Muv-Luv Tactical Surface Fighter Variation 作:オデ オマエ マルカジリ(CV:戦車級)
キャリアー〇七/ヴラジーミル・ルバノフ中尉は国連
ルバノフ中尉は祖国ソビエトを下劣な異星起源種共から護るために戦う事を決意した衛士であった。献身的に戦う日々の中、彼は祖国と偉大なる党から極秘計画への従事を命じられ国連軍へと出向する。
当初は自身を評価されたことに対して歓喜していたが、今では地獄とも言える最前線の方が恋しかった。
「…………」
そして今、ルバノフ中尉は祖国から遠く離れたインド亜大陸にて、
戦術機のセンサー越しに手足をもがれた瀕死の
ちらりと複座管制ユニットの前席を見る。
銀髪の小さな後頭部。少女と言っても過言ではない年齢の子供が座っていた。
ルバノフ中尉が属する極秘計画、『オルタネイティヴ第三計画』が生み出した人工ESP発現体。それが目の前に座る少女、スキャナー〇七/アントニーナ・トリーチナ少尉である。
(不気味だ)
無表情で無感動な言動、整った容姿がかえって人間味を薄くしていた。
トリーチナ少尉ら人工ESP発現体にはESP能力、リーディングやプロジェクションといった、いわゆる超能力が備わっている。
二人が所属する
国連宇宙総軍 第一軌道降下兵団やインド陸軍 第一戦術機甲師団と共にハイヴ内へと突入した
ハイヴ内という閉鎖空間での戦闘は過酷で、これまでにリーディングを担任する人工ESP発現体を乗せた一個中隊十二機の
「反応ありません。対象のリーディングに失敗」
トリーチナ少尉の抑揚の無い声が紡がれる。
《キャリアー〇七、始末しろ先へ進む》
「了解」
ルバノフ中尉はナイフシースから短刀を取り出すと、動くこともできない
《先行する第一軌道降下兵団の位置まで前進する》
既にルートスキャンを終えた
《ダ……バー〇一……
途切れ途切れの無線通信が全周波数に向けてながれる。
《前方に
《何ッ!?》
進路上の
狭く三次元的機動が制限される
護衛の
これで大部分の
(クソッ!)
跳躍ユニットに火を入れて小さく跳ぶ。
高く飛び過ぎれば
ルバノフ中尉は
眼下を
回避に失敗した
通過していった
これで終わりではない。玉突き事故を起こした
ルバノフ中尉も突撃砲を構えて
《
部隊背後の
《この……ッ! ……数が……!?》
最後尾に居た
BETAに挟撃された
ルバノフ中尉の機体もガンマウントまで全ての武装を使って迫りくる
ベテランの衛士であるルバノフ中尉はこの後自身に訪れる結末が容易に想像できていた。
「くそッ! くそッ! くそッ!」
操縦桿を操作するが何の反応も帰ってこない。
機体が激しく揺れ、装甲を嚙み砕く音が追い詰めるように管制ユニット内に響く。
(こんな……こんなところで……)
幸いなのは無線が死んでいることだろう。生きていれば先に引きずり出される誰かの悲鳴を嫌でも聞くことになっていた。
前席で膝を抱えて縮こまっているトリーチナ少尉の姿が目に入った。
「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ」
小さな肩を震わせ、涙を流しながら恐怖に震える姿にルバノフ中尉は何故か安心した。
(……ちゃんと人間だったんだな)
遂に管制ユニットが軋み、僅かにできた隙間から生暖かい風と硫黄の臭いが入り込んでくる。隙間に
次の瞬間には管制ユニットのハッチが剝ぎ取られ、肉眼で
「嫌ァアアア! 助けて! お母さ──────」
今までの無表情は消え失せ泣き叫ぶ少女の華奢な身体が目の前で噛み千切られる。胸から上を失った断面から鮮血が噴水の様に吹き出し、赤黒い内臓が零れ落ちた。
別の
ハイヴ内部に突入した第一軌道降下兵団、
作戦を統括する国連印度洋方面軍作戦司令部は『スワラージ作戦』の中止を決定。作戦に参加する諸部隊の撤退が開始された。
古来より、軍事作戦において、最も難しいのが撤退である。
ハイヴの
《ラーテル〇九、リロード!》
《中隊長! そろそろ弾薬がヤバいですよ!》
《もう少し粘れ! 我々が今下がれば後退中の戦車部隊が追いつかれる!》
三六ミリ砲弾の嵐がBETAを鏖殺していくが、水が隙間から滲み出る様にしだいに地表に広がって行く。
前方の
《え?》
装甲が砕け、
《ち、中隊長! ラーテル〇五が……ッ!!》
《ば、馬鹿な! 他の部隊は何をやって──────》
別の
第九中隊の衛士達は危険な近接戦の経験に乏しくみるみるうちに戦域マップから光点が消失する。
ラーテル〇一/ジェフリー・ペニントン大尉は部隊の潰走を防ごうと鼓舞を続けていたが
《ラーテル〇一
《ラーテル〇四!》
《ラーテル〇九健在! ラーテル〇六もだ!》
《ラーテル一一生きてます!》
第九中隊は既に半数近くを失い、残弾数も三割を切っていた。
《このままじゃ全滅だ! 離脱するぞ!》
《離脱するったって包囲ざれ゛ッ──────》
《ラーテル〇四が殺られた!》
生き残った各機は
ラーテル〇六/ジェイク・エアハート少尉の脳裏に「全滅」の二文字が横切る。
《くっそぉおおおお! ッ!?》
残弾ゼロ。エアハート少尉の突撃砲が動作を止めた。
眼の前には口を開けた
《あ……ああっ……!》
迫りくる
《
ズールー〇一/ジョナサン・リチャードソン大尉率いる南アフリカ国防軍
ズールー〇二/サム・ランドル中尉率いる前衛B小隊が
ズールー〇四/ンジャブロ・マレー少尉は背中に背負った
マレー少尉とマーシャル少尉の
《……そこの奴。無事か?》
《お、お前はあの時の黒人!?》
網膜に投影されたエアハート少尉が、ナーグプルの
《助けに来たぞ。離脱できるか?》
《ああ、助かっ────左だッ!》
アクトン中尉の鋭い声に反応して左を向けば、
《クソ!》
アクトン中尉からはリチャードソン大尉が射線に被って射撃ができない。リチャードソン大尉は素早く突撃砲の射撃を開始した。
《……っ!》
突撃砲の残弾がゼロになる。弾倉を交換する暇はない。リチャードソン大尉は
チーターCの膝部に備え付けられたアーマースパイクが
二度の膝蹴りで
《離脱するぞ! 全機跳躍開始!》
リチャードソン大尉の号令でゴルフ中隊と第九中隊の戦術機が飛び上がり、匍匐飛行に移る。
マーシャル少尉は動き出した戦域マップの光点が一つ残っていることに気がついた。
「
《……跳躍ユニットをやられた。先に行け!》
《…………全機続け!》
見捨てられないと引き返そうしたマーシャル少尉を僚機のマレー少尉が立ち塞がって引き留める。彼は首を横に振った。
ランドル中尉のチーターCはガンマウントを含む全ての武装で抵抗を続けたが、
ゴルフ中隊は損傷機だらけの第九中隊を中央に据え.
《CPよりズールーリーダー。ズールーはポイント二三に展開、同地域で遅滞戦闘を実施せよ。一九二〇秒後に国連宇宙総軍第三艦隊が軌道爆撃を実行する》
《ズールー〇一了解。ラーテル〇三、ここでお別れだ! 中隊各機は俺に続け!》
《ズールー〇一、世話になった!》
ゴルフ中隊は踵を返して指定されたポイントへと飛んでいく。
ポイント二三は砲弾痕で耕された荒地だった。
到着してまず、周辺に散らばった補給コンテナを収集し、補給を行う。BETAがいつ現れるか解らない以上、時間はかけられない。
中隊の全機が弾薬・推進剤の補給を終えた頃、レーダーが接近するBETA集団を捉えた。
《軌道爆撃開始まで粘るぞ! 気合を入れろ!》
疾走するBETA集団から逃げる様にインド陸軍の
主腕がもぎ取られた
支援砲撃は無い。砲兵部隊も撤退行動中だからだ。
《射撃開始!》
一列横隊に列んだチーターCが一斉に突撃砲を斉射、長距離砲撃戦を開始する。
砲撃戦で一方的にBETAを屠るが、押し寄せるBETAの勢いは留まるところを知らない。倒れる死骸を乗り越えて迫ってくる。
ゴルフ中隊は陣形を
《……来たぞ。ついてこい!》
ランドル中尉から前衛B小隊の指揮を引き継いだマレー少尉が
前衛の役割は敵の勢いを削ぐことである。
三機のチーターCは水平噴射で接近するBETA集団へ斬り込んだ。
戦域マップにおいて前衛はBETAの波を切る様に進んだ。
後続の中衛、後衛は射撃で前衛が対処できる程度に屠りながら、自機に迫るBETAを排除する。
(支援砲撃がないのはっ、流石にキツイっス!!)
押し寄せるBETA群は留まるところを知らない。
撃破し続けながらもじりじりと彼我の距離は詰まってきていた。
前衛がその都度突撃し、敵の勢いを殺しているがそれも限界がくる。
《クソっ!! ……あづッ────》
ズールー一一/ドルー・ラングリッジ少尉が
ゴルフ中隊は遂にBETAとの至近距離での乱戦にもつれ込んだ。
迫る
それでもゴルフ中隊は何とかBETAを押し止められていた。
《あと少しで軌道爆撃だ! 耐えろ!》
リチャードソン大尉は
網膜に映る機体状態を確認すると、右膝部が致命的な損傷を意味する赤に染まっていた。
(あのときかッ!?)
右膝は少し前の戦闘で接近した
崩れたバランスを立て直す為に隙が生まれる。
乱戦時にこの隙は致命的であった。
背後から迫った
《中隊長!》
周囲の部下達がリチャードソン大尉を救出しようとするが皆、自機に迫ってくるBETAに対処するので手一杯であった。
「今助けるっス!」
飛びついてくる
《……
マーシャル少尉の背後に迫る
突撃砲は三六ミリ、一〇五ミリ共に弾切れ中であり、残った遠距離攻撃手段は一つだけ。
マレー少尉は重厚な両刃斧である
投擲した後の硬直したマレー少尉機に、突如横から
《お前ら、後は任せたぞ!》
同時に
「マレー少尉……中隊長……ッ!?」
一気に頼れるベテラン衛士二人を失い、強敵である
《
「り、了解っス!」
残り二人となった前衛スキナー少尉とマーシャル少尉が
「…………ッ!? 喰らえっス!」
体液を撒き散らした
スキナー少尉も非力な一〇五ミリを弾倉が空になるまで撃ち込んで
しかし、そこまであった。
二人を除いたゴルフ中隊は頼れる中隊長リチャードソン大尉の戦死と
《CPより、ズールー。軌道爆撃が開始される、現地域から離脱せよ》
ここに来てようやく待ち望んだ軌道爆撃が開始される。
スキナー少尉は主機を吹かして離脱姿勢をとった。
《
「…………すいません。自分はいいっス」
《何言って……》
マーシャル少尉のチーターCは跳躍ユニットを損傷していた。スキナー少尉もそれを目視で確認する。
《くそッ!
「ッ!? 了解っス!!」
二機のチーターCは突撃砲を構えながら向ってくる
H.13ボパールハイヴ攻略作戦、『スワラージ作戦』は失敗。
地上に溢れ出たBETA群は軌道爆撃により殲滅。作戦部隊が追撃により甚大な被害を受ける事はなかった。
作戦自体は失敗したものの、インド亜大陸における人類側の戦力建て直しに成功。インド亜大陸は一九九四年まで抗戦を続ける事になる。