ヤマなしオチなし 作:マンドゴラ
「僕がこいつの新人教育を?」
僕が指を差した先には、青年が爽やかな笑みを浮かべていた。
「よろしくお願いします!」
「嫌なんだけど」
「ソールって言います!」
「聞いてる?」
許可もしていないのに勝手に僕の手を取って、ブンブンと握手を交わす。
僕の様子を見ながら、ギルドマスターはカラカラと笑うばかり。
握られた手を振り払う。
「辞退させていただきます」
「そう言うな。ソールは期待の新人、下手な奴に任せたくない」
「それだったら、僕より優秀な人に頼んだ方がいいと思います。それとも、僕でないといけない理由が?」
僕の疑問に、ギルドマスターは無駄にもったいぶってから口を開く。
「ちょうど暇だったのがお前だった」
……しょうもねぇ。
「悪いがこの件に関しては周りに周知済みだ。辞退するという選択肢はないからそのつもりでな」
言いたいことだけ言うと、ギルドマスターはとっとと部屋から出ていった。
残ったのは僕と、新人だけ。
「先輩の話はギルドマスターから伺ってます! 最年少にして最速でAランク冒険者になった優秀な方だと!」
「どうも」
「そのような先輩の指導をしていただける機会を貰えて、心の底から嬉しいです!」
「気持ちは伝わったから、声量下げてもらっていい?」
「分かりました!」
わかってないじゃん。
にしても、困ったことになった。新人教育とかしたことないよ。何からすればいいんだ? というか、どこまで教えたら終了なんだ?
なんも思いつかない。立ちっぱなしも癪だから、ソファに腰掛ける。ソールはジッとこちらを見るばかりで、座ろうとする気はなさそう。
「ソールは、なんでこのギルドに来たの?」
「理由は……そうですね」
「私には4つ下の非常に可愛らしい妹がいます。どれくらい可愛いかというと、目が合っただけでその可愛さに思わず平伏してしまいそうになるほどで、お兄ちゃんと呼ばれた暁には――」
「その話いる?」
「失礼いたしました」
恍惚とした表情で語ってたのに、一瞬で真顔になった。
何この人怖い。
「先立ってアル先輩にわかっていただきたいのは、妹が非常に可愛らしいという事」
「十分わかった。それで妹が可愛い話と、このギルド加入に何の因果関係が?」
「このギルドは国から治安維持の協力を申し立てられていますよね」
「……そうだね。あくまでも、ギルドの中から選ばれた青布の人達だけだけど」
青布っていえば、国とギルドから認められた冒険者に贈られる物。逮捕する権限が貰えたり、青布の指示の元なら一般の冒険者でも逮捕協力することが出来る優れもの。冒険者のいざこざには、冒険者をぶつけちゃおう! という理由で作られた奴だけど、権限が行使されてるところは見たことない。というかそんなマイナーな情報、よく知ってたな。
「私はここで青布を獲得し、妹が暮らすこの国を少しでも平和にしたいのです」
「それだったら、わざわざ苦労して青布を取るより、衛兵になった方がよくない?」
「駄目です! 衛兵になったら妹と自由に会える時間が減ってしまうではないですか!」
「あ、そういう」
確かにここは成果制だから、依頼さえ早くこなせればいくらでも自由に動ける。定時勤務の衛兵とは、自由度が圧倒的に違う。だとしてもだ。
「青布を獲るのは結構大変だよ? Aランクは最低条件として、教養も実力も人柄も大切。やり通す覚悟はあるの?」
試すように訊けば、凛とした眼差しが僕を捉えた。
「我が妹の為なら、いくらでも頑張る所存です!!」
理由はともかく、その真っ直ぐな姿勢には目を見張るものがある。
「それじゃあ、今日からよろしくね」
自然と言葉が出ていた。
僕の一言に、新人はとびっきりの笑顔を浮かべる。
「はい!!」
うるさいのだけはどうにかしてくれ。
一人称って楽だよね。自分は三人称の方が好きではあるけども