Muv-Luv Tactical Surface Fighter Variation   作:オデ オマエ マルカジリ(CV:戦車級)

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【イカロス】後編

 

 

 

 砂塵を巻き上げ楔参型隊形(アローヘッド・スリー)を組んだMiG-21 MFN(ノイエ・バラライカ)が匍匐飛行で荒野を疾走する。

 上空を幾筋もの光条が伸びては消えた。

 国家人民軍(東ドイツ軍) 第一戦術機甲大隊(ヴァイスヘクセ)に属する第六六六戦術機中隊(シュヴァルツェスマーケン)は第五〇一戦術機中隊と共に旧アングレームに現れた旅団規模のBETA梯団に対して光線級吶喊(レーザーヤークト)を敢行することになっていた。

 精鋭部隊の一員である彼、彼女達は光線級吶喊(レーザーヤークト)の難しさを理解している。更に半数近くの隊員が初の光線級吶喊(レーザーヤークト)でもあった。

 緊張した雰囲気。強張った面持ちで操縦桿を強く握る衛士達。

 

(このままは良くない)

 

 第六六六戦術機中隊(シュヴァルツェスマーケン)中隊長アネット・ホーゼンフェルト大尉は部下達の緊張を嗅ぎ取っていた。

 

《…………こんな話を知っていまして?》

 

 ホーゼンフェルト大尉が緊張をほぐす方法を思案していると、中衛第二小隊を率いるシュヴァルツ〇三/マルガレーテ・ヘンティヒ中尉がオープンチャンネルで話し始めた。

 

《国連が世界中の料理人を集めて秘密の実験をしましたの。……内容はBETAの肉を美味しく食べる方法》

《うぇぇ……》

 

 硫黄の香りと紫の体液滴る戦車(タンク)級のミンチ……。

 想像してまったのか誰かの呻きが無線にのる。ヘンティヒ中尉は気にすることなくを続けた。

 

《集まった料理人達に肉を出しました。もちろん何の肉かは伝えませんでしたわ。料理人達は謎の肉を味を確かめる事にしました。フランス人の料理人は臭いを嗅いで気絶しました。イタリア人の料理人は一口食べてトイレへ行きました。最後に残ったイギリス人の料理人はこう言いましたわ。「おかわりはあるかい?」って》

 

 ヘンティヒ中尉のジョークに笑い声が響く。

 

《どーりで、イギリスの合成食料は群を抜いて不味い訳だ!》

 

 何処か納得したようにシュヴァルツ〇八/イザベラ・ボーデンヴィッツ少尉が笑いながら言った。

 中隊に蔓延していた緊張の雰囲気はすっかり吹き飛んでいた。

 

《前方、戦車(タンク)級と要撃(グラップラー)級の集団を確認です!》

 

 ホーゼンフェルト大尉の僚機を務める突撃前衛(ストーム・バンガード)、シュヴァルツ〇九/ルイーゼ・ライヒテンシュタイン少尉が蠢くBETA中衛集団を捉えた。

 ホーゼンフェルト大尉は自身が尊敬する中隊長、故アイリスディーナ・ベルンハルト大尉の様に凛とした雰囲気と鋭い口調を意識して口を開く。

 

「総員傾注! 我々はこれよりBETA集団に吶喊する。必要以上に殺す必要は無い。無駄な射撃は慎み、弾薬の節用に努めろ! ……ブリテンで待ってるイギリス人に光線(レーザー)級の肉を持って帰るわよ!」

《ははッ! 奴ら泣いて喜びますぜ、姐さん!》

光線(レーザー)級の肉なら最高級グルメになりそうだ!》

 

 シュヴァルツ一〇/クラウス・ハッハベルク少尉が突撃砲の残弾を確認しながら、軽口を叩く。

 それに合わせるようにボーデンヴィッツ少尉も軽口を言う。

 

《貴様ら、通信は記録に残るんだぞ! いい加減軽口を止めろ! 国家と党の威信に傷がつく!》

《やれやれ、政治将校殿はお固いこって》

《そんなんじゃ長生き出来ませんよ》

《き、貴様らッ!!》

 

 負傷して後方送りになった政治将校の後任として着隊したシュヴァルツ〇六/クルト・ヴァルトゼー中尉が咎めるが逆にからかわれる結果になった。

 

「その辺にしておけ。……突っ込むぞ!」

《 《 《了解!》 》 》

 

 十二機のMiG-21 MFN(ノイエ・バラライカ)が匍匐飛行から噴射地表面滑走へと機動を変え、BETAの集団へと突入していく。

 ホーゼンフェルト大尉が率いる第一小隊(前衛)が進路上の障害となるBETAを必要最小限排除し、後続も自機や僚機の脅威となるBETAのみ排除する。

 戦術機に反応して向かってくる要撃(グラップラー)級の一撃を機動で回避し、蠢く闘士(ウォーリア)級の頭上を飛び越え、飛びついてくる戦車(タンク)級を三六ミリで撃ち抜く。

 大隊規模のBETA群を突破すると、すぐに突撃(デストロイヤー)級の小集団が突進してきた。

 

「散開してすり抜けろ!」

 

 陣形を解いて、各個に突撃(デストロイヤー)級の間隙をすり抜ける。

 

《くッ!》

 

 しかし全員が上手く抜けられた訳では無かった。

 シュヴァルツ〇五/ローゼマリー・ホフマン少尉は迫りくる突撃(デストロイヤー)級を噴射跳躍で回避する。

 

ホフマン少尉(シュヴァルツ〇五)高く跳び過ぎだ!!》

 

 後衛の打撃支援(ラッシュ・ガード)である彼女の上官、第三小隊長シュヴァルツ〇二/ルドルフ・ミュラー中尉が警告するが遅かった。

 BETAの領域である空を犯した愚かなイカロスの運命はたった一つ。

 必死に機体を降下させようとするホフマン少尉の網膜に投影される『レーザー照射警報』と耳朶を打つけたたましい警報音。

 MiG-21 MFN(ノイエ・バラライカ)の管制ユニットを捉える無慈悲な予備照射が、破壊的なプラズマの奔流となって管制ユニットごとホフマン少尉を貫いた。

 悲鳴を上げる間もなく一瞬で散華し、胴体を失った機体は燃料に引火して爆散する。

 重光線(レーザー)級の一撃による被害はそれだけに留まら無かった。

 プラズマの衝撃波でバランスを崩したヴァルトゼー中尉の機体を要撃(グラップラー)級の剛腕が襲う。必死の回避運動もむなしく、要撃(グラップラー)級の前肢がMiG-21 MFN(ノイエ・バラライカ)の跳躍ユニットを抉り取る。

 完全に制御を失ったMiG-21 MFN(ノイエ・バラライカ)は墜落し戦車(タンク)級の波へとのまれていった。

 瞬く間に二人を失ったがその足を止めることなく第六六六戦術機中隊(シュヴァルツェスマーケン)は突き進む。

 

 BETA梯団は完全に一個の群になっているわけではない。個体種類や集団ごとに移動速度はバラバラであり、梯団内は大小様々な集団が動いている。

 第六六六戦術機中隊(シュヴァルツェスマーケン)一〇機のMiG-21 MFN(ノイエ・バラライカ)は、小隊規模の戦車(タンク)級を塵殺し、闘士(ウォーリア)級を轢き潰す。

 集団と集団の狭間、BETAのいない地を確保し息をつく。

 

第五〇一戦術機中隊長(ティーガーリーダー)よりCP! 我、光線(レーザー)級を発見、交戦する!》

《CPより第五〇一戦術機中隊長(ティーガーリーダー)。重光線(レーザー)級は確認できるか?》

《ネガティブ!!》

 

 強化された通信装備により第五〇一戦術機中隊の交戦報告がくる。

 確認された二つの光線属種積乱雲(レーザークラウド)の一つに重光線(レーザー)級はいない。

 

「間もなく重光線(レーザー)級と接触する。総員気合をいれろ。跳躍開始!」

 

 ホーゼンフェルト大尉を先頭にMiG-21 MFN(ノイエ・バラライカ)は再び噴射地表面滑走で移動を開始する。

 

《…………見つけた。一〇時方向、重光線(レーザー)級》

 

 ホーゼンフェルト大尉の脇を固める強襲前衛(ストライク・バンガード)シュヴァルツ一二/ヘルミーナ・ハイゼ少尉が重光線(レーザー)級の群れを発見した。その数二一体。

 

《姐さん、護衛を連れてやがる!》

 

 ハッハベルク少尉が警告する通り、重光線(レーザー)級の群れの側には他種のBETAが蠢いていた。

 

要塞(フォート)級まで!?》

《ビビるなシャーリー!》

 

 後衛集団を形成する重光線(レーザー)級と同じく後衛を形成する要塞(フォート)級の姿を見つけたシュヴァルツ〇七/シャルロッテ・リンゲ少尉が悲鳴じみた声をあげ、同期のシュヴァルツ〇四/コンラディン・バッハ少尉が励ます。

 二人は経験が浅く光線級吶喊(レーザーヤークト)も初めてであった。

 

「お待ちかねの狩りの時間だ! BETAの屑共を狩り尽くせ!」

 

 DS-3多目的追加装甲(シュルツェン)と突撃砲を構えホーゼンフェルト大尉は側面を晒す重光線(レーザー)級へと吶喊する。前衛はそれに続く。

 

《重光線(レーザー)級に三六ミリは効果が薄いですわ! 一二〇ミリを使いなさい!》

《シュヴァルツ一一、中隊支援砲の出番だ。存分に暴れろ!》

 

 中衛、後衛も各小隊長の指示に従い攻撃を開始する。

 

《重たいもん背負ってきたかいがあったぜ!》

 

 シュヴァルツ一一/ヨーゼフ・クレットガウ少尉は突撃砲を格納すると、兵装担架システムに背負ったラインメイタルMk57中隊支援砲を構え、護衛の戦車(タンク)級や要撃(グラップラー)級に五七ミリ弾を叩き込んでゆく。

 遠方のロケット弾を照射していた重光線(レーザー)級も、向かってくる第六六六戦術機中隊(シュヴァルツェスマーケン)に正対し予備照射を開始、そこへ照射粘膜に一二〇ミリ弾が命中する。

 弱点である柔らかい照射粘膜を突き破った一二〇ミリ砲弾が内部で炸裂。内側から弾け飛んだ重光線(レーザー)級が肉片と体液を撒き散らして大地に伏した。

 前衛は要塞(フォート)級を盾として重光線(レーザー)級の照射を阻みながら接近。鞭の様な要塞(フォート)級の衝角を回避して突撃前衛(ストームバンガード)のホーゼンフェルト大尉とライヒテンシュタイン少尉が重光線(レーザー)級に至近距離から一二〇ミリを叩き込む。

 二人を援護するように強襲前衛(ストライク・バンガード)のハッハベルク少尉とハイゼ少尉が要塞(フォート)級の胴体接合部を集中攻撃し、絶命させて追走する。

 第六六六戦術機中隊(シュヴァルツェスマーケン)は瞬く間に八体の重光線(レーザー)級を撃破する。

 

《残り十三!》

 

 動作緩慢な重光線(レーザー)級は強固な保護膜を閉じて照射粘膜を守り、攻撃に耐える。

 護衛についていたBETA群は要塞(フォート)級を除きその殆どが撃破されたが、先行していた戦車(タンク)級や要撃(グラップラー)級が反転して戻ってきていた。

 後衛三機のMiG-21 MFN(ノイエ・バラライカ)が増援を迎撃する。

 重光線(レーザー)級が攻撃の為に保護膜を開くが、要塞(フォート)級を盾にするMiG-21 MFN(ノイエ・バラライカ)を照射できずに立ち往生した。

 

《喰らえッ!》

 

 その隙をリンゲ少尉の放った一二〇ミリが捉え、重光線(レーザー)級は沈黙した。

 

《やった!!》

 

 初の重光線(レーザー)級撃破に歓喜の声を漏らす。

 要塞(フォート)級の陰から飛び出したハイゼ少尉は七七式近接戦用長刀を重光線(レーザー)級に突き立てる。

 重光線(レーザー)級はそれでも絶命に至らない。突き立てた長刀で強引に斬り裂いてゆく。

 重光線(レーザー)級にとどめを刺す為に動きの止まったハイゼ少尉を要塞(フォート)級が狙う。が、要塞(フォート)級は背中に跳び乗った僚機のハッハベルク少尉が頭部に一二〇ミリを複数発撃ち込んで撃破する。

 懐に入り込まれた重光線(レーザー)級の群れは、翻弄され為す術もなく一体、また一体と数を減らしていった。

 

《残り一体!》

《こいつで最後だ!!》

 

 第二小隊の集中射撃が重光線(レーザー)級を襲う。

 反撃の為に開いた照射粘膜に一二〇ミリが四発も突き刺さり、内部組織をズタズタに引き裂きながら砲弾に内蔵された爆薬が炸裂した。

 爆煙と共に四散する重光線(レーザー)級。その煙の中から突如、衝角が飛び出してくる。

 一瞬の油断。その隙を突く形になった要塞(フォート)級の衝角は、MiG-21 MFN(ノイエ・バラライカ)の胴体を貫いた。

 

《え》

 

 それがライヒテンシュタイン少尉の最期の声になった。

 正面から突き刺さった衝角が彼女の下半身を圧し潰し、衝角の先端から分泌された溶解液が残った部分も消滅させる。

 

「ッ! ヘルミーナ! 合わせなさい!」

《了解ッ!!》

 

 ホーゼンフェルト大尉は長刀を抜刀しながら、水平噴射跳躍で距離を詰める。

 衝角を引き戻す要塞(フォート)級の股下を潜り抜けながら尾節ごと触手を斬り裂く。それに合わせるように跳躍したハイゼ少尉が、要塞(フォート)級の頭部を長刀で斬り落とした。

 要塞(フォート)級の巨体が崩れ落ち、周辺のBETAが駆逐される。

 

 

「CPこちらシュヴァルツリーダー。重光線(レーザー)級を殲滅」

《シュヴ……ツ……ダー、C……。了解……た八〇〇…………面制圧を……する。……返す、八〇〇秒後……制圧……》

 

 重金属雲の影響で明瞭ではないものの返信があった。

 

ホーゼンフェルト大尉(シュヴァルツ〇一)。新たなBETA集団が接近中!》

 

 戦術機に反応して引き返してきた大隊規模の集団。戦車(タンク)級に要撃(グラップラー)級、要塞(フォート)級の姿まであった。

 重光線(レーザー)級を排除した以上ここに留まる必要はない。

 

「総員傾注! 八〇〇秒後に面制圧が実施される。これより離脱する。跳躍開始!」

 

 ホーゼンフェルト大尉を先頭に匍匐飛行で離脱を開始する。

 後方のBETA集団がみるみる小さくなっていく。

 

《やった! 俺たち光線級吶喊(レーザーヤークト)を成功させたんだ!》

《うん! うん! わたしたち、やったよコニー!》

《……よゆー》

 

 初の光線級吶喊(レーザーヤークト)を成功させたバッハ少尉、リンゲ少尉、ハイゼ少尉が興奮した様子ではしゃぐ。

 その姿を先任の衛士達は微笑ましく見守る。

 後は無事帰るだけだ。

 

《へへっ、これであの西の高飛車女、二度と──────》

 

 一番高く飛んでいたMiG-21 MFN(ノイエ・バラライカ)を、忌まわしき光条が背後から貫く。

 灼熱を浴びた機体は空中で爆散した。

 

《……え? コニー? え?》

 

 バッハ少尉の機影がレーダーからロストする。

 ホーゼンフェルト大尉が振り返ると要塞(フォート)級の足元、つぶらな瞳でこちらを見つめる光線(レーザー)級の姿があった。

 

 

 

 光線(レーザー)級の出現に以来、人類はその対抗手段を生み出してきた。

 戦術機、対レーザー弾頭、対レーザー蒸散塗膜、対レーザースモーク等。

 その一つに対レーザーデコイ『イカロス』がある。

 それは高性能CPUを搭載した小型ロケットで射出するとただ天を目指して突き進むだけの代物である。

 光線(レーザー)級には幾つかの習性がある。

 その一つ、より高い高度を飛翔する物体を優先的に照射する習性がある。更にその習性は高度の高い順に照射する事が多い。

 イカロスはその習性を利用し、戦術機よりも高い位置に囮となって打ち上がるのであった。

 しかし、高額かつ繊細なバランスをとる第二世代戦術機では射出前と後で重量バランスが崩れる為、敬遠されていた。また、予備照射が始まってからでは、イカロスを射出する前に本照射が始まる事が多く、採用した国は少ない兵器である。

 そんな失敗兵器を第六六六戦術機中隊(シュヴァルツェスマーケン)MiG-21 MFN(ノイエ・バラライカ)は搭載していた。

 

 要塞(フォート)級の尾節から再構築された光線(レーザー)級が現れ、その双眸が空中のMiG-21 MFN(ノイエ・バラライカ)を捉える。

 

「イカロス射出ッ!!」

 

 ホーゼンフェルト大尉は叫びながら自機に搭載されたイカロスを射出する。肩部装甲ブロック背面に一基づつ装備されたイカロスはプログラムに従って上空へと駆け登っていく。ホーゼンフェルト大尉の声に反応してイカロスを射出できたのは三人だけであった。

 計八発のイカロスが蝋ではなく鋼鉄の羽で、太陽を目指して飛んでゆく。その姿を光線(レーザー)級の予備照射が捉えた。

 イカロスを射出するとホーゼンフェルト大尉は機体を一気に降下させる。目的地は目の前に伸びる川が干上がってできた大きな溝だ。

 他の機体もそれに続く。

 

《噓……、さっきまでしゃべって……こんな……》

《馬鹿! 行くよ!》

 

 ボーデンヴィッツ少尉が、未だバッハ少尉の死に動揺しているリンゲ少尉を掴んで降下する。

 数機は降下しながら突撃砲を撃つ。

 光条が奔り、上空でイカロスが爆散。これで光線(レーザー)級の目を欺く囮は存在しなくなった。

 光線(レーザー)級は次の標的に予備照射を開始する。

 警報音と『レーザー照射警報』の文字が誰かの網膜に映る。

 

くそ!(シャイセ) くそ!(シャイセ) (シャ)────》

《わたくしは、こんな所で死ぬ訳にわ────》

 

 本照射の光条。爆炎をあげてMiG-21 MFN(ノイエ・バラライカ)が墜ちていく。

 

「誰が殺られた!」

ヘンティヒ中尉(シュヴァルツ〇三)クレットガウ少尉(シュヴァルツ一一)ロスト!》

 

 川底に着地し、光線(レーザー)級の射線から外れる。

 あっという間に三機も失った。

 逃げ込んだ川底に戦車(タンク)級の集団が降りてくる。

 頭を抑えられ、逃げることもできない。

 ホーゼンフェルト大尉以下六機のMiG-21 MFN(ノイエ・バラライカ)は密集してそれを迎え討つ。

 

(もうすぐ面制圧が始まる。砲撃に紛れれば離脱できるはず……ッ)

 

 死角となる溝の上から戦車(タンク)級が跳びついてくる。

 ホーゼンフェルト大尉が駆るMiG-21 MFN(ノイエ・バラライカ)DS-3多目的追加装甲(シュルツェン)戦車(タンク)級に打ちつけ、取り付けられた爆発反応装甲(リアクティブアーマー)で粉微塵にする。

 全員が飛びつきに対応できた訳ではない。

 

《この……ッ! きゃあ!》

 

 ボーデンヴィッツ少尉は戦車(タンク)級に組み付かれて押し倒される。

 

《イザベラ! このッ!》

 

 近接戦用短刀を抜いたハッハベルク少尉が組み付いた戦車(タンク)級を斬り裂き、ミュラー中尉が二人に近づく戦車(タンク)級を掃討してカバーする。

 狭い空間で何とか菱壱型陣形(ダイヤモンド・ワン)を組んで対応しているが、いつ破綻しても可笑しくない。

 戦車(タンク)級に続いて要撃(グラップラー)級も溝の上から飛びかかってくる。

 

《…………ッ!?》

 

 ハイゼ少尉は長刀を振り降ろしながら迎え討ち、前肢の間にある要撃(グラップラー)級の頭部を叩き割った。

 その隙に忍び寄った別の要撃(グラップラー)級の硬い衝角をそなえた前肢が振り降ろされる。

 回避行動により管制ユニットを叩き潰される事は免れたが、右主脚に命中し千切れ飛ぶ。

 衝撃でバランスを崩したハイゼ少尉のMiG-21 MFN(ノイエ・バラライカ)が川底を滑りながら倒れる。

 

《ぐっ……》

 

 衝撃で飛散した管制ユニットの破片で額を切ったハイゼ少尉は出血しながら機体を動かそうと試みる。

 

《…………動かない》

 

 沈黙したMiG-21 MFN(ノイエ・バラライカ)戦車(タンク)級が駆け寄る。

 

《うわぁあああ!!》

 

 リンゲ少尉が突撃砲を乱射しながら突っ込みハイゼ少尉機と戦車(タンク)級の間に立ち塞がった。

 

《ハイゼ少尉! 今のうちに脱出を!》

《……ダメ、出来ない》

 

 管制ユニットのフレームが歪み緊急脱出(ベイルアウト)ができない状態である。

 

(クソッ!)

 

 ホーゼンフェルト大尉は長刀を振るって戦車(タンク)級を複数体まとめて切り裂きながら舌打ちした。

 既に皆手一杯である。ハイゼ少尉を守りながら戦うのは無理があった。

 

《困ってるみたいね。猪女》

 

 オープンチャンネルで聞こえた馴染みある声と同時に、頭上を小型ミサイル群が弧を描いて飛んでいき、光線(レーザー)級に迎撃される。

 その直後に大型のミサイルが地表を這うように飛び抜けた。

 

(あれは、AIM-54(フェニックス)!?)

 

 光線(レーザー)級の照射インターバルを突いて上空に侵入したAIM-54(フェニックスミサイル)は、外殻が分裂し子弾をばら撒いた。

 自己鍛造弾の子弾が眼下の光線(レーザー)級を含んだBETA群を穴だらけにして一気に殲滅する。

 

《無事か、アネットッ!》

「同志中佐!?」

 

 第六六六戦術機中隊(シュヴァルツェスマーケン)の窮地に現れたのはドイツ連邦(西ドイツ)第五一戦術機甲大隊(フッケバイン) 第二中隊。第一戦術機甲大隊(ヴァイスヘクセ) 大隊本部小隊であった。

 F-15C(イーグル)MiG-31M(フォックスハウンド)第六六六戦術機中隊(シュヴァルツェスマーケン)を包囲するBETA群を駆逐し空間を確保する。

 

《これで貸し借りなしよ》

 

 ホーゼンフェルト大尉の網膜に投影されたマルダー〇一/キルケ・シュタインホフ大尉はニヤリと笑った。

 

《間に合って良かった》

 

 第一戦術機甲大隊(ヴァイスヘクセ)大隊長ヘクセ〇一/グレーテル・イェッケルン中佐は列機のMiG-31M(フォックスハウンド)に残りのAIM-54(フェニックス)を撃たせ、接近する増援を排除させる。

 

「どうして、ここに……」

《貴様らの撤退支援に来たんだ。五〇一には五〇二中隊を向かわせている》

 

 イェッケルン中佐は傷ついた第六六六戦術機中隊(シュヴァルツェスマーケン)MiG-21 MFN(ノイエ・バラライカ)を見た。

 

《とにかく、間に合って良かった》

《さっさと離脱しなさい。ケツは守ってあげるわ》

 

 倒れたハイゼ少尉とそれを守るリンゲ少尉の前にF-15C(イーグル)が降り立ち、両手に保持した突撃砲で詰め寄ってくる戦車(タンク)級を挽肉に変える。

 

《そこのMiG-21(バラライカ)! 手を貸すからそれを連れて離脱するわよ!》

 

 マルダー〇六/クリスティーナ・グンデルフィンゲン少尉はオープンチャンネルで呼びかけた。

 

《あ、ありがとう》

 

 リンゲ少尉とグンデルフィンゲン少尉は動けないハイゼ少尉のMiG-21 MFN(ノイエ・バラライカ)に肩を貸して跳躍する。

 MiG-21 MFN(ノイエ・バラライカ)MiG-31M(フォックスハウンド)F-15C(イーグル)が空へと舞い上がった。

 グンデルフィンゲン少尉は網膜に投影されたリンゲ少尉の顔を見て彼女が格納庫で揉めた相手だと気がついた。

 

《あら、貴女見た顔ね。キャンキャンうるさいのと暴力女は何処にいるの?》

《……ッ。……コニーは……死んだわ》

《ッ!? ご、ごめんなさい。そんなつもりじゃ……、まさか暴力女も……?》

《…………勝手に殺すな》

 

 後方で面制圧の爆発音が響いた。

 

 旧ニオールと旧アングレームに現れたBETA梯団は面制圧により壊滅。直ちに残敵掃討が行われた。

 国連大西洋方面第一軍による間引き作戦は最終的に一個軍団三万近いBETAの間引きに成功。

 部隊は追撃を受けることなく旧ラ・ロシェルの港から撤収した。

 

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