Muv-Luv Tactical Surface Fighter Variation 作:オデ オマエ マルカジリ(CV:戦車級)
「
「BETA第二波の壊滅を確認。第三波到達まで約二〇分」
《こちらボストークリーダー。これより帰投する》
「第二ロケット旅団による地対地ミサイル攻撃開始を確認」
「第四親衛戦車軍、第二八軍の後退完了」
「砲撃迎撃率、三八パーセント」
イルクーツク基地の作戦司令部には隷下の諸部隊から集まってきた情報が集約される。
戦域マップに映るBETA群は
「何とかなりそうですな」
第一バイカル方面軍参謀長ヴィクトル・モロゾフ大将は戦域マップを見ながら呟く。その声色は明るいものであった。
BETA第三梯団に対する
「第六一連隊の再攻撃を急がせろよ!」
「了解!」
モロゾフ大将の言葉は通信手を通じて第六一戦術機甲連隊付整備隊へと伝達される。
「……しばらくは
消費されていく
いざという時に備えて備蓄していたとはいえ、高額な兵器が大量に消費されていくのは、補給を担う者としては素直に喜べないものである。
「閣下。第六一戦術機甲連隊 第三大隊ですが、彼らも
モロゾフ大将は第一バイカル方面軍司令ルカ・スヴィーニン上級大将に向き直ると意見具申を行う。
「参謀長の思うがままにするといい」
「ありがとうございます」
スヴィーニン上級大将は小さく頷くと戦域マップへ視線を戻した。
「六一連隊第三大隊に
モロゾフ大将の命令はイルクーツク基地に待機していた第六一戦術機甲連隊 第三大隊『イスカンデル』へと伝えられ、
《ボストークリーダー、第二次攻撃目標確認。これより射撃位置まで進出する》
「
《ボイジャーリーダー了解》
イルクーツク基地の滑走路から三六機の
跳躍ユニットを小さく動かして可動状態の最終確認を行うと、跳躍ユニットに火を入れた。
《こちらボイジャーリーダー。全機離陸、目標へ向う》
戦域マップ上でイルクーツク基地から青い光点の集団が離れていくのが確認できる。
その様子を見ながらスヴィーニン上級大将は、ロシアンティーが入ったカップを口へと運んだ。高級将校らしく天然モノである。
「こ、コード九九一!? コード九九一発生!!」
コード九九一、それはBETAによる地中侵攻を意味する符号である。BETAは時に地中を掘削して進撃し、前線をすり抜けて後方地域を襲撃することが時折あった。
「場所はどこだ?」
モロゾフ大将は慌てることなく出現位置を確認する。
前線には予備戦力が待機しており、この様な非常事態に対応できる様になっていた。
「スリュジャンカ近郊です!!」
「なっ!?」
スリュジャンカはイルクーツクから直線距離にして南南西へ約九一キロ程に位置するバイカル湖沿岸の町である。BETAの進撃速度からすればイルクーツクまで一時間程で到達する距離であった。
前線より遥か後方、第一バイカル方面軍司令部を直接狙える位置に出現したBETA群に司令部は蜂の巣をつついた様な騒ぎになる。
報告を受けたモロゾフ大将も想定外の事態に絶句した。
「動ける部隊は直ちに全て投入! 第八親衛軍に警報を出せ! 第二バイカル方面軍にも警報と応援を要請しろ!」
スヴィーニン上級大将が椅子から立ちながら矢継ぎ早に命令を叫ぶ。
スヴィーニン上級大将の一喝で司令部は混乱しながらも命令を実行する。
この不測事態に対応する動きが早くも戦域マップに映し出され始めていた。
カチューシャ二一/アレクサンドル・ヴァジエフ大尉率いる
管制に従って中隊は指定された格納庫へと駐機させる。
主機を落とし管制ユニットから出ると、先に帰還していたイヴァン・パホモフ曹長以外の整備班が駆け寄ってきた。
「機体点検! 素早く終わらせろォ!」
度重なる連戦で乗機の
「曹長。駆動系を重点的に頼む。だいぶ無理をさせた」
「了解です、大尉!」
パホモフ曹長と別れるとヴァジエフ大尉は衛士の待機室へと足を運ぶ。機体を降りた部下達も同様である。
「うぅ〜! お尻固まっちゃう!」
「ずっと座りっぱなしだからねぇ。わたしは早くシャワー浴びたいわぁ」
「まだ戦闘待機中だから我慢よ」
待機室へと向う衛士達を避けながら、小柄な女性将校が小走りで駆け寄ってきた。
「ヴァジエフ大尉!」
「ブガエヴァ中尉、どうした?」
ヴァシリーサ・ブガエヴァ中尉。
「伝令です。『第八〇戦術歩行攻撃大隊は別命あるまで待機せよ』です」
「わかった」
ヴァジエフ大尉は頷きながら答える。
「……ブガエブァ中尉、第一中隊に帰還者はいるか?」
CP将校として部隊の状態を知るブガエヴァ中尉は何も言わずに首を横に振った。
「わかった。正式な引き継ぎはまた後にしよう。今は少し休みたい」
「了解しました」
ブガエヴァ中尉は敬礼すると再び小走りで走り去っていく。
その後ろ姿を見送りながら、ヴァジエフ大尉は頭を掻きながら深く溜息を吐いた。
待機室に入ると中隊員の目がこちらを向いたあと、すぐに逸らされる。彼ら彼女らも先程のやり取りが何なのか察しがついていた。
第三中隊から臨時配属され今や二人の生き残りとなったカチューシャ二五/アンフィーサ・グラツカヤ少尉が待機室の隅にあるソファで小さく座っている。
俯いているためその表情は解らないが、泣きそうな雰囲気であった。
「大丈夫、大丈夫」
「ライサ少尉ぃ……」
その隣に生き残りの片割れカチューシャ二四/ライサ・ゲラーシェンコ少尉が寄り添う。
「彼女、これで二回目の出撃らしいわ」
「……そうか。まだ慣れてないんだな」
ヴァジエフ大尉は、カチューシャ二二/オクサナ・イヴァネンコ中尉が持ってきた合成コーヒーをすすりながら、その様子を眺めた。
「やっぱり、中佐達は……」
「ああ。しばらくは俺が大隊長代理だ」
「……そう。見知った顔が逝くのには慣れたけれど、やっぱり悲しいわ」
「……そうだな」
ヴァジエフ大尉は部屋の中をぐるりと見渡す。
感傷に浸るヴァジエフ大尉らを現実に引き戻す様に、けたたましい警報が鳴り響いた。
警報は基地のスピーカーというスピーカー全てから鳴り、その音は整備班の機械音を掻き消す程である。
《九九一発生! 九九一発生! 戦術機は緊急発進! 順次管制の指揮下へ入れ! 繰り返す──────》
警報が鳴ったと同時に走り出したヴァジエフ大尉は、待機室を出て格納庫を走り乗機の元へと向う。
愛機の
「曹長! 整備状況は?」
「第一、第二小隊は全機完了しとりますが、第三小隊がまだです! 今、急ぎで組み立てとりますんで、少し時間を下さい!」
「わかった! 急いでくれ!」
管制ユニットのシートに身体を収めると胸部装甲を閉じる。
主機を立ち上げると
「第一、第二小隊は着いてこい! 第三小隊は整備完了次第合流しろ! いいな!」
《カチューシャ二二了解!》
整備兵がガントリーを操作し、
(武装も燃料も問題ない。駆動系も大丈夫そうだ)
格納庫を出ると周囲に人がいないのを確認して跳躍ユニットの確認を行う。
《カチューシャマムよりカチューシャリーダー。聞こえますか?》
無線からブガエヴァ中尉の声が聞こえる。
「
《スリュジャンカ近郊にてBETAの地中侵攻を確認。推定個体数二〇〇〇~五〇〇〇、連隊又は旅団規模と推定されます。現在、戦域マップを更新中です。……できました!》
網膜に投影される戦域マップにBETAを示す赤い光点が現れる。BETAはバイカル湖に沿って北進し、まっすぐイルクーツクを目指していた。
《第八〇二独立ヘリ飛行隊及びバイカル湖小艦隊 第一〇七水域警備艦旅団が既に展開、遅滞戦闘を行っています。イルクーツク郊外には第五二狙撃師団が進出、防御準備中。また、第二バイカル方面軍の第十七親衛戦車師団がウラン・ウデから前進中とのこと》
戦域マップには他にも第八親衛軍の隷下部隊がイルクーツク方面へ移動する様子も映し出されている。
(第五二狙撃師団は後方警備用の編成だ。BETAの本格侵攻に耐えられる様な部隊じゃない。後ろは当てにできないか……!)
イルクーツク郊外のシェレホフからマルコヴァ間に陣地を構築し始めた第五二狙撃師団はイルクーツク基地の警備を主任務とする治安維持部隊である。小型種ならともかく大型種を多数含むBETA群に正面から立ち向かえる重装備は有していなかった。
滑走路に出た
《大隊はトルドニまで進出し、BETA群の侵攻を阻止せよ》
「カチューシャリーダー、了解。中隊各機、跳躍開始!」
跳躍ユニットに火をいれ、
スリュジャンカに出現したBETA群は、疎開せずに残っていたスリュジャンカの住民を殺戮すると、イルクーツクを目指して北進していた。
その進路を阻むように第八〇二独立ヘリ飛行隊の
シードル・セベンツォフ大尉の視線の先には土埃を上げて疾走する
「来たぞ。後方の準備はまだ整っていない! できる限りここで削るぞ! 中隊、対戦車ミサイル射撃用意!」
セベンツォフ大尉は視線を落としディスプレイに表示された
「射撃始め!」
号令と共に
ロケットに点火したミサイルは
着弾したミサイルは
数機の
「後続、
セベンツォフ大尉は操縦手のアルセニー・オブラソフ軍曹の報告を聞きながら
バイカル湖の水面を疾走するバイカル湖小艦隊所属の砲艦である。
小型ボートに一二二ミリロケットを載せただけの簡易な物から戦車の砲塔が取り付けられた物まで、多様な砲艦が水上から搭載する火砲を一斉にBETA集団側面へと叩きつけた。
初動対応として展開した諸部隊の奮闘もあり、BETA群の侵攻速度は僅かながらも鈍化。
ヴァジエフ大尉以下七機の
戦域マップ上での彼我の距離は直ぐそこにまで迫っていた。
(来た)
ヴァジエフ大尉の網膜に疾走する
鈍重な
しかし、
一五二ミリ打撃支援砲を構えた中衛カチューシャ二一/ヴァジエフ大尉とカチューシャ二三/ボグダン・ノヴォセリツォフ少尉の
一五二ミリ打撃支援砲は殆どの場合、正面から
これは
砲声が轟き装甲殻を撃ち抜かれた
しかし、たった二門の一五二ミリ打撃支援砲だけでは止めることなど出来る訳がなく、彼我の距離は縮まるばかりであった。
遂に
《来たわね》
カチューシャ二九/エリザヴェータ・ウィッテ少尉の呟きを合図に前衛三姉妹の
最先頭を努める
突撃砲が放つ三六ミリ劣化ウラン弾では
第二中隊に臨時で配属されているカチューシャ二四/ゲラーシェンコ少尉は無意味なその行為に眉を顰めた。セメンチェンコ少尉が恐怖からその様な行為に走ったと思ったからである。
だが、その認識は直ぐに改められた。
発射された三六ミリ弾は的確に先頭を走る
《なッ!?
セメンチェンコ少尉の舐めるような射撃が地表と
そんな超絶技量を目の前で魅せられたゲラーシェンコ少尉は驚愕の声を上げる。
《……やっぱり、無駄弾が多くなるわね》
セメンチェンコ少尉は彼女の感覚でいつもより多く減っていく残弾を見ながら、
眼の前に
その隙を逃す筈もない。
カチューシャ二七/エレーナ・モシェンコヴァ少尉とウィッテ少尉が
グラツカヤ少尉が
(
戦域マップに映る
そんな彼らの上空を
《後続集団を確認!》
「……前菜は終わりだ。メインディッシュが来るぞ!」
降り注ぐ
セメンチェンコ少尉以下の前衛が
倒れても倒れても迫りくるBETAの数の暴力に僅か七機の
《この! この!》
グラツカヤ少尉が自機に迫る
《はぁ、はぁ。や、やった。……あっ!?》
グラツカヤ少尉が目の前の敵に集中していた隙に
《えっ!? 弾切れ!? か、
グラツカヤ少尉の放った突撃砲は数発で弾切れの警告音が鳴り、沈黙する。
たかが数発の三六ミリ弾で倒れる
《え──────》
歴戦の衛士でも一度に三六〇度全てを見ることなど不可能だ。故に戦術機甲部隊は一丸となって互いをカバーし合うのである。
そのカバーをすり抜けた
後腰から必殺の一撃を受けた
セメンチェンコ少尉を戦死させた
《あ、ああ……!?》
この事態を引き起こしたグラツカヤ少尉は呆然と爆発を見詰めて固まる。
《二五!
僚機のゲラーシェンコ少尉の鋭い声を聞いて我に帰ったグラツカヤ少尉であったが、既に手遅れであった。彼女の網膜には迫りくる
呆然と動きを止めた
《……くも、よくもナーシャをッ!!》
着隊以来面倒を見てもらったセメンチェンコ少尉の死に怒り心頭のウィッテ少尉は背部ガンマウントを展開した全力射撃を眼前に広がる
《レーナ! レーナは左の
僚機のモシェンコヴァ少尉からの返事が無いことを不審に思ったウィッテ少尉が、射撃を継続したまま隣を見る。
そこには管制ユニットを貫く様に、爆散した
突き刺さった破片によってできた穴から鮮血が滴り落ちる。
《う、嘘……。レーナまで……、何で、どうして……!?》
一気に前衛の仲間を喪ったウィッテ少尉が掠れた声で絞り出す。
ヴァジエフ大尉は決断した。
「退却だッ!!」
このまま留まっても擦り潰されると判断したヴァジエフ大尉は退却を宣言すると共に、温存していた
降り注いだ一二二ミリロケット弾により、接近していたBETAの群れが一時的に殲滅された。
「シェレホフまで後退して建て直す!」
《カチューシャリーダー!? 後退命令は出ていませ────》
第二中隊を管制するCP将校ブガエヴァ中尉の声を無視しながら、跳躍する。直ぐにゲラーシェンコ少尉、ウィッテ少尉と続く。
《なッ!? くそ!》
最後にノヴォセリツォフ少尉が飛び上がろうとした瞬間、生き残った
「
《行ってください大尉!》
ヴァジエフ大尉が助けようと反転した瞬間、静止される。
ノヴォセリツォフ少尉は既にそれなりの数の
彼を助けても直ぐに後続のBETAに追いつかれ、鈍重な
「…………すまん!」
ヴァジエフ大尉はゲラーシェンコ少尉とウィッテ少尉を引き連れて後退する。
その直後に先程までいた地点で爆発を観測した。