古関:文化研究部の部長。本が大好き。3年生
天童:文化研究部の部員、ゲームが大好き。1年生
間宵:文化研究部の部員。お水が大好き。 2年生
小鳥遊:文化研究部の部員。皆が大好き。3年生
※登場人物の名称は実在架空を問わず、あらゆる団体、人物と一切関係ありません。
文化研究部とは文化を重んじる部活だ。いや名前からすりゃそりゃそうなのだけれど。
文化研究部の研究する内容は郷土文化についてで、それはこの鉄切町にある郷土資料館に行けば分かるような内容だ。
鉄切合同高校において文化部は何かしらの発表もしくは大会に出なければならないのだけれど、この部活は郷土資料館に1日向かって、そこで調べたことをそのまま発表するということをずっと続けている。
活動内容から分かると思うが、いわゆるサボり部なのだ。
本校においてもっとも楽な部活ではあるのだが、人気がない。それには理由があって、サボり部として同じく人気を博しているワープロ部ならば資格も取れるしパソコンの技能も得られるからだ。
「ここまでは分かるかな?」
小鳥遊は新しく入ってきた部員である天童に対して、小部屋のドアを越して語りかける。
「ここに入るっていうことは3年間の部活動の時間を全て無駄にする、ってことなんだよ? その意味が分かってる? 他にも入る部活はいろいろあるじゃん。野球部ならマネージャーも出来る、今年の1年は豊作だって顧問の先生が言ってたよ、甲子園も夢じゃないんだって。剣道部に入れば礼節が学べるし、家庭科部に入れば毎週のように美味しいご飯が食べられる。魅力的でしょ?」
天童は瞳の色を変えずにこう答えた。
「別にいいんですよ、3年間の経験とかどうでもいいじゃないですか、そういう人たちが集まっているんじゃないですか?」
「否定はできないなぁ」
小鳥遊は部室の後ろにいる二人の部員を眺めてそう答えた。
一人は本に目を落としたまま微動だにしない。
もう一人は毛布に包まったまま寝息を立てている。
「それに」
天童はスマホを取り出して少しスワイプしたのち、小鳥遊に画面を見せた。
そこにはピンク色の髪をしたオッドアイの子が映っており、小鳥遊と同じ名前をしていた。
「先生に聞きましたよ、この部活に居る人たち、みんなこのゲームのキャラの名前と一緒なんですよ、運命みたいじゃないですか」
天童の目が輝いている。
小鳥遊はこんなふにゃんふにゃした子と一緒にされていることに気付いて頭を抱えた。
「そんな理由でいいの?」
「そんな理由ってなんですか」
「君を否定したいわけじゃないけど、少し乱暴過ぎる気がするよ」
「では否定しないでくださいよ」
小鳥遊は本を読んでいる部員に目配せをした。
チッ、と聞かせるような音量で舌打ちをして、彼女は本にしおりを挟んで小鳥遊のいるほうに向かってくる。
「サボりたいだけなら部活に入らなきゃいいじゃないですか」
「貴方は古関さんですよね、本当に似てますね、性格の悪い所以外は」
「……そうですか、まぁいいですけど」
「で、入れてくれるんですか? くれないんですか?」
「どうする? 古関ちゃん」
「はぁ……」
古関は俯いたまましばらく悩んで自身のいた机へと向かった。
「好きにしてください」
「おぉ」
小鳥遊は意外そうに声を上げた。
「ありがとうございます、古関部長」
天童はさっと扉の前から去った。
「意外だね、古関ちゃんが心を開くなんて」
「心を開いた? 面倒くさかっただけです、心を開くだなんて心外なことを言わないでください」
ガラガラと廊下を車の付いた何かが運ばれる音がする。
「というわけで、好きにさせていただきますね」
天童が腰まであるキャリーケースを広げた。
その中には大量のゲーム機とコードにカセットが入っていた。
古関はまた聞こえるような音で舌打ちをした。
_________
______
____
「古関ちゃんに彼氏が出来た?」
アホみたいな発言を発した間宵に対して小鳥遊が咎めるかのように、もしくは信じられない発言をしたかのように聞き返した。
「しかも中学生?」
「そう、らしいってだけですど」
間宵は自身のスマホを小鳥遊に見せた。
スマホには古関と少年のような人物が映っており、顔が接するほどに近い。
二人とも私服だ。
「わ」
小鳥遊は顔を覆った。
「昨日の写真なんですけど、これについてどう思います?」
「どう思うって言われても……」
小鳥遊は覆った手をスカートの裾で払う。
「まぁ、良かったねじゃない?」
「意外じゃないですか?」
「意外ではあるけど」
「意外も意外だよ、マジで将来喪女確定演出みたいな古関さんがまさか中学生と付き合ってるなんて信じられなくないですか?」
「そりゃ信じられないよ」
「信じられませんよねぇ、自ら青春を湿らせて腐らせてるような人なのに」
「古関の事嫌いなの?」
「いえ、大分好意的に見てますけど、ショタコンっていうのがショックでした」
「ショックなんだ」
「ショックですよ、憧れてましたもん、ああいう青春っていいじゃないですか」
「部活動の人くらいにしか、というか部活動ぐらいにしか居場所がないように見えるけど、古関ちゃんって」
「それがいいんですよ、多分あんな過ごし方したら孤独で耐えられないですよ、人間強度が高いんだと思います。それがかっこいい」
「孤高で豪華な彼女が好きってこと?」
「でしたけど、なのに、ってわけです」
「失望する要素なくない?」
「勝手に夢見てただけですけど、でも夢見る権利くらいあるじゃないですか、あーお酒、じゃなかった、お水飲みたい……」
間宵が未成年飲酒をしている確たる証拠はないが、毎日酩酊しているような様子なのであながち間違いでもないのではないかと、小鳥遊は思った。
いや、もしそうだとしたら責められるべきはお前だぞ。とも思った。
ガラガラとキャリーケースを引きずって天童が部室に入ってくる。
「古関先輩は?」
「図書室じゃない?」
「ああ」
古関が図書室に居るときは邪魔してはいけない、と全校生徒が知っていた。
「天童にも話しておくか」
そう間宵が話しはじめ、例の写真を向けると、天童はくすくす笑い始めた。
「これ私ですよ」
「え」「えっ」
「この中学生っぽいのは私ですよ、心外だな、中学生だなんて」
「アホほど仲が悪かった二人がいつの間に」
「偶然、住んでるところが近くて。最初は嫌そうにしてたんですけど、登下校を一緒にしてたら、向こうから出かけないかって誘われたんですよ」
天童は昨日のことを思い出した。
____
______
_________
古関が天童を誘って出かけた後、古関は本屋から3時間は動かなかった。
天童は持ってきたゲーム機をずっといじくりまわしていたが、電池がなくなったのでついに古関の元へと向かった。
彼女はずっと本を探しているようで、内容を精査するように立ち読みをしていた。
「何読んでるんですか?」
常にハードカバーの本を読んでいるような古関が立っているのはライトノベルの棚だった。
「珍しいですねラノベ読むなんて」
「……たまには読みますよ」
古関は読んでいた文庫本を閉じて数冊の本を抱え会計へと向かった。
何だか恥ずかしそうにしていた古関だった。
フードコートで食事をしている際、二人はこんな会話をした。
古関は意外と食べるのか、大盛のラーメンを、天童はゲーム機を充電しながら、アイスクリームを食べていた。
「古関先輩に聞きたいんですけど」
「……何ですか」
「何で入部の時、私の好きにさせてくれたんですか?」
「……」
古関はしばらく静かにした後スマホを取り出した。
その瞬間美少女の声がスマホから鳴り響いた。
「何だ、先輩もやってたんですね」
「……私も、運命を信じてみたくなったりしますよ」
古関はそう呟いた。
天童もスマホを取り出して時間を見ると日が沈むころだった。
ショッピングモールには窓がないので、時間が過ぎるのが早いのだろうと天童は考えている。
「何を考えているんですか?」
古関は脳内を読んだように呆れる。彼女の言葉には今までのような棘が無いように感じた。
「……何でもないですよ」
天童は彼女との心の距離が縮まったように感じた。
_________
______
____
「ただの仲いい友達じゃん」
小鳥遊が呆れると間宵も興味を失ってしまった。
「なんだ、スキャンダルになると思ったんだけどな」
「君は古関ちゃんのことが好きなのか嫌いなのかはっきりしたほうがいいと思うよ」
「はっきりしないほうがいいですよ、どっちにもつけるように」
そんな他愛もない会話を横目に、天童はキャリーケースから取り出した本をラックに並べた。
それはライトノベルで、昨日貰ったかのように新品だった。
Why sets me free?