霊夢に博麗を継がせたら無視されるようになった   作:茶蕎麦

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 こそこそ随分と久しぶりに失礼します……夏暑くて大変だったかもですが、皆さんご健勝であったら嬉しいですー。
 お蕎麦は色々ダメでしたが、こそこそ頑張りますね!

 今回はレミ/リアさんなお話。
 カリスマ爆発ですね……良いのか悪いのか。
 慧音さんは何だか難しいお話中です!


第三十八話 段階を踏まなければ

 世界が燃える。

 果たしてそんなのが錯覚でなければ、この世は地獄だ。

 そして、妹の手により一度にそんな地獄絵図を披露されたレミリア・スカーレットは、自身を正しく()()()()()()ほどの火炎の中に悶え苦しんでいた。

 

「ぐ……が……」

 

 消し炭からすらも巻き戻り続ける。そんなしぶとい五体を持っても治りきらない身体を空にて転がし、レミリアは苦悶をこぼす。

 本気も本気。フランドール・スカーレットの持ち得る全力で行使された破壊によって、館の上部は完全に吹き飛んでいる。

 天から覗いているのが満月の夜であることだって、別段彼女への慰めにはならない。破壊の炎は、あまりに少女の心身を痛めつけるものだったから。

 

「……フラ、ンっ!」

 

 宙にて燃え盛るレミリアは、もう下手人に対して怒っているのか悲しんでいるのかすらもよく分からない心地だった。

 正しく壊れているがために運命から外れている少女はだからこそ外出を好まなかったが、よりによって495年物の引きこもりが今になって顔を出したのか。

 そしてどうして姉として認めてくれていると思っていた彼女からこうも唐突な攻撃を受けてしまったのだろう。

 

「うう……」

 

 ただの一撃で、ここまで撚ってきた運命は手のひらから逃れた。台本は焼失し、演台も崩壊してしまえばもう。

 どうすればいいか途方にくれたくなるが、破壊の力はどうやらレミリアの持つ吸血鬼の回復力にすら傷をつけてしまったようであり、空にあることすら困難だ。

 だから顔を上げるにしばらく難儀していた彼女が見つけたのは。

 

 

「――楽しい夜になりそうね」

「――永い夜になりそうね」

 

 

「はぁ?」

 

 これが一番格好いいかしらと己が温めていた台詞を元に()()()()()()()が勝手に物語を進めている、そんな光景だった。

 

 

 

「……誰がやったのか知らないけれど、とんでもないわね、コレ」

 

 あまりの熱量に壊された空間にて、烟る空気。周囲ごと対象を燃やした威力は未だ空に燃え盛る赤を作って留まることを知らない。

 もはや末期、地獄的。先のメイドの反応を見るにどうもこの中に異変の犯人が存在していたようだが、これでは最早消しカスすらも残らないのではと霊夢は思う。

 まだこれで終わりの感はないが、しかしこれ以降どう続くのか。あの花妖怪ですら無事で済まないだろう眼前の地獄に、そしてそんなものを仲間へと放った何者かの精神に、さしもの霊夢も途方に暮れていた。

 

「仲間割れ……みたいね。はぁ。部下の手綱くらい確り持って居てほしかったのだけれど……残念なお嬢様ね」

 

 なーむー、とふざけた哀悼を捧げる巫女。

 人間では、いくら霊力のような力であっても近寄れない程の熱。

 こんな中で生きているなんてほとんどあり得ないが、あり得ないが形になっているのが妖怪であるならば、もしや。

 空に挑発するのもつまらないから、返事くらいないかと思う霊夢に、それは炎の中から言った。

 

「――――あら。南無阿弥陀仏を唱えるなんて、貴女こそ残念な巫女のようね……時代遅れの神仏習合? こんなのがメイドなんて貴女の神は息災なのかしら?」

「ふうん。まだ、この世から出ていってくれていなかったようね、お嬢様」

「ええ。久しぶりに外に出たけれど、まだまだこの世は楽しそう」

「ふぅん……」

 

 黒い空が燃え続けるというのは、異常。だが煙るそこから玲瓏な声色が流れるのは、最早恐ろしくすらあった。

 燃えていて、焼けている筈なのに、平常を演出する妖怪。

 中々そこから姿を現してこないことといい、随分不気味なものだと霊夢も思う。

 震えないが、強張る少女の唇の端。それを察したのかどうか不明ではあるが、気だるげに彼女は言った。

 

「はぁ……熱いわね」

「っ!」

 

 一陣。それで空を支配していた筈の炎は散る。赤は橙色に黄色を舞わせて短く咲いた。

 後に残るは、闇と赤き月。輝きから現れたのは、黒を纏った薄白い少女一人だけ。

 これがお嬢様なのかと、予想外の感覚に内心首を傾げながら霊夢は問った。

 

「……貴女は強いの?」

「さあね。その上今は丁度半分程度の力に落ちているようだけれど、それでも簡単には負けてあげられそうにないわ」

「中々出来るわね……」

 

 眼の前の少女が確かめるように手を開いて閉じる。それだけで、確かな妖力が弾けるように溢れるのが感じれられた。

 茫漠すぎて捉えようもない最強と比べるのは、ナンセンス。いっそ謙遜するように誇示している彼女のその力だけで、脅威だ。

 そもそも、人間を殺すのには赤子の力で足りるのは事実。意思があれば、それだけで大凡の存在は害をなせる。

 そして、この眼の前のお嬢様には先から凄まじい程の悪意と殺意を隠しているのは最早霊夢には分り易すぎた。

 

「こんなに月も紅いから本気で殺すわよ」

 

 瞳の紅は、最早害意の海。心が棘になるならとっくの昔に自分は刺し殺し尽くされているだろうと、思える。

 こいつ本当に弾幕ごっこのルールを守ってくれるのかしらと思えてしまうくらいの最悪地味た性根のようである存在に、霊夢は。

 

「そうね――こんなに月も紅いのに」

 

 三日月のように尖る口の端を抑えきれず、笑い。

 

「――楽しい夜になりそうね」

「――永い夜になりそうね」

 

 そして半月のレミリア・スカーレットと弾幕ごっこ(真剣勝負)を開始するのだった。

 

 

「はぁ?」

 

 ぽつんと、ついて行けなかった残りのレミリア・スカーレットの口は今も満月のごとくにぽかんと開かれている。

 

 

 

 

 パチュリー・ノーレッジは魔女であり、何より原点より発展させるものだ。

 段階を踏むことは得意。そして、頂点など知らなければ、いずれは位階の境界を超えるのも不可能でないと考えてはいた。

 探求を続けることは世界を知ることではあるが、それ以上に向上し続けることでもあるのだから。

 

「はぁ……だからこそ今直ぐに最高位に届くことはない……悔しいけれどね」

 

 とはいえ、現状魔女という妖怪の範疇でしかないパチュリーは、神獣という神崩れのパワーに何だか神秘的な力まで持ち合わせた超人相手に敵うことはない。

 先に開かれた本の数々は、役目を終えて閉じていて、しかし続いた弾幕は何一つ成果を上げることなく無為に帰していた。

 時折聞こえたグレイズの音とわざとらしいくらいに慌てる慧音の声色が心地よかったくらいで、総じて残念だ。

 手も足も出ないとはこのことかと思いながら、手の中の魔導書までを閉じて、パチュリーは眼の前の獣人に問う。

 

「さて。私の友だった貴女。上白沢……ハクタクの獣、慧音。貴女は何を望んでこの図書館にたどり着いたの?」

「それは……」

 

 しかし、目の前の意外と好戦的だったきっと友達だったのかもしれないよく知らない魔女からの問いに、慧音は直ぐに答えを返せない。

 どうにも直感は、あった。ただそれはこっちに行ったほうが良さそうという程度の、酷く曖昧でセンシティブなもの。

 それを理論立てて説明するのは端的には難しく、また努めてなんとなくを無聊な形にしたくなかった。

 

 強いて言うならば。慧音は動機足り得ない思いばかりをひと掬いして、こう披露する。

 

「会いたかったから、かしらね……」

「会えると思った訳ではなく?」

「ええ。信じているからではなく、むしろ私は信じたかったのかもしれない」

「そう……」

 

 しかし言になったのは、更に曖昧な不明。

 考えるパチュリーを他所に、賢者の石の弾幕をすら生成を終えて用済みとなった分厚い書はふわふわと机へと飛んでいく。

 流石に何も伝達できずにこれは失敗かと思い表情苦くする慧音。

 しかし、それこそ鉄面皮のパチュリーは、むしろ理解をその深い色をした瞳に宿して彼女と正対する。

 

「ねえ。慧音、貴女は運命を信じる?」

「信じたくはない、かな……」

「そうなのね。私はそれがあるとは識っているけれどもそんなか細いものには身を預ける気にもならない」

「なるほど……」

 

 運命を操る吸血鬼を友としているくせにそう断ずるリアリストを前に、内情を知らない慧音は頷きを返すばかり。

 取り敢えず含みはありそうだが筋は通っているとは思うのだった。

 七曜の魔女は指先をタクトのように動かしながら、更に述べる。

 

「でも、あの子は簡単に壊れてしまうそればかりに信を置いていたし、貴女はそれに背を向けつつも運命を感じすぎている」

「それが、良くないの?」

「ええ。何事も段階を踏まなければ、価値はないから」

「それは……そうなのかしら?」

「そうだと、私は決めつけたいわ」

 

 パチュリーが示したのは道理を決めつける、エゴ。

 諸行無常。曖昧こそが実態ならば、流れを導にするのではなく足元を感じることこそ重要と知恵者は語った。

 葉を伸ばし続け、根を失った葦は飛ぶ。流れ流れたその先に理想郷があろうとも、そこに偶にたどり着くことは本当に価値あることなのか。

 情に塗れた拙速こそ間違いだと語る魔女は、だからこそ友としていた吸血鬼のために、まずはこう彼女が愛して欲しいと思っている女性に対して、こう伝えるのだった。

 

「さあて、だからまた友達から私達は再開しましょうか」

「それは……正しいのかしら?」

「理解しなさい。幾らアカシックレコードからなかったことにしようとも、確かに貴女の歴史はここにある。ならば、見えなかろうと()()()()()()()()()()

「そっか」

 

 パチュリーは慧音の情も事情もわからない。だが、眼の前の女性がそれに狂った結果にこの場に戻ってきたのはどうしたって理解できてしまう。

 過去を失くしても、心は捨てられない。そんな不器用に過ぎるこの女性にパチュリー・ノーレッジが何だかんだ一番に聞きたかったことは。

 

「教えて頂戴。ねえ、貴女は私が貸し出した本の中でどの文が一番気に入った?」

「それは……ふふ」

「良いじゃない。教えて頂戴よ」

「分かったわ。そうね――」

 

 そんな、好むセンテンスを知るだけの、好奇心でしかないから面白く。

 そしてその程度の歩み寄りだけだって笑顔になれてしまうのだから、やっぱりこうして心に従うことだって悪くない。

 形変わってもまた繋ぐ。それでまた段を重ねて歩みを続ければ、きっと今度こそ大切なものに正しく届くのだろうか。

 

「っ!」

「あら」

 

 そんな夢想は、破壊の力の行使の轟音に引き裂かれるように中断されて。

 

 

 

「……」

「こんなに美味しいのね、人間って」

 

 彼女は彼女の血を啜る。

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