霊夢に博麗を継がせたら無視されるようになった   作:茶蕎麦

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 一ヶ月ぶりです! 皆様お元気していたでしょうか……なんかまだ暑かったりしますが、ご体調にはお気をつけて!

 今回は魔法使いサイドであり……そしてようやくのあの人の登場回。
 ちょっとどきどきして下さると嬉しいですー。


第二十七話 私に降って

 人はかすがいを増やすことで安堵する生き物である。

 友達家族に、上司に部下に好きな相手に嫌いな相手。または先生など。

 そのような比較対象を近場に置くことで確かに地に足を付けて歩めるのが人間という存在。

 生半可に切ったところで付いてくる、ありとあらゆる他者こそ己を認めるために必要な要素。

 

「まるで呪縛。でも、それだって穢れてさえいなければ月人達だって重宝しているのが関係というもの……本当、妹紅はあの子のための重しとしてはぴたりと嵌まって助かったわ」

 

 永遠と比べれば須臾ほど生きておらずとも、星と変わらぬ程に褪せた命。

 だが、そんなものを抱えながらも八意永琳は永劫怜悧なままに、思う少女のまま。

 そして蓬莱の人の形は、先を生きる者としての役割を博麗慧音を前に思い出してから、ずっと。

 永久を共に出来ずともたった一人の愛したい人の子のために永琳は改めて月夜にこう思うのだった。

 

「やはり、あの子は独りにはしておけない」

 

 たとえ慧音自身が単を望んでいたとしても、彼女には大勢の中小さく笑う姿の方が似合う。

 それになにせあの子は孤独に放っておいたら、そのまま独り空に飛んでいってしまうかもしれないのだから。

 

 博麗。遍く行き渡る程に広く、整って美しい。正に大空を意味するようなそんな大袈裟な姓を冠した巫女。そしてその体現だったのが、彼女。

 天高くを求めすぎた立派に過ぎる孤人はこの世のありとあらゆるものにそぐうことなく。

 ふと、八意永琳は微笑んで言った。

 

「本当、あの子は私にそっくり」

 

 学びにつと考えることは独りに立ち返ることにも似ている。

 捲り捲って歴史というひとつなぎの愛を知り愛を覚えても、それをどうしたって実感できず。

 ただ、誰より不信だった彼女は昨今の経験から、余計な艶纏うことすらなくあっけらかんとこう呟くのである。

 

「大丈夫。明け空にだって、時に月はあるものよ」

 

 月に寄り添う星も巨きく。

 そう、慧音という少女も、どこまでも頭でっかちすぎていたのだ。

 

 

 

 ソファに寝そべる少女の足はぱたぱた。人形のつぶらな瞳には、金色と偽悪的な笑みばかりが輝かんばかりに映り込む。

 細かく動く指先の家主に、まるで緊張というものを知らないかのような彼女はこう問いかけた。

 

「なあ、アリス。お前が魔界出身だって本当か?」

「……そうね。どうも間の抜けたあの人に聞いたようだけれど、それに間違いないわ」

「なるほど。ひょっとしたらあの考えすぎの慧音さんの勘違いって線もあったが、そうか。アリス、お前は本来シティ派だったんだな。魔法のメッカから極東までわざわざご苦労なもんだ」

「そうね。親子喧嘩で魔法の森に逃げ込んだ元霧雨店のお嬢様とはちょっと外出の規模が違うかもしれないわ」

「……ったく、慧音さんったら口が軽いぜ。それに私は逃げ込んだんじゃなくて魔法に挑戦したってだけでな……」

「あら。これに関しては、あの頭の固い人から聞いたわけじゃないわよ? 人里で人形劇を行った際に耳にしただけ」

「やれやれ。お人形遊びがお得意な魔人の耳にすら届くとはな。出てってもう長いってのに私はどうも人里の人気者過ぎて困るぜ……後、慧音さんが頭が固いってのは、同意だ」

「そうね」

 

 魔法の森であっても、あまりに日当たりの良すぎる場所、アリス・マーガトロイドの邸宅。

 自然と人と苦労を運ぶその中には自然編み針を上手に用いて毛糸を弄ぶアリスと、意外にも人形達にちょっかいをかけて遊ぶ魔理沙が言葉を交わしていた。

 多彩と一擲。そんな色の違う二人の会話は言葉のぶつけ合いに近いものであり衝突もままあるが、一つの話題においては存外意見がぴたり。

 

「そして融通の一切利かないあの人は、今魔法の森の手前をうろついているみたい」

「んな遠く離れたとこにまで目があるってのはえんがちょだが……やれ……こりゃ、案内に私の出番が必要かね?」

「そうかもしれないわね」

 

 その女性の存在を近くに知るだけで綺麗と愛嬌たっぷりに、苦笑いと苦笑いは向かい合う。

 片方は迎えの箒の用意をはじめ、もう片方はプレゼントのためのマフラーの完成を確かめ出す。

 そう、彼女らはどうもあの半人半獣、上白沢慧音のことを気に入っていた。

 

 

 霧雨魔理沙とアリス・マーガトロイドが知り合ったのは近頃、である。

 一直線な乙女と勿体ぶる子供。そんな合わない二人を遭わしたのは偶然。

 それも、慧音という付き合いの良い大人が魔理沙に連れ回されて落っこちた際に、アリスと出会い、その縁を彼女が魔理沙と繋げたのが顛末だった。

 

「よく考えたら、そもそもどうして飛べる慧音さんがあの日落ちたんだ? ちょっと振り回したらそのまま真っ逆さまとか、正直冗談かと思ったぜ?」

「いや……どうにも記憶喪失のためか、どうも飛ぶのに慣れていなくてだな……」

「だからって、地上すれすれでぷかりとし出すとか、非常識が遅すぎるわよ」

「慧音さんは常識が早すぎるからなあ……さもありなんってとこか」

 

 過日アリス邸に降り立った魔理沙は、帰りしなアイツとはどこもかしこも合わなそうだと述べていたが、実際再訪した慧音の感想としては真逆もいいところ。

 つんつんしながら意見を揃えてくる二人を前にたじたじになりながら、彼女はこう呟く。

 

「キミたちは仲が良いなあ……」

 

 割れ鍋に綴じ蓋というか、そっくり真逆意外とぴったりくっつき合えるというのは意外とよくあることである。

 だが当人達にはその自覚なんて欠片もないのか、嫌な顔してほとんど一斉にこう返した。

 

「なんだ、慧音さんはどこ見て言ってんだ? 私達の目の前で博麗神社の池の中の蛙の親子に対する感想を語られたって困るぞ?」

「そうね。このうるさいだけの打ち上げ花火と仲良くするのは私には難しいことよ」

「はは……ご近所様同士、仲良くするのはいいことじゃないか?」

「日向と日陰、居住地に限っただけでも私達の違いは大きいわ」

「はっ。日照関係なんてどうでもいいが、そもそもご近所って割には距離が遠すぎるよなあ、ここは随分と浅い」

「ふふ……魔理沙なら飛べば直ぐじゃないか」

「はんっ。生憎ながら直ぐに向かいたくなるような用もこいつ相手にはそうなさそうだ」

「なら、今日アポもなしに訪れたのは気まぐれかしらね? 子供は移り気だわ」

「やれやれ……やっぱり君たちは面白いな」

 

 ああ言えば、こう言う。

 ツンとツンが向き合えば言葉で刺し合い、牽制の応報だ。

 だが、それがアリスと魔理沙が友誼を深めるための特殊な方法であれば、慧音にとっても否はなく。

 とはいえ、もうちょっと面と向かい合いながら語り合う青春が何時か二人にあっても良いのではと苦笑するのだった。

 

「それで、こうしてついつい話し込んじまったが、慧音さんったらこんな辺鄙な場所目指してどうしたってんだ? 観光つっても幻想郷一のツアーコンダクターの魔理沙さんならこんな陰気な魔女の家は避けて通るぜ?」

「暑苦しい魔女見習いの方を選ばなかったのは賢明だけれど……そもそも魔法の森なんて人里の人妖にとってはろくでもないところよ」

「賛同するのは癪だが……まあ、確かに真っ白になるまで痩けた骸骨共がチラホラしているこの森は初心者には厳しいぜ」

「あはは……この神秘を隠せるまでに生きた森をそんな卑下するようなところではないと思うが……まあ、私がここに来たのは単純だよ」

 

 暗にしていた心配をちらりと披露する乙女たちに、慧音も多少笑みを引きつらせる。

 だが、この金糸で出来た対照的な二人を前に、気後れし続けてもいられない。

 慧音は、アリスから手渡しされた曰くつまらないものが入っているとされる包みを大事に抱きながらこう彼女らに問うのだった。

 

「アリス、魔理沙。君たちに問いに来た……人と妖怪は隣人足り得るかな?」

 

 それは、最近よくする思索の題名。あやかしであり人である上白沢慧音であるからこその、悩み。

 私は貴女たちと心の底から愛し合えるかというそんな疑問は。

 

「無理だな」

「可能よ」

 

 意見真っ二つに分かれた即答を返されるのだった。

 意外を聞いたために驚きに瞳を丸くする魔理沙を他所に、アリスはじゃれる人形に指先で静止をしながらこう続ける。

 

「生きることは恐れを学ぶことでもある……隔意ばかりが人ではないなら、隣り合うくらいなら問題ないわ」

「はん……現実逃避に人形遊びしているお嬢さんらしいご意見だ」

「魔理沙……君の意見はどうだい?」

「そうだなあ……」

 

 慧音に続けて問われ、魔理沙も視界まで落ちてきた長い金髪を指先にくるりと巻き付けながら悩む。

 人里を抜けたところで魔理沙にとって、妖怪は恐るべきものだ。

 なんでか慧音に対しては一切それを感じないが、それは例外として処理すべきものだと彼女は解している。

 

 何となく、記憶の奥に蓋を感じながらも、それ以外の明瞭なところから暗いものを持って、魔理沙は改めて説得をはじめた。

 

「この魔法の森ではじめて出来た友人に喰われかけた私の経験上、隣り合うってのは無理があるってもんだ……まあ、そいつはこの世にゃもう居ないがな」

「……魔理沙は、強いな」

「強くなったんだよ。ここじゃ、そうするしかないからな」

「そうか……」

 

 生きることは、そもそも恐怖に抗うものである。それを理解し努めて珍奇な魔女の格好をした人間となった魔理沙は、妖怪をそうそう信じない。

 彼女は化けの皮を脱いだ彼女らの醜悪さを知っていた。そして、そんなものを想像して生み出した人間の阿呆らしさだって重々に。

 そんなの共に、唾棄すべきであるからには、認めてられない。

 

 慧音はどうだか知らないが、人間全体がそんなに懐深くて何でも持っていられる力持ちではないのだと、魔理沙は悲しくも思うのだ。

 煩い少女の一時の沈黙に、アリスは特に感じ入ることもなく、冷静に頷き言った。

 

「魔理沙の言う通り確かに人は弱くもあって、だから万人があやかしを受け入れるのは不可能かもしれないわね」

「だが……」

「ええ。慧音。きっと貴女の考えている通りにだからこそ学ぶべきだとは思うわ」

 

 人が出来ることは、学ぶこと。

 それに傾注しすぎて頭でっかちな三人は、それぞれ違う所感を持ちながらも根源で同種だ。

 

 故に、その言葉ばかりは魔理沙の心にも響き、彼女の薄ら笑いの仮面に罅が入る。

 損ねた機嫌を矢面に出しながら、少女はこう呟く。

 

「……暗闇だって見てるんだぜ?」

「だからって、灯りもなしに怯え続けるだけが健全とは言えない。当然、恐怖に克つのばかりが人らしさじゃないけれど……」

 

 アリスとて、誰もかもが強くもなれないし、学びたいと志すことは出来ないなんて当たり前に知っている。

 故に、恐怖を飲み込むのは人の美徳であれどもそればかりを礼賛するのは偏っているのだとは分かっていた。

 

『アリスちゃん、よく頑張ったわね!』

 

 だが、だからこそ忘れられないものがある。

 母親のようだったあの人に、認められるくらいに背伸びできたあの日の努め。

 その心地よさを否定するのはそれを当たり前に出来るようになった今を汚すことでもある。

 

 だからこそ、アリスは魔理沙をじっと見つめながらこう言うのだった。

 

「それでも私は、頑張る人を否定したくない」

「なら、私は頑張れない奴らの気持ちに立って、それを無理と言うさ」

「それでいいわ」

「ああそうかい」

「頷いてくれて、良かった」

「……今のは植物の名前だがな」

 

 結果、意見は割れたまま。

 だが、異見の応報の中に心の距離は縮んだ。魔理沙とアリス。合わない視線の二人に緊張はもう、ほぼなかった。

 

 そんなものを間近に見たからこそ、慧音は確信した。

 人は、こうあるべきだと。

 

「ありがとう。人里からここまで来て君たちに聞いてみて、良かった」

 

 人はまとまり、群として意見を並べる。

 だが、そればかりが正解であるはずもなく、もっとも独り考える意見が正しいとも言えないのだけれども。

 

 でも、悩んであなたたちを理解をしたい。私は、私だけのものでありたくないから。

 

 彼女は、愛おしい子供のような少女達の前にて、破顔した。

 

「私はずっと悩み続けて間違えて……それでも、諦めないよ」

 

 こんな決意が、慧音の先生としての一歩であり。

 

 

 

 

「――あら……貴女が■■であるのは諦めたのに?」

 

 彼女がはじめて見咎めた彼女の愚言だった。

 

 それは当たり前のように空間の合間に存在し、赤を羽織ってたくましく垂らしたサイドテールをつまらなそうに白磁の指先にて肩後ろにずらす。

 出現途端にその場の三人が覚えたのは段違いの圧迫であり、存在の明度と重要度の差異。

 咄嗟に魔理沙はその場から身を引いて武器を構えようとし、アリスはその姿に対する親愛に手を伸ばそうとしたが。

 

「っ!」

「母さ……っ」

 

「――貴女達はちょっとお休みしていてね?」

「な」

 

 慈悲深いアルカイックスマイル一つ。それきりで、マリオネットの糸は絶たれた。

 ぱたり、と倒れ伏す二人にしかし慧音は慌てることも許されない。

 

 なにせ慧音とて警戒せざるを得ない、眼の前の人物はそれくらいにとびきり。

 幻想郷なんて何度滅ぼしても余るほどの力を持ちながら、それをお上品に蓋をしつつ、それでも明らかに、強い。

 童顔で柔らかで敵意なんてまるでなさそうだが、それがどうした。これは、なんとも恐ろしく、そして。

 

「君は……」

 

 旧くさくて懐かしい。

 胸が苦しくなるような郷愁の感に、思わず目を細める慧音に彼女、魔界神の神綺は。

 

「正しさに拘るからこそ間違える……でも慧音ちゃんのそんなドジなところも可愛いわ」

 

 指を一つ立てて、再会を喜ぶことすらないくらいの心の距離感を見せつけて。

 

「ただ……私の元におっこちてくれなかったのは、残念」

 

 そう言い、少し表情を暗くして。

 

 

「ねえ――貴女は今からでも、私に降っていいのよ?」

 

 友にせかいにさよならをさせようと強請るのだった。

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