Muv-Luv Tactical Surface Fighter Variation   作:オデ オマエ マルカジリ(CV:戦車級)

9 / 17
【ズールー戦士は怯まない】後編

 

 

 

 キャリアー〇七/ヴラジーミル・ルバノフ中尉は国連 第一戦術戦闘攻撃部隊(A-01)に属する衛士である。

 ルバノフ中尉は祖国ソビエトを下劣な異星起源種共から護るために戦う事を決意した衛士であった。献身的に戦う日々の中、彼は祖国と偉大なる党から極秘計画への従事を命じられ国連軍へと出向する。

 当初は自身を評価されたことに対して歓喜していたが、今では地獄とも言える最前線の方が恋しかった。

 

「…………」

 

 そして今、ルバノフ中尉は祖国から遠く離れたインド亜大陸にて、F-14 AN3(マインドシーカー)に乗り込みH.13 ボパールハイヴの地下茎構造(スタブ)内、深度約五〇〇メートルの地点いた。

 戦術機のセンサー越しに手足をもがれた瀕死の要撃(グラップラー)級を見ている。歯を食いしばった様な一見頭部に見える要撃(グラップラー)級の尾節をかれこれ一分近く眺めていた。

 ちらりと複座管制ユニットの前席を見る。

 銀髪の小さな後頭部。少女と言っても過言ではない年齢の子供が座っていた。

 ルバノフ中尉が属する極秘計画、『オルタネイティヴ第三計画』が生み出した人工ESP発現体。それが目の前に座る少女、スキャナー〇七/アントニーナ・トリーチナ少尉である。

 

(不気味だ)

 

 無表情で無感動な言動、整った容姿がかえって人間味を薄くしていた。

 トリーチナ少尉ら人工ESP発現体にはESP能力、リーディングやプロジェクションといった、いわゆる超能力が備わっている。

 二人が所属する第一戦術戦闘攻撃部隊(A-01)に課せられた任務は、リーディングによるBETAからの情報収集であった。

 国連宇宙総軍 第一軌道降下兵団やインド陸軍 第一戦術機甲師団と共にハイヴ内へと突入した第一戦術戦闘攻撃部隊(A-01)の三個中隊はハイヴ内のリーディングによる調査を実施している。

 ハイヴ内という閉鎖空間での戦闘は過酷で、これまでにリーディングを担任する人工ESP発現体を乗せた一個中隊十二機のF-14 AN3(マインドシーカー)は九機にまで減り、直掩担当のMiG-27(アリゲートル)二個中隊は半数が撃破に至っていた。

 

「反応ありません。対象のリーディングに失敗」

 

 トリーチナ少尉の抑揚の無い声が紡がれる。

 

《キャリアー〇七、始末しろ先へ進む》

「了解」

 

 ルバノフ中尉はナイフシースから短刀を取り出すと、動くこともできない要撃(グラップラー)級を上段から貫いて絶命させた。

 

《先行する第一軌道降下兵団の位置まで前進する》

 

 既にルートスキャンを終えた横坑(ドリフト)へと護衛のMiG-27(アリゲートル)が先導する形で動き出す。

 

《ダ……バー〇一……作戦司令部(HQ)。……広間(ホール)……て師……規模のBETAと……、……中!》

 

 途切れ途切れの無線通信が全周波数に向けてながれる。主縦坑(メインシャフト)を目指して先行している第一軌道降下兵団からの通信であった。

 

《前方に突撃(デストロイヤー)級多数!》

《何ッ!?》

 

 進路上の横坑(ドリフト)から床を疾走してくる突撃(デストロイヤー)級の集団が現れた。

 狭く三次元的機動が制限される地下茎構造(スタブ)において、突撃(デストロイヤー)級は凶悪な敵と言えた。

 護衛のMiG-27(アリゲートル)が一二〇ミリ砲で先頭の突撃(デストロイヤー)級数体を撃破し、後続を追突させる。

 これで大部分の突撃(デストロイヤー)級の動きを封じる事はできたが、それでも数体が抜けてきた。

 

(クソッ!)

 

 跳躍ユニットに火を入れて小さく跳ぶ。

 高く飛び過ぎれば横抗(ドリフト)の天井に激突して機体が損傷してしまう。跳躍ユニットが損傷でもすれば次の回避はできない。

 ルバノフ中尉はF-14 AN3(マインドシーカー)の可変翼を巧みに使って、突撃(デストロイヤー)級と天井の間に機体を滑らせた。

 眼下を突撃(デストロイヤー)級が駆け抜けていく。

 回避に失敗したMiG-27(アリゲートル)突撃(デストロイヤー)級の装甲殻に弾き飛ばされて墜落、そのまま後続の突撃(デストロイヤー)級に轢きつぶされる。

 通過していった突撃(デストロイヤー)級は横幅の無い横坑(ドリフト)では旋回することもできずそのまま先へと進んでいく。その背後を生き残ったMiG-27(アリゲートル)が突撃砲で射殺する。

 これで終わりではない。玉突き事故を起こした突撃(デストロイヤー)級の陰から続々と戦車(タンク)級の群れが突撃(デストロイヤー)級の死骸を乗り越えて来る。

 ルバノフ中尉も突撃砲を構えて戦車(タンク)級を撃破していく。

 

偽装縦坑(スリーパー・シャフト)だ!!》

 

 部隊背後の横坑(ドリフト)の天井が崩れ、偽装縦坑(スリーパー・シャフト)が姿を現し、中から戦車(タンク)級の集団が落ちてきた。

 

《この……ッ! ……数が……!?》

 

 最後尾に居たF-14 AN3(マインドシーカー)が落ちてきた戦車(タンク)級に纏わりつかれて、そのまま押し倒される。

 BETAに挟撃されたMiG-27(アリゲートル)F-14 AN3(マインドシーカー)は必死に抵抗するが一機また一機と戦車(タンク)級の波にのまれていく。

 ルバノフ中尉の機体もガンマウントまで全ての武装を使って迫りくる戦車(タンク)級を倒していくが、遂に飛びつきを防ぎ切れずに組みつかれて押し倒された。

 戦車(タンク)級はその強靭な顎で押し倒した戦術機を解体していく。

 ベテランの衛士であるルバノフ中尉はこの後自身に訪れる結末が容易に想像できていた。

 

「くそッ! くそッ! くそッ!」

 

 操縦桿を操作するが何の反応も帰ってこない。

 機体が激しく揺れ、装甲を嚙み砕く音が追い詰めるように管制ユニット内に響く。

 

(こんな……こんなところで……)

 

 幸いなのは無線が死んでいることだろう。生きていれば先に引きずり出される誰かの悲鳴を嫌でも聞くことになっていた。

 前席で膝を抱えて縮こまっているトリーチナ少尉の姿が目に入った。

 

嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ

 

 小さな肩を震わせ、涙を流しながら恐怖に震える姿にルバノフ中尉は何故か安心した。

 

(……ちゃんと人間だったんだな)

 

 遂に管制ユニットが軋み、僅かにできた隙間から生暖かい風と硫黄の臭いが入り込んでくる。隙間に戦車(タンク)級の赤い指が挿し込まれた。

 次の瞬間には管制ユニットのハッチが剝ぎ取られ、肉眼で戦車(タンク)級と対面する。

 戦車(タンク)級は恐怖に震えるトリーチナ少尉を掴み上げた。

 

「嫌ァアアア! 助けて! お母さ──────」

 

 今までの無表情は消え失せ泣き叫ぶ少女の華奢な身体が目の前で噛み千切られる。胸から上を失った断面から鮮血が噴水の様に吹き出し、赤黒い内臓が零れ落ちた。

 別の戦車(タンク)級が管制ユニットの中を覗き込んだ。次はルバノフ中尉の番である。

 

 

 

 ハイヴ内部に突入した第一軌道降下兵団、第一戦術戦闘攻撃部隊(A-01)との通信が深度五一一メートル地点にて途絶。ハイヴ内の兵站確立を目指していたインド陸軍 第一戦術機甲師団隷下部隊からも続々と交戦報告が上がった。

 作戦を統括する国連印度洋方面軍作戦司令部は『スワラージ作戦』の中止を決定。作戦に参加する諸部隊の撤退が開始された。

 古来より、軍事作戦において、最も難しいのが撤退である。

 

 ハイヴの地下茎構造(スタブ)と地表を繋ぐ(ゲート)前を南アフリカ国防軍 第二戦術機甲連隊 第三大隊 第九中隊のチーターが鶴翼参陣(ウィング・スリー)で展開、十字砲火による火力の集中で(ゲート)から溢れ出るBETA群を押し留めようとしていた。

 

《ラーテル〇九、リロード!》

《中隊長! そろそろ弾薬がヤバいですよ!》

《もう少し粘れ! 我々が今下がれば後退中の戦車部隊が追いつかれる!》

 

 三六ミリ砲弾の嵐がBETAを鏖殺していくが、水が隙間から滲み出る様にしだいに地表に広がって行く。

 前方の要撃(グラップラー)級に集中して銃撃を浴びせるラーテル〇五/クリフォード・ブロードベント少尉の網膜に背後からの接近警報が投影された。

 

《え?》

 

 突撃(デストロイヤー)級の衝角がチーターの腰部へ背後から追突する。

 装甲が砕け、電磁伸縮炭素帯(カーボニック・アクチュエーター)が引き千切れ、下半身は砕け散り、上半身が回転しながら宙を舞う。

 

《ち、中隊長! ラーテル〇五が……ッ!!》

《ば、馬鹿な! 他の部隊は何をやって──────》

 

 別の(ゲート)から出てきたBETA群に後背を突かれた第九中隊は瞬く間にBETAとの近接戦にもつれ込んだ。

 第九中隊の衛士達は危険な近接戦の経験に乏しくみるみるうちに戦域マップから光点が消失する。

 ラーテル〇一/ジェフリー・ペニントン大尉は部隊の潰走を防ごうと鼓舞を続けていたが要撃(グラップラー)級の一撃が管制ユニットに突き刺さり圧死した。

 

《ラーテル〇一戦死(KIA)! ラーテル〇三が指揮を継承する! 生きてる奴は返事しろ!》

《ラーテル〇四!》

《ラーテル〇九健在! ラーテル〇六もだ!》

《ラーテル一一生きてます!》

 

 第九中隊は既に半数近くを失い、残弾数も三割を切っていた。

 

《このままじゃ全滅だ! 離脱するぞ!》

《離脱するったって包囲ざれ゛ッ──────》

《ラーテル〇四が殺られた!》

 

 生き残った各機は円壱型(サークル・ワン)を組んで迫りくるBETAを殺していく。

 ラーテル〇六/ジェイク・エアハート少尉の脳裏に「全滅」の二文字が横切る。

 

《くっそぉおおおお! ッ!?》

 

 残弾ゼロ。エアハート少尉の突撃砲が動作を止めた。

 眼の前には口を開けた戦車(タンク)級が両手を掲げて迫っていた。

 

《あ……ああっ……!》

 

 迫りくる戦車(タンク)級が横殴りに吹き飛び大地の滲みと化す。三六ミリの嵐が第九中隊を包囲するBETA群へ襲いかかる。

 

鎚壱型(ハンマーヘッド・ワン)へ移行。前方の友軍を救出する》

 

 ズールー〇一/ジョナサン・リチャードソン大尉率いる南アフリカ国防軍 第三二戦術機甲(バッファロー)大隊 ゴルフ中隊のチーターC十一機が楔壱型(アローヘッド・ワン)から隊形を変えながら接近してきた。

 ズールー〇二/サム・ランドル中尉率いる前衛B小隊が戦車(タンク)級と要撃(グラップラー)級の群れに突っ込み進路を邪魔するBETAを挽き肉へと変えていく。

 ズールー〇四/ンジャブロ・マレー少尉は背中に背負ったCQW-01(バトルアックス)を手に取ると、足元に群がる戦車(タンク)級へと振り下ろした。その横でズールー〇五/コルネリアス・マーシャル少尉が長刀を抜き、戦車(タンク)級をまとめてスライスする。

 マレー少尉とマーシャル少尉の突撃前衛(ストーム・バンガード)二人に近づくBETAをズールー〇六/ゴードン・スキナー少尉が的確に撃破していく。

 

《……そこの奴。無事か?》

 

 要撃(グラップラー)級の頭部をかち割りながら、第九中隊のチーターを庇うようにマレー少尉が立ち塞がった。

 

《お、お前はあの時の黒人!?》

 

 網膜に投影されたエアハート少尉が、ナーグプルの前進基地(FOB)で暴言を吐いた衛士であることに、マレー少尉も気がついたが無視する。

 

《助けに来たぞ。離脱できるか?》

 

 戦車(タンク)級を射殺しながら、リチャードソン大尉がラーテル〇三/ランドル・アクトン中尉に問いかけた。

 

《ああ、助かっ────左だッ!》

 

 アクトン中尉の鋭い声に反応して左を向けば、要撃(グラップラー)級がリチャードソン大尉へと距離を詰めて来ていた。

 

《クソ!》

 

 アクトン中尉からはリチャードソン大尉が射線に被って射撃ができない。リチャードソン大尉は素早く突撃砲の射撃を開始した。

 要撃(グラップラー)級は硬い前肢を盾の様に構え、三六ミリ砲弾を弾きながら接近する。

 

《……っ!》

 

 突撃砲の残弾がゼロになる。弾倉を交換する暇はない。リチャードソン大尉は要撃(グラップラー)級へと踏み込む。

 要撃(グラップラー)級の振りかぶった前肢を左主腕に持った追加装甲で受け止めながら、膝蹴りを要撃(グラップラー)級の頭部へと打ち込んだ。

 チーターCの膝部に備え付けられたアーマースパイクが要撃(グラップラー)級の生体装甲を突き破り、頭部を破壊する。

 二度の膝蹴りで要撃(グラップラー)級は活動を停止し、力なく崩れ落ちた。

 

《離脱するぞ! 全機跳躍開始!》

 

 リチャードソン大尉の号令でゴルフ中隊と第九中隊の戦術機が飛び上がり、匍匐飛行に移る。

 マーシャル少尉は動き出した戦域マップの光点が一つ残っていることに気がついた。

 

ランドル中尉(ズールー〇二)! どうしたっスか!?」

《……跳躍ユニットをやられた。先に行け!》

《…………全機続け!》

 

 見捨てられないと引き返そうしたマーシャル少尉を僚機のマレー少尉が立ち塞がって引き留める。彼は首を横に振った。

 ランドル中尉のチーターCはガンマウントを含む全ての武装で抵抗を続けたが、戦車(タンク)級の赤い波に抗うことはできずに飲み込まれていった。

 

 ゴルフ中隊は損傷機だらけの第九中隊を中央に据え.楔参型(アローヘッド・スリー)で友軍を目指す。

 

《CPよりズールーリーダー。ズールーはポイント二三に展開、同地域で遅滞戦闘を実施せよ。一九二〇秒後に国連宇宙総軍第三艦隊が軌道爆撃を実行する》

《ズールー〇一了解。ラーテル〇三、ここでお別れだ! 中隊各機は俺に続け!》

《ズールー〇一、世話になった!》

 

 ゴルフ中隊は踵を返して指定されたポイントへと飛んでいく。

 

 ポイント二三は砲弾痕で耕された荒地だった。

 到着してまず、周辺に散らばった補給コンテナを収集し、補給を行う。BETAがいつ現れるか解らない以上、時間はかけられない。

 中隊の全機が弾薬・推進剤の補給を終えた頃、レーダーが接近するBETA集団を捉えた。

 

《軌道爆撃開始まで粘るぞ! 気合を入れろ!》

 

 疾走するBETA集団から逃げる様にインド陸軍のMiG-21(バラライカ)が数機ほど向かってくる。彼らはゴルフ中隊より前方で遅滞戦闘を行っていた部隊の数少ない生き残りであった。

 主腕がもぎ取られたMiG-21(バラライカ)とすれ違いながらマーシャル少尉は操縦桿を握り直す。

 支援砲撃は無い。砲兵部隊も撤退行動中だからだ。

 

《射撃開始!》

 

 一列横隊に列んだチーターCが一斉に突撃砲を斉射、長距離砲撃戦を開始する。

 要撃(グラップラー)級が穴だらけになり、突っ伏すように倒れ伏す。戦車(タンク)級の足から上が肉を弾け飛ばしながら活動を停止する。

 砲撃戦で一方的にBETAを屠るが、押し寄せるBETAの勢いは留まるところを知らない。倒れる死骸を乗り越えて迫ってくる。

 ゴルフ中隊は陣形を楔参型(アローヘッド・スリー)に切り替えて近接戦に備える。

 

《……来たぞ。ついてこい!》

 

 ランドル中尉から前衛B小隊の指揮を引き継いだマレー少尉がCQW-01(バトルアックス)を抜きながら告げた。

 前衛の役割は敵の勢いを削ぐことである。

 三機のチーターCは水平噴射で接近するBETA集団へ斬り込んだ。

 CQW-01(バトルアックス)の重厚な刃が要撃(グラップラー)級を叩き割る様に食い込み、すれ違いざまに振るった長刀が要撃(グラップラー)級の尾節を切り飛ばす。

 戦域マップにおいて前衛はBETAの波を切る様に進んだ。

 後続の中衛、後衛は射撃で前衛が対処できる程度に屠りながら、自機に迫るBETAを排除する。

 

(支援砲撃がないのはっ、流石にキツイっス!!)

 

 押し寄せるBETA群は留まるところを知らない。

 撃破し続けながらもじりじりと彼我の距離は詰まってきていた。

 前衛がその都度突撃し、敵の勢いを殺しているがそれも限界がくる。

 

《クソっ!! ……あづッ────》

 

 要撃(グラップラー)級と戦車(タンク)級の攻撃を回避するために跳び上がったズールー〇九/サミュエル・パーク少尉が光線(レーザー)級の照射に射貫かれた。

 ズールー一一/ドルー・ラングリッジ少尉が要撃(グラップラー)級の一撃を回避しきれずに胸部装甲ごと叩き潰される。

 ゴルフ中隊は遂にBETAとの至近距離での乱戦にもつれ込んだ。

 迫る戦車(タンク)級を斬り捨て、射殺し、次々と屠っていくが、一瞬の判断の遅れや操作ミスで一機また一機と欠けていく。

 それでもゴルフ中隊は何とかBETAを押し止められていた。

 

《あと少しで軌道爆撃だ! 耐えろ!》

 

 リチャードソン大尉は要撃(グラップラー)級の衝角を備えた前肢の強烈なフックを回避しながら三六ミリを叩き込んで撃破するが、かくんとバランスが崩れた。

 網膜に映る機体状態を確認すると、右膝部が致命的な損傷を意味する赤に染まっていた。

 

(あのときかッ!?)

 

 右膝は少し前の戦闘で接近した要撃(グラップラー)級に膝蹴りを食らわせた部位である。あのときは何ともなかったが、電磁伸縮炭素帯(カーボニック・アクチュエーター)が負った負荷により、今この瞬間に限界が来たのだ。

 崩れたバランスを立て直す為に隙が生まれる。

 乱戦時にこの隙は致命的であった。

 背後から迫った要撃(グラップラー)級の一撃が右主腕を砕き、その衝撃で回転しながら倒れたチーターCに戦車(タンク)級が群がり、その強靭な顎でセンサーや火器管制装置(FCS)が搭載された頭部を噛み砕く。

 

《中隊長!》

 

 周囲の部下達がリチャードソン大尉を救出しようとするが皆、自機に迫ってくるBETAに対処するので手一杯であった。

 

「今助けるっス!」

 

 飛びついてくる戦車(タンク)級を斬り裂き、マーシャル少尉が強引に救出しようと突撃砲を構えるが組み付いた戦車(タンク)級とリチャードソン大尉機の射線が被って撃てずにいた。

 

《……マーシャル少尉(ズールー〇五)後ろだ!》

 

 マーシャル少尉の背後に迫る要撃(グラップラー)級。マレー少尉は警告を発しながらカバーすべく動いた。

 突撃砲は三六ミリ、一〇五ミリ共に弾切れ中であり、残った遠距離攻撃手段は一つだけ。

 マレー少尉は重厚な両刃斧であるCQW-01(バトルアックス)を投擲する。回転しながら飛んだCQW-01(バトルアックス)要撃(グラップラー)級に深々と突き刺さった。

 投擲した後の硬直したマレー少尉機に、突如横から要塞(フォート)級の長い触手が高速で襲いかかる。衝角を備えた触手は無防備なチーターCの胴体を貫いた。

 

《お前ら、後は任せたぞ!》

 

 同時に戦車(タンク)級に貪られていたリチャードソン大尉のチーターCが主機を暴走させて自爆する。

 

「マレー少尉……中隊長……ッ!?」

 

 一気に頼れるベテラン衛士二人を失い、強敵である要塞(フォート)級が複数体現れる。

 

マーシャル少尉(ズールー〇五)! 要塞(フォート)級を殺るぞ!》

「り、了解っス!」

 

 残り二人となった前衛スキナー少尉とマーシャル少尉が要塞(フォート)級へと突撃する。

 

「…………ッ!? 喰らえっス!」

 

 要塞(フォート)級の尾節から放たれた触手が跳躍ユニットを掠めながらも、マーシャル少尉は要塞(フォート)級に肉薄し長刀で弱点である三節構造の接合部を斬り裂く。

 体液を撒き散らした要塞(フォート)級が足元の戦車(タンク)級を巻き込みながら倒れ伏す。

 スキナー少尉も非力な一〇五ミリを弾倉が空になるまで撃ち込んで要塞(フォート)級を一体仕留める。

 しかし、そこまであった。

 二人を除いたゴルフ中隊は頼れる中隊長リチャードソン大尉の戦死と要塞(フォート)級の襲来に対応しきれずに次々と討ち取られていた。

 

《CPより、ズールー。軌道爆撃が開始される、現地域から離脱せよ》

 

 ここに来てようやく待ち望んだ軌道爆撃が開始される。

 スキナー少尉は主機を吹かして離脱姿勢をとった。

 

マーシャル少尉(ズールー〇五)行くぞ!》

「…………すいません。自分はいいっス」

《何言って……》

 

 マーシャル少尉のチーターCは跳躍ユニットを損傷していた。スキナー少尉もそれを目視で確認する。

 

《くそッ! マーシャル少尉(ズールー〇五)、BETA共を狩りつくぞ!》

「ッ!? 了解っス!!」

 

 二機のチーターCは突撃砲を構えながら向ってくる戦車(タンク)級を迎え撃った。

 

 

 

 H.13ボパールハイヴ攻略作戦、『スワラージ作戦』は失敗。

 地上に溢れ出たBETA群は軌道爆撃により殲滅。作戦部隊が追撃により甚大な被害を受ける事はなかった。

 作戦自体は失敗したものの、インド亜大陸における人類側の戦力建て直しに成功。インド亜大陸は一九九四年まで抗戦を続ける事になる。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。