゲラーシェンコ少尉は驚愕の声を上げる。

 

《……やっぱり、無駄弾が多くなるわね》

 

 セメンチェンコ少尉は彼女の感覚でいつもより多く減っていく残弾を見ながら、突撃(デストロイヤー)級の生垣を作り上げる。

 眼の前に突撃(デストロイヤー)級の壁ができたことで、追従する突撃(デストロイヤー)級は速度を落としながら旋回し壁を避けて進む。その過程で柔らかい側面を曝す事になった。

 その隙を逃す筈もない。

 カチューシャ二七/エレーナ・モシェンコヴァ少尉とウィッテ少尉が三六ミリ連装機関砲システム(Gsh-36L)と突撃砲の容赦ない射撃を浴びせ突撃(デストロイヤー)級を撃破していく。

 グラツカヤ少尉が短距離ミサイル(R-73)を発射し旋回を終えた突撃(デストロイヤー)級を正面から撃破する。

 

突撃(デストロイヤー)級はあらかた片付けたな)

 

 戦域マップに映る突撃(デストロイヤー)級の光点が減少してゆく。天敵の撃破にヴァジエフ大尉は一先ず胸をなでおろした。

 そんな彼らの上空をMi-24V(ハインド)の編隊が通り過ぎていった。継戦能力の低い戦闘ヘリコプターである彼らは搭載する武装を撃ち尽くし、基地へと補給に戻るのだ。

 

《後続集団を確認!》

 

 Mi-24V(ハインド)編隊の後を追うように要撃(グラップラー)級と戦車(タンク)級の集団が突撃(デストロイヤー)級の死骸を乗り越えて姿を表す。

 

「……前菜は終わりだ。メインディッシュが来るぞ!」

 

 降り注ぐ五五ミリロケットランチャー(S-5)の雨を受けながらBETA集団の主力が迫った。

 

 突撃(デストロイヤー)級の迎撃に集中していた事もあり、第二中隊はBETA中衛集団と比較的近距離で交戦を開始した。

 セメンチェンコ少尉以下の前衛がSu-25(グラーチュ)持ち前の火力を発揮して戦車(タンク)級を鏖殺。前衛がカバーしきれない敵や耐久力のある要撃(グラップラー)級を強襲掃討(ガン・スイーパー)のゲラーシェンコ少尉とグラツカヤ少尉が排除。僅かに残った突撃(デストロイヤー)級や後背に回ろうとする敵をヴァジエフ大尉、ノヴォセリツォフ少尉の迎撃後衛(ガン・インターセプター)が対応する。

 倒れても倒れても迫りくるBETAの数の暴力に僅か七機のSu-25(グラーチュ)ではやはり押され気味であった。

 

《この! この!》

 

 グラツカヤ少尉が自機に迫る要撃(グラップラー)級に三六ミリ弾を浴びせる。対大型種用に装備していた短距離ミサイル(R-73)は既に撃ち切っていた。

 要撃(グラップラー)級は硬い衝角を振り上げた状態で力尽き崩れ落ちる。

 

《はぁ、はぁ。や、やった。……あっ!?》

 

 グラツカヤ少尉が目の前の敵に集中していた隙に要撃(グラップラー)級が前衛の横から襲いかかった。慌てて突撃砲を指向する。

 

《えっ!? 弾切れ!? か、セメンチェンコ少尉(カチューシャ二六)!!》

 

 グラツカヤ少尉の放った突撃砲は数発で弾切れの警告音が鳴り、沈黙する。

 たかが数発の三六ミリ弾で倒れる要撃(グラップラー)級ではない。急速に距離を詰めた要撃(グラップラー)級は前肢による強烈な左フックをSu-25(グラーチュ)へと繰り出した。

 

《え──────》

 

 歴戦の衛士でも一度に三六〇度全てを見ることなど不可能だ。故に戦術機甲部隊は一丸となって互いをカバーし合うのである。

 そのカバーをすり抜けた要撃(グラップラー)級の一撃をセメンチェンコ少尉は躱せなかった。

 後腰から必殺の一撃を受けたSu-25(グラーチュ)は、そのまま内蔵する推進剤に引火、爆発を起こす。爆発は搭載する弾薬に伝爆し、誘爆となって巨大な爆発を引き起こした。

 セメンチェンコ少尉を戦死させた要撃(グラップラー)級は直ぐにノヴォセリツォフ少尉が一五二ミリ打撃支援砲で大穴を空けて絶命させる。

 

《あ、ああ……!?》

 

 この事態を引き起こしたグラツカヤ少尉は呆然と爆発を見詰めて固まる。

 

《二五! グラツカヤ少尉(カチューシャ二五)! フィーサチカッ!!》

 

 僚機のゲラーシェンコ少尉の鋭い声を聞いて我に帰ったグラツカヤ少尉であったが、既に手遅れであった。彼女の網膜には迫りくる要撃(グラップラー)級の衝角が映っていた。

 呆然と動きを止めたSu-25(グラーチュ)の胸部装甲をグラツカヤ少尉ごと要撃(グラップラー)級が叩き潰す。胸部装甲を大きく潰したSu-25(グラーチュ)はそのまま仰向けに倒れた。ひしゃげた装甲の隙間から真紅の液体が溢れ出す。

 

《……くも、よくもナーシャをッ!!》

 

 着隊以来面倒を見てもらったセメンチェンコ少尉の死に怒り心頭のウィッテ少尉は背部ガンマウントを展開した全力射撃を眼前に広がる戦車(タンク)級の赤い群れへと叩きつけた。

 

《レーナ! レーナは左の戦車(タンク)級を殺って! …………レーナ?》

 

 僚機のモシェンコヴァ少尉からの返事が無いことを不審に思ったウィッテ少尉が、射撃を継続したまま隣を見る。

 そこには管制ユニットを貫く様に、爆散したSu-25(グラーチュ)の破片が突き刺さったモシェンコヴァ少尉のSu-25(グラーチュ)がいた。

 突き刺さった破片によってできた穴から鮮血が滴り落ちる。

 

《う、嘘……。レーナまで……、何で、どうして……!?》

 

 一気に前衛の仲間を喪ったウィッテ少尉が掠れた声で絞り出す。

 ヴァジエフ大尉は決断した。

 

「退却だッ!!」

 

 このまま留まっても擦り潰されると判断したヴァジエフ大尉は退却を宣言すると共に、温存していた四十連一二二ミリロケット砲(2B5)を斉射する。

 降り注いだ一二二ミリロケット弾により、接近していたBETAの群れが一時的に殲滅された。

 

「シェレホフまで後退して建て直す!」

《カチューシャリーダー!? 後退命令は出ていませ────》

 

 第二中隊を管制するCP将校ブガエヴァ中尉の声を無視しながら、跳躍する。直ぐにゲラーシェンコ少尉、ウィッテ少尉と続く。

 

《なッ!? くそ!》

 

 最後にノヴォセリツォフ少尉が飛び上がろうとした瞬間、生き残った戦車(タンク)級が飛びつき押し倒される。

 

ノヴォセリツォフ少尉(カチューシャ二三)!」

《行ってください大尉!》

 

 ヴァジエフ大尉が助けようと反転した瞬間、静止される。

 ノヴォセリツォフ少尉は既にそれなりの数の戦車(タンク)級に群がられていた。

 彼を助けても直ぐに後続のBETAに追いつかれ、鈍重なSu-25(グラーチュ)では離脱できなくなる。

 

「…………すまん!」

 

 ヴァジエフ大尉はゲラーシェンコ少尉とウィッテ少尉を引き連れて後退する。

 その直後に先程までいた地点で爆発を観測した。

 

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