Muv-Luv Tactical Surface Fighter Variation   作:オデ オマエ マルカジリ(CV:戦車級)

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【ズールー戦士は怯まない】中編

 

 

 

 軌道降下戦術は簡単に言えば宇宙からの空挺降下である。

 軌道降下戦術は一九八〇年初頭から軌道爆撃と並行して研究されてきた。

 小規模な実地試験や技術的トラブルを乗り越え、遂に本格的投入されることになったのがこの『スワラージ作戦』である。

 人類にとって未だ経験のない大規模軌道降下作戦は従来の空挺作戦に当てはめて計画された。

 まず、先行する国連宇宙総軍 第一軌道降下兵団 降下誘導(パスファインダー)大隊が降下、降下地点(LZ)を確保する。

 再突入殻(リエントリーシェル)は、軌道降下兵(オービットダイバー)を運ぶ揺り籠であり、盾であり、槍である。

 低軌道からの落下による膨大な運動エネルギーを、そのまま地表に激突させることで発生する破壊力は凄まじく、理論上はハイヴ周辺地下に広がる地下茎構造(スタブ)上層の一部を破壊、(ゲート)では無い新たな突入口を形成できた。

 降下誘導(パスファインダー)大隊は、再突入殻(リエントリーシェル)の着弾によって、理論上形成される地下茎構造(スタブ)の露出を確認する事になっていた。

 降下誘導(パスファインダー)大隊の降下成功後、速やかに二個連隊規模の国連宇宙総軍 第一軌道降下兵団本隊も降下する予定である。

 

 軌道爆撃を行った国連宇宙総軍第三艦隊の跡をなぞるように国連宇宙総軍第一艦隊の再突入型駆逐艦(HSST)が再突入カーゴを抱えて軌道に進入した。降下誘導(パスファインダー)大隊を抱えた第一艦隊第五、第十一戦隊である。

 先頭を進む第五戦隊所属『セラフィム』が高度を下げながら大気圏に接近。後続の戦隊各艦もそれに続く。

 

《セラフィムより、セイバー〇一、〇二。軌道離脱噴射まで三〇〇秒。全系統切替確認》

《セイバー〇一全系統切替確認完了。再突入カーゴ操縦受領準備よし》

《アンビリカルコネクタ開放。セイバー〇一、カーゴ操縦渡します》

《セイバー〇一、カーゴ操縦受領確認》

《コネクタ開放。カーゴ分離》

《セイバー〇一、全状態正常》

「セイバー〇二、全状態正常」

《本艦軌道離脱噴射まで一二〇秒。幸運を(Good luck)!》

 

 史上初の軌道降下作戦。それに従事する軌道降下兵(オービットダイバー)セイバー〇二/エレウテリオ・ピアッツィ中尉は操縦桿を握りなおす。

 

《再突入カーゴの分離確認》

 

 共に宇宙へと放り出された僚機のセイバー〇一/エルヴェ・マルロー大尉からの通信。しばらくの間、二人だけが存在を認識できる時間が続く。

 再突入型駆逐艦(HSST)から切り離された再突入カーゴが重力に引かれて落ちていく。

 

(シュミレーションは死ぬ程やった。大丈夫、大丈夫だ。────ッ!?)

 

 警告音と共に表示される『第五級光線照射危険地帯』の文字。

 ユーラシア大陸各地に点在するハイヴに存在する重光線(レーザー)級の照射範囲に入った事を示す。一九八八年に行われた『トライアッド演習』によって軌道から降下する飛翔体を各ハイヴの重光線(レーザー)級が迎撃しないことは判明していた。

 

(それでも落ち着かないぜ)

 

 再突入カーゴは大気圏との摩擦で減速しながら落ちていく。

 

《カーゴロケット点火準備! 強化装備対G機能確認!》

「強化装備対G機能確認完了! 異常なし!」

 

 通常であればここから大気圏で減速して降下するが、再突入カーゴは違う。

 ロケットブースターを噴射して加速。大気減速を無理やり相殺するのだ。

 

「ッ、ぐッ!」

 

 落下速度は極超音速にまで達し、凄まじいGを受けながら落下していく。

 軌道降下兵(オービットダイバー)達はまるで地球に向って突っ込んでいく様な錯覚に陥っていた。

 高度四万メートル、爆砕ボルトが作動し再突入カーゴから再突入殻(リエントリーシェル)が分離される。

 加速を続ける再突入カーゴは速度を落とすこなく突き進み、あっという間に再突入殻(リエントリーシェル)との距離が開く。

 再突入殻(リエントリーシェル)は戦術機の活動可能速度までの大減速を開始する。ここでかかる負荷は八Gにまで達する。

 眼球が頭蓋骨にめり込む、視界が極端に狭まり音が聞こえなくなって、シートに押し付けられる。

 意識が飛びそうになる中、彼らの目の前で光線が伸びた。

 

光線(レーザー)照射────ッ!?)

 

 ボパールハイヴ周辺の重光線(レーザー)級が一斉に上空を照射する。重金属雲の減衰をものともしない重光線(レーザー)級の本照射が襲いかかる。

 先行する再突入カーゴが本照射で蒸発しながらも、次々と地表に着弾した。

 極超音速の破滅的なエネルギーが地表のBETAへ襲いかかり、重光線(レーザー)級が木の葉の様に吹き飛んだ。

 再突入殻(リエントリーシェル)が分解し、格納されていた戦術機F-15C(イーグル)が空中へと放り出された。

 

「────セイバー〇二降下完了!」

 

 跳躍ユニットを噴かせて匍匐飛行へと以降する。

 重金属雲を抜けたことで回復したセンサーやレーダーで周辺情報に目を通す。幸い周囲のBETAは先行した再突入カーゴの着弾で吹き飛んでいた。

 

マルロー大尉(セイバー〇一)の反応がない!?)

 

 マルロー大尉の再突入殻(リエントリーシェル)は運悪く、重光線(レーザー)級の照射を受けていた。

 ピアッツィ中尉は着地しながら、オープンチャンネルを開く。

 

「セイバー〇二よりセイバーズ。降下完了機は各自報告!」

《セイバー〇七降下完了!》

《セイバー〇九降下完了》

《セイバー一〇同じく降下完了!》

 

 セイバー中隊で返事があったのは三機のみ。最期の重光線(レーザー)級の照射で相当な被害を被った様だった。

 

「セイバー〇二より、全機。大隊集結地へ各個に移動! 生きて会おうぜ」

 

 近くに友軍機がいないピアッツィ中尉は単独で大隊集結地点へと向かう。幸いそれ程離れていない。

 再突入カーゴの着弾を生き残ったBETAがわらわらピアッツィ中尉機に集まってきている。

 彼は短距離跳躍噴射で素早くその場を離れた。

 

 

《セイバー〇二から作戦司令部(HQ)! 降下誘導(パスファインダー)大隊、十四機降下成功! 再突入カーゴ集中着弾点の地下茎構造(スタブ)露出を確認、現在確保中! 至急本隊の降下要請する!》

 

 ピアッツィ中尉からの報告に『スワラージ作戦』を統括する国連印度洋方面軍作戦司令部は僅かに動揺した。

 報告によれば降下誘導(パスファインダー)大隊全三六機中たった十四機しか降下に成功しなかった事になる。*1

 一方で再突入カーゴの着弾は理論通りの成果をあげていた。また、その衝撃で付近の重光線(レーザー)級を八割方排除するという朗報もあった。

 作戦司令部は『スワラージ作戦』を第三段階へ移すことを即座に決定。隷下の全軍に命令を出すところで、「待った」がかかった。

 

作戦司令部(HQ)より第一軌道降下兵団。現周回での降下を中止、別命あるまで軌道上にて待機せよ》

作戦司令部(HQ)よりアフリカ連合軍司令部。直掩任務中の戦術機甲部隊を直ちに降下誘導(パスファインダー)大隊と合流させよ。また、国連 第一戦術戦闘攻撃部隊(A-01)が追従する》

 

 突然の作戦計画変更に隷下の各国軍にも動揺が広がる。

 最初に噛み付いたのは第一軌道降下兵団であった。

 

《ダイバー〇一より作戦司令部(HQ)! 理由を知りたい。説明されたし!》

《ダイバー〇一、知る必要はない(Need to know)。待機せよ》

《納得できるか! こちとらハイヴ落とす為に来たんだ!! さっさと降ろしやがれ!》

《待機せよ。繰り返す、待機せよ》

 

 第一軌道降下兵団からの通信を皮切りに各国から問い合わせと説明を求められたが、作戦司令部が理由を開示することはなかった。

 

 

 

 ハイヴ突入部隊の直掩についていた南アフリカ国防軍 第三二戦術機甲(バッファロー)大隊 エコー中隊、ゴルフ中隊は、連続跳躍噴射でBETAの群れを削り取りながら再突入カーゴの落着地点へと急行していた。

 高く跳躍し過ぎたエコー中隊のチーターCが光線(レーザー)級の照射を受けて貫かれる。

 左翼から迫る要撃(グラップラー)級に射撃を加えながら、ズールー〇五/コルネリアス・マーシャル少尉はレーダーに目を向けた。

 赤い光点がまっすぐ向かってくる。

 

「突撃級接近っス!」

 

 マーシャル少尉は乗機のチーターCを操って突撃級の突進から回避行動をとる。

 跳躍で回避するのは光線(レーザー)級に照射される危険がある為、突撃級と突撃級の間をすり抜ける様に回避した。

 マーシャル少尉の視界の端でズールー一二/ジェラード・ガイラー少尉のチーターCが突撃級に弾き飛ばされる。

 弾き飛ばされた機体は主脚や主腕が千切れ飛び、部品が撒き散らされて墜落する。

 

《ズールー一二、バイタル喪失!》

「くそっ!」

 

 マーシャル少尉はガンマウントを起動させ回避した突撃級の弱点である背面に突撃砲を浴びせて倒す。

 二個中隊二十二機のチーターCが進んだあとを、UNカラーのF-14 AN3(マインドシーカー)MiG-27(アリゲートル)で構成された一個大隊が追従する。

 

(援護一つしやがらねェ)

 

 第一戦術戦闘攻撃部隊(A-01)所属の一個大隊は自分達に直接の脅威となるBETAのみを攻撃し、先導する第三二戦術機甲(バッファロー)大隊への援護射撃等は一切行わなかった。

 

楔弐型(アローヘッド・ツー)を維持。もうすぐ目的地だ》

 

 チーターCの光学センサーが前方で戦う十三機のF-15C(イーグル)を捉えた。

 再突入カーゴの着弾で大きく抉れた地面を囲む様に展開し、囲いの内と外から迫るBETAを撃破していく。

 通常の練度の部隊ならとっくに全滅していても可笑しくない。

 

《こちら、ズールー〇一。援護する!》

 

 中隊長ズールー〇一/ジョナサン・リチャードソン大尉が降下誘導(パスファインダー)大隊とコンタクトを取り、水平噴射跳躍で距離を詰めながら行く手を阻む戦車(タンク)級を突撃砲で薙ぎ払う。

 ゴルフ中隊の動きに合わせるようにエコー中隊が左翼に回り込んで、接近する要撃(グラップラー)級の集団を攻撃する。

 

《ズールー〇一、セイバー〇二だ。助かった! そろそろ残弾がヤバかったんだ》

《間に合って良かった》

 

 地下茎構造(スタブ)に開いた破孔周辺のBETAを一気に狩っていく。

 こかにきて、第一戦術戦闘攻撃部隊(A-01)も本格的に戦闘に加わりBETA群を掃討。一時的に平穏を得ることに成功した。

 

《ズールー〇一よりCP。目標到着、降下誘導(パスファインダー)大隊と合流》

《CP了解。別命あるまで現地点を保持せよ》

 

 降下誘導(パスファインダー)大隊のF-15C(イーグル)は周辺に散らばる補給コンテナを回収し、補給を始める。

 

《見たことない機体だ。どこのだ?》

《ミラージュⅢっぽいな》

《ラウンデルに見覚えがあるぜ。あれは南アだ》

《南ア? じゃああの機体はオリジナルかい》

 

 軌道降下兵(オービットダイバー)達は軽口を叩きながらも手早く補給を済ませていく。

 追従していた第一戦術戦闘攻撃部隊(A-01)にも動きがあった。

 MiG-27(アリゲートル)の中隊が破孔から地下茎構造(スタブ)内に侵入し、ルートスキャンを開始する。

 明らかに事前の作戦計画とは異なる動きであった。

 

「連中、何やってるんスか?」

 

 マーシャル少尉は周囲を警戒しながらも、第一戦術戦闘攻撃部隊(A-01)の行動が気になった。

 作戦計画を変更してまで行われる国連の行動に不信感が募る。それは、彼らだけでなく『スワラージ作戦』に参加する全将兵が思っている事でもあった。

 

MiG-27(アリゲートル)F-14(トムキャット)。米ソ機ってのも変な組み合わせだ》

《……基地で遠目に見かけだが、連中全員ロシア人だったぞ》

「マジっスか!?」

《ロシア人がF-14(トムキャット)に? いよいよわかんねぇな……》

 

 前衛B小隊が様子を伺う中、第一戦術戦闘攻撃部隊(A-01)は淡々とハイヴ内への突入準備を進めていた。

 

《CPよりズールー〇一及びエレファント〇一。第一軌道降下兵団の降下を再開する。落下予想地点に注意せよ。また、降下完了後、第三大隊 第九中隊(ラーテル)がそちらへ向かう。同部隊と交代し、補給を実施せよ》

《ズールー〇一了解》

《エレファント〇一了解》

 

 戦域マップに変更された降下予測地点が表示された。

 この間にハイヴ内からは再び重光線(レーザー)級が出現しており、軌道爆撃での排除が計画されている。

 

《折角の好機を逃してまで何がしてたいんだ司令部は》

《セイバー〇九、気になるならそこの連中に教えて貰いな》

《答えなんてわかりきってるだろ、ランサー〇五》

《おしゃべりしながらでいいから聞け。本隊降下後、合流を図る。敵中突破だ準備しておけ。……ズールー〇一世話になった。これが終わったら一杯奢らせてくれ》

《ズールー〇一了解。合成は無しだぞ》

《ははっ。了解だ》

 

 重光線(レーザー)級の照射が天に伸びる。

 軌道爆撃が始まった。

*1
後にこれは降下中の光線照射対策で各中隊が分散降下したことによる再集結の遅れ、各個撃破が原因であったと判明する。実際には三六機中二八機が降下に成功していた。

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