Muv-Luv Tactical Surface Fighter Variation 作:オデ オマエ マルカジリ(CV:戦車級)
シェレホフには第五二狙撃師団 第七四四狙撃兵連隊が展開していた。生身の軽歩兵が主体である彼らは数少ない装甲車両や重機関銃、歩兵携行式対戦車ロケットを装備して家屋の中に立て籠もる。
そんな彼らの前に鋼鉄の巨人。
カチューシャ二一/アレクサンドル・ヴァジエフ大尉は一五二ミリ打撃支援砲を投げ捨てると、補給部隊が設置していった補給コンテナから突撃砲を引っ張り出す。
「弾薬補給! 素早く終わらせろ。奴らは直ぐ来るぞ」
《了解!》
ヴァジエフ大尉の指示に素早く反応したのはカチューシャ二四/ライサ・ゲラーシェンコ少尉のみであった。
《……ナーシャ、レーナ……。うっ、ううっ》
残りの一人、カチューシャ二九/エリザヴェータ・ウィッテ少尉は啜り泣きながら佇んでいた。
本当の姉妹の様に仲が良かったアナスタシア・セメンチェンコ少尉とエレーナ・モシェンコヴァ少尉の二人を喪った衝撃からまだ立ち直れていないのだ。
「…………
このままでは彼女は戦えないと判断したヴァジエフ大尉は精神を安定させる後催眠暗示の許可をCP将校ヴァシリーサ・ブガエヴァ中尉に求め、それは直ぐに受理された。
《許可します》
ヴァジエフ大尉はコンソールを操作し、ウィッテ少尉の後催眠暗示を強制的に開始した。
《うっ! ……あ……っ……んっ!》
無線越しに聞こえていた啜り泣きが止む。
「
《……はい。大丈夫です》
じっと佇んでいたウィッテ少尉の
《
整備の関係で出撃が遅れていたカチューシャ二二/オクサナ・イヴァネンコ中尉ら後衛の三機が合流する。
これで第二中隊は全員が集結したことになる。
「部隊を再編成する。
《 《 《了解》 》 》
補給を終えた六機の
戦域マップを見るにものの十数分でBETAはシェレホフへと到達するだろう。
そんな時、ヴァジエフ大尉に秘匿通信が繋がった。
《こちらはイスカンデル三一、カチューシャ聞こえるか?》
通信の相手は
「よく聞こえるよ、イスカンデル三一」
《おお、そいつは良かった。俺達はあんたらの左、マルコヴァに展開してる。何かあったら頼ってくれと言いたいんだが……、生憎俺達は実戦経験の殆どが遠距離から
「…………なるほど」
彼らが装備する
本来この様な近接格闘戦が想定される前線防衛に駆り出す機体ではない。が、それ程までに司令部が切羽詰まっているという事の裏返しでもあった。
《それに、プラーツクとウラン・ウデから援軍が来るそうだ。当てにするならそっちにしてくれ》
「わかった。こちらも機数が少ない、自分正面で手一杯になりそうだ。…………と、来たみたいだ」
《こちらも確認した。幸運を祈ってるぜ!》
「そちらもな」
タイガ地帯を突き進むBETAの赤い波を
後方から飛来した
着弾したロケット弾が
「射撃始めッ!」
ヴァジエフ大尉以下の前衛が一斉に突撃砲の射撃を開始する。
三六ミリ劣化ウラン弾の直撃を受けた
しかし、正規の前衛装備では無い
イヴァネンコ中尉ら後衛が一五二ミリ打撃支援砲からキャニスター弾を発射する。
発射されたキャニスター弾は
恐怖を感じない、いや感情という概念が存在しないBETAは同種の死に臆することなく、その屍を乗り越えて前進を続ける。
烈火の如き攻撃を繰り出す
「
押し寄せる
シェレホフの市街地では浸透を試みる
《カチューシャマムより各機! これより
ブガエヴァ中尉の報告と同時に戦域マップ上に着弾予測範囲が表示される。ヴァジエフ大尉は中隊が範囲外にいるのを確認すると、正面の敵に向き直った。
《こちら、ホースト〇一。これより攻撃コースに進入する! 経路上の友軍は注意せよ》
四機の
攻撃目標の踏み荒らされた大地を進むBETA群を照準器に捉える。
《攻撃か──────照射警報!? 散開! 回避し────ー》
忌々しい青い光線が空を貫く。
四機の
「カチューシャマム、照射地点を特定しろ! データは
《は、はい! 今すぐ……ッ!》
長く戦場に身を置く衛士達は、重く伸し掛かる様な圧力を空からは感じていた。まるで頭上に蓋をされた様な感覚である。
不用意な跳躍は死を招く。
正面から迫りくるBETAを鏖殺する手は休めず、
《特定しました! 位置情報転送します!》
転送されてきた位置情報を射撃諸元として入力。
後衛三機の
甲高い飛翔音を轟かせながら飛ぶ一二二ミリロケット弾は
矢継ぎ早に撃ち出される本照射を受けたロケット弾が空中で爆散し、数を減らしながら
《
ブガエヴァ中尉の報告を聞いてイヴァネンコ中尉はふぅと一息ついた。その瞬間、接近警報が網膜に投影される。
警報に従って左を向けば
《左より
一拍遅れてブガエヴァ中尉から警告がくる。
イヴァネンコ中尉はすかさず一五二ミリ打撃支援砲を
「左だと!?」
ヴァジエフ大尉は後衛第三小隊が応戦を始めるのを確認しながらマルコヴァに展開する第六一戦術機甲連隊 第三大隊 第三中隊を無線で呼び出す。
「イスカンデル三一! イスカンデル三一!
相手からの返事がない。
ヴァジエフ大尉は戦域マップを見て舌打ちした。
戦域マップ上の
「第三小隊は左翼のBETAを抑えろ!」
《了解!》
中隊は半円状の不格好な
しかし、
押し寄せるBETAの群れに終わりは見えない。
多方面に火力を割かざるおえない彼らは、眼の前に迫るBETAを処理するのに一杯一杯であり、倒れるBETAの死骸は着実に近づきつつあった。
シェレホフの東を走るシベリア鉄道を
BTR-70が砲塔を回して十四・五ミリ重機関銃を放つが、重機関銃を浴びながら接近した
その脇に展開した歩兵達が狂ったように叫びながら手に持ったAK-74を
歩兵を潰した
建物の影から歩兵がRPG-7で
恐れをなした兵士が武器を放り捨てて逃げ出すも、あっという間追いつかれ
歩兵陣地を蹂躙した
《この……、くそ! 何時になったら増援はくるの!?》
「もうすぐのはず────ッ!」
弾倉交換の隙をついた
ヴァジエフ大尉は機体の前腕を前に出し、その外縁に取り付けられたブレードベーンで
一二〇ミリ弾の直撃を受けた
「全機
射撃の手を緩めることなく後方へ滑る様に跳躍し、BETAとの物理的な距離を取る。
《え!? なっ!?》
「
後衛第三小隊が跳躍した先の工場内から外壁を突き破って
イヴァネンコ中尉は一五二ミリ打撃支援砲を投げ捨てながら反転すると背部ガンマウントから突撃砲を取り出し迎撃する。
しかし、彼女の僚機達はそうは行かなかった。
カチューシャ二一一/マルティン・ガゼーエフ少尉、カチューシャ二一二/ヴァルラム・プィリネフ少尉の機体はあっという間組み付かれて押し倒される。
《このッ!》
イヴァネンコ中尉は二人を助けようにも自機に向かってくるのを処理するだけで手一杯であった。
《た、たたたた助けて下さいィ! イヴァネンコ中尉! 助けてッ! ひッ!? 嘘、もう!? 嫌だァアアアア────げぴぎょお゛お゛ッ》
《────ッ!》
イヴァネンコ中尉は主脚歩行で後退しながら突撃砲で
《数が……多い……ッ! きゃああああッ!!》
倒れた
左主脚が引き千切られ、
イヴァネンコ中尉もやられっぱなしではない。倒れながらも主腕を振るい、ブレードベーンで
それも、
「────オクサナッ!!」
イヴァネンコ中尉救出の為、ヴァジエフ大尉は強引に
《
ゲラーシェンコ少尉が援護しようとするが詰め寄ってきた
《オレク…………助け──────》
ヴァジエフ大尉の進路を阻む様に
マガジン内の弾数は残り僅か。このままでは
警告音と共に弾が切れた。攻撃が止んだのを好機とみた
そこへ上空から
背中から穴だらけになった
《こちらヴィフーリ一一。救援にきた》
ヴァジエフ大尉を救ったのはバイカル湖東岸一体を作戦範囲とする第二バイカル方面軍所属、第一一五戦術機甲連隊 第一大隊『ヴィフーリ』の
ヴァジエフ大尉ら
頭上を砲弾が通り過ぎて行く。第八親衛軍の砲兵部隊による砲撃であった。
《………………助かったの?》
弾切れ寸前の突撃砲を構えたままウィッテ少尉は呟いた。
《シェレホフ近郊のBETA殲滅を確認。スリュジャンカ方面に対し第十七親衛戦車師団が攻勢を開始しています。…………回収車両を送ります。残存機は現在位置で待機をお願いします》
イルクーツク基地を狙ったと思われるBETAの地中侵攻は、増援部隊の到着によって一気に終息へと向かっていた。
ウィッテ少尉の視界の端で身を屈めた
管制ユニットのハッチが開き、中から衛士が飛び出す。
《ち、
周辺のBETAを駆逐したとはいえ、戦術機のセンサーでは補足しづらい小型種が潜伏している可能性があった。
「オクサナ!」
ヴァジエフ大尉は
装甲にべったりとついたBETAの体液など気にせず機体をよじ登る。彼は恋人の安否が一刻も早く知りたかった。
たどり着いた先、管制ユニットを保護する胸部装甲がハッチごと剥ぎ取られていた。
ヴァジエフ大尉は剥き出しになった管制ユニットの中を恐る恐る覗き込んだ。
「…………ッ!?」
そこにイヴァネンコ中尉の姿はない。
身体を起こして周囲を見渡す。
雲の隙間から射し込んだ日光で何かがキラリと反射した。
「あ、ああ……あ゛あ゛ッ」
イヴァネンコ中尉の薄い金髪が光を浴びて反射する。彼女は道路に倒れていた。
「ゔゔゔゔ、あァアアアア!」
虚ろな瞳で空を見上げ、物言わぬ肉塊へと変わり果てたイヴァネンコ中尉を抱きしめながらヴァジエフ大尉は慟哭した。
そんなヴァジエフ大尉に同じ様に機体を降りたウィッテ少尉が、涙を浮かべながら近づく。そして、泣き叫ぶヴァジエフ大尉の頭を抱え込む様に自らの胸元へと抱きしめた。
地中侵攻という不測事態こそあったもののアンガラ川防衛線へと向かっていたBETA第三梯団の殲滅は順調であった。
「最終手段は使わず済んだようだ……」
「最終手段……ああ、核ですか」
第一バイカル方面軍軍司令官ルカ・スヴィーニン上級大将の呟きに、参謀長のヴィクトル・モロゾフ大将が反応する。
「しかし、想定よりも被害が深刻ですな」
「弾薬消耗もな、メシコフが頭を抱えとる。とはいえ、これで半年近くは攻勢はないだろう。その間に態勢を整えねば……」
スヴィーニン上級大将の予測は外れ、これより三ヶ月後にアンガラ川防衛線は突破されることになる。