Muv-Luv Tactical Surface Fighter Variation 作:オデ オマエ マルカジリ(CV:戦車級)
砂塵を巻き上げ
上空を幾筋もの光条が伸びては消えた。
精鋭部隊の一員である彼、彼女達は
緊張した雰囲気。強張った面持ちで操縦桿を強く握る衛士達。
(このままは良くない)
《…………こんな話を知っていまして?》
ホーゼンフェルト大尉が緊張をほぐす方法を思案していると、中衛第二小隊を率いるシュヴァルツ〇三/マルガレーテ・ヘンティヒ中尉がオープンチャンネルで話し始めた。
《国連が世界中の料理人を集めて秘密の実験をしましたの。……内容はBETAの肉を美味しく食べる方法》
《うぇぇ……》
硫黄の香りと紫の体液滴る
想像してまったのか誰かの呻きが無線にのる。ヘンティヒ中尉は気にすることなくを続けた。
《集まった料理人達に肉を出しました。もちろん何の肉かは伝えませんでしたわ。料理人達は謎の肉を味を確かめる事にしました。フランス人の料理人は臭いを嗅いで気絶しました。イタリア人の料理人は一口食べてトイレへ行きました。最後に残ったイギリス人の料理人はこう言いましたわ。「おかわりはあるかい?」って》
ヘンティヒ中尉のジョークに笑い声が響く。
《どーりで、イギリスの合成食料は群を抜いて不味い訳だ!》
何処か納得したようにシュヴァルツ〇八/イザベラ・ボーデンヴィッツ少尉が笑いながら言った。
中隊に蔓延していた緊張の雰囲気はすっかり吹き飛んでいた。
《前方、
ホーゼンフェルト大尉の僚機を務める
ホーゼンフェルト大尉は自身が尊敬する中隊長、故アイリスディーナ・ベルンハルト大尉の様に凛とした雰囲気と鋭い口調を意識して口を開く。
「総員傾注! 我々はこれよりBETA集団に吶喊する。必要以上に殺す必要は無い。無駄な射撃は慎み、弾薬の節用に努めろ! ……ブリテンで待ってるイギリス人に
《ははッ! 奴ら泣いて喜びますぜ、姐さん!》
《
シュヴァルツ一〇/クラウス・ハッハベルク少尉が突撃砲の残弾を確認しながら、軽口を叩く。
それに合わせるようにボーデンヴィッツ少尉も軽口を言う。
《貴様ら、通信は記録に残るんだぞ! いい加減軽口を止めろ! 国家と党の威信に傷がつく!》
《やれやれ、政治将校殿はお固いこって》
《そんなんじゃ長生き出来ませんよ》
《き、貴様らッ!!》
負傷して後方送りになった政治将校の後任として着隊したシュヴァルツ〇六/クルト・ヴァルトゼー中尉が咎めるが逆にからかわれる結果になった。
「その辺にしておけ。……突っ込むぞ!」
《 《 《了解!》 》 》
十二機の
ホーゼンフェルト大尉が率いる
戦術機に反応して向かってくる
大隊規模のBETA群を突破すると、すぐに
「散開してすり抜けろ!」
陣形を解いて、各個に
《くッ!》
しかし全員が上手く抜けられた訳では無かった。
シュヴァルツ〇五/ローゼマリー・ホフマン少尉は迫りくる
《
後衛の
BETAの領域である空を犯した愚かなイカロスの運命はたった一つ。
必死に機体を降下させようとするホフマン少尉の網膜に投影される『レーザー照射警報』と耳朶を打つけたたましい警報音。
悲鳴を上げる間もなく一瞬で散華し、胴体を失った機体は燃料に引火して爆散する。
重
プラズマの衝撃波でバランスを崩したヴァルトゼー中尉の機体を
完全に制御を失った
瞬く間に二人を失ったがその足を止めることなく
BETA梯団は完全に一個の群になっているわけではない。個体種類や集団ごとに移動速度はバラバラであり、梯団内は大小様々な集団が動いている。
集団と集団の狭間、BETAのいない地を確保し息をつく。
《
《CPより
《ネガティブ!!》
強化された通信装備により第五〇一戦術機中隊の交戦報告がくる。
確認された二つの
「間もなく重
ホーゼンフェルト大尉を先頭に
《…………見つけた。一〇時方向、重
ホーゼンフェルト大尉の脇を固める
《姐さん、護衛を連れてやがる!》
ハッハベルク少尉が警告する通り、重
《
《ビビるなシャーリー!》
後衛集団を形成する重
二人は経験が浅く
「お待ちかねの狩りの時間だ! BETAの屑共を狩り尽くせ!」
《重
《シュヴァルツ一一、中隊支援砲の出番だ。存分に暴れろ!》
中衛、後衛も各小隊長の指示に従い攻撃を開始する。
《重たいもん背負ってきたかいがあったぜ!》
シュヴァルツ一一/ヨーゼフ・クレットガウ少尉は突撃砲を格納すると、兵装担架システムに背負ったラインメイタルMk57中隊支援砲を構え、護衛の
遠方のロケット弾を照射していた重
弱点である柔らかい照射粘膜を突き破った一二〇ミリ砲弾が内部で炸裂。内側から弾け飛んだ重
前衛は
二人を援護するように
《残り十三!》
動作緩慢な重
護衛についていたBETA群は
後衛三機の
重
《喰らえッ!》
その隙をリンゲ少尉の放った一二〇ミリが捉え、重
《やった!!》
初の重
重
重
懐に入り込まれた重
《残り一体!》
《こいつで最後だ!!》
第二小隊の集中射撃が重
反撃の為に開いた照射粘膜に一二〇ミリが四発も突き刺さり、内部組織をズタズタに引き裂きながら砲弾に内蔵された爆薬が炸裂した。
爆煙と共に四散する重
一瞬の油断。その隙を突く形になった
《え》
それがライヒテンシュタイン少尉の最期の声になった。
正面から突き刺さった衝角が彼女の下半身を圧し潰し、衝角の先端から分泌された溶解液が残った部分も消滅させる。
「ッ! ヘルミーナ! 合わせなさい!」
《了解ッ!!》
ホーゼンフェルト大尉は長刀を抜刀しながら、水平噴射跳躍で距離を詰める。
衝角を引き戻す
「CPこちらシュヴァルツリーダー。重
《シュヴ……ツ……ダー、C……。了解……た八〇〇…………面制圧を……する。……返す、八〇〇秒後……制圧……》
重金属雲の影響で明瞭ではないものの返信があった。
《
戦術機に反応して引き返してきた大隊規模の集団。
重
「総員傾注! 八〇〇秒後に面制圧が実施される。これより離脱する。跳躍開始!」
ホーゼンフェルト大尉を先頭に匍匐飛行で離脱を開始する。
後方のBETA集団がみるみる小さくなっていく。
《やった! 俺たち
《うん! うん! わたしたち、やったよコニー!》
《……よゆー》
初の
その姿を先任の衛士達は微笑ましく見守る。
後は無事帰るだけだ。
《へへっ、これであの西の高飛車女、二度と──────》
一番高く飛んでいた
灼熱を浴びた機体は空中で爆散した。
《……え? コニー? え?》
バッハ少尉の機影がレーダーからロストする。
ホーゼンフェルト大尉が振り返ると
戦術機、対レーザー弾頭、対レーザー蒸散塗膜、対レーザースモーク等。
その一つに対レーザーデコイ『イカロス』がある。
それは高性能CPUを搭載した小型ロケットで射出するとただ天を目指して突き進むだけの代物である。
その一つ、より高い高度を飛翔する物体を優先的に照射する習性がある。更にその習性は高度の高い順に照射する事が多い。
イカロスはその習性を利用し、戦術機よりも高い位置に囮となって打ち上がるのであった。
しかし、高額かつ繊細なバランスをとる第二世代戦術機では射出前と後で重量バランスが崩れる為、敬遠されていた。また、予備照射が始まってからでは、イカロスを射出する前に本照射が始まる事が多く、採用した国は少ない兵器である。
そんな失敗兵器を
「イカロス射出ッ!!」
ホーゼンフェルト大尉は叫びながら自機に搭載されたイカロスを射出する。肩部装甲ブロック背面に一基づつ装備されたイカロスはプログラムに従って上空へと駆け登っていく。ホーゼンフェルト大尉の声に反応してイカロスを射出できたのは三人だけであった。
計八発のイカロスが蝋ではなく鋼鉄の羽で、太陽を目指して飛んでゆく。その姿を
イカロスを射出するとホーゼンフェルト大尉は機体を一気に降下させる。目的地は目の前に伸びる川が干上がってできた大きな溝だ。
他の機体もそれに続く。
《噓……、さっきまでしゃべって……こんな……》
《馬鹿! 行くよ!》
ボーデンヴィッツ少尉が、未だバッハ少尉の死に動揺しているリンゲ少尉を掴んで降下する。
数機は降下しながら突撃砲を撃つ。
光条が奔り、上空でイカロスが爆散。これで
警報音と『レーザー照射警報』の文字が誰かの網膜に映る。
《
《わたくしは、こんな所で死ぬ訳にわ────》
本照射の光条。爆炎をあげて
「誰が殺られた!」
《
川底に着地し、
あっという間に三機も失った。
逃げ込んだ川底に
頭を抑えられ、逃げることもできない。
ホーゼンフェルト大尉以下六機の
(もうすぐ面制圧が始まる。砲撃に紛れれば離脱できるはず……ッ)
死角となる溝の上から
ホーゼンフェルト大尉が駆る
全員が飛びつきに対応できた訳ではない。
《この……ッ! きゃあ!》
ボーデンヴィッツ少尉は
《イザベラ! このッ!》
近接戦用短刀を抜いたハッハベルク少尉が組み付いた
狭い空間で何とか
《…………ッ!?》
ハイゼ少尉は長刀を振り降ろしながら迎え討ち、前肢の間にある
その隙に忍び寄った別の
回避行動により管制ユニットを叩き潰される事は免れたが、右主脚に命中し千切れ飛ぶ。
衝撃でバランスを崩したハイゼ少尉の
《ぐっ……》
衝撃で飛散した管制ユニットの破片で額を切ったハイゼ少尉は出血しながら機体を動かそうと試みる。
《…………動かない》
沈黙した
《うわぁあああ!!》
リンゲ少尉が突撃砲を乱射しながら突っ込みハイゼ少尉機と
《ハイゼ少尉! 今のうちに脱出を!》
《……ダメ、出来ない》
管制ユニットのフレームが歪み
(クソッ!)
ホーゼンフェルト大尉は長刀を振るって
既に皆手一杯である。ハイゼ少尉を守りながら戦うのは無理があった。
《困ってるみたいね。猪女》
オープンチャンネルで聞こえた馴染みある声と同時に、頭上を小型ミサイル群が弧を描いて飛んでいき、
その直後に大型のミサイルが地表を這うように飛び抜けた。
(あれは、
自己鍛造弾の子弾が眼下の
《無事か、アネットッ!》
「同志中佐!?」
《これで貸し借りなしよ》
ホーゼンフェルト大尉の網膜に投影されたマルダー〇一/キルケ・シュタインホフ大尉はニヤリと笑った。
《間に合って良かった》
「どうして、ここに……」
《貴様らの撤退支援に来たんだ。五〇一には五〇二中隊を向かわせている》
イェッケルン中佐は傷ついた
《とにかく、間に合って良かった》
《さっさと離脱しなさい。ケツは守ってあげるわ》
倒れたハイゼ少尉とそれを守るリンゲ少尉の前に
《そこの
マルダー〇六/クリスティーナ・グンデルフィンゲン少尉はオープンチャンネルで呼びかけた。
《あ、ありがとう》
リンゲ少尉とグンデルフィンゲン少尉は動けないハイゼ少尉の
グンデルフィンゲン少尉は網膜に投影されたリンゲ少尉の顔を見て彼女が格納庫で揉めた相手だと気がついた。
《あら、貴女見た顔ね。キャンキャンうるさいのと暴力女は何処にいるの?》
《……ッ。……コニーは……死んだわ》
《ッ!? ご、ごめんなさい。そんなつもりじゃ……、まさか暴力女も……?》
《…………勝手に殺すな》
後方で面制圧の爆発音が響いた。
旧ニオールと旧アングレームに現れたBETA梯団は面制圧により壊滅。直ちに残敵掃討が行われた。
国連大西洋方面第一軍による間引き作戦は最終的に一個軍団三万近いBETAの間引きに成功。
部隊は追撃を受けることなく旧ラ・ロシェルの港から撤収した。