Muv-Luv Tactical Surface Fighter Variation   作:オデ オマエ マルカジリ(CV:戦車級)

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【イカロス】前編

 

 

 

 伝説的な大工ダイダロスの息子イカロスは、王の不興を買い、父共々迷宮へと幽閉される。

 彼らは蜜蝋で鳥の羽根を固めて翼をつくり、空を飛んで脱出した。

 父ダイダロスはイカロスに「蝋が湿気でバラバラにならないように海面に近付きすぎてはいけない。それに加え、蝋が熱で溶けてしまうので太陽にも近付いてはいけない」と忠告した。

 しかし、自由自在に空を飛べるイカロスは自らを過信し、太陽にも到達できるという傲慢さから太陽に向かって飛んでいった。その結果、太陽の熱で蝋を溶かされ墜落死した。

 

ギリシャ神話

 

 

 

 一九九一年、東欧州社会主義同盟と欧州連合の軍はブリテン島中西部リヴァプールに居た。

 彼らが欧州の地をBETAによって追い出されてより四年、東欧の国によっては祖国を失って八年以上経つものもいる。

 そんな彼らがここへ集まったのは、待望の欧州奪還────ではなく、国連大西洋方面第一軍によるH.12 リヨンハイヴに対する定期的な間引き作戦の為であった。

 BETA個体数の漸減を目的とした間引き作戦はBETAの大規模侵攻を阻止し、欧州最後の砦ブリテン島、アイルランド島を護るために重要な任務である。

 この大西洋方面第一軍主導で行われている間引き作戦は、各国持ち回りで実施され今回は東西ドイツ、ポーランド、ルーマニア、スペイン、ギリシャの六カ国が参加することになっていた。

 作戦参加部隊はリヴァプールに集結。戦術機母艦に搭載され、国連大西洋方面第四艦隊と共に出撃することになっている。

 リヴァプールの港湾部では昼夜を問わず作戦部隊や弾薬、機材の積み込みが行われていた。

 トランスポーターから起こされたスペイン陸軍のF-18(ホーネット)がガントリークレーンに吊り上げられて、停泊中の同海軍所属イオー・ジマ級戦術機揚陸艦『バルセロナ』に載せられる。

 その隣ではポーランド人民軍のBM-21(グラート)がロプーチャ級揚陸艦『ポズナニ』へと自走で運び込まれている。

 同様の光景が各所で見られた。

 

 国家人民軍(東ドイツ軍)に割り当てられた沿岸部の大型格納庫には東ドイツから作戦に参加する第一戦術機甲大隊『ヴァイスへクセ』の戦術機が並んでいた。

 東ドイツ最強の戦術機部隊である第一戦術機甲大隊(ヴァイスへクセ)は四〇機の定数を満たして作戦に参加する。

 しかし、四〇機もの戦術機を一つの格納庫に納める事はできず、一部は西ドイツと共用で格納庫を使用していた。

 その一部、右肩部装甲ブロックに国家人民軍のラウンデル、左肩に第六六六戦術機中隊『シュヴァルツェスマーケン』の部隊章が描かれた十二機のMiG-21 MFNは、乗艦になる東ドイツ人民海軍商船(タンカー)改造戦術機母艦『ファーレンス』、『フォルカー』への積載を格納庫で待っていた。

 第六六六戦術機中隊(シュヴァルツェスマーケン)は一九八三年のクーデター以前から精鋭として畏怖される部隊であり、それは国土を失った現在も変わっていなかった。

 中隊を率いるのはアネット・ホーゼンフェルト大尉。彼女はクーデター以前から中隊に所属する唯一の人物であった。

 軍服姿の彼女はホーバーホールと整備を終え、塗装まで新しくされて作戦に望む、愛機のMiG-21 MFN(ノイエ・バラライカ)を見上げていた。

 その隣に並ぶ大隊本部小隊のMiG-31M(フォックスハウンド)へと目線を移す。

 東ドイツでも先行量産が始まったばかりの新型機で、運用されているのは極々少数の非常に貴重な機体であった。

 MiG-21 MFN(ノイエ・バラライカ)よりも大型ではあるがその機動力、運動性能は比べ物にならない。

 更にこの機体は、大隊指揮官機用の指揮管制型として通信装置や各種探知装置が大幅に強化されている。

 

「これが新型ね」

 

 噂に聞く新型に歴戦の衛士であるホーゼンフェルト大尉が興味を惹かれるように、MiG-31M(フォックスハウンド)の側には他の衛士達も新型を一目見ようと集まっていた。

 第六六六戦術機中隊(シュヴァルツェスマーケン)の衛士も例外ではなく、新米衛士のコンラディン・バッハ少尉からベテランのイザベラ・ボーデンヴィッツ少尉まで多くが集まっていた。

 

「すっげえ!! 見ろよシャーリー! くぅ〜俺も早く乗りたいぜ! こいつがあればBETAなんてイチコロだ!」

「コニー! ちょっと、声が大きいってば!」

MiG-21(バラライカ)より随分大きいな……」

「その分稼働時間が長いようですよ」

AIM-54(フェニックス)が使えますのよね? あれには随分助けられたので、期待できますわ」

 

 はしゃぐ少年衛士から、外見を観察する者まで思い思いの感想を話し合っていた。

 

「盛況だな」

 

 ホーゼンフェルト大尉は横に並び立った人物へと目を向け驚いた後、嬉色の声をあげた。

 

「同志中佐!」

「久しぶりだな、アネット」

 

 グレーテル・イェッケルン中佐。元第六六六戦術機中隊(シュヴァルツェスマーケン)所属の衛士である。

 政治将校であった彼女は一九八三年のクーデターで負傷。そのまま中隊を離れて、正規の上級将校課程を経て部隊指揮官として出世していた。

 

「どうして、こんな所に?」

 

 再開を喜びながら、生じた疑問を投げかける。

 ホーゼンフェルト大尉もイェッケルン中佐が中央で敏腕を振るっている噂は耳にしていた。

 

「アネット……。命令を見てないのか? 先日大隊長に着任したと命令書が回っただろう」

「あー、そんな物もあったような……。ってことは同志中佐が第一戦術機甲大隊(ヴァイスヘクセ)の大隊長になったんですか!? やった!」

「そうだ。これからよろしく頼むぞ。アネット」

「はい!」

 

 数少ないかつての戦友との思わぬ再開に喜ぶホーゼンフェルト大尉。

 部下の前では冷静な姿を心がけていただけに、その珍しい姿を部下達がチラチラと見ていた。

 イェッケルン中佐は並ぶMiG-21 MFN(ノイエ・バラライカ)MiG-31M(フォックスハウンド)とその周りに集まる衛士達を一別する。

 

「……人気だな、新型は」

「待ちに待った第二世代機ですから!」

 

 MiG-23(チボラシュカ)MiG-27(アリゲートル)等、東側にも第二世代戦術機はもちろん存在している。しかし、その性能は西側のそれには劣っている状況が長く続いていた。

 MiG-31M(フォックスハウンド)の原型であるMiG-31(ブラーミャリサ)は、前線の衛士が待望した本格的な第二世代戦術機であり、その噂は海を越えて東欧州社会主義同盟にも届いていた。

 

「……本来ならこの作戦までに、貴様達の分まで用意する筈だったんだが……。戻ってからになりそうだ」

「同志中佐、それって……」

「正式な命令は後日出るだろうが……。六六六中隊はこの作戦終了後に、機種転換訓練を受ける事になる手筈だ」

「そっか、じゃあMiG-21 MFN(このコ)ともお別れなんですね」

 

 ホーゼンフェルト大尉は改めて愛機を見つめた。

 塗装こそ新しくなっているが、僅かなキズや凹みはそのまま塗装の下に残っている。

 

「…………嬉しく無さそうだな」

「嬉しいですよ。ただ、このコも長いですから……。いい機体ですよ、MiG-21 MFN(ノイエ・バラライカ)は」

「……そうか」

「ええ」

 

 二人は揃って歴戦のMiG-21 MFN(ノイエ・バラライカ)を見上げた。

 

「さて、私はそろそろ行く。また二人きりで話そう、アネット」

 

 歩き去る彼女の後ろ姿をホーゼンフェルト大尉は敬礼で見送る。

 そろそろ自分も引き上げるかと考えていると、格納庫の一角が何やら騒がしくなっていることに気がついた。

 

「もう一回言ってみろよッ!!」

「あら、聞こえなかったのかしら? なら何度でも言ってあげるわ。東ドイツ最強とか言う割に機体は古臭い第一世代機だなんて、東ドイツ最強も程度がしれてるわね、って言ったのよ?」

 

 意向の異なる二種類の軍服姿の少年少女が顔を突き合わせている。

 揉めているのは東ドイツと西ドイツの衛士達だ。残念なことに一方の当事者はホーゼンフェルト大尉の部下達である。

 西ドイツの高飛車な少女衛士を睨みつけるバッハ少尉。彼は今にも相手に殴りかかりそうだった。

 

「西側に寄生しないと生きていけない負け犬国家の分際で何か文句があるのかしら?」

「お前らこそアメリカのお下がり使ってるだけじゃねぇか! このアメリカの犬が!」

「コニー、やめなって!」

 

 食って掛かるバッハ少尉を止めるのは彼の同期に当たるシャルロッテ・リンゲ少尉だ。ヘルミーナ・ハイゼ少尉もそれを手伝っている。

 

「ク、クリスちゃん。もうやめようよぉ……」

 

 同じ様に西ドイツ側でも高飛車な衛士クリスティーナ・グンデルフィンゲン少尉を大人しそうな少女衛士ゾフィー・ファウルシュティヒ少尉がおろおろしながらなだめていた。

 

「ゾフィーは黙ってなさい。……貴方達の隊長、エース何ですって? それなのに旧世代機しか任せられないなんて。やっぱり東は噓ば────」

 

 バッハ少尉の襟首を掴んで抑えていたハイゼ少尉がグンデルフィンゲン少尉の右頬に拳を叩き込み強制的に黙らせる。

 突然の行為に場がシンッと静まりかえり、全員が下手人であるハイゼ少尉を驚きの目で見ていた。

 

「……中隊長を馬鹿にするな」

 

 殴られたグンデルフィンゲン少尉は仰け反り、数歩後ずさると、体勢を立て直して自身を殴りつけた人物に飛びかかろうとした。

 

「このッ!!」

「クリスちゃんストップ! ストップッ!!」

「ッ! 離しなさいゾフィー!! この女に思い知らせてやるわ!」

「……かかってこい」

 

 羽交い締めにされて暴れるグンデルフィンゲン少尉にファイティングポーズをとるハイゼ少尉。

 その一部始終を見ていたホーゼンフェルト大尉はやれやれと首を振って事態を治めるべく歩き出した。

 揉めるハイゼ少尉達の後ろでおろおろしている出撃数二桁になる中堅衛士ルイーゼ・ライヒテンシュタイン少尉の脇を通り過ぎ、未だファイティングポーズを崩さないハイゼ少尉の肩に手を置いた。

 

「「その辺にしときなさい」」

 

 奇しくも西ドイツ側から出てきた上官と思わしき人物と台詞が被る。

 

「ホーゼンフェルト大尉」

「シュタインホフ大尉……ッ!」

「「……ん?」」

 

 揉めていた衛士達はそれぞれの上官の出現に首を竦める。

 が、二人の大尉は呼ばれた名を聞いて顔を見合わせた。

 

「……誰かと思えば貴女だったの」

「こっちの台詞よ」

 

 ホーゼンフェルト大尉の前に現れたのは何度も顔を突き合せた相手、ドイツ連邦(西ドイツ)陸軍 第五一戦術機甲大隊『フッケバイン』のキルケ・シュタインホフ大尉がそこにいた。

 

「まーだ、死んでなかったんだ。ケツ女」

「それこそ、こっちの台詞よ。猪女」

 

 両者は部下の仲裁も忘れて互いに眼を飛ばし合う。

 

「私の部下が随分お世話になったようね」

「そっちが先に言い掛かりをつけてきたんじゃない! 部下の躾くらいしときなさいよね」

「あら、手を出したのはそちらが先じゃなくて? 部下のケツを拭くのが上官の役割よ。ホーゼンフェルト“大尉”」

「相変わらず、ケツケツうるさいわね! 誰の真似をしてるんだか」

「そっちこそ、中隊長になったら髪なんか伸ばして……。誰を意識してるか丸分かりよ?」

 

 互いに毒を吐く二人だったが、その口元には僅かに笑みが浮かんでいた。

 上官二人の言い争いに、周囲の部下達はついて行けずに困惑していた。

 

「すいません。うちのシュタインホフが……」

 

 その光景を少し離れた所で、西側と協議をしていたイェッケルン中佐も見ていた。

 協議の相手、第五一戦術機甲大隊(フッケバイン)の指揮官アンネローゼ・シェルマン少佐が頭を下げてくるのを片手で制した。

 

「いえ、何時ものことですよ。あの二人は」

「中佐殿はシュタインホフをご存知で?」

「ええ、海王星(ネプチューン)からの戦友です」

 

そう言ってイェッケルン中佐は微笑んだ。

 

 

 

 H.12 リヨンハイヴに対する間引き作戦は計画通り実行された。

 リヴァプールを出港した作戦部隊は、洋上にてベルファストを進発した第四艦隊と合流。ケルト海、ビスケー湾を経て作戦地域であるフランス、旧ラ・ロシェル沖合に展開した。

 今回の間引き作戦の作戦地域に旧ラ・ロシェルが選ばれたのにはいくつか理由はあるが、決定的となった事項は二つ。

 一つは旧ラ・ロシェルの港湾施設がまだ残っており、部隊の揚陸と展開が容易であること。もう一つは周辺の地形がまだ残っており、防御が容易であることである。

 

 作戦はまず、潜水艦による沿岸部の偵察から始まった。

 複合センサーを兼ね備えた潜望鏡が音もなく海面へと顔を出し、沿岸部を隈なく偵察。徘徊するBETA集団の位置を艦隊へと伝達する。

 イギリス、フランス、イタリア以外の欧州海軍で構成された第四艦隊による艦砲射撃が実施された。

 定石通りまずは対レーザー弾頭の射撃から始まった。

 ドイツ連邦(西ドイツ)海軍の戦艦『シャルンホルスト*1』の三連装四〇.六センチ砲九門が火を吹き、第四艦隊は左舷砲撃戦を開始する。

 発射された対レーザー弾頭は人類の想定通り空中で光線(レーザー)級に迎撃された。撃墜された対レーザー弾頭は空中に重金属雲を形成すると共に、光線(レーザー)級の照射によって生じた膨大な熱量よる上昇気流により、光線属種積乱雲(レーザークラウド)が発生する。

 潜水艦が観測した、光線属種積乱雲(レーザークラウド)によって特定された光線(レーザー)級の位置情報は、直ちに艦隊に伝達され光線(レーザー)級排除の為の砲撃が実行される。

 重金属雲を抜けて飛来する砲弾の雨。向かう先は十数体の光線(レーザー)級の群れ。

 光線(レーザー)級の双眸がそれを捉えると狙いを定める予備照射から破壊的な熱量を持った本照射へと移行し、瞬く間に個体数と同じ数だけの砲弾を撃墜した。

 しかし、砲弾は光線(レーザー)級の数を上回る。

 次の照射に移るまでの十二秒間、光線(レーザー)級は逃げることも隠れることもせず、そのつぶらな瞳に迫りくる砲弾を映したまま砲弾の雨に飲まれ、土砂と共に肉片となって舞い上がった。

 艦隊が光線(レーザー)級を撃破するのと前後してスペイン海兵隊 海兵戦術機甲連隊『テルシオ・デ・アルマダ』所属のA-6(イントルーダー)一個中隊がラ・ロシェル南側海岸旧ヘスリュに強襲上陸。

 戦術機の高性能CPUに反応して向かってきた中隊規模の戦車(タンク)級と要撃(グラップラー)級の群れを薙ぎ倒して橋頭堡を確保する。

 同時に同海兵隊所属の海兵歩兵旅団が橋頭堡とレ島に上陸。旧ラ・ロシェル一帯の占領を開始し、スペイン陸軍 第七戦術機甲大隊『マタドール』がそれを支援する。

 スペイン軍は予定通り旧ラ・ロシェル港とその一帯を確保した。

 

 旧ラ・ロシェル市街に残存する小型種の掃討をスペイン軍に任せ、作戦部隊は旧ラ・ロシェル港に部隊を続々と揚陸させつつ、周辺の地域の確保を並行して実施した。

 旧ラ・ロシェル港に揚陸した東欧州社会主義同盟軍機甲部隊は旧ラ・ロシェルから内陸に約三五キロの旧シュルジェールまで進出。ポーランド人民軍の第四自動車化狙撃兵師団と第一二自走ロケット砲兵連隊の自走ロケット砲や自走砲が陣地を構築し、その前方に同師団のT-72と国家人民軍(東ドイツ軍) ゲッツ・フォン・ベルリヒンゲン装甲師団のT-72やT-62Mが肩を並べて展開していた。

 旧ラ・ロシェルと旧シュルジェールを結ぶ補給路はルーマニア人民軍 第八自動車化狙撃兵師団が警備についている。

 間引き作戦に参加する西側諸国はスペインを除いて、地上部隊は戦術機甲部隊のみが参加していた。西ドイツから二個戦術機甲大隊、ギリシャから一個戦術機甲大隊である。

 彼らは戦術機の機動力を活かし、遅滞戦闘を繰り返しながらBETA群をキルゾーンまで誘引、東欧州社会主義同盟軍の砲火力による面制圧後の残敵掃討を担っていた。

 低軌道衛星による事前偵察で旧シェルジュールから東に約一〇〇キロの旧ポワティエに有力なBETA集団の存在が確認されていた。

 推定規模一個師団、約二万のBETA群。

 ここからが本格的な間引き作戦の開始である。

*1
元USSノースカロライナ。西ドイツが購入、改装した。

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