藍染惣右介と親友なだけでなんの取り柄もない一般死神 作:青森の桜前線
「わあ…!」
それはある種の憧憬だったのだろう。
真央霊術院。その入学式での一幕である。身なりからして出身がバラバラであることを暗に示す礼装に身を包んだ文字通りピカピカの新入生たちは、これから始まるであろう6年間に思いを馳せると同時に、今壇上に上がっている1人の少年に驚嘆と少しの嫉妬混じりの眼差しを向けていた。
「…以上のことを肝に銘じまして、僕”藍染惣右介“をはじめとした101名の新入生たちは、この学び舎を枕にして精一杯の努力と研鑽を積むことを誓い、新入生代表の言葉とさせていただきます。」
一礼と少しの静寂ののちに、凄まじい喝采の音が式場にこだました。見事なものであった。その辞の具体的な内容もそうであるが、何よりも彼の凛としたそして誠実そうな空気感に皆呑まれていた。入学試験を1番の成績で合格した彼の名前は藍染惣右介。彼の生家である愛染家は中々の名家であり過去にも優秀な死神を多く輩出してきた。しかし、その中でも彼は比類なき才能の持ち主との評価を得ている。そんな彼が役目を終えて壇上から降りてゆく。その後ろ姿を頼もしそうに見送った老齢な死神”山本元柳斎重國“は、代わるようにして壇上に立った。
「立派じゃったぞ愛染君。…さて皆の者も彼を手本とし」
そこからは長い話が続いた。恐らくは大先輩死神による非常に為になる話が聞けたのだろうが、僕にとってはそれどころではなかった。
僕と言うのは一人称、これは無論自分自身のことを指す。今年この真央霊術院に何とか(後ろから3番目)合格し、晴れて(両親から猛反対)この入学式に参加している僕の名前は
「
「!!?? はっ、はいぃ!!」
「貴様何をしている!他の者はもう教室へと戻ったぞ。ぼうっとするな、わかったら早く行け!」
「すっ、すいませんでしたぁ…!」
四方田寅丸である。………なんかぱっとしない名前だなぁってそう思ったでしょ!ねぇねぇ!いや、本当にね僕が一番思ってるよぱっとしない名前にぱっとしない人生。特にこれと言って特技と言えるものもないし、この霊術院に入れたのもほとんど奇跡みたいなものだ。僕は泣いて喜んだねやったー!って。…周りの子たちはやれ特進に入れなかっただのほざいるが僕にとっては関係ないっ!ここから僕の人生を変えてやるんだ!って息巻いてたけど。
(…あんな子がいるんだなー)
藍染惣右介くん。見るからに利発そうだし、山本総隊長もあんな態度だし、他の先生たちも彼に向けるそれは明らかな特別視であった。そのことに僕は最初愚かしくも嫉妬を覚えたけど、さっきの彼の声を聞いてその印象がガラリと変わった。
彼は完璧な人間なんだと。欠点を挙げようがないくらいに、不自然なくらいに完璧な人物…それはもはや普通の領域の外にあるのだと。彼という存在は異質なものなんだと理解した時、僕は彼に向けていた感情が嫉妬から興味に変わった。それはそうだ。人は未知なるものに好奇心を覚えるからね。僕はさっきまでその感情に打ちひしがれて、周りの新入生たちに置いてけぼりをくらったんだけどね。ははは。
「話してみたいな…藍染くんと」
そんなこんなで入学してから3ヶ月が経過した。霊術院での生活にも慣れ(勉強についていくので精一杯)、学生生活を満喫(身分の低い僕は友達ゼロ)していた僕は唯一不満なことがあった。それは、
「話せてない…」
そう、藍染くんとまだ一言も、というか会ってすらいないのだ。最後に見たのが3ヶ月前の入学式でのあの姿、それっきりである。それもそのはず藍染くんは特進クラス。それに比べて僕は3組、言わずと知れた劣等生たちのクラスである。霊術院における3組とは、平隊士養成所と一部では揶揄されるほどのところで、卒業生から席官が輩出されることは滅多に無く、輩出されればそれはもう教室の黒板に堂々と貼り出されるくらいの一大事なのだ。そんな訳で、彼とはカリキュラムも何もかもが違う訳で…、こんな劣等生の僕が会えるはずもない存在だった。
だからこそ
「あ」
「…ん?」
こんな出会いは最悪だったと、今になって思う。
「あああいっ…!藍染くんだよね!?」
「え、うん…えっと」
「あああのっ!ぼ、ぼく四方田寅丸って言うんだけどね!えっとね、ずっと君と話してみたかったんだ!えっとその、まさかこんなとこで出会えるとは思ってなくて!えっとね」
「あー…うん。とりあえずさ」
「…うん?」
「色々、終わってからにしないかい?」
藍染惣右介とのファーストコンタクトは厠だった。
さて、色々と終わらせてから厠の外の中に2人して出る。
先ほどはいきなり会えた興奮で我を忘れていたが、用を足してる時に突然隣の人から声をかけられたらそりゃびっくりするし、非常識にも程があることをやっと理解した僕は、土下座した。
「先程は大変失礼致しました」
「え…ちょっとなに、何してるんだい…?」
僕の突然の奇行に驚いて、急いでその行為を止めさせようとする藍染くんを無視して、僕は地面に額を擦り付ける。
絶対嫌われた絶対嫌われた。絶対変なやつだって思われた今後関わらない方がいい奴って思われた。ああ…腹を召したいぃ。
「とにかく顔を上げなよ、僕は気にしてないからさ。」
ぐいっと無理矢理に起こされる。それに伴って見えた藍染くんの表情は穏やかだった。
「本当に気にしてないよ…えっと、四方田くんだったよね」
「う、うん!四方田寅丸です!」
「そうか初めまして。僕は藍染惣右介、君と同じここの生徒だよ。…それで、僕に何の用かな?」
「用はもう終わったよ。今日は藍染くんと話せてよかった。また今度会えるといいね!」
「……えっと、まだ僕たち何もしてないと思うんだけど、一体どう言うことだい?」
「? 僕は藍染くんと話してみたかっただけだから、それ以外に用事はないよ?」
「………」
その時不意に授業開始5分前を告げるチャイムが鳴り響いた。
「わあ!もう授業だ。じゃあね藍染くん!また話せたらいいね!」
「…うんそうだね。またね、四方田君。」
そう言って僕はその場を後にした。
それにしても、印象また変わっちゃったなー。…藍染くんあんな目するんだね。僕もいろんな人たちを見てきた(実家の性質上)けど、あの目は…。
~誰も信用しちゃいませんって目だ~
「四方田君…」
また、取るに足らない小蠅の名前を覚えなくてはならなくなったな。煩わしい。